テュートリアル 「感染症・生体防御コース」
第2週はこちらです。
1999年 1月22日

感染症・生体防御コース
平成11年1月11日〜2月12日 (全5週)

目次

コース担当教官
コース全体の教育目標
今週の時間割
今週のコース概要
行動目標
レポートと症例発表会
今週の参考書
今週の症例解説
ホームページへのリンク

1) コース担当講座 教官名簿・連絡先

コ−ス主任: 宮澤 正顕 (免疫学講座、教授)

コ−ス担当者:
  宮澤 正顕 (免疫学講座 教授、内線 3265)
  義江  修 (細菌学講座 教授、内線 3256)

学習指導教員:
  古川 忠明 (免疫学講座 助教授、内線 3266)
  松村 治雄 (免疫学講座 講師、内線 3267)
  今井 俊夫 (細菌学講座 講師、内線 3255)
  斎藤 卓也 (細菌学講座 講師、内線 3255)
  丹羽 淳子 (免疫学講座 助手、内線 3267)
  田端 信忠 (免疫学講座 助手、内線 3267)
  阿部 弘之 (免疫学講座 助手、内線 3267)
  渡辺 雅保 (細菌学講座 助手、内線 3255)
  中山 隆志 (細菌学講座 助手、内線 3255)

2) コ−ス全体の教育目標 :
 細菌学・免疫学の二講座を中心に、病原体と感染防御について理解させるテュ−トリアルコ−ス。5週の期間内に症例(事例)の解析と講義、及び細菌学(1週)、ウイルス学(1週)、免疫学(2週)の実習を実施する。このコ−スでは病原微生物(細菌・ウイルス・真菌など)とそれらに対する生体防御反応について学習し、病原体がヒトにひき起こす感染症の診断と治療、および予防法に至るまでを理解させることを目標とする。

3) 今週の時間割表
 第2週 (1月18〜22日

 日付 1月18日(月) 1月19日(火) 1月20日(水) 1月21日(木) 1月22日(金)

1時限目

8:30〜9:30:
テュートリアル
9:30〜10:30:
  自習
講義11(免疫)
8:30〜9:30:
テュートリアル
9:30〜10:30:
  自習
講義13(免疫) 8:30〜9:30:
テュートリアル
9:30〜10:30:
  自習
2時限目 講義10(免疫) 講義12(免疫) 自習 講義14(免疫) 自習
3時限目 自習 実習(免疫) 実習(免疫) 講義15(免疫)
症例発表会
4時限目 自習 実習(免疫) 実習(免疫)  自習 試験

講義内容:

1月18日(第2時限)  免疫学総論
1月19日(第1時限)  抗体の構造と機能
1月19日(第2時限)  補体・食細胞・炎症
1月21日(第1時限)  免疫グロブリン遺伝子
1月21日(第2時限)  リンパ球の発生と分化
1月21日(第3時限)  サイトカインとリンパ球のエフェクター機能


4) 今週のコ−ス概要

 免疫系を構成する細胞と分子の機能を、それらが欠損した場合に起こる病気を足掛かりにして理解することを目標とします。

 今週は免疫系の構成分子・細胞とそれらの基本機能を、機能欠損の場合に起こる病気を足掛かりに理解して行きます。Tリンパ球による抗原認識の機構や免疫寛容については、第5週に集中的に学習するよう計画していますので、この週は抗体とTリンパ球のエフェクター機能に焦点を当てて学習して下さい。
 講義では免疫グロブリンの構造、クラス・サブクラスの違い、抗原結合部位の多様性形成とクラススイッチの分子機構、免疫グロブリン分子の機能発現と補体及びFcレセプターとの関係、及び抗体産生細胞の体内分布などを学びます。この際、IgAが「水際」の粘膜免疫に果たす役割を見落とさないように注意して下さい。 症例についての学習では、以下のキーワードが重要です:

免疫グロブリン製剤
アナフィラキシー反応
共通γ鎖
クラススイッチ
サイトカイン
リンパ球の発生・分化


 症例の学習を通じて、主要な先天性免疫不全症の原因遺伝子、頻度、症状、検査所見などにも関心を向けて下さい。その際、欠損する免疫細胞・分子の機能と症状(どの様な感染症に罹りやすいか)との関係を論理的に説明できるようになることを最終目標とします。また、悪性腫瘍の頻度上昇など合併症にも目を向け、最終的に我々が普段如何に多くの微生物と共存しているか、免疫反応無しに自己の遺伝的同一性を守ることが如何に困難であるかに想いを馳せて下さい。


