テュートリアル 「感染症・生体防御コース」
第5週はこちらです。

1999年 2月15日

今週の症例・事例に関する解説を載せました

コースの成績評価について

講義内容を変更しました

新しい実習を行いました



免疫学教室ホームページに
「わかる!独説免疫学」のページを作りました。

目次

コース担当教官
コース全体の教育目標
今週の時間割
今週のコース概要
行動目標
レポートと症例発表会
今週の参考書
他のホームページへのリンク

1) コース担当講座 教官名簿・連絡先

コ−ス主任: 宮澤 正顕 (免疫学講座、教授)

コ−ス担当者:
  宮澤 正顕 (免疫学講座 教授、内線 3265)
  義江  修 (細菌学講座 教授、内線 3256)

学習指導教員:
  古川 忠明 (免疫学講座 助教授、内線 3266)
  松村 治雄 (免疫学講座 講師、内線 3267)
  今井 俊夫 (細菌学講座 講師、内線 3255)
  斎藤 卓也 (細菌学講座 講師、内線 3255)
  丹羽 淳子 (免疫学講座 助手、内線 3267)
  田端 信忠 (免疫学講座 助手、内線 3267)
  阿部 弘之 (免疫学講座 助手、内線 3267)
  渡辺 雅保 (細菌学講座 助手、内線 3255)
  中山隆志 (細菌学講座 助手、内線 3255)
  藤澤隆一 (細菌学講座 助手、内線 3255)

2)コ−ス全体の教育目標 :
 細菌学・免疫学の二講座を中心に、病原体と感染防御について理解させるテュ−トリアルコ−ス。5週の期間内に症例(事例)の解析と講義、及び細菌学(1週)、ウイルス学(1週)、免疫学(2週)の実習を実施する。このコ−スでは病原微生物(細菌・ウイルス・真菌など)とそれらに対する生体防御反応について学習し、病原体がヒトにひき起こす感染症の診断と治療、および予防法に至るまでを理解させることを目標とする。

3)今週の時間割表
 第5週 (2月 8〜12日)

 日付 2月 8日 (月) 2月 9日 (火) 2月10日 (水) 2月11日 (木) 2月12日 (金)
1時限目
8:30〜9:30:
テュートリアル
9:30〜10:30:
  自習
講義27(免疫)
8:30〜9:30:
テュートリアル
9:30〜10:30:
  自習
  祝日
  
8:30〜9:30:
テュートリアル
9:30〜10:30:
  自習
2時限目 講義26(免疫) 講義28(免疫) 自習   自習
3時限目 自習 実習(免疫) 実習(免疫)   症例発表会
4時限目 自習 実習(免疫) 実習(免疫)   試験

講義内容(変更しました):

2月 8日(第2時限) T細胞レパトアの形成と胸腺に於ける選択
2月 9日(第1時限) サイトカインとT細胞のエフェクター機能
2月 9日(第2時限) 移植免疫と GvH病(免疫抑制剤を含む)

4)今週のコ−ス概要

 Tリンパ球の抗原認識機構とMHC分子の役割を理解し、免疫系は自己の「遺伝的同一性」を守ろうとする結果、移植片にも反応出来るようになっていることに気づくのが今週の目標です。

 この週は外来異物に対する免疫反応と言う古典的視点を離れ、免疫系が実は自己の身体を構成する全ての細胞の遺伝的同一性を監視していること、だからこそ移植片に対する拒絶反応も起こることを学習します。この週の学習内容は古典的免疫学しか学んでいないテュータの先生方には却って難解に感じられることでしょう。それというのも、このような考え方が実体として正しいことが分子レベルで証明され、全ての免疫学者に受け容れられるようになったのは、この10年以内のことだからです。しかし一方で、この新しい考え方が明確に証明されたお陰で、それまで謎が多かった「MHC拘束」などの現象が、まるでT細胞による抗原認識の仕組みを目で見ているかの如く簡単に説明できるようになったことも事実です。免疫学講座のこれまでの講義経験から、本学医学部の学生は誰でもこの週の学習内容を容易に理解出来る筈だと断言できます。勿論、第4週の講義の間に必要な予備知識は十分与えられています。先入観が無い分、学生諸君の方がこの週の学習内容を素直に理解出来ると思います。
 Tリンパ球による抗原認識の仕組みを理解しておくことは、MHCと疾患の関連アレルギー・自己免疫病の発症メカニズム、そして移植免疫の仕組みとその制御法を知る上でどうしても必要です。また、学生の皆さんに「個別の事実の記憶」でなく、論理的な思考による現象の説明を訓練して貰う点でも、この週の課題は役に立つと信じます。


