皮膚ポルフィリン症の遺伝子診断

皮膚ポルフィリン症の遺伝子診断

弘前大学皮膚科 中野 創

 

遺伝性ポルフィリン症のうち皮膚症状を呈するものは6病型あるが、それぞれの原因遺伝子が明らかになっており遺伝子診断が可能である(表1)。遺伝子診断の目的は、的確な遺伝カウンセリングを行うことにある一方、遺伝性ポルフィリン症においては遺伝子診断によって確定診断を得るという意味合いも大きい。それは、症状が非定形的(軽症、晩発など)であるばあい、臨床病型を必ずしも決定できないことがまれならず経験されるからである。

 

 

遺伝子診断の実際

 

臨床診断によっていずれの病型かが決定されれば、家系内の発端者を含めた罹患者および無症候者から採血し、核酸を抽出する。通常抗凝固剤としてEDTAを用いた採血管で末梢血を5ml採取する。うち、3mlからDNAを、2mlからRNAを抽出する。遺伝性ポルフィリン症の原因遺伝子の転写産物は末梢血白血球においても発現がみられるので、RNAも抽出しておくのが望ましい。我々の施設でははじめに目的の原因遺伝子のcDNAの翻訳領域の全シークエンスを調べている。この時点でミスセンス変異、ナンセンス変異あるいはスプライシング異常などが検出できる。ただし、ナンセンス変異やフレームシフトに伴う早期停止コドン(premature termination codonPTC)が生じた場合は、ナンセンス依存性メッセンジャーRNA分解(nonsense-mediated mRNA decayNMD)によって分解されるために、異常なRNAを必ずしも検出できない可能性もある。次にゲノムDNAを用いて目的の遺伝子の全エクソンおよびその近傍をダイレクトシークエンスし塩基配列を決定する。ミスセンス変異、ナンセンス変異、エクソン・イントロン接合部の変異、欠失、挿入などが同定できる。ただし、後述の骨髄性プロトポルフィリン症などで知られるが、エクソンがまるごと欠失するような変異のばあい、通常のPCRとシークエンスの組み合わせでは欠失を検出できないため、MLPA法などの定量的な解析が必要である(図1)。ここまでの検索で、なお変異が検出されないばあいは診断を見直すことはもちろん、プロモーター領域の解析、メッセンジャーRNAの定量、酵素活性測定などを考慮する。以下、いくつかの病型について解説する。

骨髄性プロトポルフィリン症(erythropoietic protoporphyria, EPP

EPPは遺伝性を示す皮膚ポルフィリン症のなかでは最も報告数が多い。プロトポルフィリンに鉄イオンをキレートさせ、ヘムを形成する酵素フェロキラターゼをコードするFECH遺伝子の変異により発症する。臨床的に極めて注意が必要な点は、数%の症例で重度の肝障害を生じ致死的なばあいがあることである。本症は常染色体性優性遺伝性疾患であるが、原因遺伝子が同定される以前から不完全優性遺伝性疾患であると言われていた。それは、家系分析上、明らかに変異を有すると考えられるが発病しない個体、すなわち無症候性キャリアがしばしば認められたためである。このような遺伝様式は浸透率が100%未満の優性遺伝とも表現することができる。浸透率は遺伝子変異を有する個体のうち、発症している個体の割合と定義されるが、ヨーロッパの白人EPP症例の観察では、変異を有すると考えられる個体の大部分は発症せず、従って浸透率はかなり低く10%程度とされてきた。現在ではなぜ浸透率が低いのかを説明する分子遺伝学的メカニズムが明らかになっており、FECH遺伝子のイントロン3に遺伝子多型IVS3-48T>Cが存在するとスプライシング異常をおこす頻度が高まり、結果としてPTCを生じるため、NMDによってFECH mRNA量が低下することが判明している(図2)。つまり、EPPFECH遺伝子の一方のアリルの酵素活性を明らかに低下させるような遺伝子変異に加え、もう一方のアリルの遺伝子多型IVS3-48Cを併せ持つことによって発症する、すなわち、変異の反対側のアリルのIVS3-48Cが発症を規定している(図3)。FECH遺伝子変異とIVS3-48T/C遺伝子多型との関係を調べた報告によると、ほとんどの症例がIVS3-48CによってEPPの発症が規定されている。従って、EPP家系において、発端者のFECH遺伝子変異が同定されれば、その同胞のうち臨床的に無症状の個体が無症候性キャリアであるかそうでないかが確定できる。EPPの大部分は以上述べた機序による優性遺伝であるが、劣性遺伝の症例がまれに存在する。IVS3-48C多型の頻度には人種差があり、欧米人に比べ日本人ではIVS3-48Cのアリル頻度が4倍高い。従って、本邦ではEPPの浸透率が欧米より高いと考えられる。

