免疫学 Q&A

 「わかる!独説免疫学」を読まれた学生や社会人の方々から、教室宛に質問のメールを頂きました。そこで、このページを利用し、「一問一答」の形で「独説免疫学」の補遺とさせて頂くことにします。

これまでの質問項目 (クリックするとジャンプします)

抗原プロセシング スーパー抗原 接着分子 免疫学の雑誌 受動免疫 虫歯ワクチン?
アレルギーの分類 MHC class Iと class IIの関係 IgAの運命 スーパー抗原と病態
免疫応答能の発達 受動免疫に対する反応 マクロファージの異物認識
接触皮膚炎は何型アレルギー? 免疫組織化学 免疫学的寛容

Q 1. 「独説免疫学」を読ませて頂いた後、それまでよくわからなかったMHC分子のあたりは、お皿がぽんと頭に浮かびます。「抗原のプロセシング」というのも、あ、お皿にのっけるためのお料理なんだ!と思いました。(あっているでしょうか・・・)

A 1. そう考えて頂いて結構ですよ。抗原提示細胞(樹状細胞やマクロファージ、Bリンパ球)のMHC分子上にペプチドを載せるため、タンパク質を分解する過程が「プロセシング」です。プロセシングと抗原提示は別の細胞で行われることもあります(例えばマクロファージがプロセシングした抗原を樹状細胞が提示するなど)。


Q 2.
 「スーパー抗原」という言葉に興味を持ちました。私の持っている免疫学の教科書にはのっていません。これもQ&Aに加えていただけると嬉しいです。

A 2. 「スーパー抗原」というのは、「お皿分子」MHCの外側にくっついて、MHCとT細胞レセプターを橋架けしてしまう分子のことです。Tリンパ球の認識する普通の抗原分子は、細胞内でプロセシング(そうそう、「お料理」ですよ)を受けて短いペプチドになり、MHC分子表面の「お皿の窪み」に載ります。それをT細胞レセプターがお皿の上から眺めて、お皿の模様とお料理の両方が気に入った(その MHCとペプチドに「特異的な」)T細胞だけが反応するわけです。ところが、スーパー抗原は細胞内に取り込まれることなく、ペプチドにもならずに、
MHC分子の「お皿」の外側の縁の部分とT細胞レセプターとを無理矢理結びつけてしまいます。載っているお料理が何であるかに関係なく、兎に角「お皿なら何でも良い」状態を作ってしまう訳です。従って、抗原特異性に関係なく、たくさんのTリンパ球が一度に活性化されます。
 ある種の細菌やウイルスはこの「スーパー抗原」分子を作ります。それによって免疫反応を攪乱し、上手く免疫系の細胞内に潜り込んで生き延びたり、免疫反応による排除を免れたり、時には宿主を死に追いやったりします。



Q 3.
 「接着分子」という言葉で立ち止まってしまいました。CD4とかCD8というのがそうかな?と思いました。また、細胞内というのはわかるんですが、細胞外っていうのは具体的に体のどんな位置のことをいうんだろう・・・?と思いました。こういうことになると免疫以前のことがわからないことを自覚してしまいます。

A 3. まず「接着分子」について。「独説免疫学」の最初の方に、
ウニや海綿の個体をすりつぶして「単一細胞レベルまで」バラバラにし、それらの細胞をゆっくり振とう(旋回)しながら培養すると再び集まって個体が出来る話が書いてありますね。この時、旋回培養中にぶつかり合った細胞同士をくっつける「糊」の役目をしている細胞表面の分子が「接着分子」です。
 と言っても、どんな細胞同士でも勝手にくっつき合って良いわけではありません。そのことは「独説免疫学」でも触れていますが、例えば私たちの身体がお母さんの子宮の中で出来る過程で、血管の壁を作っている細胞と皮膚の表面を覆っている細胞とがくっつくようになっていたら、血管が皮膚に開いて血液が失われてしまうでしょう?血管の壁を作っている細胞は血管の壁を作る細胞同士でくっついて、「閉じた管」を形成しなければいけないのです。従って、皮膚の表面を覆う細胞はそれ同士でくっつき、筋肉の細胞はそれ同士でくっつき、血管の壁を作る細胞はそれ同士でくっつくと言う、「細胞接着の特異性」が存在することになります(専門的な言い方をすると、高等多細胞生物では「細胞接着の過程は組織特異的である」と言うことです)。これは、お互いをくっつける細胞表面分子の形が細胞の種類毎に違っていて、別の種類の細胞同士は勝手にくっつけないことを意味します。
 
免疫学の世界で細胞接着分子が重要な働きをするのは、生まれたばかりの免疫系の細胞を仕事場(免疫臓器)に送り込むときと、身体中を血液の流れに乗って駆け巡っている免疫細胞を外敵が侵入した局所(戦いの場)に集めるときです。

 まず「生まれたばかりの免疫系細胞の免疫臓器への配属」です。ヒトやハツカネズミの場合、Bリンパ球は骨髄で作られ、Tリンパ球は骨髄由来の前駆細胞から胸腺で作られます。これらは兵隊さんを養成する士官学校とか軍学校になぞらえることが出来ますね。学校を卒業した兵隊さんはそれぞれの部隊に配属されます。これがリンパ節脾臓で、ここに体内に侵入してきた異物の情報が(リンパ液や血液の流れに乗って)集まるのです。でも、骨髄や胸腺で生まれたリンパ球は血管というパイプ、或いは流れている細胞の側から見れば真っ暗なトンネルの中を運ばれるわけですから、血管の壁の内側に何かの住所表示があって、「ここがXXリンパ節分隊駐屯地です」と書いてなければ配属先がわかりませんよね。このように、特別の臓器の中を通る血管の壁の内側に出ている住所表示の役割をする分子をアドレシン(addressin)と言います。「住所」の addressに引っかけた名前の付いた、血管の内側の細胞(内皮細胞)に出ている接着分子です(免疫学者も洒落っ気があるでしょう?)。このアドレシンにぴったりとくっついて自分の配属先を見つける、リンパ球側の対応分子がセレクチン(selectin)ですが、これも「選択する」と言う selectと、糖鎖にくっつく性質を持ったレクチン lectinと言う分子の仲間であることを上手く表現した絶妙な名前です。
 さて、体内に異物が侵入した場合を考えてみましょう。例えば鼻風邪のウイルスが吸気に乗って鼻腔の粘膜に取りついたとします。ウイルスに感染した上皮細胞の一部が壊れて、その断片がリンパ液の流れに乗って扁桃(へんとう)や首の付け根のリンパ節に運ばれてきます。このウイルスの抗原情報(ペプチド)をマクロファージや樹状細胞がMHC分子に載せて、近くにいるリンパ球に提示します。提示されたウイルス抗原ペプチドと特異的に反応するレセプターを持ったリンパ球が近くにいれば、この細胞が増殖して仲間を増やし(クローン選択)、活性化されます。武装した兵士の一団が出来たわけです。これらの武装した兵団はリンパ管を経て静脈に流れ込み、血流に従って全身を巡ります(リンパ球の再循環)。そうです、兵隊さん達を送り出すのは再び血管という真っ暗なトンネルなのです。
トンネルの中を流れているリンパ球は、一体どうやって戦いの現場を知るのでしょうか?そうです、ここで再び接着分子が活躍するのです(上図)。
 ウイルスや細菌などの異物が侵入した局所(戦いの場)では、そこで細胞が壊されたり、細胞が細菌の代謝産物や毒素に曝されたりします。そうすると、細胞は「助けてくれー」と悲鳴を上げます。悲鳴に当たるのが細胞膜の断片から出来るプロスタグランジン類や、組織の肥満細胞の出すヒスタミンなどです。また、血液の中にある補体と言うタンパク質も、細菌の細胞膜に触れて活性化します。これらの分子が出てくると、これに触れた近くの血管の内皮細胞にセレクチンの発現が増えます。つまり
「ここが戦いの場ですよ!」と言う信号がトンネルの内側に出る訳です。この内皮細胞セレクチンが、リンパ球の表面にある糖鎖を捉え、血液中を流れていたリンパ球が血管の内側の壁に沿ってころころと回転します(ローリング)。一方、傷害された組織の細胞からはリンパ球を呼び寄せるケモカインと言う物質も作られますし、補体の分解産物やヒスタミンに触れた内皮細胞自体がケモカインを作ります。ローリングしながらこのケモカインに触れたリンパ球は活性化され(トリガリング)、細胞表面に別の接着分子であるインテグリンを出すようになります。このインテグリンが、戦いの場にある内皮細胞表面にたくさん出ているICAMと呼ばれる分子に結合し、リンパ球は足場を得て血管の壁にくっつくのです(静止)。壁にくっついたリンパ球は内皮細胞の間を通って血管の外に遊出し、戦いの現場に結集します。
 接着分子とは何かわかって頂けましたか?
 ご質問の CD4やCD8は、機能としては接着分子に似ていますが、普通は接着分子としては分類しません。それから、「細胞外」とは何かですが、動物の身体は細胞だけが隙間なくぎっしりと詰まって出来ている訳ではありません。それだったらお餅やキャンディーのように堅くって身動きが取れないものになってしまうでしょう?細胞同士の間には隙間があって、そこが線維状の分子や液体で満たされているのです。身体の中細胞の外と言う空間があるわけで、そこを「細胞外」と言うのです。



Q 4. 教科書の他に、免疫学関係の論文のようなものを日本語で読みたいと思います。でも、近くにはそういった専門的な雑誌が手に入るところがないので、タイトルさえわかれば取り寄せてみたいと思ってます。もしそういった雑誌がありましたら、教えてはいただけないでしょうか?

