免疫学実習
 酵素免疫定量(ELISA)法による未知蛋白の定量

1.はじめに
 今回の実習では免疫反応を用いて蛋白質を定量する方法を学ぼう。一般に医学検査材料となる体液や組織には非常に多くの種類の蛋白質やペプチドが含まれている。臨床検査の場では、数え切れないほど多くの蛋白質やペプチドが、しかもそれぞれ異なる濃度で含まれた試料の中の、ある特定の蛋白質のみを定量する必要がしばしば生じる。それがアルブミンのように大量に存在する蛋白質であれば、例えば電気泳動を行ってバンドの太さを比較するだけで良い場合もあるが、他の蛋白質に比べて微量しか存在しない蛋白質やペプチドを相手にする場合は、特異性の高さ(目的の物質を狭雑する他の蛋白質からどれだけ正確に区別できるか)と定量性の良さ(どれだけ微量まで正確に量れるか)が同時に求められる。このような目的に合致する検査法として抗体の特異性を用いた方法が開発された。すなわち、目的の蛋白質或いはペプチドのみと反応し、狭雑する他の蛋白質とは反応しない抗体が出来れば、それによって先ず「特異性」が確保出来るし、抗原抗体反応は比較的定量的に起こる(IgGの場合1分子の抗体に最大限で2分子の抗原しか結合しない)ので、抗体の量がわかっていれば抗原の量を求めるのはそれ程困難ではない。
 このような「免疫化学的測定法」には、ゲル内沈降反応(Ouchterlony法、免疫電気泳動法、single radial immunodiffusion法など)、免疫比濁法、そして今回実習を行う固相免疫測定法(solid-phase immunoassay)等がある。固相免疫測定法で最も初期に実用化されたものの一つは放射免疫測定法(radioimmunoassay:RIA)であって、これはプラスチックのチューブ(固相)に結合した抗原にラジオアイソトープで標識した抗体を加え、結合した抗体の量をアイソトープの放射能で測定する方法である。この方法の開発者の一人Rosalyn Yalowは、RIAを駆使して多数のペプチドホルモンを同定した他の二人の研究者とともに1977年のノーベル医学生理学賞を受賞した。
 RIAはラジオアイソトープを利用するため、検出感度は高いが利用できる施設が限られ(勿論学生実習は困難!)、試薬と検出器を含めて費用もかなり高価になる欠点があった。そこでアイソトープを酵素に置き換え、抗体に結合した酵素の反応で抗原を定量しようと開発されたのが「酵素免疫定量法」(Enzyme-linked immunosorbent assay:ELISA)である。この方法は安価で簡便であるため、現在ホルモンや微量蛋白質、或いは感染性微生物抗原の検出と定量に極めて広範に用いられている。

2.原理
 プラスチックの表面などの固相に、目的とする蛋白質の含まれた溶液を接触させ、溶液中の蛋白質を吸着させる。その後液相を除いて固相に吸着した蛋白質だけを残し、ここに目的とする蛋白質のみに特異的に反応する抗体の液を加える。最初に加える抗原の量と後から加えた抗体の量が適切な範囲にあれば、固相に吸着している抗原の量に応じて結合する抗体の量が変化する。用いる抗体に酵素標識をしておけば、結合した抗体の量に比例して酵素もたくさん存在することになり、酵素反応が 強く起こる。酵素反応によって発色する化学物質を検出に用いれば、色の濃さ(吸光度)を測定することにより結合した抗体の量がわかり、ひいては元々存在した抗原蛋白質の量もわかる。
 ELISAには直接吸着法とサンドイッチ法の2種類がある。直接吸着法では目的とする抗原を含む溶液を直接固相(プラスチックチューブやマイクロプレートの well)に接触させ、固相表面に非特異的に吸着させる(実際には蛋白質の持つ電荷や疎水性相互作用で、物理化学的に吸着する)。次いで、後から加える抗体が直接固相に吸着してしまわないよう、固相表面を無関係な蛋白質で覆う(ブロッキング)。ここで目的の蛋白質に特異的な抗体を加え、抗原に結合しなかった抗体を洗い流して、残った抗体を酵素反応により定量する。この方法は簡便であるが、最初に固相に加えた溶液に目的の抗原以外の蛋白質が多量にあり、それらが強い吸着力を持っていると、溶液中の目的蛋白質は殆ど吸着出来なくなってしまう。つまり条件によっては検出感度が著しく低くなるし、検出出来る筈の抗原が検出出来ないこともある(固相への吸着の段階が感度を左右する)。
 これに対しサンドイッチ法では、先ず固相に目的の蛋白質に特異的な抗体を結合させておく。固相表面をブロックした後目的物質を含む溶液を加えると、溶液中の抗原が「抗原抗体反応により」固相に結合する。余計な蛋白質や固相に結合しなかった抗原を洗い流した後標識した抗体を加え、固相に結合していた目的物質を定量する。この場合、最初に抗原を捉える(capture)抗体と、後から結合量を量る抗体とは同じ抗原分子上の異なる部位に結合しなければいけない。すなわち、目的の抗原上に複数の抗体結合部位があるか、用いる2種類の抗体が同一分子上の異なる抗原決定基を認識していないといけない。また、capture に用いる抗体の量が少ないと、後から検出に用いる抗体の量が幾ら多くても最初に捉えられた量以上の抗原は検出出来ない。従って、サンドイッチ法は感度は高いが、定量的に検出するためには工夫が必要な方法である。

