遺伝性ポルフィリン症の概念と疫学

遺伝性ポルフィリン症の概念    東京都市大学 近藤雅雄                       
                                                                   
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Ⅰ.ポルフィリン症総論

 ヘムは細胞内のミトコンドリアと可溶画分に局在する8個の酵素の共同作業によって合成され(図1)、ヘモグロビン、チトクロ-ムーP450などのヘム蛋白の補欠分子族として、細胞呼吸や解毒機構などに関与する。ヘム合成の最初の酵素δ-アミノレブリン酸(ALA) 合成酵素(ALAS)には赤血球系細胞でのみ発現している赤血球型酵素(ALAS-E)と、肝臓等すべての臓器で発現している非特異型酵素(ALAS-N)の二つのアイソザイムが存在し、その調節には組織特異性がある。ポルフィリン症はヘム合成系酵素の遺伝的あるいは後天的障害によってポルフィリン代謝関連産物の過剰産生、組織内蓄積、排泄増加を起こす一連の疾患群と定義する。

 

表1.ポルフィリン症の分類、遺伝形式および患者数               

 ポルフィリン症

 酵素

  異常

 染色体

 座 位

 遺伝

 形式

 発 症

 年 齢

 本邦患者数

 (♂:♀)

 2008.12 

本邦第

1例報

 告年

 

 

 

 

 分 類

    病  型

 略称

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急性間欠性ポルフィリン

 

 ALAD欠損性ポルフィリン

 多様性ポルフィリン

 遺伝性コプロポルフィリン

 AIP

 

 ADP

 VP

 HCP

PBGD

 

ALAD

PROX

CPO

11q24.1

 -q24.2

  9q34

  1q22

  3q12

 優性

 劣性

 優性

 優性

 1650

 幼児期

 2050

 1650

 198(32:166)

  1(0:1)b

  54(10:44)a1

  41(13:27)a1

 1932

 1995d)

 1962

 1966

 

 

 

 

 

 家族性晩発性皮膚ポルフィリン

 散発性晩発性皮膚ポルフィリン

 肝赤芽球性ポルフィリン症

 fPCT

 sPCT

 HEP

UROD

UROD

UROD

  1p21

  1p21

  1p21

 優性

 なし

 劣性

 成人後

 中年~

 幼児期

  0

 317(292:22)a3

 6(4:2)c  

 未発見

 1957

 1972

 

 

 先天性赤芽球性ポルフィリン症

 

 赤芽球性プロトポルフィリン

 CEP

 

 EPP

UROS

 

FECH

10q25.2

  -q26.3

18q21.3

 劣性

 優性

 0

 0

  35(15:20)

 189(124:65)

 1920

 1964





1.分類
(表1)

本症は1923年、AE.Garrodにより代表的な先天性代謝異常疾患の一つとして提唱されて以来、現在までに8病型が知られている。ポルフィリン代謝異常が肝細胞内で起これば肝性ポルフィリン症、骨髄赤芽球内で起これば骨髄(赤芽球)性ポルフィリン症と分類される。また、臨床的には急性の神経症状を主とする急性ポルフィリン症と皮膚の光線過敏症を主とする皮膚型ポルフィリン症に分類される。

2.鑑別診断(表2)

骨髄性ポルフィリン症、肝性ポルフィリン症ともに尿・血液・糞便中のポルフィリン測定による。酵素活性の測定や遺伝子診断が必要となる場合もある。

 

表2.ポルフィリン症の特徴的な生化学および主要な臨床所見

 

 ポルフィリン症

 病 型

 生化学的所見(増量するポルフィリン代謝関連産物)

 主要症状

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     尿

赤血球

 糞    便

  皮膚

  神経・

消化器

   肝

 

 

 

 

AIP

 ALA, PBG, UP> CP>5P

 正常範囲内

 正常範囲内

  

 ++

 -~+

ADP

 ALA,  CP, UP

 PP

 CP,PP

 ++

 -~+

 VP

 ALA, PBG, UP> CP>5P

 正常範囲内

 PP>CP, XP

 +~++

 ++

 

HCP

 ALA, PBG, CP> UP

 正常範囲内

 CP

 ±~++

 ++

 

 

 

 

 

 

PCT

 UP> 7P>5P, isoCP

 正常範囲内

 CP>PP,isoCP,6P,5P

+~+++

 