A 4. 日本語の雑誌と言うことになると、国際医書出版から出ている Medical Immunology
メジカルビュー社の Immunology Frontierなどが主なものです。以前は Medical Immunologyが非常に面白い雑誌だったのですが、最近の同誌はそれ程良い雑誌という訳ではなくなってしまいました。何れも、日本語で書かれているとはいえかなり専門的です。ある程度大きな専門書店、或いは大学や製薬会社の図書館(室)などに行けば実物を見られると思います。免疫学専門誌と言うことでないなら、「実験医学」(羊土社)と「細胞工学」(秀潤社)がお勧めです。私たちの教室でもこの二つの雑誌を定期購読しています。基礎医学全般の最新の話題と、外国の研究室に留学中の若手研究者の現地レポート、最新の実験法の解説、偉い先生方の「哲学」が書かれたコーナーなどがあり、面白く読めて、ためになります。他に「ビジュアル系(!?)」の Mebioと言う雑誌(メジカルビュー社)もありますので、機会があったら試しに「見て」下さい。


Q 5. 
免疫学の本の中に「受動免疫」と「能動免疫」と言う言葉ががあるのですが、受動免疫について詳しく知りたいのです。受動免疫について掲載されている本がほしいのですが何かあるのでしょうか。また受動免疫について詳しく研究されている方はいらっしゃるのでしょうか。その他、受動免疫という用語の他に似た用語があるのでしょうか。もし宜しければ教えて下さい。

A 5. 「能動免疫」とは、外から異物が侵入してきたときに、侵入を受けた個体自身の免疫系が起こす免疫反応、或いはそれを誘導する処置のことです。ふつう免疫反応といえば、この「能動免疫」の事ですよね。感染症に対してワクチンが使われるのは、予めその病原体に対して「ワクチン」を用いて「能動免疫」を作っておき、実際に病原体が侵入して来たときには、「二度目の反応はより速くより強い」という「免疫学的記憶」の原理を利用して、これを一気に体内から排除してしまおうという戦略です。
 それに対して、「受動免疫」とは、他の個体で起こった免疫反応によって作られた「エフェクター機構」を、それ自身は同じ異物にまだ出会ったことのない個体に「移入」する事を言います。一種の「移植」のようなものですね。ここで、「エフェクター機構」とは、異物の侵入を受けた個体が免疫反応の結果として作る抗体(免疫グロブリン)や活性化したTリンパ球を指します。

 こう書くと「受動免疫」なんて日常生活と無関係な事だと思われるでしょう。でも、実際は結構頻繁に使われているのです。小児科疾患や一部の内科疾患で、ウイルス感染が原因であるものに対し、「ヒト免疫グロブリン製剤」が投与されることがあります。これは、献血などで集められた血液から、抗体を集めて、ある処理をしたうえで注射できるような製剤にしたものです。大人の血液の中には、これまでに感染したいろいろなウイルスや細菌に対する抗体が流れています。あるいは、ワクチン接種を受けて出来た抗体も含まれているでしょう。小児は、まだ出会ったことのあるウイルスや細菌の数も少ないし、免疫反応も未発達なので、大人が持っているような抗体を十分には持っていないのです。そこで、ある種のウイルス疾患では、ヒト免疫グロブリン製剤を投与することで、発症を遅らせたり、症状を軽くする効果が期待できる場合があります。
 また、「血清療法」も受動免疫です。よく、毒蛇に咬まれたとき、その毒素に対する抗血清を投与するという話があるでしょう。あれは、その毒素に対する抗体をウマやヒツジで作っておいて、いざというときヒトに注射することで、体内に入った毒素を「中和」して無力化してしまうのです。
 実は、この血清療法は免疫学の夜明けの頃、劇的な効果を収めて多くの人命を救った歴史があるのです。今では信じられないことですが、今世紀前半までは、多くの子供や若者が、細菌やウイルスの感染症で死んでいました。ジフテリアなどはその最たる例です。ジフテリア菌の毒素に対する抗体を動物で作って、これを患児に投与することにより、多くの子供達の命を救ったのがベーリングと北里柴三郎で、ベーリングはその業績でノーベル賞を貰っています。岩波文庫に、ポール・ド・クライフ著「微生物の狩人」があります。その下巻に、ベーリングがジフテリア抗毒素による血清療法を開発する過程の物語が書かれていますので読んでみて下さい。
 ただ、異種動物の抗体をヒトに注射すれば、当然それに対する抗体が出来ます。もっと正確に言うと、同じヒト同士でも、個体毎に抗体分子の構造は微妙に違うので、「免疫グロブリン製剤」を何度も投与していると、それに対する抗体が出来る可能性があります。異種動物の抗体を繰り返し注射されたヒトがショック症状や腎臓病を起こすことがあり、「血清病」と言います。

 抗体の移入による受動免疫は、実はあなたも経験しているのですよ。いや、大抵のヒトは、赤ちゃんのときにこれを経験しています。そうです、「初乳」です。赤ちゃんが産まれたばかりの頃にお母さんの乳腺から出てくる粘性の高い「初乳」には、沢山の免疫グロブリンが含まれています。これが赤ちゃんの口や消化管で、病原体から赤ちゃんを守る働きをします。もっと言うと、実は赤ちゃんはお腹の中にいるときから、胎盤を通してお母さんの抗体を貰っているのです。胎盤は、全てではありませんが一部の抗体を通します。ですから、お母さんがそれまでに罹った感染症の病原体に対する抗体は、胎児の血液の中にも移行しているのです。
 この「胎盤移行抗体」は、赤ちゃんが産まれてしまうともう供給されなくなります。抗体は体内でだんだん壊されていくので、赤ちゃんの血液の中にあるお母さん由来の抗体はだんだん減っていきます。一方、赤ちゃん自身の免疫系は一歳を過ぎる頃にならないと完全には働けません。そこで、生後6ヶ月頃に赤ちゃんは一番感染症に罹りやすくなるのです。

 受動免疫の中でも、Tリンパ球を移入すると言うのはかなり人工的で、主に実験的にしか使われません。ウイルス感染の動物実験などでは、免疫したマウスから全く免疫してないマウスにTリンパ球を移入(血管内に注射)して、感染抵抗性を「移す」ことが行われています(これは、ある条件では上手く行きます)。でも、ヒトに対して治療として使われることは殆ど全くありません。大体、他人のリンパ球に対しては極めて強い免疫反応が起こりますから、移入してもすぐに排除されてしまいますし(要するに拒絶反応です)、もし移入された他人のリンパ球が体内に居着くようでは(それは、受け手の免疫系が「弱って」いる場合には起こりうることですが)、今度はそのリンパ球が受け手の全身の細胞を「異物」と見なしてこれを排除しようとしてしまいます。つまり、移入したリンパ球のせいで宿主が死に至るわけで、「移植片対宿主病」として恐れられています。
 「受動免疫」のひとつの変形として考えられるのは、自分自身のリンパ球をいったん体外に出して、何らかの方法で活性化し、再び戻すと言うことですが、これは治療としてあまり期待できるものではないと考えます。末期癌の患者やエイズ患者で実験的に試みられていますが、本当に成功したという例は殆どありません。

Q6. 分泌型 IgA(sIgA)を用いた臨床的な治療法や、sIgAから作られたワクチンなどについての文献を探してもなかなかありません。sIgAを使って薬を作ると、齲蝕など口腔内のStreptococcus属が引き起こす病気を防げるのではないかと思うのですが。そういうワクチンなどへsIgAを有効活用できるのかどうか教えてください。また、sIgAについて最近の研究やおもしろい研究などがありましたら教えてください。

A6. 仰る通りで、分泌型 IgAを使って虫歯ワクチンが出来ないかと言うことは誰でも思いつきますね。この場合、適当な免疫法で能動的な IgA産生・分泌を誘導しようと言う考え方と、工業的に作った IgAをキャンディーや歯磨き粉に入れて、受動免疫の方法で移入しようと言う考え方があります。後者は、実際アメリカのある製薬会社が実用化を研究しているという話を聞いたことがあります。
 私は粘膜免疫の専門家ではないのですが、かつての同僚や友人に粘膜免疫を専門としている人たちが何人かいます。その中の一人、大阪大学微生物病研究所の清野 宏教授は日本を代表する粘膜免疫研究者と言って良いでしょう。彼が編集した「生体防御の最前線:粘膜免疫機構をめぐって」(別冊・医学の歩み、医歯薬出版)は参考になると思います。読んでみて下さい。

Q7. アレルギー反応の分類について、I〜IV型だと認識していたのですが、I〜V型に変わったのでしょうか?もし、そうなら、その内容といつから変更になったのか教えていただけたら幸いです。

A7. アレルギー反応(または過敏症反応)を I型から IV型までに分類したのは Coomsと Gellで、1970年代のことです。現在も使われている I型から IV型までの分類は、従って「Coombs分類」あるいは「Gell-Coombsの4分類」と言われることがあります。
 この4分類に「V型」を追加したのは、多分 Ivan Roittで、1980年代までは最も優れた免疫学の教科書だった "Essential Immunology"には、それが大々的に記述されています。ここで言う V型とは、「刺激型」(stimulatory type) のことで、細胞表面のレセプターに結合した抗体が、その細胞の機能を刺激・活性化すると言うタイプです。よく引き合いに出されたのが甲状腺機能亢進症(バセドウ病あるいはグレーブス病)で、この場合甲状腺上皮細胞のTSH(甲状腺刺激ホルモン)受容体と反応する自己抗体が、甲状腺ホルモン(チロキシン)の持続的な分泌を促すと考えられていました。
 唯、Roittの提唱した V型の概念は、あまり広範囲には受け入れられず(そもそも、甲状腺機能亢進症の全てが、TSHレセプターと反応する自己抗体で説明出来る訳ではないのです)、現在は多くの教科書から消えています。
 と言うわけで、決してアレルギー反応の4分類が変更になったと言うわけではありません。
 それよりも大切なのは、教科書に書かれている古典的な4分類が、そのままの形でヒトの病気の説明に適用出来るわけではなく、実際の組織傷害反応は、4分類の垣根を越えた形で起こっていると言うことです。
 例えば、III型の反応では免疫複合体により補体が活性化され、これが炎症反応を引き起こすとされていました。ところが、補体やFcレセプターを欠損する「遺伝子ノックアウトマウス」を用いた実験から、少なくとも一部の実験的 III型アレルギー反応には補体は必要でなく、炎症反応の引き金を引くのは、Fcレセプターを持った細胞(肥満細胞・血小板・マクロファージなど)であることが示されています。この点では、IgEが関与すると言う訳ではないにせよ、III型アレルギー反応の少なくとも初期相は、むしろ I型とよく似ているとも言えます。また、II型アレルギー反応についても、本当に細胞表面に結合した抗体が補体を活性化して、自己細胞を傷害することがあるのかどうか、大いに疑問と言われています。抗体依存性・細胞介在性細胞傷害反応(ADCC)も、II型アレルギー反応のメカニズムとして教科書に書かれていますが、生体内で本当にそんな反応が起こっているかどうか疑問視する人が多いのです。
 医師国家試験出題基準にも出てくる「アレルギー反応の4分類」ですが、現代免疫学の立場からは、いまだに便利な分類ではあるものの、実状に合わないものとなって来ていることも否めません。

Q8. 全身のすべての細胞は「MHC クラス I分子」を出しているとあったのですが、「クラス II」を持っている例えばマクロファ−ジは、「クラス I」と「クラス II」の両方を持っているということなのでしょうか?それとも、マクロファ−ジであっても、「クラス I」をもつものと「クラス II」をもつものに分かれるのでしょうか?また、マクロファ−ジが MHC クラス I分子とクラス II分子を両方発現しているとすると、同じマクロファ−ジに細胞傷害性T細胞とヘルパ−T細胞が同時に結合することになりはしないかと思います。同時に結合することがあるのかどうかも疑問なのですが、両方結合した場合にはどちらのT細胞の作用が優先されるのでしょうか?