3.準備

 1)各グループのテーブルに用意してあるもの

capture 抗体結合済みの96穴マイクロプレート
検体希釈用96穴マイクロプレート
精製マウス IgG   (1  mg/ml) 500  micro l
精製マウス IgM (10  mg/ml) 500  micro l
濃度未知の検体(マウス免疫グロブリン) 1  ml
希釈用バッファー(10%ウシ胎仔血清添加リン酸緩衝生理食塩水) 10 ml
標識二次抗体(ペルオキシダーゼ標識抗マウス免疫グロブリン抗体)  8 ml
発色基質液(2,2'-azino-bis[3-ethylbenzothiazoline-6-sulfonate] (ABTS)) 10 ml
洗浄用容器
反応停止液 (0.01%アジ化ナトリウム液) 10 ml
容量可変式マイクロピペット (200 micro lまで吸引可能。決して200 micro l以上にダイアルを回さないこと)とチップ一箱
ゴム球付き駒込ピペット
キムワイプ
マジックペン

2) 教卓前(或いは入り口脇)に用意してあるもの

過酸化水素水
洗浄バッファー(Tween20添加リン酸緩衝生理食塩水 )
ELISAリーダー
37℃孵卵器

4. 手順

 一次(capture)抗体結合済みの96穴マイクロプレートの作製 (予め実施済み)

1) 96穴マイクロプレートを用意しておく。一次(capture)抗体としてウサギ抗マウス IgGあるいは抗マウス IgM抗体を 0.1M炭酸水素ナトリウム液にて希釈したものを 96穴プレートの1穴当たり 50 micro lずつ分注する。
 今回の実験では96穴プレートの第 1行目から第 4行目まではウサギ抗マウスIgG抗 体が結合しており、マウスIgGの検出と定量ができるようになっている。同様にして第 5行目から第 8行目まではマウス IgMの検出、定量用である。 
2) 37℃で3時間反応させる(capture 用抗体の固相への吸着)。
3) プレートをリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄する。
4) ブロッキング用バッファー(10%ウシ胎仔血清添加リン酸緩衝生理食塩水)を1穴当たり 250 micro lずつ分注する。
5) 37℃で 1時間反応させる。
6) プレートをリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄した後、リン酸緩衝生理食塩水 を充分に 切って乾燥させる。

溶液中の抗原(マウス免疫グロブリン)の固相表面への結合、その検出と定量 (実習はここから行なう)

1) 検体希釈用96穴マイクロプレートの第 1行目と第 8行目の第 2列から第12列までの穴に、希釈用バッファーを 170 micro lずつ容量可変式マイクロピペットを用いて分注する。同じマイクロピペットを用いて第 1行目の第 1列の穴に精製マウスIgGを340 micro l (170 micro l を2回)入れ、この液のうち 170 micro lを第 1行目第 2列の穴に移し、そのままマイクロピペットでチップ内に液を数回出し入れして混和する(泡立てないように注意!)。次にチップを交換して、第 1行目第 2列の液を正確に 170 micro l取り出して第 1行目の第 3列の穴に移し、同じように混和・希釈する。以下、同様にして毎回チップを交換しながら第 1行目第11列まで段階希釈を続ける。これにより、第 1行目には精製マウス IgGの2倍希釈系列が出来ることになる。最後の第12列目には第11列からの液は入れず、希釈液のみにしておく。さらに第 1行目と同様に第 8行目も精製マウス IgMの2倍希釈系列を作製する。これらをコントロール抗体とする。

