テュートリアル 「生体防御コース」 第3週はこちらです。
 1999年12月 3日

免疫学総論 (平成11年11月29日〜12月 4日)

目次

コース担当教官 コース全体の教育目標 今週の時間割 今週のコース概要
行動目標 レポートと症例発表会 今週の参考書 
今週の症例について
ホームページへのリンク

1) コース担当講座 教員名簿・連絡先

コ−ス主任: 宮澤 正顕 (免疫学講座、教授)

コ−ス担当者:

東野 英明 (薬理学講座 教授、内線 3166)
宮澤 正顕 (免疫学講座 教授、内線 3265)
義江  修 (細菌学講座 教授、内線 3256)

学習指導教員:

梶本 禮義 (薬理学講座 助教授、内線 3167)
古川 忠明 (免疫学講座 助教授、内線 3266)
西村 芳卓 (薬理学講座 講師、内線 3167)
稗島 州雄 (細菌学講座 講師、内線 3257)
松村 治雄 (免疫学講座 講師、内線 3267)
泉山 朋政 (免疫学講座 非常勤講師)
渡辺 雅保 (細菌学講座 助手、内線 3257)
中山 隆志 (細菌学講座 助手、内線 3257)
藤澤 隆一 (細菌学講座 助手、内線 3257)
伊澤 大  (細菌学講座 助手、内線 3257)
丹羽 淳子 (免疫学講座 助手、内線 3267)
田端 信忠 (免疫学講座 助手、内線 3267)
阿部 弘之 (免疫学講座 助手、内線 3267)

2) コ−ス全体の教育目標 :
  このコースは、これまでのテュートリアルコースとは異なり、薬理学・細菌学・免疫学の三講座が、これ以降のコース学習の鍵となる基本事項を、「総論」として教授することを目的とします。従って、講義と実習に比重が置かれ、グループ学習のための討論時間は短縮されています。また、細菌学講座の担当する第2週は、テュートリアルそのものを実施しません。
 このような教育方針に議論の余地があることは明らかで、実際来年度には全く別のコースが計画されていますが、薬理学の総論や微生物学・免疫学の知識が、これ以降のコース学習に必須であり、この時点での短期集中学習がテュートリアル教育全体をよりスムースにするであろうこともまた事実です。実際、これら三講座の担当する講義は、これ以降のコースの中でも繰り返されます。従って、このコースで学生に求められるのは、基礎薬理学・微生物学・免疫学の基本的な概念をしっかりと理解し、必要な用語・技法に関する知識を身につけることです。第一週と第3週で行われる症例解析も、むしろそのための橋頭堡として用意されています。

3) 今週の時間割表
 第3週 (11月29日〜12月4日)

日付

11月29日(月)

11月30日(火) 12月 1日(水) 12月 2日(木) 12月 3日(金) 12月 4日(土)

1時限目

8:30〜9:30:
テュートリアル
9:30〜10:30:
自習

人間論/
英語表現

8:30〜9:30:
テュートリアル
9:30〜10:30:
自習

講義 6 8:30〜9:30:
テュートリアル
9:30〜10:30:
自習
症例発表会
2時限目 講義 1 英語表現/
人間論
講義 4 講義 7 講義 8 試験
3時限目 講義 2 実習 講義 5 実習 講義 9
4時限目 講義 3 実習 実習 実習 講義10

講義内容:

講義 1  11月29日(第2時限)  免疫学総論・血清学 (宮澤)
講義 2  11月29日(第3時限)  抗体分子の構造と機能 (宮澤)
講義 3  11月29日(第4時限)  免疫グロブリン遺伝子 (宮澤)
講義 4  12月 1日(第2時限)  MHCと抗原提示機構 (宮澤)
講義 5  12月 1日(第3時限)  補体と食細胞・炎症反応 (松村)
講義 6  12月 2日(第1時限)  リンパ球の分化と抗原認識レパトアの形成 (宮澤)
講義 7  12月 2日(第2時限)  サイトカインとリンパ球のエフェクター機能 (宮澤)
講義 8  12月 3日(第2時限)  MHCと疾患感受性遺伝子 (宮澤)
講義 9  12月 3日(第3時限)  アレルギー反応 (宮澤)
講義10  12月 3日(第4時限)  自己免疫病 (泉山<免疫学教室非常勤講師・東北労災病院膠原病リウマチ科部長>

4) 今週のコ−ス概要

この週の一般目標:

1)免疫系を構成する細胞と分子の機能を「実体として」理解し、免疫反応に異常が生じた場合どのような病気が起こるかを考える。

2)Tリンパ球の抗原認識機構とMHC分子の役割を理解し、免疫系は自己の「遺伝的同一性」を守ろうとする結果、移植片にも反応出来るようになっていることに気づく。

 この週は免疫系の構成分子・細胞とそれらの基本機能を学ぶことから出発し、Tリンパ球による抗原認識の機構とその生物学的意味に至ります。週の前半は比較的古典的な血清学から出発しますが、すぐに免疫グロブリンの分子構造や遺伝子再構成の話が入ってきます。ここで皆さんはタンパク質分子の立体構造に目を向け、分子間の認識が立体的な相互作用に基づいて行われることを実感を持って理解します。これが、MHC分子の機能とT細胞による抗原認識の正しい理解にも必要です。
 週の後半は「外来異物に対する免疫反応」と言う古典的視点を離れ、免疫系が実は自己の身体を構成する全ての細胞の遺伝的同一性を監視していること、だからこそウイルス感染細胞の排除も移植片に対する拒絶反応も起こることを理解します。このような考え方が実体として正しいと言うことが分子のレベルで証明され、全ての免疫学者に受け容れられるようになったのはこの10年以内のことです。しかし一方で、この新しい考え方が明確に証明されたお陰で、それまで謎が多かったMHC拘束などの現象が、まるでT細胞による抗原認識の仕組みを目で見ているかの如く簡単に説明できるようになったのです。
 Tリンパ球による抗原認識の仕組みを理解しておくことは、MHCと疾患の関連やアレルギー・自己免疫病の発症メカニズム、そして移植免疫の仕組みとその制御法を知る上でどうしても必要です。また、皆さんに個別の事実の記憶でなく、論理的な思考による現象の説明を訓練して頂く点でも、この週の学習内容は役に立つと信じます。

5) 行動目標

 以下の行動目標は、テュートリアルと講義・実習の全体を通じて達成されるものです。テュートリアルの時間内のみで、これら行動目標の全てをカバーしようとする必要はありません。

1. 免疫グロブリン分子の基本構造が描け、抗原結合部位、Fc 部分、軽鎖と重鎖が区別出来る。
 
所謂 Y字型のモデルが描け、軽鎖と重鎖が区別出来るだけでは不十分です。免疫グロブリン分子のドメイン構造を理解するのが目標です。抗原結合部位が二つあること、Fab部分と Fc部分の機能が異なることとともに、「可変部」と「定常部」の概念を学んで下さい。

2. 免疫グロブリンのクラス・サブクラスの名前、血清中及び分泌液中の濃度(どのクラスが高いか)、胎盤移行性の違い、及びそれぞれの構造上の特徴が言える。
 
免疫グロブリン各クラスの基本構造については、立体構造を含め講義で詳しく述べます。昔の教科書には書かれていませんが、IgGと IgMの各ドメインの相互関係、即ち、IgGのヒンジ部分が IgM の CH2(Cμ2)ドメインに、Cγ2ドメインが Cμ3 ドメインに対応する事に注意して下さい。IgMのドメイン数がひとつ余計だと言う理解では間違いです。このことは機能的にも極めて重要です(補体活性化に関与するドメインはどこですか?)。胎盤移行性の問題は、免疫不全症を理解する上でも極めて大切です(母体からの移行抗体が消失する時期と易感染性が生じる時期がほぼ一致するタイプの免疫不全症があります)。

3. 補体の機能を理解し、血清補体値が変動するのはどのような場合かを具体例を挙げて言える。
 
補体については、昔の教科書に書かれていたような活性化経路の問題よりも、何故自己細胞を傷害しないかという制御因子の機能の方が重要です。また、免疫複合体が形成されると補体が消費されることを理解して下さい。

4. Bリンパ球とTリンパ球がどこで作られるか、細胞表面レセプターの違いは何かが言える。
 
Bリンパ球とTリンパ球は何れも骨髄で造血幹細胞からその前駆細胞が作られるが、Bリンパ球は骨髄で分化してリンパ節に移動すること、Tリンパ球は胸腺で分化してリンパ節に移動することを理解させます。Bリンパ球は、それが抗体産生細胞になったとき分泌する免疫グロブリン分子と同一の抗原結合部構造を持った「膜型免疫グロブリン」分子を、抗原レセプターとして細胞表面に発現しています。Tリンパ球は「T細胞抗原レセプター」を発現します。

5. 免疫グロブリン遺伝子の再構成の概念を聞いたことがあり、クラススイッチの仕組みを簡単な図を描いて説明出来る。
 
免疫グロブリン遺伝子の再構成とクラススイッチの分子機構に関しては、講義で詳しく説明します。Bリンパ球分化の各段階と免疫グロブリン遺伝子再構成の進行とがどのように相関しているかに注意を向けて下さい。