 A8. マクロファージや樹状細胞、或いはBリンパ球など、MHC class II分子を発現している細胞は、同時に MHC class I分子も沢山発現しています。MHC class IIだけを発現していて MHC class Iの発現が無い細胞というのは、存在しないと思います。
 
質問の後半に対する答も Yesで、同一の抗原提示細胞に CD4陽性Tリンパ球と CD8陽性Tリンパ球が同時に結合することがあります。CD8陽性Tリンパ球が活性化するためには、T細胞抗原レセプターからシグナルが入る(非自己蛋白質由来のペプチドが載った MHC class I分子を認識する)だけでは駄目で、抗原提示細胞上の B7と呼ばれる分子(接着分子の仲間だと思ってください)を同時に認識するか、CD4陽性ヘルパーT細胞からのサイトカイン(特に IL-2, INF-γなど)の作用を受けることが必要です。この場合、ヘルパーT細胞由来のサイトカインは(生体内で実際に抗原特異的な免疫反応が起こっている現場では)ごく近くにある細胞にしか働きませんから、同一異物由来の(異なる)ペプチドを認識するCD4陽性Tリンパ球とCD8陽性Tリンパ球が、同じ抗原提示細胞の上で協力することが大切なのです(同じことはヘルパーT細胞とBリンパ球の相互作用についても言えます)。
 CD8陽性Tリンパ球の活性化にこのように複雑なしくみが必要なのは、自らの体内の細胞を殺してしまうような細胞傷害性Tリンパ球が勝手に活性化されないよう、二重の安全弁が付いていると考えれば理解出来ます。

 ところで、一旦活性化されたCD8陽性Tリンパ球、即ち細胞傷害性Tリンパ球が、MHC class I分子を発現するマクロファージやBリンパ球を攻撃することもあるのでしょうか?答は矢張り Yesです。なぜならば、マクロファージやBリンパ球にウイルスが感染することもあるからです。例えば、日本人は殆ど全員がBリンパ球をがん化させる EBウイルスと言う「ヒトがんウイルス」に感染しています。しかし、このウイルスに感染したBリンパ球の増殖によって「バーキットリンパ腫」と言う病気になるのは、抗がん剤をたくさん使って免疫抑制状態になったり、エイズを発病した人だけです。つまり、普段はこのウイルスに感染したBリンパ球を細胞傷害性Tリンパ球が排除し続けている訳です。

 HIV感染からエイズ発症に至る過程で CD4陽性Tリンパ球が減少していく理由も、HIVに感染した CD4陽性Tリンパ球上の MHC class I分子に HIV由来のペプチドが載っているのを、CD8陽性細胞傷害性Tリンパ球が認識して破壊するためであると考えられています。
 
マクロファージにしても同じことで、結核菌や HIVなど、マクロファージ内で増殖することが知られている病原体は沢山あります。と言うよりも、「貪食」と言う作用を行うマクロファージは、もともと最も病原体に曝されやすい宿命があるわけです。そのマクロファージに MHC class I分子がなかったら、病原体がマクロファージに潜んでずっと排除されないままになってしまいます。そこで、病原体を取り込んだマクロファージはまず CD4陽性Tリンパ球とCD8陽性Tリンパ球を活性化し、それ自身がウイルスなどに感染してしまった場合には、後に活性化された CD8陽性細胞傷害性Tリンパ球によって殺されることもあるという訳です。「マクロファージは死んで免疫を残す」と言うことですね。

Q9. 受動免疫の場合は、投与された抗体が消化管を通過すると思いますが、このとき抗体の活性は失われないのでしょうか。胃酸によって抗体の力価は失われると考えているのですが、母乳の例を考えるとどうも抗体は失活していないようにも思います。例えば胃酸によって結合が壊れても、腸で再び再生すると言うことはあるのでしょうか。また抗体に関して、ペプシンにさえ触れなければ胃液内でも活性は保たれるのでしょうか。

A10. まず、IgA分子の胃液の酸による変性(これは、立体構造の変化であって、分解とは異なります)ですが、実際に免疫グロブリン分子を精製してみればわかることですが、pH=2ぐらいまでであれば、あまり長時間(数時間以上)作用させるのでない限り、抗体分子の構造の変化は殆ど可逆的です。即ち、pHが中性に戻れば立体構造も元に戻って、抗原結合能が復活します。実際、抗体分子の精製過程に pH=2.5くらいの液に曝すことはよくあることです。
 次に、胃液中のペプシンによる分解ですが、免疫学の教科書を読んで頂ければわかるように、ペプシンは抗体分子を完全にバラバラにしてしまうわけではありません。元もと、ペプシンを含む蛋白分解酵素は、蛋白質分子をどんなところでも構わずに「ずたずたに」切るわけではなく、特定のアミノ酸の並びがあるところを好んで切ります。また、ポリペプチドは全体が糸のように長く伸びているわけではなく、複雑に折り畳まれて立体構造を形成しています。そのため、ペプシンで切れる可能性のあるアミノ酸配列があっても、その部分が分子の内部に深く畳み込まれて隠されていると、ペプシンが近付けず、切れないことがあります。
 抗体分子はポリペプチド鎖が何度も折り畳まれて球状のドメイン構造を形成しています。従って、分子内部に隠されずに露出しているペプシン分解部位は比較的少数しか無くて、実際にはそれが「ヒンジ」の部分に位置します。このため、抗体分子をペプシンで分解すると抗原結合 (Fab) 部分二つと Fc部分とに別れるのです。ヒンジ部分で分断されたあとも、Fab部分は抗原への結合能を保っています。実際、IgAの Fab部分はそれ以上ペプシンでは分解されないことがわかっています。

 IgAは、粘液や乳汁中に分泌される時は2量体(二つの同じ IgA分子がくっついている)になり、更に分泌の過程で(上皮細胞の poly-Ig レセプターの断片である) secretory component (SC)と結合します。SCが消化液中の酵素による IgAの分解を防止することが以前から知られていましたが、最近の研究で、SCの結合により、ペプシンに曝されても IgAが Fab部分と Fc部分に分解されなくなることが示されました。この場合、SCはペプシンで分解された Fab部分と Fc部分をつなぎ止めているのではなく、ヒンジ部分における分解そのものを抑えていることがわかっています。従って、意外にも乳汁中に分泌された(SCと結合した2量体である)分泌型 IgAは、酸による変性にも耐え、ペプシンによる分解に遭っても抗原結合能や立体構造を保っているわけです。これで、受動的に投与された IgAが、結構効果を発揮する理由がわかります。
 一方、肝細胞や消化管粘膜で消化液中に運ばれる IgAですが、上記の実験でも SCの結合した IgA二量体は小腸の内容液による分解に抵抗することが示されています。更に、実際には IgAは粘液の中に分泌され、水溶性の高い IgA分子は粘液中に留まることで消化管内腔の酸やペプシンに強く触れることを避けている訳です。

Q10. スーパー抗原の作用機構と病態との関連について教えて下さい。

A10. スーパー抗原については始めの方でも解説していますが、MHC 分子の外側、ペプチド結合溝ではなくその周囲のフレームワークを作っている部分とT細胞レセプターとを架橋させ、抗原特異性に無関係に多数のT細胞クローンを活性化させます。この場合、ありとあらゆるTリンパ球が活性化すると言うわけではなく、特定の Vβ遺伝子群を発現しているTリンパ球が纏めて活性化されることが多いのですが、それはペプチドとの結合特異性を決定している CDRの部分ではなく、その周囲のフレーム構造にスーパー抗原の結合部位があり、フレーム部分のアミノ酸配列が Vβの遺伝子群により異なっているからです。
 スーパー抗原による刺激が末梢血或いは末梢リンパ組織のT細胞に加わると、非常に沢山のTリンパ球が一度に刺激されて、多量のサイトカインが産生されます。その結果、マクロファージなどが活性化され、血管内皮細胞の接着分子発現が亢進して炎症が起こったり、Bリンパ球が多クローン性に刺激されて自己反応性抗体が作られたり、サイトカインの影響で他のTリンパ球が増殖したりすることがあります。このため、スーパー抗原による刺激が自己免疫病の原因になる場合もあると考えられています。また、スーパー抗原による刺激が長く続くと、刺激を受けて増殖し続けたリンパ球から悪性腫瘍(リンパ腫)が発生することもあります。
 細菌やウイルスなどの微生物がスーパー抗原を持つことがあるのは、これによって宿主の免疫反応を攪乱し、自分自身に対する免疫学的攻撃を避けようとしたり、スーパー抗原刺激で増えたリンパ球の中で増殖したりするためだと考えられています。また、スーパー抗原で刺激されたTリンパ球は、レセプターからの刺激の入り方が通常と異なるため、活性化されたあと急速にアポトーシスに陥って死滅することが多いのです。こうなると、末梢リンパ組織から特定の TCR遺伝子群を持ったTリンパ球集団が消えてしまうことになります。これが、微生物にとって宿主からの攻撃を避ける手段になっているとも考えられます。