5)行動目標

1. Tリンパ球は分化の過程で正の選択と負の選択を受け、その結果「自己MHCプラス自己構成タンパク質由来ペプチド」の構造をごく緩やかに認識するようなレセプターを獲得することを理解する。

  MHC分子は、細胞内で合成され、或いは外部から細胞内に取り込まれた蛋白質の構造サンプルを細胞表面に提示する「お皿分子」であり、Tリンパ球はこのお皿とその上に載せられたペプチドの構造を全体として認識することを理解します。Tリンパ球が胸腺で分化する際、自分のお皿に載ったペプチドを認識するようなレセプターを持った細胞だけが増殖出来(正の選択)、その中で自己の正常構成成分由来のペプチドを認識するレセプターを持った細胞は排除される(負の選択)ことにより、最終的に末梢Tリンパ球の「レパトア」が形成されます。

2. この結果、ウイルス感染によって誘導された細胞傷害性Tリンパ球は、同じウイルスに感染した自己の細胞は傷害するが、全く同じウイルスに感染していても他人の細胞は傷害できないことを説明出来る。

  「正の選択」の帰結として説明出来そうですが、実はそうではなく、ウイルス感染後エフェクター細胞が出現する過程で、末梢での「クローン選択」が起こっていることに注意して下さい。最終的に出来上がったエフェクター細胞は「自己MHC+ウイルスペプチド」に特異的なのですから、他人のMHC分子上に同じペプチドが載っていても認識できる訳がありません。

3. 上に述べた「MHC拘束」と移植片の拒絶とは全く矛盾しないことを説明出来る。

4. 移植片の拒絶に関与するのは主にTリンパ球であって、非自己細胞の表面にある「非自己MHC分子プラス非自己タンパク質由来ペプチド」の構造と反応するTリンパ球はたくさんあるがわかる。

  なぜなら、同種異系のMHC分子の上に何らかのペプチドが載ったものは、自己のMHC分子の上に非自己ペプチドが載ったものと、全体として同じ形に見える場合があるからです。MHC拘束の実験は、既に末梢で「クローン選択」を受けたエフェクター細胞に関するものであり、移植片の拒絶は、「非自己MHC+ペプチド」を認識するT細胞が新たに選択的に刺激され、エフェクターへと分化することによって起こります。

5. 外来の抗原に対して強い免疫反応を起こせるか否かはMHC遺伝子の型によって遺伝的に決まることを理解する。

  外来抗原由来のペプチドがMHC分子に結合出来なかったりしにくい場合、その「外来抗原ペプチド+MHC」の構造が「自己抗原ペプチド+MHC」の構造と区別できない場合などがあり得るわけです。

6. 移植片の拒絶反応と移植片対宿主病の違いを説明出来る。

  移植片対宿主病は、免疫抑制状態にある宿主体内で、ドナー由来リンパ球がレシピエントの組織に対して起こす反応です。

7. 移植片の拒絶反応を制御する免疫抑制剤の作用機序と副作用を説明出来る。

  免疫抑制剤には、炎症・免疫反応を広範に抑制する糖質コルチコイド、細胞増殖を抑制することにより免疫細胞の反応を阻害する代謝拮抗薬やアルキル化剤、リンパ球に比較的特異的に作用する免疫抑制性抗生物質などがあります。免疫抑制性抗生物質(シクロスポリンやFK-506)の作用機序は、Tリンパ球活性化機構を理解する上で重要です。


6)レポートと症例発表会
 今週の事例症例に関し、金曜日2時限目の自習時間内に
「事例の解釈または症例の全体像(グループとしての病態の理解)」と「この例から学んだこと」を盛り込んだ短いレポ−トを、各グループで一つ作製して下さい。レポ−トはA4版1〜2枚とし、グル−プごとに、金曜日の12時20分迄に免疫学講座教授室へ提出して下さい。このレポ−トは症例発表会におけるディスカッションと補足説明に活用します。
 金曜日の3時限目には、予め選ばれた代表グル−プがその週の症例の学習内容を発表します。発表会は学生がOHPシートを使って行います。発表に使うOHPシートは、原稿を持参すれば免疫学講座で作成します。 


