AIPの診断

急性間欠性ポルフィリン症の診断について

前田直人 鳥取大学講師・機能病態内科学

【急性間欠性ポルフィリン症の位置づけ】

 歴史的にポルフィリン症は、ポルフィリン体の過剰産生が主として肝細胞で起こるかあるいは骨髄造血細胞で起こるかによって、肝性と骨髄性(赤芽球性)とに分類される.肝性ポルフィリン症にはAIPADPVPHCPおよびPCT5病型、骨髄性にはCEPEPPが含まれ、また、両方の組織でポルフィリン体の過剰産生がみられるものとしてHEPがある.一方、臨床的立場からは、その症状の違いにより、急性神経症状を主徴とする急性ポルフィリン症と皮膚光線過敏症を主徴とする皮膚ポルフィリン症とに分類されている.急性症状はときに致死的であるため、後者の分類がより実用的と考えられる.

 

【発症の誘因および病態】

 急性間欠性ポルフィリン症( acute intermittent porphyria; AIP)は、ヘム合成系における3番目の酵素であるporphobilinogen deaminasePBGD、別名 hydroxymethylbilane synthase; HMBS)の先天的(遺伝的)活性低下に起因する★1.常染色体優性遺伝形式をとる.遺伝性コプロポルフィリン症(HCP)および異型性ポルフィリン症(VP)とともに急性ポルフィリン症に分類されるが、遺伝性ポルフィリン症のなかでは南アフリカとチリを除いて世界各地で最も頻度の高い病型である.

 AIPでは他の急性ポルフィリン症と同様、消化器三大徴候といわれる腹痛、便秘、嘔吐などの腹部自律神経症状のほか、けいれんや四肢麻痺などの中枢神経症状、さらに高血圧や頻脈、多汗などの自律神経症状を呈する.症状が多彩でそれぞれが非特異的なことから、しばしば急性腹症やイレウス、虫垂炎、ヒステリーなどと誤診され、その鑑別には内科、神経科、精神科など各科で苦慮することが多い.ちなみに、AIPにではHCPVPと異なり皮膚症状(光線過敏症)はみられない.AIPではHMBS活性低下によりδ-ALAPBGといったポルフィリン前駆物質が増加するのであって、より下流の酵素欠損によって生成する光線感受性のポルフィリン体(photosensitizing porphyrin)は増加しないからである.

 急性発作の特徴である神経系の異常は、現在のところ、肝で合成されるδ-ALAもしくは他の代謝産物による神経毒であると考えられている.発作の誘因として、種々の薬物、性ホルモンのアンバランス(生理前や妊娠、出産)、飲酒、喫煙、感染症、カロリー摂取不足(肝hemeoxygenaseの誘導)などが指摘されている.発作誘発のメカニズムとして、ヘム蛋白のひとつである肝cytochrome P450の誘導(=ヘム産生増加)およびhemeoxygenaseの誘導(=ヘム消費亢進)、あるいは酵素障害によるヘム合成阻害など、結果としてALASが誘導される状況が基礎にあることを理解しておく.

 遺伝子変異保因者における薬物起因性急性発作の起こりやすさは様々である.すなわち、同じ変異保因者でも年齢や性、発作の既往や生化学データなどによりそれぞれ薬物に対する感受性が異なる.たとえば、現在発症している保因者に対しては誘発薬物の影響はより大きく、一方思春期以前で未発症の保因者では影響は小さいと予想される.より具体的には、経産婦、中年以前の男性、赤色尿、尿中PBG陽性、5年以内の発症歴などが増悪因子とされる.

 なお、代表的な発作誘発薬剤としてバルビツール系薬剤、サルファ剤、抗けいれん薬、経口避妊薬、エストロゲン製剤などが知られているが、個々の薬物の安全性確認については関連サイトを利用するとよい[http://www.sakuratomonokai.com/][http://www.drugs-porphyria.org/].

 

【症状】

 急性発作の多くは30歳代に発症し、思春期前および閉経後にみられることはきわめてまれである.男性より女性に多く発症する.患者のほとんどは1回もしくは数回の発作を経験したのちほぼ完全に回復するが、10%未満の患者では再発する.

 急性発作は不安や多動、不眠などの行動変化を含む前駆症状で始まる.症状が激しいわりには理学的所見に乏しく、ヒステリーなどと誤診されることも少なくない.患者はしばしば脱水や電解質異常をきたす.SIADHに起因する低ナトリウム血症をみとめ、重症例ではけいれんを起こす.

 診断のつかないまま症状を改善する目的で、誘発因子となるある種の薬物が不適切に用いられた場合、急性症状はさらに増悪する.神経症状はたいてい運動障害であり、初期の段階では腕や足の筋肉痛がみられる.筋力低下は足よりも腕、とくに近位筋より始まる.筋力低下は進行性であり、やがて四肢麻痺へと進行し、さらに約20%の症例で呼吸筋麻痺と球麻痺により死に至る.その一方で麻痺からの回復は緩徐であり、一部の症例で非可逆的な後遺症を残す.錐体路徴候や小脳症候群、一過性の失明、意識障害が生じることもある.したがってAIPの診療においては早期診断および早期治療がきわめて重要となる.