Q11. 私はカリフォルニアで建築の勉強をしています。今回学校の建築計画に携わることとなり、子供達が出来るだけ自然に触れて、しかも健康に過ごせるようにと子どもの免疫力について調べています。子どもの免疫力とか抵抗力というものは何歳くらいで確立されるかをお教え下さい。

A11. カリフォルニアで建築の勉強をなさっているとは素晴らしいですね。
 さて、ご質問の件ですが、小学生くらいになれば普通の小児は成人と殆ど変わらない免疫応答の能力を備えています。従って、免疫学的な意味での抵抗力と言うことを特別に考慮する必要はないと思います。
 ヒトの免疫系の発達についてはかなり詳しく調べられていて、次のようなことが知られています

 胎児が自前の(胎児自身の)抗体を作れるようになるのは胎齢12週頃からで、16週頃には胎児血中に自らの作った IgMが、また20週頃には IgGが検出されるようになります。IgAが検出されるのはずっと後で、32週頃からです。出生時には成人の 10%程度の濃度の IgMを血中に持っていますが、これは感染などの全くない正常な新生児の場合で、胎内で感染を起こした場合には成人と同じレベル、或いはそれ以上になっていることもあります。これは逆に言うと、胎児の免疫系もちゃんと外来の異物に反応して抗体産生を行う能力があると言うことです。
 新生児の血液中には成人のレベルと殆ど変わらない濃度の IgGが存在しますが、これは母親の血中の IgGが胎盤を通じて移行したものです。勿論これらの抗体分子はだんだん分解されて無くなって行くので、生後数ヶ月から半年程度で母親からの移行抗体の効果は失われます。一方、新生児自身の免疫系が抗体を産生する能力は5歳ぐらいで成人のレベルに達するまでゆっくりと上がって行くので、生後3〜4ヶ月目に血液中の抗体の濃度が全体として低くなる時期があります。この「生理的低ガンマグロブリン血症」の時期には、乳児が感染症に罹り易くなると言われます。小学校に入学するくらいの年齢となれば、血液中の IgM, IgGの濃度は成人と殆ど変わりません。IgAについては、6歳ぐらいで成人の約半分のレベルで、12歳くらいにならないと成人の血中濃度に達しないようです。
 Tリンパ球を作る胸腺の重量は、出生の前後に急増し、思春期に最大となります。しかし、出生後は体重の増加も急速に起こるので、体重に対する胸腺重量の比率は出生時が一番大きいのです。末梢血中に占めるTリンパ球の割合は一歳頃が最大で、その後成人に向かうに従って減少します。機能的には生後3〜4ヶ月でTリンパ球の働きも完成していると考えられています。

 という訳で、正常な成長を遂げている小学生であれば、免疫系の働きに成人と較べ特に弱いところがあると考える必要はありません。強いて言えば、IgAの産生量がやや少ない分、口腔や消化管の感染症には多少罹り易いかも知れないと言う程度です。

 唯、「先天性(或いは特発性)免疫不全症候群」と言う病気はあるので、そう言う子供では感染症を起こし易く、生後半年とか2年以内に死亡することすらあり得ます。しかし、そのような病気の子供が普通に学校に来ることはないので、そのための対策を考えておくという必要はないでしょう。

Q(続き) >小学校の設計が今回の課題ですが、日本と同じく、こちらの子どもも親に大切に守られて育っており、体の弱い子どもが多くいます。昔のように外で遊んだりせず、エアコンの効いた部屋にこもっているのを見て、自然と共存できるような学校を設計しようと取り組んでいますが、どの程度の環境を与えてよいか判断が出来ず困っています。

 環境と免疫応答の関係はなかなか難しいですが、今回心配なさっているような面では集団感染の予防・通気・日照と言うようなことを考慮する必要があると思います。
 学校で起こりやすい集団感染症として、食中毒や水系感染症があります。また、水冷式の冷房装置や井戸などを介するレジオネラ感染症や、通気ダクトにおけるカビの繁殖と言った問題もあります。これらは免疫学と言うより細菌学・公衆衛生学の問題なので、それぞれの専門家と相談して下さい。換気・冷房装置のカビについては、感染症と同時にアレルギーとの関連もあります。最近増えていると言われる気管支喘息や花粉症ですが、疫学調査ではアルミサッシの普及と気管支喘息の患者数とが強く相関するとも言われます。相関関係があることと因果関係とは同じではありませんが、学校のように人間が高い密度で集まるところでは、建物の換気効率を高く保つことがとても大切だと思います。また、もし集中換気方式を使うとすれば、そのダクトが簡単に掃除できるかどうか、カビやダニの繁殖をどうやって防止するかが徹底的に検討される必要があるでしょう。
 太陽光中の紫外線には強い殺菌効果があるので、日照はとても大切です。一方でヒトや動物の皮膚に強い紫外線を当てると免疫反応が強く抑制されることも知られています。従って、生徒に直射日光が当たり続けるような設計は避けねばならないでしょう。

 ちゃんとしたお答えになっているかどうかわかりませんが、参考にして頂ければ幸いです。

Q12. 異種間において受動免疫は成り立つのでしょうか。あるいはどこまで成り立つのでしょうか。人間と家畜の間では受動免疫が成り立つような気がしますが、例えば家畜で出来た抗体はそれよりも下等な動物に対する受動免疫に使えるのでしょうか。またそのような文献はあるのでしょうか。

A12. 免疫グロブリン分子の基本構造は、ヒトとそれ以外の哺乳動物との間で極端に違っている訳ではないので、異なる種の動物の抗体を使っても体内で防御効果を発揮させることは出来ます。実際、歴史的に最初に行われた受動免疫療法であるジフテリアに対する抗血清療法がそうだったように、現在行われているヘビ毒や破傷風毒素に対する抗血清療法でも、ウマやヒツジなどで作った抗体をヒトに投与(注射)することがあります。
 勿論、移入した抗体が体内で機能を発揮するためには補体を活性化したりマクロファージの Fcレセプターに結合したりしないといけないのですが、これらの分子も多くの場合種を超えて相互作用が可能で、実際免疫学の実験では、よくマウスの抗体とモルモットやウサギの補体を反応させたり、マウスの抗体を結合させた細胞にヒトのマクロファージを反応させるという実験が行われていたのです。

 但し、種が異なると同じ免疫グロブリン分子と言ってもお互いのアミノ酸配列が違っているので、その部分を認識して強い免疫反応が生じます。ジフテリアや破傷風に対する抗血清療法としてウマの免疫グロブリンを投与されたヒトは、その血液中に「抗ウマ免疫グロブリン」ヒト抗体を持つようになります。このようなヒトに再びウマの血清が注射されると、体内で免疫複合体が形成され、腎臓に炎症が起こって尿が出なくなったり、血管炎を起こして皮膚に出血を生じたり、ひどい場合にはアナフィラキシーショックで死亡することすらあり得ます。「血清病」として怖れられた病態で、アレルギー反応の一典型でもあります。

 ご質問の「より下等な種」に関しては、どの程度まで下等かと言われるとかなり難しいこととなります。抗原抗体反応は勿論試験管内でも起こるので、例えば特定の昆虫ウイルスに対してマウスで作った抗体を(十分量)昆虫個体に注射すれば、その体内でウイルスを中和するような反応は起こるでしょう。しかし、こういうものまで「受動免疫」の範疇に含めるのかどうかは良くわかりません。

Q(続き) >ちょっと疑問なのは、異種間での(経口による)受動免疫の場合、口から入った抗体を受容側の個体が抗原と見なすこともあるのではないかと思っているのですが、そのようなことはやはりあるのでしょうか。

 経口摂取した抗原に対して免疫応答が成立するかどうかと言うのは、実は大変難しい問題なのです。基本的には、食物中の蛋白質に対して強い免疫応答が起こることは少ないと考えて良いのですが、例外もあります。
 例えば、ステーキ肉を考えてみると、私は血が滴るくらいレアのステーキが好きなのですが、その中にはウシの血液が含まれているわけで、当然「ウシ免疫グロブリン」も含有しています。しかし、牛肉をたくさん食べている人は最初から血液中に「抗ウシ免疫グロブリン抗体」を持っているから、ウシで作った抗体を血清療法に使えないと言う話は聞いたことがありません。馬肉を食べる熊本や信州の人は、破傷風毒素に対するウマ血清を使えないと言う話もありません。
 一方で、食物アレルギーの例からも明らかなように、消化管から摂取された抗原に対する強い免疫応答が起こることも確かにあるのです。最近は、経口免疫によるワクチン効果の研究も盛んに行われています。
 ひとつ鍵となっているのは、消化管の壁を裏打ちする粘膜の中に散在している「M細胞」と呼ばれる特殊な細胞でしょう。この細胞は、その表面にくっついたウイルスや細菌を殆ど分解することなく粘膜の下に運んで、そこにあるリンパ装置に引き渡す機能を持っています。普通の蛋白質は短いペプチドに分解されて粘膜の上皮細胞を通して吸収されるのですが、ウイルスや細菌は、M細胞を介して丸ごと粘膜を通り抜けてしまうというわけです。ある種の食物成分や、特別の方法で投与されたペプチドなどは、ウイルスや細菌などと紛らわしい形でこのM細胞に運ばれるのかも知れません。

 経口投与された抗原に対する免疫反応成立の有無や、その制御のしくみについてはまだわからないことだらけで、これからの研究分野といえるでしょう。

Q13. マクロファージや好中球などの自然免疫系の細胞は、どのようにして非自己を認識しているのでしょうか?どの教科書にも、オプソニン効果による貪食作用は載っているのですが、いきなり抗原を認識して貪食する機構は載っていません。教えていただければ幸いです。

A13. 好中球やマクロファージは抗体分子の Fc部分と結合する「Fcレセプター」や、補体成分と結合する「補体レセプター」を細胞表面に持っていますから、抗体で被覆された抗原や、抗体が結合した後に補体が活性化されて補体成分で覆われた抗原を効率良く取り込むことが出来ますね。これが「オプソニン効果」です。実は、細菌などの細胞表面では抗体を介さずに補体が活性化されることもあり、この場合にも補体成分で覆われた細菌に対してマクロファージなどがオプソニン効果を発揮します。

