AIPの治療

AIPの治療       山形大学  大門 眞

 

要約

1. 発作時:

   AIPを増悪させ得る薬物の投与を中止する;必要に応じて、完全静脈栄養(Total parenteral nutrition)も含めた、適切な栄養補給を行う;興奮、嘔吐、便秘、高血圧、頻脈、痛み、及び、感染症を、ポルフィリン症を誘導しない薬物で治療する;体液量をモニターし、電解質異常、特に低ナトリウム血症を是正する;呼吸の支持療法、及び、早期の人工呼吸管理を行う。急性発作:ヘミン(ヘマチン、ヘム アルブミン、あるいは、ヘム アルギニン)の適切な投与は、急性神経内臓発作を軽減させ、また、麻痺に陥ることを防ぐための、特異的な治療法である(本邦では、現在、ヘミン製剤は保険認可されておらず、個人輸入での使用となる。現在、保険収載をめざしての臨床治験の準備中である。)。軽症発作:生理食塩水に溶解した10%-20%のブドウ糖液をまず静脈内投与し、その後、必要に応じて、ヘミンを投与する。

2. 主要症状の予防:

 急性発作は以下の方法で予防される:誘因を避けるような生活習慣、ライフスタイルを行うようにカウンセリングする;感染症の適切な治療を行う;月経周期に伴い月経前に発作が起こる女性には、排卵を抑え発作を予防する目的で、長時間作用型のGnRH類似化合製剤を使用する。

3. 回避すべき薬物や環境

  ストレス、不規則な食事、ダイエット、アルコール、喫煙、大麻;ポルフィリン症を誘導することが知られている薬物、及び、漢方薬;殺生物剤、及び、有機溶剤(例えば、染料、あるいは、洗剤に含まれる)

4. 経過観察:

  長期に亘り急性発作を繰り返した患者では腎機能を調べる;ヘミンで繰り返し治療を受けた患者では、鉄の過剰投与の有無を調べるため、血清フェリチン濃度を測定する;肝細胞癌の早期発見のため、50歳以上の症例では、年に1-2回、肝臓の画像検査を行う。

5. リスクのある家族の検査:

 早期に予防対策を取るために、リスクのある家族の遺伝状況を明らかにする。その方法としては、赤血球HMBS酵素活性測定、あるいは、家族特異的な病因遺伝子異常が分かっている場合は、遺伝子解析が行われる。

6. 遺伝

  AIPは常染色体優性遺伝型式をとる.新生突然変異の割合は不明であるが、多分1%程度であろう。 本症患者の子供は50%のリスクで本症を受け継ぐ;しかしながら、浸透率は10-50%で、また、本症の発病性に関与する因子は不明であるので、遺伝子異常を受け継いでいる者が発症するかどうかを予想することは出来ない。家族での病因遺伝子異常が分かっている場合は、高リスク者の妊娠に際して、出生前診断を行うことは可能であるが、成人発症の、少なくとも部分的には、治療可能な疾患の出生前診断の要望は多くはない。

 

フォームの始まり

 

臨床的マネジメント

 

1. 最初の診断時における評価

  AIPと診断された場合、疾患の重症度を評価する為、MRIを含めた神経学的な評価が推奨される。

 

2.急性発作の治療は以下:

·       アルコールやタバコ等の肝性ポルフィリン症を増悪させ得る全ての薬物の投与を即時中止する(回避すべき薬物や環境の項、参照)

·       必要に応じて、エネルギー摂取バランスを回復させる。経口摂取が不可能な場合は、完全静脈栄養(TPN)を行う。

·       軽症発作の場合は、1日当たり最低400グラムの炭水化物の供給を目標にグルコースの静脈内投与を行う。グルコースを中心とした補液が有効である詳細な機序は不明だが、ALASの酵素活性を抑制し急性発作を改善させると言われている。本邦で、最も一般的に行われている治療法。インスリンを併用するとさらに効果が増す。投与二日後でも、改善が満足できるものでない場合は、ヘミン製剤の静脈内投与が欧米では推奨されているが、本邦ではヘミン製剤は未承認(治験中)。