 +~++

HEP

 UP> 7P> CP

 PP(FP,ZP)

 PP,isoCP

 +++

 

 

CEP

 UP> CP>5P

 CP, ZP

 CP

 +++

 

 -~+

EPP

肝障害により CP

 

 FPZP

 PP

(正常の20倍以上)

 +~++

 

 -~++

 

 各病型により出現するポルフィリンの総量およびポルフィリン・パタ-ンが異なる。AIPでは緩解期でも尿中PBGの増量を見る。主要症状として、EPPを除いた全病型において赤色尿が診られる。5P:pentacarboxyl porphyrin, 6P:hexacarboxyl porphyrin, 7P:heptacarboxyl porphyrin, XP,X-porphyrin peptide, PP:protoporphyrin, FP:free-PP, ZP:zinc-PP, CP:coproporphyrin,

UP:uroporphyrin 

 

3.病態

 皮膚型ポルフィリン症は光曝露による光毒作用よって、種々の形の皮膚症状が発現する。

 急性ポルフィリン症は遺伝的酵素障害があっても一生発症しない場合が多く、AIP の発症者は全体の約10%程度と推定されている。思春期から中年期の女性に多い。臨床的に発症するには各種薬剤、月経・妊娠・分娩・ピル服用、感染、飢餓、ストレスなどの誘発要因が必ず関与する。これらは①チトクロ-ムP-450合成を誘導する物質、②ALAS以外のヘム合成系の酵素を直接阻害する物質、③ALASの過剰生産を促進する物質、④ヘムオキシゲナ-ゼの産生を促進する要因(飢餓、発熱、ストレス、感染、低酸素等)などであることから、遺伝的障害のために低下しながらも辛うじて平衡が保たれていたヘムプールが、さらに強いヘム需要に晒された結果、発症すると考えられている。

 

4.治療

急性ポルフィリン症については、大量の点滴、ブドウ糖の投与を行うとともに、疼痛、有痛性のしびれ、不眠などにはクロルプロマジンを、高血圧、頻脈などにはプロプラノロールなどを、投与する。禁忌薬剤の使用は避ける。ヘマチンやヘムアルギニンの静脈内投与が臨床症状とポルフィリン代謝異常の改善に有効と報告されているが、日本では市販されていない。また、シメチジンには肝ALAS活性抑制作用があり、代謝異常の是正も含めて有効と報告されている。重症の場合には血漿交換が適応となる。

皮膚型ポルフィリンについては、遮光ととともに、外傷を起こさないように注意する。CEPEPP では光曝露による急性症状を起こし易く、遮光を常に心がける。PCT ではアルコ-ルなどの誘発因子があればこれを除去する。

 

5.頻度

  AIPはスウェーデンを中心とする北欧に多く、人口10万人に対し1.5 人の頻度といわれている。VPは南アフリカの白人に多く、人口1000人に3人の頻度といわれ、病型により多少の偏りはあるが、いずれの病型も、全世界に分布する。本邦では1920年の最初の報告以来、2002年までに827例(表1)が報告されている。

 

6.遺伝子変異と多様性

 常染色体劣性遺伝を示すADPCEPおよびHEPは臨床的、生化学的にホモ接合体であり、患者の両親は臨床的に無症状のヘテロ接合体である。ポルフィリン症では常染色体劣性遺伝に限らず、常染色体優性遺伝を示す病型(AIPEPPHCPVP) の変異も単一でなく、患者家系によって異なる場合が多く、点変異、挿入、欠失と多岐にわたり、その変異部位も多数存在する。また、常染色体優性遺伝を示すヘテロ接合型の病型において、稀にホモ接合体が報告されている。

 

Ⅱ.骨髄性ポルフィリン症

1.先天性骨髄性ポルフィリン症(Congenital erythropoietic porphyria;CEP)

Günter 病とも呼ばれ、ポルフィリン症の中では最も激烈な光線過敏症を呈する極めて稀な疾患である。病因はUROSの異常によるⅠ型異性体の過剰生産である。皮膚の水疱は重症で、生後まもなく始まり、貧血と赤色尿(図2)を伴う。皮膚病変以外に手指の拘縮、爪の変形、鼻・耳・指の欠損、多毛、赤色歯牙(紫外線照射により赤色蛍光を認める)、脾腫、溶血性貧血、強膜病変などが挙げられる。遅発例も報告されている。特に有効な治療法はなく、対症療法(遮光、感染合併皮膚病変に抗生剤など)が行われる。骨髄移植の有効例も報告されている。