 一方、マクロファージには、その異物に特異的に反応する抗体が作られる前から体内の異物や老廃細胞を貪食する作用があって、むしろこれによって侵入した異物に対する免疫反応が開始する(従って、抗体はその後から出来てくる)訳ですよね。そうすると、最初に異物を取り込むマクロファージは、一体どうやって正常の自己細胞と異物とを見分けているのだろうと言う疑問が当然生じます。
 実はマクロファージの細胞表面には Fcレセプターや補体レセプター以外にも多くのレセプターがあって、それらを介して異物粒子や蛋白質・糖質などを結合し、取り込んでいるのです。それらレセプターの主なものには、スカベンジャーレセプター・マンノースレセプター・リポ多糖(LPS)レセプター、そして補体レセプターでもある CD11b/CD18(CR3)などが挙げられます。更に最近、異物分子のパターンを認識するToll様レセプター(Toll-like receptor: TLR)が発見され、これがマクロファージや好中球、或いは樹状細胞による異物認識に主要な役割を担うことが明らかになってきました
 スカベンジャーレセプターは、文字通り老廃分子や老化細胞、傷害を受けた細胞などを取り込む際に用いられるレセプターで、陰性電荷を帯びた多くの分子と結合します。このレセプターは、動脈硬化症の発症と関係のある酸化されたリポ蛋白質や、傷害を受けた細胞の断片、或いはアポトーシスに陥った細胞などを体内から取り除く働きに主要な役割を果たすと考えられています。また、赤血球は酸素を運ぶというその機能のために酸化的傷害を受け易い細胞ですが、酸化傷害を受けた赤血球をマクロファージが取り込む際にも、複数の種類があるスカベンジャーレセプターのあるタイプが働くものと考えられています。
 スカベンジャーレセプターはこの他にも、陰性電荷を帯びたリポ多糖を介する細菌のマクロファージへの接着と貪食に関与するというデータもあります。
 補体レセプターのひとつである CD11b/CD18(CR3)は、細胞接着分子インテグリンの仲間でもありますが、補体 C3の分解産物 iC3bを結合する部分や、ICAM-1などと結合する部分と共に、特殊な糖鎖構造を認識する「レクチン部位」を持っています。ここにはカビや酵母などの持つ多糖体が結合し、これによって酵母粒子などの貪食が起こるとともに、マクロファージ自体が活性化されます。
 マンノースレセプターは、マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞が持ち、糖鎖を介する細菌などの貪食や、外来異物中の糖蛋白質の取り込みと抗原提示に重要な役割を果たすと考えられています。
 最近発見されたTLRは、その名前の通り、元々ショウジョウバエの発生過程で重要な役割を果たす細胞表面分子Tollに類似した(Toll-like)レセプターとして同定されたものです。Tollそのものが、ハエの体内でカビに対する生体防御反応に関与していることが知られています。ヒトやマウスの体内では、このToll分子に類似した複数種類のレセプターが、マクロファージや好中球、或いは樹状細胞の表面に発現しています。
 哺乳動物のTLRの働きは、病原体に関連した分子構造のパターンを認識することだと考えられています。このうち、TLR4は(グラム陰性)細菌のリポ多糖(LPS)を認識し、TLR2は細菌のリポタンパク質や細胞壁ペプチドグリカンを認識します。TLRを介して病原体を認識・貪食したマクロファージや樹状細胞は、Tリンパ球を活性化して抗原特異的な「獲得免疫反応」の引き金を引きます。

 なお、老廃した赤血球をマクロファージが取り込むしくみは、以前は赤血球の細胞膜が傷害を受けた場合細胞内に血清中の免疫グロブリンが取り込まれ、これが Fcレセプターに結合するためと説明されていましたが、最近の研究では上記のレクチン様レセプターによる糖鎖の認識が主要な役割を果たすと考えられています。

Q14. アレルギーの部分を独学してみたのですが、ひとつだけ納得が行かない点があります。漆などによるかぶれはW型アレルギー反応らしいのですが、それがなぜなのかがわかりません。漆などの化学物質が皮膚に接触して、身体のたんぱく質と結合し、それらが抗原となって、抗体を産生することにより(皮膚炎が)起こると書かれていました。しかし、抗体を介した免疫応答では液性免疫となるはずで、W型アレルギーは細胞性免疫のはずなのに・・・と、混乱してしまいました。どうか、その答えを教えていただけないでしょうか。

A14.  漆かぶれは典型的な遅延型過敏症(IV型アレルギー反応)と考えられています。ご質問の通り、漆の樹液に含まれる化学成分が自己細胞を構成する蛋白質を修飾し(多くは低分子化学物質が「ハプテン」として細胞の蛋白質に共有結合する)、これを認識したTリンパ球が活性化され、主にTh1タイプのサイトカインが産生されることにより局所に炎症細胞の浸潤が起こります。
 「抗体を産生することにより・・・」と言うのは正しい記述ではありませんね。多分、一寸旧い教科書、或いは一般向けの本なのではないでしょうか?

 漆かぶれは遅延型過敏症である証拠に、山に行って漆の木の近くを通った当日ではなく、その翌々日あたりから皮膚が赤く腫れて痒くなります。抗原特異的なTリンパ球が活性化され、抗原侵入の局所に集まってくるまでに時間がかかるからです。私(宮澤)も接触皮膚炎の出やすい体質で、漆は勿論、絆創膏や腕時計の皮バンドにもかぶれてしまうのですよ。

Q15. 免疫組織化学とは何ですか?細胞の検出のために抗体に蛍光色素などをつけて、抗原抗体反応をさせ、目的の細胞を見つけるということでいいのでしょうか?また、この方法を用いればどんな細胞でも検出できるのでしょうか?

A15.  免疫組織化学 Immunohistochemistryとは、免疫反応を利用して組織中の特定の物質の分布を目に見える形で染め出す技術です。従って、その対象となる物質は必ずしも細胞とは限りません。
 免疫組織化学について考える前に「組織化学」について考えておきましょう。組織化学 Histochemistryとは、文字通り化学反応 chemical reactionsを利用して組織中の特定物質の分布を染め分ける技術です。例えば、特定の糖鎖構造を認識して結合するレクチンという物質があります。これに適当な標識、例えば蛍光物質を結合させておき、組織切片と反応させた後に余計なレクチンを洗い流して、蛍光顕微鏡で観察すれば、そのレクチンの結合するような糖鎖を持った分子が組織(或いはその中の細胞)のどこにあるかが染め出されます。同じようにして、組織或いは細胞中の特定の酵素と反応して色を出すような基質(化学物質)を用意し、これを適切な条件(pHや温度)で切片と反応させれば、問題の酵素の組織或いは細胞内分布が標本上に目で見て判る形で染め出されます。
 組織中の特定の物質と反応する試薬として、レクチンや酵素基質の代わりにその物質に対して特異的に反応する抗体を用いたのが、免疫組織化学です。例えば、膵臓の中でインスリンを作っている細胞がどこに分布しているか、その数が多いか少ないかを切片上で検出・定量するには、インスリンに特異的に反応する抗体に蛍光色素や金コロイドなどを結合させておき、組織切片をこれら標識抗体と反応させて余計な抗体を良く洗い落とした後、蛍光顕微鏡や普通の光学顕微鏡、或いは電子顕微鏡で観察します。
 現在では、抗体に予めビオチンという低分子のビタミンを結合させておき、ビオチンと強く結合するアビジンという物質(卵白に多く含まれています)に酵素を結合させたものと反応させて、最終的にその酵素との反応により発色する物質(基質)を使って標本に色を付けることが多いです(左の図)。
 実際に抗体で認識される物質はホルモンでも、細胞表面分子でも、細胞からの分泌物でも、或いは細胞外マトリックスや酵素でも構いません。ご質問のように、組織中におけるある特定の細胞の分布を見るには、検出しようとする細胞にだけ存在するような分子に対する抗体を使えば良いのです。例えば、リンパ節や脾臓中のTリンパ球の分布を見ようと思ったら、標識した抗CD3抗体を使います。
 この方法を使えば、基本的にはそれに対する抗体が存在するようなどんな分子でも検出出来ます(即ち、特定の分子の有無で区別可能な細胞なら、どんな物でも検出可能です)。但し、実際にはひとつひとつの細胞あたりに存在する目的分子の数が少なすぎたり(例えばサイトカインの場合)、分泌物の場合は細胞の近くに留まっていないで「流れて」しまったり、組織切片標本を作成する過程で抗体の反応性が失われてしまったりと言う技術的問題が起こることがあり、必ずしも理論通りにどんな細胞でも染め出せるという訳ではありません。

