事例1

27歳、女性。主訴は両手の関節痛と朝のこわばり。既往歴は特記すべきなし。家族歴はいとこ(母の姉の娘)に全身性エリテマトーデス(SLE)がある。

 平成14年2月に両手の関節の腫れと痛みおよび朝のこわばりが始まり、これが3月に増悪したためS医院を受診した。そこでリウマチ反応陽性を指摘され、鎮痛剤(ボルタレン)を処方されたが無効であったため、精査を求めて4月2日に受診した。初診時にからだ全体の熱感を訴えたが、体温を測定してみると36.5度であった。

 診察では、身長159cm、体重55Kg、心肺所見に異常なく、左顎に圧痛を認めた。手指には腫脹も圧痛も認めなかった。X線所見では胸部、手および膝関節に変化はなかった。検査にて血清補体が低下していたため、SLEの初期としてプレドニゾロン10mg/日による治療を開始した。

 

キーワード

n         女性

n         手指の腫脹と疼痛

n         朝のこわばり

n         リウマチ反応

n         DNA抗体

 

解説

 内科のすべてがそうですが、とくに膠原病が疑われる患者さんを診察するには、内科診察の定法通り、病歴で90%決まり、診察で95%決まり、さらに検査で100%診断が確定するという、病歴重視型の診察を蔑ろにしないことが大切です。患者さんを診ると、最初は関節の腫れや痛み、朝のこわばりが自覚されていますが、これらが真に関節に由来する腫れや痛みやこわばりであるかは、患者さんの言うことを安易に鵜呑みするのではなく、医師がその都度欠かさず自ら診察することによって診断する必要があります。この場合、実際に診察してみると、この患者さんには関節腫脹や関節の圧痛が認められませんでした。このことはちょっと見ると何でもないようですが、実は大変に重要です。すなわち、膠原病の診察で何よりもまず第一優先で知るべきは、患者さんに関節炎が実際にあるのか、あるいは単に関節の痛み(関節痛)だけであるのかということです。「炎」は炎症ですから、いわゆる炎症の4主徴(痛みdolor、腫れtumor、発熱calor、発赤rugor)が認められてしかるべきであり、実際、膠原病の中でもっとも頻度の高い関節リウマチrheumatoid arthritis (RA)の患者さんの場合には関節に腫れと痛みを明確に認めることが出来ます。これに対して、関節痛の「痛」は痛みですから痛みはあっても腫れがはっきりとしない状態であり、ごく軽症の関節炎がある場合などにこのような多発性関節痛polyarthralgiaがみられます。風邪を引いた際に経験する全身の関節痛がそれです。

いわゆるリウマチ、正式には関節リウマチと呼ばれる疾患では、医師が診て明らかな関節の腫脹ないし疼痛が証明されるのに対して、全身性エリテマトーデスsystemic lupus erythematosus (SLE)では、その診断基準(図1)には確かに多発性関節炎と書かれていますが、この関節炎は医師が診察して他覚的にはっきりと確認できるほど明確な関節炎ではありません。ただ例外として、小児のSLEの場合はすべての症状が激しく従って関節炎がより明確になりやすいのです。こうした違いの理由は、RAが関節の滑膜を場とした炎症であり従って関節の炎症がかなり強いのに対して、SLEは関節ばかりでなく全身性の膠原病ですから、ちょうど風邪を引いたときに誰しも関節痛を来たすように、関節の炎症が軽度です。因みに風邪の場合は、インフルエンザウイルスとこれに対して出来た抗体が結合して免疫複合体が出来て、これが血中から関節に至って、持続性ではない一過性の軽度の関節炎を引き起こすと考えられます。

 この患者さんは、従って、病歴と診察からだけでも、どうもRAらしくないな、と思わせられます。因みに顎の関節には膝関節など他の関節と同様に滑膜が存在しますから、顎関節炎が起こってもよい部位です。この患者さんも実際顎関節炎があると考えられますが、患者さんの顎が痛くて口も開けられないというほど酷くないことから、この関節炎も軽症であると判断されます。