 コース全体の成績評価について
 義江教授と協議の結果、コース全体の成績評価については、テュータによる学生個人の評価(出席を重視)、班毎のテュートリアルレポート(5週分)の評価、実習の出席と実習レポートの評価、及び4回の週末試験の成績を総合して行うこととしました。従って、コース全体の総合試験は行いません。今週末の試験は、今週(第5週)のテュートリアルと講義及び実習内容に関する試験です。

7)今週の参考書

 このコースでは特に教科書は指定しません。講義に当たって毎回詳細なプリントを配布し、講義内容がテュートリアルの症例と密な連携を保つよう配慮しているので、必ず講義に出席しその内容を理解するよう努めて下さい。参考書としては以下に挙げるものがありますが、この分野の進歩は早く、古い教科書には現在では間違であることが明らかな理論や実験結果が記載されているので、この点でも講義で最新の知識に触れることが重要です。

 なお、免疫学教室のホームページに、新しく「わかる!独説免疫学」のページを準備しました。ここを見て頂くと、細胞免疫学の基本的な考え方が理解し易くなると思います。

 1)Charles A. Janeway, Jr. and Paul Travers: Immunobiology, The Immune System in Health and Disease, 3rd Edition.  Current Biology Ltd., London. (この教科書は大変優れており、最新の知識を一貫したスタイルでわかりやすく記載しています。但し、Fcレセプターに関する記述など、最近の進歩が速い部分では理解が間違っているところもあるので、講義を注意して聞いて下さい 。)

 2)笹月健彦 監訳: 免疫生物学 免疫系の正常と病理 第3版、南江堂 (上記の訳書ですが、翻訳によって却って分かり難くなっている部分もあります。)

 3)大西義久・京極方久・内藤眞・名倉宏・綿貫勤 編: エッセンシャル病理学 第4版、医歯薬出版 (病理学の教科書ですが、その炎症・免疫・感染症・アレルギーに関する部分は生体防御学のエッセンスを上手く盛り込んでいます。実は宮澤がかなりの部分を書いています。)

 4)山本一彦 編: 自己免疫疾患 (New メディカルサイエンスシリーズ)、羊土社 (これ自体が、最新の免疫学の教科書として使える内容を持っています。テュートリアル室に備えられています 。)

 5)平野俊夫 編: 免疫の仕組みと疾患(イラスト医学&サイエンスシリーズ)、羊土社 (最新の研究成果をヴィジュアルに纏めてあり、特に病気との関係が理解し易くなっています。)

 6)東野英明 他・編著: 医学生のための薬理学(仮称)、南山堂、印刷中 (免疫抑制薬・抗アレルギー薬・抗リウマチ薬の項は宮澤が執筆しました。免疫反応の基礎についても十分書き込んでいます。)

8)他のホームページへのリンク

医学部ホームページ
免疫学教室ホームページ
便利なリンク集
実習

サンドイッチ ELISA法による未知蛋白質の定量

蛍光セルソータによる脾細胞サブセットの定量

免疫学教室へのメール: mailto:immunol@med.kindai.ac.jp

9)今週の事例・症例の解説(こんなことを勉強して欲しかった)

 この週のテュートリアルは、「外来異物に対する免疫反応」と言う古典的視点を離れ、免疫系が実は自己の身体を構成する全ての細胞の遺伝的同一性を監視していること、だからこそ移植片に対する拒絶反応も起こることを理解して頂くのが目的でした。この週の学習内容は皆さんには難解に感じられたかも知れません。しかし、Tリンパ球による抗原認識の仕組みを理解しておくことは、MHCと疾患の関連やアレルギー・自己免疫病の発症メカニズム、そして移植免疫の仕組みとその制御法を知る上でどうしても必要なことです。また、個別の事実の記憶でなく、論理的な思考による現象の説明を訓練する点でも、この週の課題は役に立つと信じます。


今週の行動目標の説明:

1. Tリンパ球は分化の過程で正の選択と負の選択を受け、その結果「自己 MHCプラス自己構成タンパク由来ペプチド」の構造をごく緩やかに認識するようなレセプターを獲得する。

 MHC分子は、細胞内で合成され、或いは外部から細胞内に取り込まれた蛋白質の構造サンプルを細胞表面に提示する「お皿分子」であり、Tリンパ球はこのお皿とその上に載せられたペプチドの構造を全体として認識 します。Tリンパ球が胸腺で分化する際、胸腺上皮細胞の「お皿」に載ったペプチドを「お皿もろとも」認識するようなレセプターを持った細胞だけが増殖出来(正の選択)、その中で自己の正常構成成分由来のペプチドを認識するレセプターを持った細胞は排除される(負の選択)ことにより、最終的に末梢Tリンパ球の「レパトア」が形成されます。