Q16. 「免疫学的寛容」という言葉の意味がどうしても分かりません。教えて下さい。

A16.  「免疫学的寛容」(Immunological tolerance)とは、免疫系が自己構成成分など特定の抗原に対して「反応性を示さない」状態を指します。「免疫学的無反応性(Immunological nonresponsiveness)」と言う言葉もあるのですが(厳密に言うと、「免疫学的寛容」とはちょっと意味が違います)、特に「寛容」と言う表現が用いられるのは、その抗原を持つ移植片に対して「拒絶が起こらない」と言うニュアンスを込めてのことでしょう。同種異系の移植片は免疫反応によって拒絶されますが、自己の組織(自家移植片)は拒絶されません。これは「自己寛容」のためであると説明するわけです。
 「わかる!独説免疫学」で解説したように、Tリンパ球やBリンパ球は、その発生・分化の過程で「自己反応性レセプターの除去」と言う選択を受けます。その結果、正常自己構成成分と強く反応するような(平たく言えば自己抗原を強く認識するような)レセプターを持ってしまった細胞は、成熟リンパ球として末梢に出て行くことは出来ません。このような自己反応性レセプターの除去(クローン除去 clonal deletion)も、免疫寛容成立の一つのメカニズムです。他に、自己抗原と強く反応するレセプターを持ったリンパ球が、末梢で自己抗原と結合したとき増殖能力やサイトカイン産生能を失ってしまう anergy(「アナジー」:無力化という意味)と言う現象も知られています。
 自己抗原に対する免疫寛容は生理的現象(それが成り立たなければ生きて行けない)ですが、人工的に非自己抗原に対する「免疫寛容を誘導」することも出来ます。このことが最初に気付かれたのは偶然に生じた「自然の実験」によってです。
 ウシではまれに、二卵性双生胎仔の間で胎盤が融合していることがあります。二卵性の双生仔ですから、例えば血液型などはお互いに異なることがあるわけですが、胎盤の融合があった場合にはそれら双生仔の末梢血中には一生に亘って二つの異なる血液型の血球が存在し続けることが見出されました。これはどうしてかというと、一方の胎仔(仮に血液型を Aとしましょう)の造血幹細胞が、繋がった胎盤を通って他方の胎仔(血液型 B)の体内に流れ込み、その造血器に定着してしまうのです。血液型 Bの胎仔の発生途上の免疫系は、血液型 Aの抗原構造(及び、流れ込んで来た造血幹細胞上のそれ以外の抗原構造)を正常自己構成成分と判断し、この抗原に対する「免疫学的寛容」が成立します。そのため、出生後も血液型 Aの造血幹細胞は排除されず、この個体の造血系では血液型 Aの造血細胞と血液型 Bの造血細胞が混じり合った状態(キメラ状態)で存在し続けることになるのです。
 免疫学的な実験に良く用いられるマウス(ハツカネズミ)では、生後3日目くらいまでの新生仔は免疫系が発生途上にあり、胸腺における自己反応性Tリンパ球の除去が続いています。そこで、Aの系統のマウスの新生仔に Bの系統のマウスの血球を注射すると、ある条件下では処置を受けた A系統のマウスで B系統の細胞抗原に対する免疫学的寛容が成立し、成長した Aのマウスに Bのマウスからリンパ球を移入しても「拒絶されない」と言うことが起こる場合があります。実験的に誘導された免疫(学的)寛容の例です。
 ウイルス感染の例も面白いものがあります。リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(lymphocytic choriomeningitis virus: LCMV)は、免疫系の完成した成体マウスの脳内に注射すると激しい髄膜炎を起こし、感染マウスは運動麻痺によって1週間ほどで死亡します。これは、ウイルスの感染した中枢神経系細胞をTリンパ球が排除するためです。ところが、このウイルスその物には細胞傷害性がないので、同じウイルスを新生仔に注射すると、一生体内でウイルスを産生し続けたまま、多くの場合何の障害も起こさずに天寿を全うします。新生仔の時に出会ったウイルス抗原に対し免疫寛容が誘導されたからです。
 上のような例は、ヒトでも新生児に免疫寛容を誘導して「将来の移植に備える」ことが出来るのではないか、新生仔(児)で免疫寛容が誘導できるのなら、成体(成人)でも何らかの方法で移植前に免疫寛容を誘導する方法があるのではないかとの夢を抱かせますよね。実際、移植免疫の世界ではそのような研究も活発に行われているのです。

ball_green1.gif 以下は茨城県つくば市にある茗溪学園高等学校2年生(平成17年12月当時)の、小松崎修平から頂いた質問に答えたものです。同君はアレルギーの克服方法を個人課題研究として採り上げ、「アレルギーとサイトカイン」というテーマでレポートを書かれました。その際、高校生とは思えないほど専門的な知識を独学で身につけた上で、丁寧な質問の手紙を寄せてくれました。小松崎君本人と担当の先生のご了承の上で、ここにその質問と返答を再録させて頂きます。

質問1:免疫記憶についてですが、微細な異種タンパク質(花粉、動物の毛、消化酵素で分断された異種タンパク質)に対する免疫記憶をなくすことができれば、アレルギー反応をなくすことができると私は解釈しているのですが、この解釈であっていますでしょうか。

 原理的にはその通りです。しかし、実際問題として、特定の抗原に対する免疫記憶だけを無くすと言うことは極めて困難でしょう。
 免疫記憶に関与するメモリー細胞(メモリーTリンパ球、メモリーBリンパ球)は、細胞分裂を停止した状態で長期間生存できることがわかっています。動物実験では、例えばマウス(ハツカネズミ)の場合、メモリー細胞はその一生(約2年間)に亘る寿命があると推定されています。また、ヒトの場合も、ほぼその一生に匹敵する期間、即ち十数年から数十年の間、増殖を止めたままで生存するメモリー細胞があることを示唆するデータがあります。これらメモリー細胞は、不活性の状態で静止している細胞ですので、一旦出来てしまうと、再活性化させずにその抗原特異性を検出することも、取り除くことも難しいのです(リンパ球の抗原特異性を検出するには、何らかの形でそれを活性化させることが必要です)。勿論、メモリー細胞に共通する細胞表面の機能分子がありますが、それらは抗原特異性に関係なく、全てのメモリー細胞に共通ですから、「ある特定の抗原と反応するメモリー細胞だけ」を見つけ出すことは出来ません。アレルギー反応を起こすような抗原に対するメモリー細胞を除こうとして、ワクチンによって誘導した感染症に対する免疫記憶も失われたら困るでしょう。
 因みに、エイズウイルス(HIV)は、メモリーT細胞のうち、末梢(エフェクター)メモリー細胞を特異的に減少させることがわかっています(末梢メモリー細胞が発現するCCR5分子を利用して感染するため)。しかしこの場合も、特定の抗原と反応する末梢メモリー細胞だけが破壊される訳ではありません。


質問2:「細胞内にウイルス、あるいはある種の細胞内寄生性細菌などが感染すると、それらは細胞質内で増殖する。そしてそれらのペプチドはユビキチンが複数結合した後に、ソロテアソーム(proteasome)あるいはLMP(large multifunctional protease)と呼ばれるタンパク質分解酵素によりATPの分解を伴って分解されて断片化され、細胞質内に存在するMHC-1に結合し膜表面へと向かい(MHC-1の運搬性)、発現する。」という解釈したのですが、これでよろしいのでしょうか。

 「ソロテアソーム」は、プロテアソームの間違いですね。また、LMPs(一つのタンパク質ではなく、LMP-2, LMP-7など、複数の分子種があります)は、プロテアソームと別のものではなく、プロテアソームの構成成分です。最近、LMP-2, LMP-7を含むプロテアソームと、これらを含まないプロテアソームがあり、タンパク質分解活性や、切断によって出来るペプチドのアミノ酸配列に違いがあることがわかってきています。即ち、免疫系以外の細胞にも普通に存在しているのがLMP-2, LMP-7を含まないプロテアソームで、抗原提示細胞(マクロファージや樹状細胞)が持つプロテアソームにはLMP-2, LMP-7が含まれています。抗原提示細胞以外の細胞も、IFN-γで刺激されるとLMP-2, LMP-7を発現するようになり、これらを含むプロテアソームを持つようになります。
 LMP-2, LMP-7を含むプロテアソームは、そうでないプロテアソームに比べてタンパク質分解活性が高く、しかも切断箇所のアミノ酸配列も特徴が変わります。そこで、LMP-2, LMP-7を含むプロテアソームを「免疫プロテアソーム」と呼ぶこともあります。大変面白いことに、LMP-2, LMP-7の遺伝子座は、MHC領域の中にあります。
 MCH class I分子(MHC-1と言う呼び方は推奨できません)は、正確に言うと「細胞質内に」あるのではありません。細胞の表面に出たり、細胞の外に分泌されたりするタンパク質を合成する、小胞体という袋(実際には、多くの細胞で「細胞質」のかなりの部分をこの袋が占めています)の中にあります。細胞質内(小胞体の「外」)でプロテアソームにより分解されたタンパク質由来のペプチドは、TAPトランスポーターという運搬分子により、小胞体の膜を越えてその内腔に運ばれます。この過程も、APT依存性の運搬です。小胞体内で合成されたMHC class I分子は、別のポリペプチドであるβ2-ミクログロブリンと結合し、ペプチド結合溝の立体構造が組み上げられ始めます。ここにTAPトランスポーターによって運び込まれたペプチドが結合すると、初めてMHC class I分子は立体構造が完成し、小胞体を離れることが出来ます。小胞体を離れたMHC class I分子+ペプチド複合体は、ゴルジ装置を経て輸送小胞により細胞膜に運ばれ、細胞表面に現れます。
 従って、ペプチドを結合していないMHC class I分子は小胞体を離れることが出来ず、細胞表面に発現しているMHC class I分子には、必ず何かのペプチドが結合しています。


質問3:またMHC-1は腫瘍細胞を破壊する性質を持つNK細胞のレセプター(killer-cell inhibitory receptor : KIR)に結合し、NK細胞の細胞障害活性を抑制する。と調べることができたのですが、この抑制が起こる目的が理解できません。生体としてはNK細胞の細胞障害性を用いてウイルスに感染した細胞を除去するほうがよいと思うのですが。違うのでしょうか。

 NK細胞は、CD8陽性の細胞傷害性T細胞(「傷害」が正しいですよ)のように、ウイルス感染細胞がもつ非自己ペプチド(ウイルス遺伝子産物がプロテアソームで分解されたもの)を提示したMHC class I分子を認識するのではないのです。
 NK細胞には、それを活性化するレセプター(例えばNKG2D)と、その機能を抑制するレセプター(例えばKIRの仲間)があります。抑制性のKIRs(複数種類あり)には、HLA-BやHLA-Cのような、MHC class I分子を認識するものがありますが、これは普通にMHC class I分子を発現している細胞は「破壊しない」よう抑制するためです。
 ウイルス感染細胞やがん細胞は、しばしばMHC class I分子の発現が低下します。例えば、エイズウイルス(HIV)などは、感染した宿主細胞のMHC class I分子の発現を抑えるような機能を持ったタンパク質を作ります。これは、CD8陽性細胞傷害性Tリンパ球による認識と破壊を免れる手段であると考えて良いでしょう。ところが、そのような場合はMHC class I分子の発現が下がることによって、KIRsからの抑制が無くなり、逆にNK細胞には傷害されやすくなると言うわけです。いわば、MHC class Iに依存する細胞傷害機構に対して、MHC class Iの発現が下がった場合はNK細胞がバックアップをすると言う、安全弁が付いている訳です。
 因みに、NK細胞の活性化に関わるNKG2Dレセプターが認識するのは、MHC class Iに似たMHC class I-like chains (MIC-A, MIC-Bなど)です。これらの遺伝子もMHC領域内にあります。


