免疫学実習

マウス脾細胞の分離と、Flow cytometory法による
リンパ球サブセットの計測

1. マウス脾細胞の分離と生細胞数の算出 (水曜日・4時限目)

準備:
 各グループに以下の実験器具と試薬が配布されている。

マウス解剖用 鋏(大)、鋏(小)、ピンセット(大)、ピンセット(小)
解剖台(コルク板または発泡スチロール)、固定用ピン(または注射針)
プラスチックシャーレ
プラスチック試験管(15ml)4本、
駒込ピペット(5ml)2本、
培養用ショートピペット(10ml)5本、
ピペット用ゴム球(大・小)、
ナイロンメッシュ(2枚)、
注射針付き 5ml プラスチック注射器、
マイクロピペッター(25 micro l)、
マイクロピペッター用チップ、
エッペンドルフチューブ、
血球計算盤とそのカバーガラス、
顕微鏡
0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)入り phosphate-buffered balanced salt solution (PBBS )
赤血球除去用塩化アンモニウム溶液(Tris-buffered ammonium chloride: ACTB
0.1% トリパンブルー溶液

 実験開始に先立って、10ml のショートピペットにゴム球を付け、先ずガラスシャーレに 9ml の0.1% BSA 入り PBBS を注いでおく。

1) マウスの保持
 マウスは、尾の先端から 1/3 くらいの所を右手の親指と人差し指でしっかりとつまんで持ち上げる。尾を持って持ち上げている限り、マウスは暴れたり噛みついたりする心配は全くない。マウスを尾でしっかり持ったまま、ケージの蓋にそっと下ろして行くと、指がケージの網目に届いた途端にマウスが前に進もうとするため、尾が引っ張られた状態になる。ここで右手で尾を後ろに引っ張り続けた状態でマウスの背後から左手を近づけ、親指の付け根が背中に着くようにして、首のすぐ後ろを親指の腹と人差し指で、また背中の皮膚を拇指球と残りの3本の指でしっかりとつまんで固定する。噛みつかれることを恐れておずおずと手を近づけると却って危ない。マウスは恐怖心を抱いたヒトの気配に敏感なので、振り返って噛みついてくる。親指の付け根の膨らみ(拇指球)全体をマウスの背中にそっと押しつけるようにして、自信を持って愛情を加えるように背中から首にかけての皮膚全体をつまむと、マウスは安心して持ち上げられ、鳴き声も出さない。首だけ持とうとしてはいけない。

2) 頸椎脱臼 (cervical dislocation) による安楽死
 ケージの蓋の上でマウスの首をしっかりと蓋に押さえつけるように固定したまま、右手で持った尾を素早く斜め上に向かって引っ張り上げ、一度強く引いて頸椎を脱臼させ、延髄切断によって安楽死させる。頸椎が脱臼した時手応えを感じ、マウスは一瞬にして絶命する筈である。ぐずぐずと手間取っているとマウスに苦しい思いをさせ、安楽死にならない。マウスをしっかりと保定して安心させ、恐怖を感じる隙を全く与えずに一撃必殺で延髄を切断しなければいけない。

1', 2') 代替方法
 以上のマウス保持と頸椎脱臼による安楽死にどうしても自信の持てないグループに対しては、申し出によってエーテル麻酔による安楽死を行わせる。

3) 解剖と脾臓の摘出
 マウスを(コルク製)固定台に載せ、四肢をピンでしっかりと固定する。腹部中央の皮膚をピンセット(大)で持ち上げ、大きいハサミで横方向に小さい切れ込みを入れる。更に、大きいハサミの鈍側を下にして皮膚の切り口に差し込み、これを左右に 1cm 位ずつ広げる。切開部上下の皮膚を両手でつまみ、それぞれ頭側・尾側の方向に強く引っ張り大きく展開する。この時、皮下組織と腹膜の間が綺麗に剥がれて腹膜が完全に露出するが、腹膜そのものは全く傷ついていない筈である。次に露出した腹膜の中央部を小さいピンセットでつまみ上げ、小さいハサミで横方向に切れ込みを入れる。更に、腹膜中を走行している大きな血管を切断しないように注意しながら、中央部から左右に大きく切開する。
 腹腔内臓器をピンセットで左方向(マウスの体の右側)にどけると、左季肋部に暗赤色で細長い脾臓が見える。脾臓は肝臓(腹側にあり大きな三葉に分かれている)より背側下方で、胃の裏側に接するようにあり、薄い腹膜で膵臓(白色)に繋がっている。これをピンセット(小)を用いて丁寧に周辺臓器より離して持ち上げ、ハサミ(小)で血管を含む腹膜と膵臓を切断し、脾臓のみを摘出する。正しく脾臓が取り出せたかどうか、教官に確認して貰うこと。