5) 行動目標

 以下の行動目標は、テュートリアルと講義・実習の全体を通じて達成されるものです。テュートリアルの時間内のみで、これら行動目標の全てをカバーしようとする必要はありません。

1. 免疫グロブリン分子の基本構造が描け、抗原結合部位、Fc 部分、軽鎖と重鎖が区別出来る。

2. 免疫グロブリンのクラス・サブクラスの名前、血清中及び分泌液中の濃度差、胎盤移行性の違い、構造と機能の特徴が言える。

3. Bリンパ球とTリンパ球がどこで作られるか、細胞表面レセプターの違いは何かが言える。

4. 粘膜免疫に於ける分泌型 IgAの役割を知っている。

5. 免疫グロブリン遺伝子の再構成の概念を聞いたことがあり、クラススイッチの仕組みを簡単な図を描いて説明出来る。

6. 免疫グロブリンの機能発現に補体と Fcレセプターが果たす役割につき、抗体分子各クラスの補体活性化能の違い、Fcレセプター各タイプの細胞分布の違いを含めて説明出来る。

7. リンパ球の増殖と分化に果たす各種サイトカインの役割を、 共通γ鎖欠損症を例に説明出来る。

8. 先天性免疫不全症をBリンパ球機能欠損とTリンパ球機能欠損に分けて理解出来、それぞれの機能欠損に際して頻発する感染症の種類を、抗体とT細胞のエフェクター機能の違いに基づいて例示できる。


6) レポートと症例発表会

 今週の症例に関し、金曜日2時限目の自習時間内に「症例の全体像(グループとしての解釈)」と「この例から学んだこと」を盛り込んだ短いレポ−トを、各グループで一つ作製して下さい。レポ−トはA4版1〜2枚とし、グル−プごとに、金曜日の12時20分迄に免疫学講座教授室へ提出して下さい。このレポ−トは症例発表会におけるディスカッションと補足説明に活用します。
 金曜日の3時限目には、予め選ばれた代表グル−プがその週の症例の学習内容を発表します。 発表会は学生がOHPシートを使って行います。発表に使うOHPシートは、原稿を持参すれば免疫学講座で作成します。 


7)今週の参考書

 このコースでは特に教科書は指定しません。講義に当たって毎回詳細なプリントを配布し、講義内容がテュートリアルの症例と密な連携を保つよう配慮しているので、必ず講義に出席しその内容を理解するよう努めて下さい。参考書としては以下に挙げるものがありますが、この分野の進歩は早く、古い教科書には現在では間違であることが明らかな理論や実験結果が記載されているので、この点でも講義で最新の知識に触れることが重要です。

 1)Charles A. Janeway, Jr. and Paul Travers: Immunobiology, The Immune System in Health and Disease, 3rd Edition.  Current Biology Ltd., London. (この教科書は大変優れており、最新の知識を一貫したスタイルでわかりやすく記載しています。但し、Fcレセプターに関する記述など、最近の進歩が速い部分では理解が間違っているところもあるので、講義を注意して聞いて下さい 。)

 2)笹月健彦 監訳: 免疫生物学 免疫系の正常と病理 第3版、南江堂 (上記の訳書ですが、翻訳によって却って分かり難くなっている部分もあります。)

 3)大西義久・京極方久・内藤眞・名倉宏・綿貫勤 編: エッセンシャル病理学 第4版、医歯薬出版 (病理学の教科書ですが、その炎症・免疫・感染症・アレルギーに関する部分は生体防御学のエッセンスを上手く盛り込んでいます。実は宮澤がかなりの部分を書いています。)

 4)山本一彦 編: 自己免疫疾患 (New メディカルサイエンスシリーズ)、羊土社 (これ自体が、最新の免疫学の教科書として使える内容を持っています。テュートリアル室に備えられています 。)

 5)平野俊夫 編: 免疫の仕組みと疾患(イラスト医学&サイエンスシリーズ)、羊土社 (最新の研究成果をヴィジュアルに纏めてあり、特に病気との関係が理解し易くなっています。)

 6)Marc Da ron: Fc receptor biology.  Annu. Rev. Immunol. 15:203-234, 1997.(Fcレセプターに関する最新の知識はこれを参考にして下さい。)