質問4:Igのクラススイッチについて、人為的にどのクラスかにスイッチさせることができれば、たとえばIgEをほかのクラスのIgにクラススイッチさせることで、マスト細胞に脱顆粒を起こさせるIgEの産生を抑制することができると思うのですが、間違っていますでしょうか。また、それは可能でしょうか。

 理論的には可能です。
 抗体産生細胞にクラススイッチを起こさせるのは、ヘルパーT細胞のサイトカインです。抗原刺激を受けたBリンパ球が抗体産生細胞に分化するためには、同じ抗原分子由来のペプチドを認識するヘルパーTリンパ球と接触し、これによって活性化を受けることが必要です。従って、CD4陽性Tリンパ球が存在しない条件では、たとえBリンパ球はちゃんとあっても、多くの場合抗体産生が出来ませんし、たとえ抗体が出来たとしてもIgMしか出来ません。Bリンパ球とヘルパーTリンパ球の相互作用に必要な分子が欠損するために、IgMしか作れない「X-染色体連鎖高IgM症候群」という病気もあります。
 このBリンパ球とヘルパーTリンパ球の相互作用の際、ヘルパーT細胞から出てくるサイトカインの種類によって、クラススイッチの方向性が決まります。IL-4がたくさん出てくれば、IgG1やIgEが作られるようになりますし、INN-γの存在下ではIgG2やIgG3が作られるようになります。このしくみは、ちょっと説明が難しくなりますが、クラススイッチに免疫グロブリン遺伝子定常部の転写が関係しているからです。
 分子レベルで考えると、クラススイッチとは抗体分子の抗原特異性を決定する可変部の遺伝子を、機能を決定する複数の定常部の遺伝子との間でつなぎ換えることです。この染色体つなぎ換え、即ちクラススイッチ組換えに関与する酵素は、染色体DNAがほどけて一本鎖が露出しているところを認識し、傷を入れます。遺伝子の転写が起こっているところは染色体がほどけていますから、IgEの定常部が転写されていればIgEへのクラススイッチが起こりやすくなります。要するに、IL-4はIgEの定常部を転写させるように働くことで、クラススイッチを方向付けするわけです。
 クラススイッチを人工的に制御するには、従って、望む方向にクラススイッチを起こさせるようなサイトカインを作らせれば良いと言うわけです。これは、言うのは簡単ですが実際に実現するのは難しいことです。例えば、薬としてサイトカインを投与してしまうと、アレルギーに関係する抗原に対する免疫反応だけでなく、体中の全ての免疫反応を特定の方向に傾かせてしまいます。アレルゲンに対する免疫反応だけをIgEを作らない方向に向けさせようとすれば、問題のアレルゲンに対するサイトカイン産生だけを、IL-4ではなくIFN-γの方向に向かわせるよう制御する必要があります。これは結局、問題のアレルゲンでT細胞を感作し直し、しかもTh1の方向に向かわせるよう仕向けると言うことです。いわゆる「減感作療法」は、そのようなことを狙ったものと考えることも出来ます。
 なお、免疫グロブリンの定常部遺伝子群のうち、IgEをコードする遺伝子は最後の方(下流)にありますので、一旦IgEを作るようになった細胞を再度他のクラスにスイッチさせるということは難しいのです。従って、既にIgEを作っている細胞については、それが死滅するのを待つしかありません(抗体産生細胞にまで分化した細胞の寿命は、それ程長くはありません)。


質問5:サイトカインが多機能であることは文献からわかったのですが、それはつまりさまざまな細胞に対してそれぞれ異なったシグナルを伝達しているのでしょうか、それとも同じシグナルを送っていてそれぞれの細胞はそのシグナルを受け取って異なる活性化をしているのでしょうか。

 これは答えるのが極めて難しい質問です。本当の答えは、まだ専門家でもわからないからです。
先ず、細胞の種類によっては、同じサイトカインに対してレセプターが違う場合があります。サイトカインのレセプターは、多くの場合複数のポリペプチドの組合せによって作られており、サイトカイン分子を結合する部分と、細胞内に信号を伝達する部分とに別れています。従って、同じサイトカインが結合しても、シグナル伝達部分が異なれば異なったシグナルが伝わると言うことがあり得ます。あるいは、同じ細胞であっても、活性化の度合いによってサイトカインレセプターの構成が変わる(そのためサイトカインの結合能が変わる)という例も知られています。
ところが、逆に複数の異なるサイトカインについて、サイトカイン分子結合部分のポリペプチドは異なるが、シグナル伝達部分のポリペプチドは共通という場合もあります。こうなると、同じシグナル伝達構造を使って、サイトカインの違いによる反応の違いをどうやって創り出すことが出来るのか、さっぱりわからないと言うことになります。
ナイーブなTリンパ球とメモリー細胞のように、活性化・分化の段階が異なる場合は、そもそも特定の遺伝子だけが発現し易い「準備状態」になっているなどの差がありますが、そうでない場合は、説明に窮します。
この質問に対する答えは、上のように「説明できる場合もあるが、まだ説明できない場合もある」というのが現状です。


質問6:ケモカインは特定の白血球サブセットの遊走作用・活性化を支配するサイトカインであり、例えばアレルギー性鼻炎において鼻粘膜組織や粘膜上皮細胞よりMDAF/MCP-1,MIP-1α,RANTES,IL-8,Eotaxinなどのケモカインが産生され、好中球、好酸球の増加を促すことが文献からわかったのですが、好中球や好酸球が鼻粘膜や粘膜上皮細胞、つまり特定の場所へ遊走するということがどうしても納得できません。ケモカインはシグナル伝達の際に何らかの方法で遊走先を支持することができるのでしょうか。

 「支持」は「指示」ですね。
 先ず、ケモカインとサイトカインは区別して考えましょう。免疫反応の過程で特定の細胞の活性化や分化(あるいは細胞死)を制御するのがサイトカイン、発生・分化や炎症・免疫反応の過程で細胞の動きを制御するのがケモカインです。IL-8のように、最初はサイトカインとして報告され、今では代表的なケモカインとして分類されている分子もあります。
 さて、ご質問に対する答えですが、これは私共の「免疫学Q&A」の中にある、細胞接着分子の項目(http://www.med.kindai.ac.jp/immuno/qanda.htm#q3)を見て下さい。
 血管の中を流れている好中球や好酸球が、「ここが異物侵入の現場だ」と知ることが出来るのは、その場の血管の壁に「この外で炎症反応進行中」と標識が出ているからです。その標識の役割を果たすのが、特定の細胞接着分子で、これにより白血球は内皮細胞に結合し、血管外に出ることが出来るのです。勿論、血管外に出た白血球が更に特定の場所(異物侵入の現場)に向かうのには、ケモカインが働きます。


質問7:7.ケモカインは炎症性細胞の走化能を増強する分子であるため、アレルギー反応を結果的により強く引き起こすサイトカインであると解釈できると思うのですが、この解釈は間違ってますでしょうか。

 上記の通り、ケモカインはサイトカインではありません。
 ケモカインは、炎症の現場に白血球を集める働きをしますが、それが必ずしも「アレルギー反応を強める」とは限りません。例えば、花粉症などI型アレルギー反応の現場に多く集まる好酸球は、肥満細胞や好塩基球によって作られたケミカルメディエーター(血管の拡張や透過性亢進を誘発する化学物質)や、原因抗原を分解(ある場合は中和)することにより、結果としてアレルギー反応を終息させることに関与します。
 むしろ、肥満細胞が自分自身で作っているサイトカイン、IL-4やIL-5が、免疫反応をより強くTh2の方向に向かわせる作用があります。


質問8:IL-10のシグナル伝達に必須の転写因子であるSTAT3を欠損するマクロファージをマウスの解析において、このマウスはマクロファージのサイトカイン産生抑制を担うIL-10を産生できないため、免疫反応時にサイトカインを過剰生産するようですが、このマウスはこの後どのような状態になるのか調べることができませんでした。マクロファージなどによるサイトカイン抑制は時間が経つによって自然にとまるものなのでしょうか。そうでなければサイトカインの過剰産生により炎症反応などを起こし死ぬと思うのですが、どうでしょうか。

 話が随分複雑な方向に向かっています。先ず、IL-10がどのようなサイトカインかを理解する必要があります。
 IL-10はTh2タイプのCD4陽性エフェクターT細胞から産生され、Th1細胞の分化を抑制する機能を持ちます。この時、IL-10は直接CD4陽性Tリンパ球に作用してそのTh1細胞への分化を抑えるのではなく、抗原提示細胞に働きかけることにより、間接的にTh1細胞の活性化を抑制します。
 このしくみの説明は長くなりますが、ナイーブなCD4陽性T細胞が抗原刺激を受けて活性化するとき、抗原提示細胞がIL-12やIL-18を産生しているとTh1細胞への分化が起こり、そうでないとTh2細胞への分化が起こります。抗原提示細胞がIL-12やIL-18を作るかどうかを決めているのは、Toll-like receptors (TLRs)からの刺激や、周囲のサイトカイン環境です。結核菌やウイルスの感染がある条件下では、TLR-2, TLR-4やTLR-3からの刺激により、抗原提示細胞はIL-12を産生し、自らが活性化させるCD4陽性T細胞をTh1の方向に分化させます。IFN-γは抗原提示細胞によるIL-12産生を促進します。一方、IL-10は抗原提示細胞によるIL-12産生を強く抑制します。これにより、間接的にTh1細胞の分化を抑えることになるのです。
 抗原提示細胞内で、IL-10レセプターからのシグナルを伝達しているのがSTAT3です。従って、抗原提示細胞群(マクロファージ系細胞)でのみSTAT3が欠損したマウスを作れば、それはIL-10欠損マウスと同様に、Th1タイプのサイトカインが過剰に産生される状態を起こします。ですから、「マクロファージによるサイトカイン産生が過剰に続く」と言うことではないのです。
 これがどんな病気につながるかと言うことは、あまり真剣に思い悩む必要はないと思います。勿論、Th1細胞の機能が過剰な状態で起こるヒトの病気というものもありますが、STAT3やIL-10を欠損したマウスで起こる病態というものは、大変極端なものであり、それが実際に観察されるヒトの疾患の病態をそのまま反映しているとは限らないからです。