MHCはTリンパ球に抗原ペプチドを提示する「お皿分子」である。

2. この結果、ウイルス感染によって誘導された細胞傷害性Tリンパ球は、同じウイルスに感染した自己の細胞は傷害するが、全く同じウイルスに感染していても他人の細胞は傷害できない。

 これが所謂 MHC拘束です。「正の選択」の帰結として説明出来そうですが、実はそうではなく、ウイルス感染後エフェクター細胞が出現する過程で、末梢での「クローン選択」が起こっていることに注意して下さい。最終的に出来上がったエフェクター細胞は「自己MHC+ウイルスペプチド」に特異的なのですから、他人のMHC分子上に同じペプチドが載っていても認識できる訳がありません。

3. 上に述べた「MHC拘束」と移植片の拒絶とは全く矛盾しない。
4. 移植片の拒絶に関与するのは主にTリンパ球であって、非自己細胞の表面にある「非自己MHC分子プラス非自己タンパク質由来ペプチド」の構造と反応するTリンパ球はたくさんある。

 なぜなら、同種異系のMHC分子の上に何らかのペプチドが載ったものは、自己の MHC分子の上に非自己ペプチドが載ったものと、全体として同じ形に見える場合があるからです。MHC拘束の実験は、既に末梢で「クローン選択」を受けたエフェクター細胞に関するものであり、移植片の拒絶は、「非自己MHC+ペプチド」を認識するT細胞が新たに選択的に刺激され、エフェクターへと分化することによって起こります。

5. 外来の抗原に対して強い免疫反応を起こせるか否かはMHC遺伝子の型によって遺伝的に決まる。

 外来抗原由来のペプチドがMHC分子に結合出来なかったりしにくい場合(講義で示した MHC分子のペプチド結合溝の構造と、そのアミノ酸配列を思い出して下さい)、その「外来抗原ペプチド+MHC」の構造が「自己抗原ペプチド+MHC」の構造と区別できない場合などがあり得るわけです。

6. 移植片の拒絶反応と移植片対宿主病の違いを説明出来る。

 移植片対宿主病は、免疫抑制状態にある宿主体内で、ドナー由来リンパ球がレシピエントの組織に対して起こす反応です。

7. 移植片の拒絶反応を制御する免疫抑制剤の作用機序と副作用を説明出来る。

 免疫抑制剤には、炎症・免疫反応を広範に抑制する糖質コルチコイド、細胞増殖を抑制することにより免疫細胞の反応を阻害する代謝拮抗薬やアルキル化剤、リンパ球に比較的特異的に作用する免疫抑制性抗生物質などがあります。免疫抑制性抗生物質(シクロスポリンFK-506)の作用機序は、Tリンパ球活性化機構を理解する上で重要です。


事例(第1日に呈示)の解説

 2年ほど前の冬のことです。医学部1年生の佳奈子さんがテレビを見ていると、ニュースで細胞免疫学者の Zinkernagel 教授と Doherty 博士がノーベル医学生理学賞を受賞したと報道していました。テレビの解説者は Zinkernagel 教授らは免疫系がウイルス感染細胞を排除する時、ウイルス抗原のみを認識するのではなく、ウイルス抗原とMHCと呼ばれる移植抗原を同時に認識することを初めて見出したと説明していました。翌日の新聞を読むと、Zinkernagel 教授と Doherty 博士が若い頃行った実験が絵入りで説明されていました。その概略は次のようなものでした:Aと言う系統のマウスにあるウイルスを感染させた後、暫く経って感染の症状が治まって来た段階で、脾臓やリンパ節からTリンパ球を取り出します。このTリンパ球を、ウイルスに感染していないA系統のマウスの細胞と一緒に培養しても細胞の破壊は起こりませんが、マウスの感染に使ったのと同一のウイルスに感染したA系統の細胞は、Tリンパ球と一緒にすると数時間で破壊されてしまいました。つまり、感染マウスから採ったTリンパ球には、ウイルス感染細胞を特異的に認識して数時間で破壊する能力がある訳です。ところが、同じウイルス感染Aマウスから採ったTリンパ球を、全く同じウイルスに感染したB系統由来の細胞と一緒にしても細胞の破壊は起こりませんでした。この現象を詳しく解析した Zinkernagel と Doherty は、攻撃側の感染マウス由来Tリンパ球と標的のウイルス感染細胞の間で、主要組織適合抗原の遺伝子(MHC)が一致している場合のみ細胞傷害反応が起こることを証明し、「MHC拘束」と名付けました。 この解説を読んだ佳奈子さんは狐に摘まれたような気分になりました。なぜならば、医学生の佳奈子さんは移植片の拒絶という現象を知っていたからです。主要組織適合抗原とは、確か移植片の拒絶の際に免疫系が認識する抗原で、これが一致していないと移植片が生着しないと言うものだった筈です。ウイルスに感染したA系統のマウスのTリンパ球をB系統のマウスの細胞と混ぜ合わせたら、ウイルスに感染していようがいまいが破壊されてしまうのではないでしょうか?それに、そもそも移植なんて最近になって人間が勝手に始めた治療法なのに、何故免疫系の細胞はウイルス感染細胞を破壊するのに移植抗原が同じかどうかを気にしたりするのでしょう?佳奈子さんは明日の放課後免疫学の先生のところを訪ねてみようと思いました。