 あらかじめシャーレの中に 0.1% BSA 添加 PBBS 9ml を入れたものを用意してあるので、摘出した脾臓を乾かさないよう、ただちにその中に浸す。

4) 脾細胞浮遊液の作成
 注射針付きの 5ml プラスチック注射器を2本用意し、針カバーを利用して2本とも中程で針を直角に折り曲げおく。左手に持った注射器に付いた注射針の湾曲部でシャーレ中の脾臓の中ほどを軽く押さえ、右手に持ったもう一つの注射器の針の先端部を用いて脾臓の端に 2〜3mm の小さい切れ込みを入れる。右手に持った注射器の針の湾曲部を用いて、切れ込み部の近くから脾臓の内容物を丁寧に少しずつしごき出す。完全に内容物が除去されると、透明の被膜だけが残る。ある程度まで脾臓内容物をしごき出したら、同様にして反対側にも切れ込みを入れ、被膜だけになるまで同じように脾臓内容物をしごき出す。完全に内容物のなくなった脾臓被膜はシャーレから取り出して捨てる。
 ゴム球(小)付きの駒込ピッペットを用い、絶対に泡立てないように注意しながら、脾細胞浮遊液に大きな固まりがなくなるまでゆっくりとピペッティング(吸い込んだり吐き出したり)を繰り返す(結合組織があるためいくらかの粗大な固まりは残る)。

5) 結合組織片の除去
 脾細胞浮遊液を全て駒込ピペットで吸い取り、軽く折り畳んで中央を凹ませた状態で遠心管の口に載せたナイロンメッシュを通しながら、15ml の遠心管に移す。脾細胞浮遊液を吸い取ったシャーレに、10ml のショートピペットを用いて更に 0.1% BSA 添加 PBBS を 5ml 加え(細胞の着いた駒込ピペットを直接 PBBS に入れるな!)、シャーレに脾細胞が残らないよう駒込ピペットで丁寧に洗い流し、全量を駒込ピペットで吸い取って再びナイロンメッシュを通しながら遠心チューブに移す。これで遠心管中の脾細胞浮遊液は合計約 14ml になった筈である。

6) 赤血球の除去
 脾細胞浮遊液を 270 ×g (約 1,200 回転)で 10分間遠心して細胞を遠心管の底に集め(「ペレットにする」と言う)、上清を流しのアスピレータで吸引して除去する。遠心機のバランスには十分注意すること!新しいショートピペット(PBBS を量ったショートピペットと混ぜるな!)で、予め室温に保って置いた赤血球除去用トリス緩衝液(ACTB)9ml を加える。駒込ピペットで軽くピペッティングしてペレットをほぐし、細胞を完全に浮遊させて、室温で5分間(正確に!)反応させる。

7) 反応の停止と洗浄
 PBBS 用のショートピペットで 0.1% BSA 添加 PBBS を 5ml加え、駒込ピペットで緩やかにピペッティングして反応を停止させ(全量14ml)、270 g で10分間遠心、上清を吸引除去する。
 溶血が完全に起こり、ペレットがごく淡い褐色を帯びた白色になっていることを確認する(それまでは赤褐色だった!)。0.1% BSA 添加 PBBS をショートピペットで 10ml 加えて、駒込ピペットで細胞を丁寧に浮遊させ(ペレットが完全にほぐれて固まりがないことを確かめる)、270 ×g 10分間の遠心を行った後上清を吸引すると言う操作(洗浄)を2回繰り返し、ACTB を細胞から除く。