質問9:ヘルパーT細胞の分化について、ThpからTh0へと分化し、そこからサイトカインによってTh1またはTh2へと分化することが文献でわかったのですが、ThpからTh0への分化はどのような刺激によって行われるのでしょうか。自分は抗原提示細胞の抗原提示であると考えたのですが、これであっていますでしょうか。

 Thpは抗原刺激を受けて活性化した直後のCD4陽性T細胞で、IL-2だけを産生し、これにより分裂増殖する段階と言われます(抗原受容体からの刺激により、Tリンパ球に最初に起こる反応は、IL-2レセプターのα鎖とIL-2の合成を始めることです)。分裂してクローンを増やしたCD4陽性T細胞は、IL-2, IL-4, IL-5, INF-γ, TNF-αなど複数のサイトカインを産生できるエフェクター細胞、即ちTh0の段階に分化し、そこから更にTh1かTh2に変わっていくと言う考え方があり、そのような立場を取る人たちは、Thp, Th0, Th1 or Th2と言う用語を使います。しかし、このような細かい用語の使い方に、あまり拘るのは却って良くありません。ThpとかTh0と言うようなヘルパーT細胞の「分化段階」が、画然として区別できるかどうかについては、まだまだ異論もあります(Thpが何回分裂したらTh0になるのですか?Th0とTh1の境目はどこですか?あるところで突然に一部のサイトカインを作らなくなるのですか?)。
何よりも問題なのは、こうした「用語」だけが、あたかも実体を反映するかのように一人歩きすることです(昔、「サプレッサーT細胞(Ts)」という概念が、あたかも実体を持つかのように取り扱われたことがあります)。
 抗原刺激を受ける前のナイーブなCD4陽性Tリンパ球は、樹状細胞のような専門の抗原提示細胞に接触し、もしそこに提示されている抗原ペプチドを認識することが出来ると、CD40L (CD154)分子を発現して樹状細胞を刺激します。これによって副刺激分子(CD80/CD86)を発現するようになった樹状細胞は、相手のCD4陽性T細胞を活性化させ、抗原刺激と副刺激の両方を受けたCD4陽性T細胞は分裂増殖して、エフェクター細胞、即ち(Th1またはTh2の)ヘルパーT細胞へと分化します。これらの段階を詳しく記述するためにThpとかTh0と言う用語を使う場合もありますが、敢えて使わなくても基本的な理解は出来ます。


質問10:IL-4はTh0をTh2へと分化させるために必須のサイトカインであることが文献からわかったのですが、このサイトカインはどのような細胞から産生されるのかがわかりませんでした。樹上細胞もマクロファージもIL-4は産生しないということなのですが、何から産生されるのでしょうか、またその働きまたは産生を阻害することでTh2への分化は抑制され、細胞性免疫型に移行し、アレルギー反応は抑えられると思うのですが、どうでしょうか。

 Th1かTh2かの「分化の方向性」を決めているのは、一義的には抗原提示細胞です。ナイーブなCD4陽性T細胞を活性化するのは樹状細胞ですが、その時樹状細胞がIL-12を産生していると、抗原刺激を受けたCD4陽性T細胞はTh1タイプのエフェクター細胞へと分化していきます。樹状細胞やマクロファージにIL-12を産生させるのは、前の方にも書いたTLRからの刺激ですが、既に免疫反応がTh1の方向に向かっていて、IFN-γを産生している細胞が近くにあると、樹状細胞やマクロファージからのIL-12産生を促進します。
 一方、Th2の分化はどうでしょうか?実は、CD4陽性T細胞は、抗原提示細胞がIL-12を作っていなければ、即ちTh1への分化を促進する条件が無いならば、勝手にTh2の方向に向かう性質を持っているのです。これは、CD4陽性T細胞は、抗原刺激を受ける前のナイーブ細胞の段階からIL-4レセプターを発現し、IL-4レセプターからのシグナル伝達を受ける準備状態になっているからです。これに対して、ナイーブなCD4陽性T細胞に、機能的なIL-12レセプターは発現していません(詳しく言うと、IL-12レセプターを構成するポリペプチドの一部は発現していますが、もう一つのポリペプチドがありません)。
 従って、周囲にごくわずかでもIL-4を作っている細胞があれば、それがナイーブCD4陽性T細胞のIL-4レセプターを刺激し、一旦増殖・分化を始めたCD4陽性T細胞は、IL-4, IL-5, IL-10, IL-13などの遺伝子が常に発現しやすい状態へと分化していきます。この時、自分自身あるいは周囲のCD4陽性エフェクターT細胞から産生されたIL-4が、Th2への分化を促進しますし、IL-10は上述のように、Th1への分化を抑制します。更に、一旦免疫反応がTh2の方向へと傾いて、例えばIgEが産生され、これに抗原が結合して肥満細胞などが活性化されると、脱顆粒によって放出されるケミカルメディエーターやサイトカインの中には、IL-4が含まれています。このように、免疫反応は一旦Th2の方向に傾き始めると、ますますTh2細胞の分化を誘導する方向に向かっていく性質があるのです。
 逆にTh1反応を誘導するには、IL-12の存在が必要です。IL-12存在下で分化を始めたCD4陽性エフェクターT細胞は、IL-12レセプターを完全に発現するようになり、IFN-γの遺伝子を常時発現しやすいようにします。同時にIL-4やIL-5の遺伝子は発現を抑えてしまうのです。こうして、黙っているとTh2の方向に向かうCD4陽性エフェクターT細胞の分化を、無理矢理Th1方向に向かせるわけです。


質問11:好中球上のケモカインレセプターであるCXCR1とCXCR2はともにIL-8へ親和性を持ち、CXCR1は低親和性であり、CXCR2は高親和性でありそれ以外の分子とも結合することから、低濃度のIL-8にはCXCR2が、抗濃度のIL-8にはCXCR1が反応する。と文献に書いてあったのですが、これを自分は、親和性の差があるならシグナル伝達の強さのさもあるのではないかと思うのです。もしもCXCR1、CXCR2の間には好中球へのシグナル伝達の強さの差があれば、低濃度のIL-8では走化しにくく高濃度のIL-8では走化しやすくするなどの違いがあり、反応するべきタイミングでより強く走化すると思います。もしもここまでがあっているとすれば、CXCR1を阻害すればIL-8以外の分子の働きを阻害せずに、IL-8の働きだけ阻害することができると思うのですが、どうでしょうか。仮定ばかりの質問ですいません。

 そう簡単ではありません。CXCR1とCXCR2とでは、細胞内でのシグナル伝達に関与する分子が(一部)異なるからです。CXCR1とCXCR2に共通のタンパク質リン酸化酵素(PKCs)が複数知られていますが、CXCR1のシグナルだけを伝達し、CXCR2のシグナル伝達には関与しないPKCが、少なくとも一つあります。リガンドとの親和性だけで、シグナルの強さは決まりません。
 ですから、IL-8による好中球の遊走や活性化を阻害するには、CXCR1とCXCR2の両方を、IL-8特異的に阻害する(CXCR2については、IL-8の結合だけを阻害し、他のケモカインの結合は阻害しない)というような物質を作る方が良いわけです。実際、そういう分子を作って、IL-8機能を阻害できたと報告している論文もあります。


質問12:好酸球とEotaxinについてですが、CCRは好酸球、好塩基球、一部のTh2細胞に発現が確認されており、好酸球、好塩基球への活性は炎症局所への遊走活性であるとわかったのですが、Th2細胞への活性がどのようなものであるか調べることができませんでした。炎症局所には当然Th2細胞も存在したほうがアレルギー反応は強大になるため、Th2細胞にも遊走活性を示すと思われるのですが、あっていますでしょうか。

 その通りです。Th2細胞はCCR3を発現しますが、CCR3のリガンド(結合分子)の一つはeotaxinです。eotaxinは上皮細胞やマクロファージによって産生されますが、特に消化管の上皮細胞が常時これを産生し、好酸球を消化管に引き寄せていると考えられています。寄生虫感染などで好酸球が重要な防御機能を営むことを考えると、これは合理的です。
 Th2細胞がCCR3を発現することから、当然Th2エフェクター細胞は消化管粘膜や呼吸器粘膜などに集まることが予想されますが、実際その通りで、特にアレルギー反応が起こっている粘膜組織にはTh2タイプのCD4陽性エフェクターT細胞が多く集積します。これにより、局所の免疫反応をますますTh2タイプの方向に傾けていくことになります。


質問13:アレルギー疾患の治療を目指す試みとして、可溶性IL-4RαやIL-4raを投与してIL-4のシグナル伝達経路を阻害することが研究されているらしいことが文献からわかりました。普通あるサイトカインの作用を抑制すると、サイトカインが多機能であるために副作用が出るようですが、このサイトカイン療法の副作用はあるのでしょうか。

 この問題は単純ではありません。
 理論的にはIL-4またはIL-4レセプターの機能を阻害する薬物を作ることが出来れば、アレルギー疾患の治療に使えそうです。そのようなことは誰でも考えるので、抗体を使ったり、化学合成した「偽リガンド」を使ったり、レセプターと競合する可溶性分子を使ったりします。何れも試験管内の実験では有効で、動物実験ではTh2細胞の分化を抑制できたりするのですが、ヒトに使って治療効果が得られたというものは、なかなか出て来ません。
 実際には、重大な副作用が出るようなものであれば、治療効果があるかないかを調べる前の段階で研究が中止されます。ご質問のIL-4Rなどは、治療効果を確かめるところまで研究が進みましたから、動物実験でもボランティアのヒトへの投与でも、重大な副作用は無かったのでしょう。それでも、厳密な比較試験(多数の患者を集め、一つのグループには調べたい薬を、もう一方のグループには、見た目では区別できないが効果はない「偽薬」を与える)で、十分な有効性が確認できませんでした。従って、いまだに「実験段階」の治療法に留まっています。
 理屈の上で有効であるはずと考えた治療法が、実際に薬として使えると言うところまで行くためには、長い年月がかかりますし、その過程で「唯の夢であった」と言うことになり消えていく薬は、実際に治療に使われるものの何倍も(実際には「何万倍も」!)あるのです。

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