2) 検体希釈用96穴マイクロプレートの第 3行目の第 2列から第 5列までの穴に希釈用バッファーを 315 micro l(157.5 micro lを2回)ずつ容量可変式マイクロピペットを用いて分注する。マイクロピペットを用いて第 3行目の第 1列の穴に測定目的の抗体濃度未知の検体を原液のまま 350 micro l(175 micro lを2回)入れ、この液のうち 35 micro lを第 3行目第 2列の穴に移し、そのままマイクロピペットでチップ内に液を数回出し入れして混和する。次にチップを交換してから第 3行目第 2列の液を正確に 35 micro l取り出して第 3行目の第 3列の穴に移し、同じように混和・希釈する。以下、同様にして第 3行目第 5列まで段階希釈を続ける。これにより、第 3行目は未知検体の10倍希釈系列が出来ることになる。

 3) capture 抗体結合済み96穴マイクロプレートの第 1行目と第 2行目の穴に精製マウスIgGの2倍希釈系列液の同一列の穴からマイクロピペットで 75 micro lずつをとって分注する。この際に最も希釈倍数の高い(濃度の低い)液(すなわち第12列目)から分注していくとチップを最後まで換えずにすむ。同様に第 7行目と第 8行目の穴に精製マウス IgMの2倍希釈系列液の同一列の穴から 75 micro lずつをとって分注する。最後に第 3行目、第 4行目、第 5行目および第 6行目の穴には 未知検体の10倍希釈系列の同一列の穴から 75 micro lをとって分注する(同一検体について2穴の測定を行うことになる)。

 4) 37℃で 1時間反応させる(実習室にある37℃孵卵器に入れる)。

 5) ペーパータオルを敷いた流しの中にプレートからコントロール抗体液と未知検体液を一気に振り捨て、直ちにプレート全体を洗浄バッファーが入った容器に入れて各穴に洗浄バッファーを満たす。これを一気に振り捨て、再び洗浄バッファーを満たす操作(洗浄)を4回繰り返す。最後にプレート全体を各穴を下向きにしてキムワイプにたたきつけるようにして洗浄液を充分に除く。

 6) 標識二次抗体をマイクロピペットで 1 穴 当たり 100 micro lずつ分注する。

 7) 37℃で1時間反応させる(実習室にある37℃孵卵器に入れる)。

 8) 5)と同様に洗浄バッファーで 各穴を4回洗浄する。

 9) 発色基質溶液 10 ml当たり 10 micro lの過酸化水素水をマイクロピペットで加える。全体を駒込ピペットで良く混和した後、その溶液 を 1穴当たり 100 micro lずつプレートに分注する(第1行目から順番に分注していく)。

10)室温で30分間反応させ発色させた後、停止液を 1 穴 当たり 50 micro lずつ加え、反応を停止させる( 9)の場合と同様に第1行目から順番に分注していく。こうすることにより全ての穴の反応時間を同じにできる)。

11)ELISAリーダーで、405 nmの吸光度を 測定する。96穴プレートの第 1行目から第 4行目まではマウス IgG、第 5行目から第 8行目まではマウス IgMの検出、定量用である。第 1行目、第 2行目、第 7行目と第 8行目からはコントロール抗体の濃度と吸光度との関係を知ることができ、第 3行目から第 6行目は未知検体の吸光度より、その IgG及び IgMの濃度を知ることができる。

12)コントロールのマウス IgGとマウス IgMそれぞれについて、希釈倍数の等しい 2穴の吸光度の平均値と希釈倍率との関係を示す標準曲線を平均希釈倍数を横軸、吸光度を縦軸にとって描け。この標準曲線と段階希釈した未知検体の吸光度より、検体中の IgG及び IgMの濃度を決定せよ。

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