8) 細胞浮遊液の希釈
 2回の洗浄後、細胞を0.1% BSA 添加 PBBS 10ml に浮遊させ、再度メッシュを通して別の遠心管(2本目)に移す。予め3本目の遠心管にショートピペットで 9ml の PBBS を用意しておき、2本目の遠心管の細胞浮遊液から駒込ピペットで 1ml を移す。この時、駒込ピペットの先端の 1ml は正確でない可能性がある(先端が欠けていたら 1ml より少なくなる)ので、中間の目盛で正確に量る(例えば、3ml 吸い込んで 2ml 残す)。また、2本目の遠心管に作った細胞浮遊液中の脾細胞が重力で沈んで濃度勾配を作ってしまわないよう、ピペッティングから 1ml の移注までを素早く行う。
 2本目の遠心管の細胞浮遊液を取った駒込ピペットの内面には高密度の細胞液が付着したままになってる。これをそのまま用いて3本目の遠心管で10倍希釈液を作ろうとしても正確な希釈は出来ない(例えば、駒込ピペットの内面に残った液量が 0.2ml あれば、実際には 1.2ml を移注したことになり、10.2/1.2=8.5 倍希釈にしかならない!)。そこで、最初の駒込ピペットは3本目の遠心管に 1ml の細胞浮遊液を入れるところで使用を終え、新しい駒込ピペットで3本目の遠心管内の細胞浮遊液を均一に混ぜる。

9) 生細胞数の算定
 チップを着けたマイクロピペットで3本目の遠心管の脾細胞浮遊液(10倍に希釈されている)から25μl を取り、エッペンドルフチューブに移す。別のチップを着けたマイクロピペットでトリパンブルー溶液を 25μl 取り、このチップのままで全体を丁寧にピペッティングして撹拌する。攪拌後すぐに次の操作に移らないと、死細胞だけでなく生細胞も少しずつ色素に染まってしまう。
 血球計算板にカバーグラスを載せ、計算盤とカバーグラスの隙間に、マイクロピペットでトリパンブルーと混ぜた細胞浮遊液を静かに入れる(毛細管現象で吸い込まれて行く)。過剰の液を入れてカバーグラスが浮き上がってしまったり、細胞浮遊液が目盛のある面の周囲の溝に漏れ出したら失敗である。
 計算盤を顕微鏡に載せ、コンデンサーの絞りを絞って目盛が見えるようにする。1mm 四方の正方形の中に含まれる細胞数を数えるが、青く染まっているのは死んだ細胞、透明に見えるのが生きた細胞である。1mm 四方中の生細胞数と死細胞数の両方を数えよ。

10) 細胞浮遊液の濃度調整
 上で計算した細胞密度を元に、脾細胞浮遊液の濃度を 1.0 106 個/ml になるよう調整せよ。新しいプラスチック遠心管に 0.1% BSA 添加 PBBS を取り、これに最初の細胞浮遊系を加えて希釈する。最終的に 1.0 106 個/ml の浮遊液が 10ml 出来るようにするには、どのように薄めたらよいかを考えよ。

参考
 1) phosphate-buffered balanced salt solution (PBBS)の組成:

NaCl       7.20 g
KCl       0.320 g
Na2HPO4   1.15 g
KH2PO4    0.20 g
CaCl2      0.140 g
MgCl2・6H2O  0.20 g
MgSO4・7H2O 0.20 g
グルコース   1.00 g
フェノールレッド  0.010 g
精製水で総量を 1リットルとする。

 生体の細胞外液とよく似た組成で、十分量の2価イオンが含まれており、生きた細胞に対する傷害性が極めて少ない平衡塩類溶液。一般のリン酸緩衝生理食塩水(phosphate-buffered saline: PBS)はその中に生きた細胞を長く保っておくのには適さない。また、同じ平衡塩類溶液の一つであるハンクス液(Hanks' balanced salt solution)は pH の安定性に乏しい。PBBS は作製がやや面倒だが細胞傷害性が極めて少なく pH の安定性も良い、理想的な平衡塩類溶液である。