6. Tリンパ球は分化の過程で正の選択と負の選択を受け、その結果「自己MHCプラス自己構成タンパク由来ペプチド」の構造をごく緩やかに認識するようなレセプターを獲得する。このしくみを簡単な図を描いて説明出来る
 MHC分子は、細胞内で合成され、或いは外部から細胞内に取り込まれた蛋白質の構造サンプルを細胞表面に提示する「お皿分子」であり、Tリンパ球はこのお皿とその上に載せられたペプチドの構造を全体として認識することを理解します。Tリンパ球が胸腺で分化する際、自分のお皿に載ったペプチドを認識するようなレセプターを持った細胞だけが増殖出来(正の選択)、その中で自己の正常構成成分由来のペプチドを認識するレセプターを持った細胞は排除される(負の選択)ことにより、最終的に末梢Tリンパ球の「レパトア」が形成されます。

7. 外来の抗原に対して強い免疫反応を起こせるか否かはMHC遺伝子の型によって遺伝的に決まる。この理由を簡単に説明できる。
 
外来抗原由来のペプチドがMHC分子に結合出来なかったりしにくい場合、その「外来抗原ペプチド+MHC」の構造が「自己抗原ペプチド+MHC」の構造と区別できない場合などがあり得るわけです。

8. 免疫抑制剤の作用機序と副作用を説明出来る。
 
免疫抑制剤には、炎症・免疫反応を広範に抑制する糖質コルチコイド、細胞増殖を抑制することにより免疫細胞の反応を阻害する代謝拮抗薬やアルキル化剤、リンパ球に比較的特異的に作用する免疫抑制性抗生物質などがあります。免疫抑制性抗生物質(シクロスポリンやFK-506)の作用機序は、Tリンパ球活性化機構を理解する上で重要です。

6) レポートと症例発表会
 今週の症例に関し、金曜日2時限目の自習時間内に「症例の全体像(グループとしての解釈)」と「この例から学んだこと」を盛り込んだ短いレポ−トを、各グループで一つ作製して下さい。レポ−トはA4版1〜2枚とし、グル−プごとに、金曜日の午後6時迄に免疫学講座教授室へ提出して下さい。このレポ−トは症例発表会におけるディスカッションと補足説明に活用します。
 土曜日の1時限目には、予め選ばれた代表グル−プがその週の症例の学習内容を発表します。発表会は学生がOHPシートを使って行います。発表に使うOHPシートは、原稿を持参すれば免疫学講座で作成します。
 今週の症例発表は第5班と第11班にやって頂きます。 


7)今週の参考書

 このコースでは特に教科書は指定しません。講義に当たって毎回詳細なプリントを配布し、講義内容がテュートリアルの症例や実習のテーマと密な連携を保つよう配慮しているので、必ず講義に出席しその内容を理解するよう努めて下さい。参考書としては以下に挙げるものがありますが、この分野の進歩は早く、古い教科書には現在では間違であることが明らかな理論や実験結果が記載されているので、この点でも講義で最新の知識に触れることが重要です。

 1)Charles A. Janeway, Jr. and Paul Travers: Immunobiology, The Immune System in Health and Disease, 3rd Edition.  Current Biology Ltd., London. (この教科書は大変優れており、最新の知識を一貫したスタイルでわかりやすく記載しています。但し、Fcレセプターに関する記述など、最近の進歩が速い部分では理解が間違っているところもあるので、講義を注意して聞いて下さい 。)

 2)笹月健彦 監訳: 免疫生物学 免疫系の正常と病理 第3版、南江堂 (上記の訳書ですが、翻訳によって却って分かり難くなっている部分もあります。)

 3)大西義久・京極方久・内藤眞・名倉宏・綿貫勤 編: エッセンシャル病理学 第4版、医歯薬出版 (病理学の教科書ですが、その炎症・免疫・感染症・アレルギーに関する部分は生体防御学のエッセンスを上手く盛り込んでいます。実は宮澤がかなりの部分を書いています。来年春には全面改訂した第5版が出ます。)

 4)山本一彦 編: 自己免疫疾患 (New メディカルサイエンスシリーズ)、羊土社 (これ自体が、最新の免疫学の教科書として使える内容を持っています。テュートリアル室に備えられています 。)

 5)平野俊夫 編: 免疫の仕組みと疾患(イラスト医学&サイエンスシリーズ)、羊土社 (最新の研究成果をヴィジュアルに纏めてあり、特に病気との関係が理解し易くなっています。)