 7)山村雄一、岸本忠三、R. A. Good 編: 岩波講座・免疫科学9 免疫と病気 I、岩波書店 (やや旧い本ですが、先天性免疫不全症候群の基本的な考え方や分類・病態はこれで分かります。)

8)今週の症例解説

症例 1
 13歳のJ子さんは幼稚園のころから風邪を引きやすく、風邪にかかると殆ど必ず長引いて、いつまでも咳と痰が続いていました。小学生の時一度肺炎を起こして近くの医院に入院したことがあり、その時お母さんが先生に「この子は赤ちゃんの時はまるまると元気そうで殆ど病気をしたことも無かったのに、お誕生の頃から弱くなってしまいました」と言っていたのを覚えています。J子さんは小学生の頃には時々下痢で悩むようになり、虫歯も多いので頻繁に歯科医に通っていました。そのせいかJ子さんはクラスで一番背が低く、同級生にも痩せているねと言われます。この冬もJ子さんは殆ど2週間おきに風邪を引いて熱を出していましたが、今回は熱と咳が2週間以上続く上、全身の関節と筋肉に痛みがあって朝起き上がるのが辛くなったので、かかりつけの医師の紹介で市立の総合病院に入院することになりました。採血して検査をした主治医の先生はお母さんに「血清中の免疫グロブリンは高値ですが、IgAが全くありません。それと、以前に入院したとき免疫グロブリン製剤を投与されていた可能性がありますので、今後免疫グロブリンを注射することは出来ません関節や筋肉の痛みについては風邪のためだけではないかも知れないので、血清の詳しい検査をしています。」と説明しました。娘は難しい病気なのだと、お母さんは今後のことを不安に思いました。
設問例 (こんなことを考えて欲しかった)

1)生まれたばかりの頃はまるまるとして元気そうだったJ子さんが、一歳になる頃から病気に罹り易くなったのは何故でしょうか?(母体から胎盤や母乳を介して移行する抗体の存在と、それらの分解・減少の速度を考えて下さい。)

2)微生物感染症としての風邪・齲歯(虫歯)・下痢に共通する特徴は何でしょう?(外界と交通している粘膜の感染症であることに気付いて下さい。)

3)免疫グロブリンとはどの様な構造と機能を持った蛋白質ですか?

4)免疫グロブリンが高値になるのはどんな時ですか?

5)IgAはどこで作られ、どんな特徴を持った免疫グロブリンですか?また、「分泌型 IgA」とはどのような分子ですか?

6)IgAがないと、どうしてJ子さんのような症状が起こるのでしょうか?

7)J子さんに以前免疫グロブリン製剤が投与されていると、どうして今後免疫グロブリンを注射することが出来ないのでしょう?

8)免疫グロブリンはどのようにして微生物を身体から排除する働きを示しますか?(IgM、IgAポリマーによるウイルス・細菌の凝集、補体の活性化、食細胞の機能などを学んで下さい。)
解説:
 IgA単独欠損症の症例です。この病気は先天性免疫不全症の中では最も頻度の高い疾患です。しかし、何故か白人と日本人で頻度に大きな差があり、白人の場合およそ700人に一人は IgAの欠損があるのに、日本人では3,000〜18,000人に一人と言われています。原因遺伝子は恐らく複数あると考えられ、環境因子の存在を指摘する意見もあります。IgA単独欠損症は全く無症状の場合もありますが、この症例のように上気道を中心に反復・遷延性の感染症があり、肺炎や消化器系の感染症を伴って発育不良を起こす例もあります。ここでは、先天性免疫不全症のような稀な病気そのものについて詳細を調べて貰うのが目的ではなく、この症例を通じて IgAが粘膜での感染防御に果たす重要な役割に気付いて貰うのが最大の狙いでした。勿論、免疫グロブリン製剤の投与でアナフィラキシーショックを起こす可能性があること(それは何故か?免疫系は自分自身が持っていないものには反応する!)、しばしば自己免疫病を合併することなど、臨床医学的に重要な問題点にも気付いて下さい。
 免疫グロブリン分子の構造や各サブクラスの機能、クラススイッチの分子機構などは標準的な教科書のどれにも記載されていますし、講義でも詳しく解説しました。一つだけ注意して頂きたいのは Fcレセプターの構造と機能の関係で、これについては Janeway and Travers の Immunobiology の最新版(第3版)にも間違ったことが書かれています。講義で補足しましたが、講義プリントの図を大切に保存しておいて下さい。