理解のポイント:
 MHCはヒトが移植をするようになったから「主要組織適合抗原」として認識されるようになりましたが、そもそも移植片の拒絶のためにあるものではなく、体中の全ての細胞が自分を構成している蛋白質のサンプルを載せてTリンパ球に示すための「お皿」のような分子なのです。Tリンパ球は胸腺で、このお皿の上に乗った自己構成蛋白質由来のペプチドの構造を調べるように教育されます。勿論、正常の自己構成蛋白質は見逃して、正常蛋白質でないものを作っている細胞を見つけ出すのが目的です(それによってウイルス感染細胞や突然変異細胞を見つけられる訳です)。この目的は、自分のMHCと言うお皿の上に正常自己構成ペプチドを載せた構造とごく弱く反応するレセプターをたくさん作っておくことで達成されます。そのようなレセプターの中には、ごく低い確率ながら、自己MHCのお皿の上にウイルス由来ペプチドの載った構造を強く認識するものがあるでしょう。

 ウイルスに感染したときは、ごく低い確率で存在するそんなTリンパ球が増えてくれれば、ある時間の後にはウイルス感染細胞を認識して排除できます。さて、自分のMHCと基本的には似ているが微妙に構造の異なる同種異系のMHCを持った細胞は、Tリンパ球からはどう見えるでしょう。勿論、同種異型のMHC分子も、その上にはその細胞を構成する蛋白質由来のペプチドを乗せています。そのペプチドの中には、反応側のTリンパ球が由来する個体と構造が全く同じものもたくさんあるでしょうし、遺伝的に僅かにアミノ酸配列の違うものもあるでしょう(種内に於ける遺伝的多型性!)。同種異型のMHC分子の上に何かのペプチドが載った構造は、自己MHCの上に自己ペプチドが載った構造と似ていて微妙に違ったものとなる筈です。ですから、自己MHCの上にウイルス由来ペプチドが載った場合と同じように、これをぴったりと認識するレセプターを持ったT細胞がある確率で存在する訳です!これが免疫もされていないのにアロ反応性T細胞が存在する理由です。
 さて、Zinkernagel と Doherty の実験です。この実験では、ウイルス感染から暫く経って、体内にウイルス感染細胞を直接傷害するようなエフェクターT細胞が十分増えたところで試験管内の細胞傷害試験を行っています。エフェクターT細胞は、Aの系統のMHC分子の上にウイルス由来ペプチドが載った構造を認識するようなものが選択的に増えているわけです。だからウイルスに感染したA系統の細胞は認識しますが、同じウイルスに感染していてもB系統の細胞は認識できません。 MHCの構造が異なるので、上に同じウイルス抗原ペプチドが載っていても全体の構造は違ってしまうからです(同じステーキの一切れを載せても、イギリス風の磁器のお皿とソースのこびりついた鉄板では全体の見栄えは全く違います)。しかし勿論、実験に使ったA系統のマウス由来のTリンパ球の中には、B系統のマウスの細胞を非自己と認識するものもたくさん含まれている筈です。それらの細胞は、ウイルスに感染していようといまいとB系統の細胞を認識したとたんに増殖を始めます。問題は、それらのアロ反応性の細胞が十分に増殖し、細胞傷害効果を示すには数日がかかると言うことです。試験管内の細胞傷害試験が数時間で終了することに注意して下さい。そこにトリックがある訳です!