 

【生化学検査】(表1

 症状および既往歴、生活歴(誘発因子含む)、家族歴などから急性ポルフィリン症が疑われた場合、最初に検査すべきは尿中PBGである★2).急性期では、尿中PBGおよびALAは急性ポルフィリン症3病型すべてにおいて増加しており(表1)、特にAIPで高値を示し、またその持続も他の2病型より長い.一方、尿中のウロポルフィリンおよびコプロポルフィリン増加は非特異的なため鑑別には役立たない.また、3病型ともに発作間欠期(寛解期)においては、尿中および糞便中のポルフィリン体濃度は概ね正常値を示す.これら3病型の鑑別には一般的な尿および糞便の生化学検査では必ずしもクリアカットな結果が得られないうえ、治療上はそれぞれの病型で特異的なものはないため、治療にあたっては急性ポルフィリン症として一括して扱って問題ない.鑑別法としてHPLC分析や赤血球中のPBGD酵素活性測定も可能ではあるが一般的ではない.

 いずれにせよ、尿中PBGが正常上限の10倍以上を示す場合には急性ポルフィリン症の発症を考え、直ちに治療を開始すべきである.

 

表1 急性ポルフィリン症の生化学的特徴(急性期)
Porphyria 尿中 糞便中
δ-ALA PBGD UP CP UP CP PP
AIP ++++ +++ + + ~ ~ ~
HCP ++ ++ +++ +++ + +++ ~
VP +++ +++ ++ +++ ~ + +++
AIP: acute intermittent porphyria, 急性間欠性ポルフィリン症
HCP: hereditary coproporphyria, 遺伝性コプロポルフィリン症
VP: variegate porphyria, 異型(多様性)ポルフィリン症
δ-ALA: δ-aminolevulinic acid, δ-アミノレブリン酸
PBG: porphobilinogen, ポルホビリノゲン
UP: uroporphyrin, ウロポルフィリン
CP: coproporphyrin, コプロポルフィリン
PP: protoporphyrin, プロトポルフィリン








【遺伝子解析】(図1

 従来より、上記のようにAIPの臨床診断には尿中δ-ALAPBGを測定する生化学的手法が用いられており、急性期の迅速な診断やその後の緩解期における患者管理に広く利用されてきた.しかしながら、年齢や病期、病勢の強弱、あるいは個体差などにより、その結果判定には必然的に疑診、いわゆるグレイゾーンが存在する.こうしたことを背景に近年の遺伝子工学の進歩を受け、ポルフィリン症においても責任酵素遺伝子の解析が行われるようになった.

 AIPに関してはポルフィリン症の中でいち早くその責任酵素であるPBGD (=HMBS)遺伝子がクローニングされ★3)、欧米を中心としてこれまでに欠失変異や挿入変異、ミスセンス変異、スプライシング変異を含めて270余りの遺伝子変異が報告されている.HMBS遺伝子の解析ではグレイゾーンのない確定診断が可能であり、また、いったん遺伝子変異が明らかになれば、従来は困難であった家系内の潜在性未発症保因者の正確な把握とその将来の発症予測・予防が可能となる★4).遺伝子解析は遺伝性ポルフィリン症診断におけるgold standardとさえいえる★5,6).現在わが国ではポルフィリン症の遺伝子解析が可能な施設は限られているが、平成22年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「遺伝性ポルフィリン症の全国疫学調査ならびに診断・治療の開発に関する研究」班によれば、AIPについてはこれまでに全国各地の18家系で解析が行われている(図1).

 遺伝子解析の欠点として、解析用設備に加えて手技の煩雑性、費用や時間など、病気のスクリーニングあるいは初期診断には適さないといった点があげられ、疾患スクリーニングを目的とするにはきわめて非効率的といわざるを得ない.したがって、現在のところ、AIPを含めたポルフィリン症の診断にあたっては、まず臨床的および生化学的に可能な限り病型を絞り込み、そのうえでその病型の責任酵素についての遺伝子解析を行って確定診断を得る、というのが妥当な診断手順と考えられる.

 

 

【文献】

1) Anderson KE, et al. The porphyrias. In: Scriver CR, et al. (eds): The metabolic and molecular bases of inherited disease, 8th ed. vol 1. New York: McGraw-Hill; 2001.

2) Anderson KE, et al. Recommendations for the diagnosis and treatment of the acute porphyrias. Ann Intern Med 2005; 142: 439-50.

3) Grandchamp B, et al.  Tissue-specific expression of porphobilinogen deaminase. Two isoenzymes from a single gene.  Eur J Biochem 1987; 162: 105-10.

4) Sassa S, Kappas A. Molecular aspects of the inherited porphyrias. J Intern Med 2000; 247: 169-78

5) Maeda N, et al. Two deletion mutations in the hydroxymethylbilane synthase gene in two unrelated Japanese patients with acute intermittent porphyria. J Hum Genet 45:263-8, 2000.

6) Maeda N, et al. Three novel mutations in the protoporphyrinogen oxidase gene in Japanese patients with variegate porphyria. Clin Biochem 33:495-500, 2000.

 

 

【図1の説明】

 本邦AIP症例の解析結果.201010月現在、わが国ではAIP 18家系において遺伝子解析が行われている.平成22年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「遺伝性ポルフィリン症の全国疫学調査ならびに診断・治療の開発に関する研究」班第2回班会議より.

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