2) Tris-buffered ammonium chloride (ACTB)
 0.017M のトリス緩衝液(pH = 7.65)に最終濃度 0.75% の塩化アンモニウムを加えたもの。この低浸透圧条件で赤血球の細胞膜は破れ、溶血が起こるが、膜の構造がよりしっかりしたリンパ球や単球は破壊されない。しかし、この溶液に長時間曝せばリンパ球や単球の細胞膜も傷害されることは言うまでもない。従って、温度と時間の条件は厳密に守らなければいけない。なお、この溶血操作はマウスの赤血球に対しては有効だがヒトの赤血球はこの方法ではなかなか溶血しない。このため、ヒトの赤血球と白血球を分離するに
は比重遠心の方法が用いられる。

2. 蛍光抗体染色と Flow cytometerによるリンパ球サブセットの染め分けと陽性細胞割合の算出 (木曜日・午後)

目的:
 リンパ節・脾臓などの免疫組織には、それぞれ異なる機能を持った複数種類の免疫細胞が存在する。それらにはリンパ球、形質細胞(plasma cells)、マクロファージ、樹状細胞、顆粒白血球(好中球・好酸球・好塩基球)などがあり、リンパ球は更に抗体産生能を持つBリンパ球と、細胞性免疫反応に関与するTリンパ球に分けられる。Tリンパ球の中には、 MHC class I 分子の上に提示された抗原ペプチドを認識する CD8 陽性T細胞(主に細胞傷害性T細胞に相当する)と、MHC class II 分子上に提示された抗原ペプチドを認識する CD4 陽性T細胞(主にヘルパーT細胞に相当する)とがあることも、講義で詳しく述べた通りである。形質細胞やマクロファージ、それに顆粒白血球は、それらの特徴的な形態によって無染色の標本や通常の組織標本上でもある程度区別可能であるが、リンパ球は全く特徴のない球形の細胞で(昔は「小円形細胞」と呼ばれた)、形を見ただけではその機能は全く予測不可能である。そこで、形の上では区別不可能だがお互いに全く異なる機能を持つ細胞群を明確に区別するために、「細胞表面マーカー」が利用されるようになった。各細胞群の機能に直結した分子を、その分子に特異的に反応する抗体によって検出出来れば理想的であるが、実際には、最初は先ず特定の細胞集団をその他の細胞集団から区別する抗体が出来、後にその抗体の反応する分子の機能が判ったと言う例も多い。例えば、マウスでは以前 Thy-1 と呼ばれる抗原がTリンパ球のマーカーとして使われていたが、この分子はTリンパ球と(何故か)神経細胞に強く発現しており、脂質のアンカーによって細胞表面に結合している。しかし、その機能は未だに不明であり、ヒトに於ける対応分子も明確ではない(胸腺のTリンパ球前駆細胞に発現する CDw90 分子?)。
 今回の実習では、Bリンパ球と CD4 陽性Tリンパ球を、その機能に直結した細胞表面分子、即ち免疫グロブリンと CD4 分子そのものを用いて染め分け、その数を数えてみよう。

原理:
 Bリンパ球表面に発現している抗原レセプターである膜型の免疫グロブリン(IgM)を、ヤギを免疫して作られた抗マウス IgM 抗体で、またヘルパーTリンパ球の細胞表面に発現している CD4分子を、これと特異的に反応するモノクローナル抗体(anti-L3T4)で検出する。特異的に結合した抗体の検出法には、蛍光を利用するもの(蛍光抗体法・FACS 法)、酵素反応を利用するもの、ラジオアイソトープを利用するものなどがある。以前の実習(酵素抗体法によるウイルス感染細胞の検出と定量)では酵素反応を利用して抗体の結合した細胞に色を付けたが、今回は蛍光色素で標識した抗体を用い、Flow cytometerで陽性細胞数と各細胞の蛍光強度を測定してみよう。この方法は、例えば HIV感染者の免疫機能検査で末梢血の CD4陽性細胞数を調べる場合に用いられているものと同じである。