·       全ての 随伴する感染症、及び、他疾患に対して適切な治療を行う。

·       高血圧、疼痛、及び、電解質異常、特に、不適切抗利尿ホルモン分泌症(SIADH)による低ナトリウム血症に対して適切な治療を行う。

·       球麻痺に対して人工呼吸器が必要かどうかを判断するため、肺活量をベッドサイドで測定する機器を使用する。 

·       ヘムアルギニン(フィンランド、Leiras社)あるいは塩酸ヘマチン(米国、Abott社)。本薬物はヘム製剤で細胞内ヘムの上昇を引き起こし、ALASの酵素活性を押さえ(ネガテイブ フィードバックにて)、ヘム合成系の相対的亢進を緩和させる。ポルフィリン症の治療としては病態に則した治療法であり、欧米では第一選択療法。ヘミン製剤の静脈内投与は, 軽症例以外では、グルコース投与を試しに行うことなく、まず開始すべきであると欧米では推奨されている。ヘミン製剤の静脈内投与は、早期に行われれば、生命予後の改善につながり、また、神経障害が可逆的な早期に使用された場合は、麻痺の出現やその増悪の防止にも役立つと考えられている。

·       肝臓移植. 同所死体肝臓移植により、1.5年以上も生化学的、及び、臨床的に寛解状態となった19歳の女性の重症AIP症例 の報告がある。肝臓移植は、他の治療が有効でない最重症例では、考慮されうる。

·       長期に亘り急性発作を繰り返した症例では腎障害がみられ、腎臓移植が行われることもある。

·       これまでも問題なく行われている肝腎同時移植は、重度の急性発作を繰り返す腎不全のAIP患者において考慮され得る。

3.予防方法:

 a. 一次病変の予防

適切な栄養補給. カロリーの補充は尿中ALAPBG排泄量を減少させ、臨床症状の軽減につながる。適切な栄養補給は、栄養摂取量の少なかった者、あるいは、過度の体重減少が認められた者では、特に、有用である。

ポルフィリン症を誘発させることが知られている薬物、あるいは、化学物資の使用を避ける。

随伴疾患、あるいは、感染症の適切な治療。

月経周期に伴いAIP症状の増悪をみる女性患者では、排卵を抑制し、月経前の発作の出現を防止するために、長時間作動型のGnRH作動作用のある類似化合薬の鼻腔内、あるいは、皮下投与を行う。注:本治療は実際にポルフィリン症を悪化させ得るので、ポルフィリン症治療の専門家においてのみ行われるべきである。

 b. 二次病変の予防

AIPでは、思いのほか、自殺が多いので、早期からの精神科的治療、及び、効果的な痛みへの治療が重要である。

慢性的な全身動脈の血圧増加の結果起こると考えられる末期腎障害の発症は血圧のコントロールを十分に行えば遅れさせることができる。

3. 経過観察

  AIP症患者では肝細胞癌の発症率が増加しているので、50歳以上の患者では定期的な肝臓の画像検査を行う。注: AIP患者で肝細胞癌を併発した場合は、AFPが増加することはまれである。従って、血清のAFP測定は、他の病因による肝細胞癌の場合と比して、AIPに随伴する肝細胞癌の場合は、スクリーニング検査としての意義は低い。

 

4. 回避すべき薬物や環境

  a. アルコール、及び、喫煙 .

  b. 急性ポルフィリン発作を引き起こしうる薬物.

·       多くの薬剤、及び、その他の医薬部外の物質の急性ポルフィリン症での安全性についての知見は不完全である。しかしながら、薬剤のポルフィリン症誘発性についての評価のエビデンスに基づくガイドラインが報告され(Thunell S, et al. Br J Clin Pharmacol. 2007; 64: 66879.)、その原則に基づいて分類された処方薬のリストは、ウエッブ サイト、www.drugs.porphyria.org、に掲載されている。

·       発作を引き起こす危険のある、あるいは、可能性のある物質のリストは以下のウエッブ サイトにも掲載されている。

o Drugs-porphyria.org (http://drugs-porphyria.org/)

o Porphyria, A Patient's Guide http://www.uq.edu.au/porphyria/

o The American Porphyria Foundation http://www.porphyriafoundation.com/

o European Porphyria Initiative http://www.porphyria-europe.com/

·       バルビタール、及び、スルホンアミド系抗菌薬は、有名な急性ポルフィリン症の誘発剤である

·       ゲスタゲン、及び、合成エストゲンは発作を高頻度に誘発する。

·       ほとんど全ての抗てんかん薬(AEDs)は、AIPを含む急性ポルフィリン症を引き起こしうる。ガバペンチン(Gabapentin)、及び、ビガバトリン(vigabatrin) は他のAEDsよりは安全かも。

