**研究紹介**

1.哺乳類体内時計研究

 約24時間の振動現象の生じる仕組み(発振機構)、そして、環境のリズムに同調する仕組み(同調機構)、そして体内時計から、睡眠、行動、体温、ホルモンのリズムなどの生理現象へ至るしくみ(出力機構)を明らかにすることが時間生物学の目標です。ほとんどの生物には体内時計が存在し、我々の生理現象の24時間リズムを司っています。睡眠、体温、行動、ホルモンのリズムなどが、その代表的なものです。哺乳類において、そのリズムを作り出しているのは視交叉上核と呼ばれる小さな神経核です。普段は体内時計が環境のリズムに合っていますので視交叉上核が生み出すリズムを我々はあまり意識することはありません。しかし、ひとたび海外などに行き環境のリズムと体内のリズムが大きくずれますと、昼間は始終眠く夜間は逆に目がさえて眠れないということになります。いわゆる時差ボケ(Jet lag)が生じるわけです。こういったときに、体内時計が実際に我々の体内に存在していて意外に頑固なことを意識します。この時差ボケも1週間から2週間ほどすると体内時計が環境のリズムに合ってきて解消します。環境への同調を引き起こすもっとも大きな外界からのシグナルは光です。光によって視交叉上核にどのような現象が引き起こされ、体内時計の遅れや進みを修正するのか。このような同調現象も研究の対象です。こういった時差ボケがほとんど生じなければ、海外への旅がもっと楽しくなるでしょう。海外にしばしば出張のあるビジネスマンにも朗報です。海外の学会に出席してもスライド発表で暗くなったとたんに睡魔に襲われることもなくなります。リズム異常は鬱病や、睡眠相遅延症候群、睡眠相前進症候群と呼ばれる体内時計を環境のリズムに合わせることが難しい疾患の症候の本体を為します。老人の夜間譫妄も、体内時計の狂いで生じます。うつ病でも体内時計のずれが認められます。また、時差ボケも体内時計が、環境のリズムと大きくずれることによって生じます。最近、我々の研究によって、時差ボケがどうして生じるのか、なぜ、一気に体内時計が環境の変化に合わせて針を動かすことができないのかがわかりました. (Journal of Neuroscience, Nagano et al. 2003)。研究によって時差ボケを速やかに解消する手段を見つけることができるかもしれません。このような研究成果を医療の分野に還元し、体内時計の異常を速やかに解消する方法を開発することで社会貢献できればよいなと考えています。

2. 中枢神経系研究

 最近は、睡眠、行動パターン、記憶などにも研究の範囲を広げています。このような分野にはもともと興味が非常にあり、なおかつ、教室が持っている形態学の技術(in situ hybridization, immunohistochemistry, 神経核のpunch outなど) で、様々な貢献が出来ることに気がつきました。現在共同研究に参加させて頂いて、どんどん神経系全体にテーマを広げています。

研究テーマの選択について

 大学院生の研究テーマですが、体内時計をやっている人がいません。今年の春からの体制では、Gタンパク結合型受容体、GnRH発生や遊走研究、神経系への放射線障害、3D画像解析技術の進展などとなっています。どうしてこんなことになっているかというと、全員社会人入学で入ってきて、すでに各の専門領域をもっているためです。実験の出来る時間は限られた日時しかないわけで、論文を書いてもらうなら専門領域について研究をして頂くことが一番早道であると考えたのです。その過程で教室員も勉強させて頂くということになっており、一石二鳥です(学費払って頂いているのにすいません)。大学院生の研究への熱心さは驚くべきもので、専門的知識も深くいつも勉強させて頂いております。ありがとうございます。ということで、神経系の研究には何でも興味あります。

共同研究、大学院入学などについてお訊きになりたいときはいつでもご連絡ください。