症例(第3日に呈示)の解説

 2歳の男児。生後すぐに鎖肛の手術を受けている。血液型A型。黄疸を主訴に市立総合病院の小児科を受診し、ウイルス性肝炎と診断されて入院。安静により肝機能が回復したので2週間後に退院した。退院から2週間後、全身にうちみのような出血斑が出現し、再び上記市立病院を受診。「肝炎後再生不良性貧血」と診断され大学病院に紹介された。末梢血、骨髄を採取され、検査の結果骨髄移植を行うこととなる。11歳年上の姉の検査を行ったところ、MHCが調べた限り完全に一致し、混合リンパ球反応も陰性であったので、患児に免疫抑制剤による前処置を行った後、この姉(血液型O型)をドナーとする移植が実施された。 骨髄移植後2週間で一過性に血清中に抗A型抗体が出現し、3週間で末梢血赤血球の血液型は完全にO型に変わった。また、同時期の骨髄細胞の染色体検査で、核型は46XXと判定され、骨髄の有核細胞数も順調に増加した。ところが、移植1ヶ月後頃から皮膚に蕁麻疹様の発疹が出現し、ほぼ同時に下痢が始まった。下痢は次第に激しくなり、血清蛋白質も低値となって行った。移植から3ヶ月になると末梢血白血球数が低下し始め、やがて発熱と痙攣が起こった。

設問例(こんなことを考えて欲しかった)

1)ABO式血液型はどのようにして決まるのですか?血液型抗原とはどのような物質でしょう?(これは、第2週の講義でお話ししました。)

2)血液型A型の人は、今まで一度も輸血や臓器移植を受けたことがなくても抗B型抗体を、B型の人は抗A型抗体を持っています。O型の人は抗Aと抗Bの両方の自然抗体を持っており、AB型の人には抗A抗体も抗B抗体もありません。免疫されたこともないのにこのような自然抗体を持っているのは何故ですか?(これは、教科書には殆ど記載されていないと思います。ヒトの血液型糖鎖と同じ構造は腸内細菌の細胞壁糖鎖にも存在します。腸内細菌の糖鎖に対する免疫反応により自然抗体が作られるわけですが、自己細胞に発現する糖鎖に対しては寛容が成立しているため抗体は出来ません。つまり、本質はA型の人が抗B抗体を持つと言うことではなく、「A型の人は抗A抗体を持たない」と言うところにある訳です。講義でもお話ししましたし、「わかる!独説免疫学」にも書いてあります。)

3)MHCの遺伝子型と表現型はどのようにして決定されますか?

4)ヒトのMHC遺伝子産物にはどの様なものがあり、それらの機能は何ですか?

5)混合リンパ球反応とはどのような検査法ですか?この反応の有無によって何が判るのでしょう?

学習のポイント:

 移植片対宿主病(GvH病)の症例です。拒絶反応は抑えられ、移植した骨髄は順調に生着していました。そのことは末梢血赤血球がドナーの血液型に入れ替わったこと、骨髄の染色体検査で核型が XXになったことでも判ります。皮疹と蛋白漏出性の下痢はGvH病の典型的な所見です。この例で何故GvH病が起こったのかを考えて下さい。
 GvH病はレシピエントが免疫抑制状態にないと起こりません。また、ドナー細胞の中に成熟Tリンパ球が含まれていることも必要です。この症例でGvH病の発生を防ぐことは出来なかったのでしょうか?また、ドナー側のTリンパ球はレシピエントのどの様な抗原を認識したのでしょう?一つの可能性として考えられるのはMHC以外の所謂マイナー抗原に対する反応です。混合リンパ球反応はMHC抗原(特に class II)の不一致は鋭敏に検出しますが(反応するTリンパ球の割合が極めて高い)、マイナー抗原の不一致を数日の培養で検出するのは不可能です。ドナーとレシピエントで血液型が異なりますから、血液型関連の酵素蛋白が抗原となった可能性もありますし、男児と女児ですので、H-Y抗原などのY染色体に遺伝子のある蛋白質が認識されたのかも知れません。MHCが完全に一致していてこれに載るペプチドが異なると言う細胞は、ウイルス感染細胞と同様Tリンパ球の格好の標的です。

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