·       他にも種々のポルフィリン誘発性の処方薬があり、それ等の薬剤は可能な限り避けるべきである。

5. 研究中の治療法

a. 合成ヘム類似化合物、例えば、スズ プロトポルフィリン(tin-protoporphyrin)、あるいは、スズ メソポルフィリン(tin-mesoporphyrin)はヘム酸化酵素の活性を抑制し、ヘムの分解を減少させ、肝臓のヘム濃度を増加させる。これらの物質は、AIP、及び、VP患者において、ALAPBG、及び、ポルフィリンの排出を減少させる。ヘミン効果を延長させる為に本物質を使用することについては、まだ、研究段階である。

b. 組み換えHMBS酵素の静脈内注入による補充療法が試されており、安全で、かつ、血漿、及び、尿中の、ALA、及び、PBGの除去という指標でみると、有効であると証明されている。しかしながら、臨床症状の改善に関しては報告されてはいない。

c. アデノ ウイルス、あるいは、アデノ随伴ウイルスを用いた遺伝子治療は、AIPの動物モデルで、長期に亘り、肝臓のHMBS欠損を改善させたと報告されている。

6. その他

a. HMBS遺伝子異常ヘテロ接合者には、安全ではない薬物、あるいは、物質を不必要に投与されることを避けることが出来るように、医療上の警告を意味する腕輪、及び、財布に入れるカードを提供する。

b. シメチジン(Cimetidine)は治療薬として使えると示唆されているが、その臨床上の有用性は明確ではない。シメチジンは、肝臓のチトクローム P450の阻害薬で、これら酵素により活性化される化学物質により引き起こされる実験的ポルフィリン症を改善させる。しかし、この機構は、人の遺伝性ポルフィリン症とは必ずしも関連してはいない。 

 

7.リスクのある親族の検査

·                リスクのある家族の遺伝状況は、その家族でHMBS遺伝子異常が特定されている場合は、遺伝子解析にて明らかにする。

:遺伝子解析はHMBS遺伝子異常を確認する正確な手法であるが、AIPの臨床症状発現の予測にはつながらない;しかしながら、HMBS遺伝子異常ヘテロ接合体者において、尿中PBG濃度の増加がみられた場合、急性発作のリスクが高まっていることが示唆される。

·                臨床的、あるいは、生化学的に異常がないAIPの家族に対しては、予防策をとり、危険因子を避けるように勧告する。

8. 遺伝

   a. 遺伝形式

      AIPは常染色体優性形式で遺伝する。

   b.発端者の両親のリスク

AIPと診断された人の大多数は、その両親の内のいずれか(症候性である場合も、ない場合もあるが)から遺伝子異常を受け継いでいる。

新規に発生した遺伝子異常が原因となるAIPの発端者もある。新規発症遺伝子異常が病因となっている症例の割合は不明であるが、可能性としては低い。

明らかに新規に遺伝子異常が起こり病因となった発端者の両親の評価には、尿中ALA、及び、PBG測定、及び、発端者のHMBS遺伝子異常が分かっている場合は、HMBS遺伝子解析を行うことが推奨される。

AIP患者では、家族内の臨床的、あるいは、生化学的に異常が無いAIP患者が認識され損なうことにより、家族歴はしばしば陰性である。

c. 発端者の同胞のリスク

発端者の同胞のリスクは発端者の両親の遺伝子異常の状況(すなわち、どちらかがが、あるいは、双方共にHMBS遺伝子異常を持っているかどうか)に依る。

もし発端者の両親のどちらかのみがHMBS遺伝子異常を持っている場合、発端者の同胞の遺伝子異常を受け継いでいるリスクは50%である。臨床的浸透率は低い(10-50%)ので、HMBS遺伝子異常を受け継いでいる者が将来発症するかどうか、また、もし発症するとして、発症年齢、重症度、及び、症状のタイプ、を予測することは可能ではない。

  d. 発端者の子のリスク 

  ・AIP患者の子は、HMBS遺伝子異常を50%の割合で受け継ぐ。

  e. 発端者の他の家族のリスク 

他の家族のリスクは、発端者の両親の遺伝子異常の状況に依る。両親のいずれかが発症している、あるいは、病因遺伝子異常を持っている場合は、その者の家族は遺伝子異常を持っている可能性がある。

f. AIP患者の多くは生涯無症候であり、遺伝解析、及び、生化学的検査のいずれもAIPの臨床症状の出現を予測出来ない。また、AIPの成人症例の治療法、及び、予後が相当に改善したことより、出生前診断の要望は多くはない。

g. 着床前遺伝子診断

病因遺伝子異常が分かっている家族においては、着床前遺伝子診断が可能である。しかしながら、本邦では行われてはいない。

 

参考文献

1. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/bookshelf/br.fcgi?book=gene&part=aip

2.大門 真:ポルフィリン症. Year note 2011 Selected Articles:659-669,2010

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