2.骨髄性プロトポルフィリン症
(Erythropoietic protoporphyria;EPP)
 

1)概念

小児期の皮膚光線過敏症として発症し、太陽光線被曝直後の疼痛、発赤、腫脹を特徴とするが、肝障害を起こすことが多い。

 

2)病因・症候

FECH 活性の減少によって赤芽球内にPPが大量生産され、赤血球から血漿中に出現し、肝から胆汁や糞便中へ排泄され、皮膚の光線過敏や胆石症、肝障害の原因となる。剖検例では殆ど常に肝硬変症が存在する。水疱や瘢痕形成はあまり見られない。光被曝部位にぴりぴりとした痛み(灼熱感)、そう痒感、紅斑、腫脹など、血管性浮腫に似た症状が現れる。また、慢性期には色素沈着、多毛、皮膚脆弱性による線状瘢痕等の皮疹が診られる事が多い。発病しない保因者もいる。

 

3)診断・鑑別

 血液および糞便中のPPだけが著明に増量する。蛍光赤血球の検出(保因者でも検出される)(図3-1)および光溶血現象の確認が有用な補助診断となる。肝障害を合併したEPP の肝生検標本は紫外線照射により赤色蛍光(図3-2)を呈する。

 

4)治療・予後

遮光が最も重要である。β-カロチン、コレスチラミン樹脂、シメチジン、ヘマチン、コ-ル酸などの投与および血漿交換等が試みられているが、確実なものはない。肝障害のないEPP は予後が比較的良好である。

 

3.肝・骨髄性ポルフィリン症(Hepato-erythropoietic porphyria;HEP)  

HEPは肝性と骨髄性の双方の生化学的性質をもつ世界でも極めて稀なポルフィリン症である。HEP 患者のUROD活性が正常の7 8 %であることから、家族性PCT(fPCT)のホモ接合体として考えられる。生後直後から重篤な光線過敏性皮膚炎を主症状として発症する。UROD活性の著明な減少によりUPおよび7Pが過剰生産され、また、赤芽球では過剰のPPが生産される。

 

Ⅲ.肝性ポルフィリン症

1.急性間欠性ポルフィリン症(Acute intermittent porphyria; AIP

1)概念

遺伝的素因のある人に薬剤その他何らかの誘因が加わって、急性~亜急性に消化器症状、神経症状、循環器症状、内分泌・代謝異常等、多彩な症状をみる。

 

2)病因・症候

 PBGD活性低下とヘム減少によるde-repression機構の結果、ALAPBGが大量に生産される。急性期には腹痛・嘔吐などの消化器症状で発症し、四肢のしびれ・脱力などの末梢神経障害を伴うことが多い。腹痛は殆ど必発で激しいわりに圧痛・デファンスなど他覚的所見に乏しく、しばしばイレウス、さらにはヒステリーに間違われる。神経症状は、末梢神経障害がほぼ必発で四肢の脱力・シビレ等を診る。その他、意識障害・痙攣等の中枢神経症状や不穏・うつ症・せん妄・幻覚等精神症状をきたすこともあり、さらには分裂症と誤診されることもある。重篤な場合には球麻痺症状を来して死亡することもある。高血圧・頻脈等の循環器症状も早期から良く見られる症状で、経過をよく反映する。また、脂質代謝異常、糖代謝異常、甲状腺機能異常・異所性抗利尿ホルモン分泌異常、成長ホルモンの異常等もよく診られる。これらの症状は、その大部分が自律神経を含む神経系の異常に基づいている。皮膚症状はない。

 

3)診断・鑑別

 思春期から中年期の女性に原因不明の腹痛、末梢神経障害などが急性~亜急性に出現してきたら急性ポルフィリン症を疑い、尿中ALAPBG の測定を行う。尿中PBGは間欠期も高値である。早期には急性腹症などと間違えられることが多く(表3)、またPolysurgery も多いので注意を要する。

 

4)治療・予後

大量の補液、ブドウ糖の投与などとともに各症状については対症療法となる。薬剤の使用に際しては十分に注意し、適切に使用する。早期に診断し、禁忌薬剤の使用を避ければ予後は良好である。