フローサイトメーターとは:
 フローサイトメーターは、細胞の均一な浮遊液より、浮遊物(細胞)の光学特性を測定する機器である。細胞は液流に乗ってレーザー光の焦点を通過するが、その通過時に毎秒 500-4,000個の細胞より前方散乱光、側方散乱光、及び3つの異なる波長の蛍光の計5種類の光学特性を、個々の細胞について同時に測定し、それら細胞のの大きさ、内部構造、及び細胞膜・細胞質・核内に存在する種々の抗原或いは核酸量等の、生物学的特性を迅速、かつ正確に測定することができる。
 散乱光とは、レーザーが細胞に当たって周囲に散乱した光である。前方散乱光 (Foward Scatter: FSC)はレーザー光軸に対して前方で検出し、散乱光強度は細胞の表面積に比例する。すなわち、相対的に FSCの値が大きければ細胞も大きく、FSCの値が小さければ細胞も小さいと考えられる。側方散乱光 (Side Scatter: SSC) はレーザー光軸に対して90度(直角)の位置で検出し、細胞の顆粒や細胞内構造の状態に散乱光強度が比例する。すなわち、相対的に SSCの値が大きければ細胞の内部構造は複雑であり、SSCの値が小さければ細胞の内部構造は単純であると考えられる。


図 1. FSCと SSCによるドットプロット

 図1にFSCをX軸に、SSCをY軸にとったドットプロットの例を示す。各細胞は図の中の一つのドット(点)で示されており、それらの位置は、FSCとSSCの相対値によって決められる。比較的サイズが小さく内部構造が単純なリンパ球は左下部に、サイズが大きく内部に顆粒を持つ顆粒球は右上部に、またサイズは大きいが内部構造が単純な単球はリンパ球と顆粒球の間に、それぞれお互いに分離した集団を作って表示される。今回の実習では、この画面でリンパ球のデータだけを抽出し解析するように設定する。

 一方、蛍光とは、細胞に標識されている蛍光色素が照射されたレーザー光によって励起され、エネルギーを放出する際生じた光を言う。今回使用するフローサイトメーター(製品名: Becton & Dickinson FACSCalibur)は、488nmの単一波長レーザー光を照射する。細胞はそれ自体も弱い蛍光を発する性質を有しているが(自家蛍光)、実際に細胞の持つ分子を蛍光を用いて特異的に検出しようとする場合は、あらかじめ何らかの形で細胞或いはその持つ分子に蛍光色素を結合させる必要がある。例えば、FITC (Fluorescein isothiocyanate) は、488nmの励起光を吸収し、主に 530nmの蛍光(緑色)を発する。抗体にあらかじめ FITCを標識しておけば、細胞の表面に存在する抗原量に応じて結合する抗体量に差が生じ、その結果 FITCの蛍光強度が異なってくるため、その細胞の表面に存在する抗原量を推定することができる。今回用る FACSCaliburは、異なる蛍光波長域を検出できる3本の蛍光検出器を搭載しており、異なった波長の光を発する複数の蛍光色素を用意しておけば、最大3つの異なる抗原を同時に検出することが可能である。FITC以外の蛍光色素として PE (Phycoerythrin) は主に 585nmの蛍光(オレンジ色)を発し、PerCPや Cy5-PEは主に 680nmの蛍光(赤色)を発する。これらの蛍光色素が種々の抗体と組み合わされ、細胞の二重染色や三重染色に用いられる。

 ヒストグラム:
 フローサイトメーターを用いた蛍光測定において、各パラメーターの光信号の強度を X軸に、細胞数を Y軸にとったグラフをヒストグラムと言う(図2)。



図2.蛍光強度を横軸に取ったヒストグラム

 この例はヘルパーT細胞の細胞表面機能分子(MHC class II 分子レセプター)である CD4に対する抗体に蛍光色素の FITCを結合させ、細胞集団中の CD4陽性細胞数を調べている。調べた全細胞のおよそ 17%が CD4陽性細胞であるとわかる。この場合、総計で1万個以上の細胞を計数しているが、肉眼では勿論このように多数の細胞を計測することは不可能である。