EPPにおける遺伝子診断のもっとも重要な臨床的意義は、潜在的EPP罹患児を発見できることにある。EPPは通常、出生後すぐには発症せず幼児期になって光線過敏を示すようになる。そのため、罹患児と知らずに多量の日光に曝露されると重度の光線過敏症状のみならず、血中に大量に放出されたプロトポルフィリンによる急性肝不全で死に至る危険性がある。従って、EPPと診断された家系では遺伝子診断を行い、特に、光線過敏を示さない幼児において遺伝子型を決定し、発症する可能性の有無を明らかにしておくことが極めて重要である。

 

異型ポルフィリン症(variegate porphyria, VP

VPEPPについで報告が多い遺伝性皮膚ポルフィリン症であり、常染色体性優性遺伝性である。プロトポルフィリノーゲン酸化酵素をコードするPPOX遺伝子の変異により発症する。本症はその名のとおり、臨床症状が非定形的であり、急性間欠性ポルフィリン症と晩発性皮膚ポルフィリン症(PCT、後述)との混合型と位置付けられている。VPは青壮年期から光線過敏を生じるようになり、しかも自覚症状を欠く場合もあるため、遺伝子変異検索によって初めて診断が確定する症例もまれではない。また、EPPPCTなど他のポルフィリン症が疑われて検索を進めるうちに、PPOX遺伝子の変異同定をもってVPと診断されることもあるため、遺伝子診断は極めて有用である。

 

遺伝性コプロポルフィリン症(hereditary coproporphyria, HCP

HCPはコプロポルフィリノーゲン酸化酵素をコードするCPOX遺伝子の変異で発症する、常染色体性優性遺伝性のポルフィリン症である。本症のこれまでの報告数は非常に少ないが、やはり他のポルフィリン症との鑑別の過程で遺伝子診断によって診断確定された症例が存在するので、今後報告が増加すると予想される。

 

先天性ポルフィリン症(congenital porphyria, CEP

CEPはウロポルフィリノーゲン合成酵素をコードするUROS遺伝子の変異により発症する、常染色体性劣性遺伝性の非常にまれなポルフィリン症である。本症は出生後間もなく発症するので、臨床診断は困難ではないと思われるが比較的軽症な症例も存在するため、遺伝子診断が決め手となることがある。

 

晩発性皮膚ポルフィリン症(Porphyria cutanea tarda, PCT

PCTはポルフィリン症全体の中では最も方向数の多い病型であるが、大多数は後天性と考えられ、遺伝性を示さない。しかし、ウロポルフィリノーゲン脱炭酸酵素をコードするUROD遺伝子の変異による常染色体性優性遺伝性の症例が報告されているため、遺伝子診断を行う価値はあると考えられる。本遺伝子の変異が両方のアリルに生じると肝性骨髄性ポルフィリン症(hepatoerythropoietic porphyria, HEP)となる。UROD遺伝子の特定の変異がPCTの発症と関係するとの報告がフランスからなされたが、本邦のPCTでは関与が否定されている。しかし、後天性とされるPCTの発症に関する遺伝的背景はいまだに明らかになっておらず、今後の研究が待たれる。



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