 

2.多様性(異型)ポルフィリン症 (Variegate porphyria;VP)   

PPOXの異常により、ALAからPPまでのすべてのポルフィリン類が増量する。AIPと同様の内科的・ 神経内科的諸症状をおよびPCTに類似した皮膚症状を診るが、両者の程度は症例によって異なる。治療は、急性症状についてはAIP に、皮膚症状については皮膚ポルフィリン症に準じる。

 

3.遺伝性コプロポルフィリン症(Hereditary Coproporphyria;HCP) 

AIP と類似の急性症状を主とするが、それよりは軽症のことが多い。皮膚症状がみられ、VPとの鑑別が必要となる。重症例(ホモ接合体で酵素活性が正常の2 10%)では、屎尿中にハルデロポルフィリンが増加する。急性期に尿中のALA PBGの増加がみられるが、緩解期では正常化する。糞便CPは持続的に高値を示す。

 

4.ALAD欠損性ポルフィリン症(ALAD Deficiency Porphyria;ADP)

現在までに世界中で6例の報告しかないという、極めて稀な疾患である。ALADの先天的欠損であり、双方の対立遺伝子の異常の結果、肝のALAD活性が正常の数%以下になり、フィ-ドバックにより肝ALASの誘導が生じ、ALA が過剰生産される。症状はAIPと区別し難く、種々の急性症状を診る。

 

5.晩発性皮膚ポルフィリン症(Porphyria cutanea tarda;PCT)

1)概念

PCTは肝UROD活性の減少に基づくポルフィリン代謝異常症であり、家族性PCT(fPCT)と散発性PCT(sPCT) が知られ、皮膚光線過敏症と肝障害を合併する。

 

2)病因

 fPCTUROD遺伝子の異常によるが、sPCTには変異がない。fPCTは一方の対立遺伝子の異常によってUROD活性が殆ど失われ、正常な遺伝子由来の酵素活性だけが検出されるのでUROD活性は正常の50%である。しかし、病因遺伝子を持ちながら発症しない保因者が多数いることから、発症にはsPCTと同様アルコ-ル、エストロゲン、鉄の過剰摂取などの関与が知られている。

 

3)症候・検査

 PCT の皮膚症状は日光皮膚炎と共に皮膚の脆弱性が特徴的で容易に水疱を形成し、糜爛、瘢痕化、色素沈着などをきたす。まれに強皮症様変化も合併する。肝障害は鉄沈着、脂肪変化、壊死、慢性の炎症性変化およびポルフィリン様の針状結晶の沈着、繊維化が見られ、肝硬変および肝細胞癌を起こすことがある。

 

4)診断・鑑別

 fPCTは成人後の女性に多く、sPCTは中年男性に多く発症する。皮疹部生検における病理組織学的特徴は真皮上層血管周囲のPAS 陽性物質の沈着、表皮真皮境界部の水疱形成、また、同部位に免疫グロビン、補体の沈着を診る。尿および肝生検標本は紫外線照射により赤色蛍光を呈する。尿中のUP7Pが増量する。

 

5)治療・予防

軽症例では誘因を除去するだけで尿中ポルフィリンが正常化する。著しく高値の場合は瀉血療法を行う。また、鉄キレ-ト剤としてデスフェリオキサミンが、HCV 合併PCTではインタ-フェロン投与の有効性が報告されている。

 

Ⅳ.文献

1)矢野雄三、近藤雅雄:ポルフィリン・ヘム、先天代謝異常症候群ー遺伝子解析の進歩と成果(下巻)別冊日本臨牀、領域別症候群シリーズNo.19、日本臨牀社、1998p119

2)近藤雅雄他:特集ポルフィリン症、日本臨牀社、1995

3)近藤雅雄:ポルフィリン症の生化学的診断、日本皮膚科学会研修委員会刊、1996

4)Kondo M et al: Porphyria in Japan: Compilation of all cases reported through 2002. Int J Hematol. 2004;79:448

5)Anderson KE et al:Disorders of heme biosynthesis X-linked sideroblastic anemia and the porphyrias. In:Scriver CR et al eds. The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease. 8th ed. New York NY:McGraw-Hill;2001:2991

 

 

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