症例 2
 M男さんの三男は生後10週頃から体重増加が遅れ、口の中に大小の赤い斑点状の病変が出来て授乳が困難になりました。生後3ヶ月に入った頃、オシッコが赤茶色に濁って排尿の度に泣くようになったので、びっくりして近くの総合病院に連れて行きましたが、検査の結果細菌は検出されないので様子を見るようにと言われました。ところが間もなく高熱を発し、咳をして息が苦しそうになったので、救急車で大学病院に運びました。検査の結果血清免疫グロブリンは IgGが 18mg/dl、IgM 14mg/dl で、IgAと IgEは検出限界以下、末梢血リンパ球はCD19陽性のB細胞が85%で、CD3陽性細胞は10%未満でした。主治医はM男さんに、「息子さんの細胞から遺伝子を取って調べたところ IL-2 レセプター γ-鎖欠損症という稀な病気であることが判った。骨髄移植が唯一の治療法である。」と告げました。

設問例 (こんなことを学んで欲しかった)
1)症例1では一歳を過ぎる頃から風邪に罹り易かったり下痢をしたりと言う症状が反復して出現しましたが、この症例では生後間もなくから口内炎が起こったり血尿が出たりしています。何故このような違いが生じたのでしょうか?(抗体の欠損と細胞性免疫機能の欠損で、対処出来なくなる微生物感染症の種類が変わることに気付いて下さい。)

2)CD3陽性細胞とはどのような細胞ですか?その細胞でCD3分子の果たす役割は何ですか?また、CD3陽性細胞には機能の異なるどのようなサブセットがありますか?この点は、第4週から第5週にかけての講義とテュートリアルで詳しく学びます。)

3)リンパ球の増殖・分化を制御するサイトカインにはどのようなものがありますか?

4)血清中免疫グロブリン各クラスの濃度は、正常のヒトではどのくらいですか?

5)IL-2は主にTリンパ球とナチュラルキラー細胞の増殖・分化に関与するサイトカインです。この症例でIL-2レセプター γ-鎖欠損によってCD3陽性細胞が著しく減少しただけでなく、免疫グロブリンも低値となったのは何故でしょう?(γ-鎖は common gammaとして他のサイトカインレセプターも構成していることに注意!)

6)M男さんの子供達のうち、この三男だけに γ-鎖欠損症の症状が出たのは何故でしょう?(X染色体連鎖劣性遺伝形式です。)

解説:
 X-染色体連鎖重症複合型免疫不全症候群 (X-linked SCID) の症例です。最初の口腔病変は Candida albicans の感染、次の血尿はアデノウイルスによる急性出血性膀胱炎と考えられます。何れも殆どヒトの常在微生物と言って良いものが病気を起こしています。重症複合型免疫不全症では、しばしばアデノウイルスによる全身性感染症も起こります。そこで、「日和見感染症」と言う概念にも目を向けて下さい。
 IL-2 レセプター γ鎖は IL-4, IL-7, IL-9, IL-15のレセプターの構成成分でもあり、現在では common gamma の意味で γc鎖(共通γ鎖)と呼ばれます。IL-2 レセプターの機能欠損とだけ考えると、何故T細胞だけでなくB細胞の機能まで欠損するのか理解しにくいのですが、γc鎖の役割として勉強すると、T細胞だけでなくB細胞の分化成熟にもこの分子が必要であることが判ります。最近の教科書にはこのことがちゃんと説明されていますが、1995年以前に書かれた教科書には説明は出ていないと思います。新しい教科書を参考にして下さい。
 ここでも、この稀な病気そのものについて詳細に調べることが目的ではありません。この疾患の理解を通じて、リンパ球の分化と活性化に必要なサイトカインの存在を知らせ、同時に病気の原因遺伝子の解明について目を向けて貰うことことが我々の目標です。そこで、最後の主治医の言葉を足掛かりに、先天性疾患の遺伝様式(この場合はX染色体連鎖劣性遺伝)、保因者、遺伝子診断の方法、原因遺伝子の判っている他の先天性免疫不全症(X染色体連鎖無ガンマグロブリン血症と btk 遺伝子、高 IgM血症を伴う重症複合型免疫不全症と CD40 ligand、ADA欠損症とその遺伝子治療)などについても勉強してみて下さい。また、症例1とこの症例を比較し、IgA単独欠損の症例 1は呼吸器・消化器感染症を反復しながらも13歳になっていること、一方症例 2は生後3ヶ月で生死の境を彷徨う事態となっていることに気付いて下さい。

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