 6)Marc Da ron: Fc receptor biology.  Annu. Rev. Immunol. 15:203-234, 1997.(Fcレセプターに関する最新の知識はこれを参考にして下さい。)

 7)山村雄一、岸本忠三、R. A. Good 編: 岩波講座・免疫科学9 免疫と病気 I、岩波書店 (やや旧い本ですが、先天性免疫不全症候群の基本的な考え方や分類・病態はこれで分かります。発症メカニズムについては記述が旧いので、最新の知識は講義から得てください。)

 7)東野英明・宮澤正顕 他編著: 医学生のための薬理学、南山堂 (薬理学の教科書ですが、「免疫抑制薬・抗アレルギー薬・抗リウマチ薬」の章には、免疫学の基本知識と免疫応答の薬物による制御のしくみを、最新の知識に基づいて纏めてあります。)

8)今週の症例解説

症例: 25歳の女性。18歳頃から、海水浴後に顔面の頬部と鼻背を中心に赤い皮疹が出現するようになった。1週間前頃から37〜38℃の微熱があり、近くの開業医で「風邪」として治療を受けたが、改善ないため、総合病院の「リウマチ膠原病科」を紹介された。診察時に両側下腿の浮腫と、顔面に上記のような皮疹を認めた。
 入院後の血清学的検査では、抗核抗体 1280倍、血清補体価 10.2 CH50、血液一般検査では白血球数 800/ l、血小板数 70,000/ l、総蛋白 5.4 g/dl、アルブミン 2.2 g/dlで、尿検査では、蛋白 3+、尿中赤血球・硝子円柱多数を認めた。
 腎生検を行ったところ、ある膠原病と診断され、両親には「放置すると生命に危険が及ぶため、強力な免疫抑制療法を行う」と説明した。プレドニゾロン 60 mg/day、サイクロフォスファマイド 500mg(4週毎)の投与が開始されたが、治療開始3日後より次第に不穏状態となり、「大好きだった祖母が亡くなったので、帰らなければならない」「明日友だちとハイキングに行くの」などと現実離れしたことを言うようになった。そこで、プレドニゾロンを 40mg/dayに減量、その後、約4ヶ月をかけて 20mg/dayまで除々に減量し、症状の再燃を認めなかったので、退院させた。
 以後外来で治療を続けたが、外来治療開始1年後、胸部X線検査で右中肺野に空洞を伴う 3 cm 程の円形陰影を認め、血液検査を行ったところ、 β-D-グルカン 56pg/mlと高値であった。

解析のポイント

 典型的な SLEの症例ですが、SLEの複雑な病態や、いまだ不明である発症メカニズムについて学習して貰う積もりではありません。皆さんに考えて貰いたいのは、以下のような問題です。

 1) 皮診や浮腫は炎症反応の結果です。この場合、外から見える皮膚だけでなく、内臓、即ち腎臓にも炎症が起こっていること、この病気は全身の(小)血管を中心に持続的な炎症を起こす病気なのだと気付かせたいわけです。(臓器特異的自己免疫疾患全身性自己免疫疾患の違いと言うことになりますが、免疫複合体が血流に乗って全身を駆け巡っていると気がつけば理解は簡単です。勿論、免疫複合体と炎症反応を結びつける、補体や Fcレセプター機能に関する学習が必要です。)

 2) 抗核抗体、血清補体価と言う言葉が出て来ます。「抗体」とは何か、「補体」とは何かと考えるきっかけです。また、1280倍という数値は、一体どうやって出したものなのでしょう。実習では ELISAによるタンパク質の定量を行いました。この時、免疫学的測定法に於ける「段階希釈」の意味が分かったはずです。

 3) 白血球数、血小板数が減少しているのは何故でしょうか?自己抗体は一種類とは限りません。むしろ、複数の自己抗体が産生されるのが SLEの特徴です。「抗リン脂質抗体」と言う言葉もあります。

 4) 免疫抑制剤とは?その作用機序は?副作用は?(特に、患者が若い女性であることにも留意して下さい。)

 5) 胸部 X-線写真で発見された空洞を伴う陰影の正体は?「結核!」と短絡的に考えるかも知れません。でも中肺野で、直径 3cmです。変だなと思わせて下さい。β-D-グルカン測定の意味は?そして、「日和見感染症」の概念に到達します。

9) ホームページへのリンク

近畿大学医学部ホームページ
免疫学教室ホームページ
実習マニュアル
ELISA法による未知蛋白質の定量
脾細胞の分離と蛍光セルソーター(FACS)による表面マーカーの解析

便利なリンク集
免疫学教室へのメール: mailto:immunol@med.kindai.ac.jp

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