 二種類の蛍光色素の蛍光強度をX軸とY軸にとったドットプロット:
 二重染色や三重染色をした場合には、それぞれの蛍光強度を X或いは Y軸におき、個々の細胞が二次元グラフ上の一つ一つの点に対応するような表示方法を用いて解析する。



図 3. 二重染色によるドットプロット解析

 図 3に示す例では、細胞集団を FITCで標識した抗CD8 抗体と PEで標識した抗CD4抗体で同時に染め、CD4陽性細胞数と CD8陽性細胞数を求めている。左下の区画に見える集団は CD4, CD8共に陰性の細胞群で、ここでは全体の約 55%を占める。CD4陽性細胞がおよそ 8%、CD8陽性細胞がおよそ 5%であることもわかる。


準備:

 各グループに以下の実験器具と試薬が配布されている。

1. 1.で作成したマウス脾細胞液(8×107個 /mlに調整済み)、25 μl/tube ×2本
2. FITC標識抗マウス CD4抗体( 40 ng/ml に調整すみ)、25 μl
3. PE標識抗マウス CD8抗体( 40 ng/ml に調整すみ)、25 μl
4. FITC 標識抗マウス IgM抗体、25 μl
5. 0.1%ウシ血清アルブミン (BSA)入りリン酸緩衝平衡塩類溶液 (PBBS)
6. マイクロピペッター、マイクロピペッター用チップ、駒込ピペット、マーカーペン、パスツールピペット 2本
遠心機(窓側及び廊下側の実験台上に、各グループ共用で使うよう用意してある)

操作:
 1) 配布されている脾細胞浮遊液の入ったエッペンドルフチューブの蓋にそれぞれA、Bと記入する。
 2) Aと記入したチューブにチップを付けたマイクロピペットで抗 CD4抗体液を 25 μl添加し、蓋を閉めてからチューブの底を人差し指で強くなでるようにして抗体液と細胞浮遊液を撹拌混合する(泡を立てるな!)。次に、同じチューブに抗 CD8抗体液を 25 l添加し、同様にして抗体液と細胞浮遊液を撹拌混合する。その後、チューブは氷上に置いて抗体を細胞に結合させる。
 3) Bと記入したチューブにマイクロピペットで抗マウス IgM抗体液を 25 μl添加し、同様にして抗体液と細胞浮遊液を撹拌する。チューブを氷上に置く。
 4) チューブを氷上においてから30分が経過したら、それぞれのチューブに駒込ピペットで 0.1 % BSA添加 PBBSを 1 mlずつ加え、マイクロ遠心機にて 3,000rpm、3.5分遠心して、上清を吸引除去する。
 5) 細胞ペレットのみを残して上清を吸引した各チューブに、先端が細胞に触れないように注意しながら駒込ピペットで 0.1 % BSA添加 PBBSを 1 mlずつ加え、パスツールピペットを使って Aのチューブの細胞に液を吹きかけるようにして丁寧に浮遊させる。次にパスツールピペットを新しいものに換えて、Bのチューブの細胞を浮遊させる。マイクロ遠心機にて 3,000rpm、3.5分遠心し、上清を吸引除去する。
 6) 細胞ペレットのみを残して上清を吸引した各チューブに、先端が細胞に触れないように注意しながら駒込ピペットで 0.1 % BSA添加 PBBSを 1 mlずつ加える。チューブを氷上に置き、氷の容器ごと研究棟 II(新棟)10階の部屋番号10-Aに行く。

(ここからの操作は教員が行う。学生は教員の操作をよく見て解説を聞くこと。)
 7) 細胞の浮遊液を目の粗いフィルターに通過させ細胞の凝集塊などの大きなかたまりを除き、フローサイトメーターによって 2,0000個の細胞を解析する。チューブAは FITCと PEとの2重染色なのでドットプロットで解析し、CD4陽性細胞と CD8陽性細胞の割合を調べる。チューブ Bは単染色なのでヒストグラムで解析し、細胞表面 IgM陽性細胞の割合を調べる。

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