 


図1.SLEの診断基準(米国リウマチ学会による)

 

朝のこわばりはどうでしょうか?RAに特有であるはずなのに?と思われるかと思います。今はこの答えを保留にして、講義の際にディスカッションしましょう。

  以上のことから考えますと、この患者さんの診断はSLEではないかと思われます。その際には、リウマチ反応と抗DNA抗体について知っておく必要があります。これも保留にして、皆さんで是非調べておいて下さい。講義の際に詳しく解説しますが、ここでは、要点のいくつかを述べて置きます。

リウマチ反応と云われる検査は、血中のリウマトイド因子を検出する検査です。この検査はRAに特異的でなく、癌でも、肝障害でも、あるいは健康者でもとくに女性の場合、あるいはまた老人には病気がなくてもしばしば陽性となります。すなわち、リウマチ反応が陽性であるからといってその患者さんがRAであるとは限らない(診断できない)のです。これと同時に、その反面では、RAはリウマチ反応が陽性である多発性関節炎と定義されています。すなわち、RAと診断されるには必ずリウマチ反応が陽性である必要があり、陰性である場合には、他の膠原病が診断として想定されなければならないということです。講義ではこの点を説明します。リウマトイド因子はこのように必ずしも疾患特異的ではないのですが、それでもRAと診断するには不可欠の検査なのです。

 

 

事例2

 SLEの診断の下に、症状が軽度であったため少量のステロイド治療が開始されたが、やがて関節痛が強くなり、検査で補体がさらに低下し抗DNA抗体も上昇し続けたため、外来にて免疫抑制剤を併用した。さらにステロイド(プレドニゾロン)を40mg/日まで増量したが効果なく、尿蛋白も陽性を示すようになったため、同年9月に入院した。

入院時、体重は59.7Kgと増加したが、診察所見では、SLEに特徴的な蝶形紅斑を認めず、下腿にも浮腫を認めなかった。検査では、血中アルブミンが2.9g/dLと低く、補体はC3 47mg/dL, C4 3.2mg/dL, CH50 10以下と著明に低下し、抗dsDNA抗体は26.1 IU/mLと上昇していた。抗Sm抗体(EIA)は陰性、抗SS-A抗体、抗SS-B抗体が陽性を示した。

 

キーワード

n         補体、C3, C4, CH50 (図2)

n         免疫複合体immune complex

n         蝶形紅斑、紅斑

n         体重増加

n         ネフローゼ症候群

n         Sm抗体

 


2.補体の活性化経路

 

解説

 SLEでは、疾患活動期に血中補体が低下します。補体はC1qから開始してC3に至る一連の蛋白分解反応をへて、さらに引き続いて細菌などの細胞表面においてC5からC9にいたる経路が展開する特有の生物活性を示す蛋白群です(図2)。補体の活性化経路にはC1q-C4-C2-C3を経る古典経路、C3bを起点に連鎖反応を繰り返す第二経路、病原体に結合したMBL (mannose binding lectin)がもつセリンプロテアーゼ活性によってC4以下が順次活性化されてゆくレクチン経路の3つがあるのはすでに学んだ通りです。

補体の生物学的効果については、オプソニン効果、標的細胞破壊、免疫複合体除去、炎症の伝達の4つがあります。中でも感染防御にはオプソニン効果がとても大切です。これに対してSLEの場合は、免疫複合体除去に関わる機構が重要になります。すなわち、病原体が体内に侵入するとこれに対する抗体が産生されて、病原体とこれに対する抗体の複合体すなわち免疫複合体immune complexが形成されます。免疫複合体は本来病原体を防ぐために機能するものですが、出来てしまった免疫複合体は、からだから見ると邪魔になる巨大分子ですから、やがては除去される必要があり、この免疫複合体の除去に補体が重要な役割を演じます。赤血球表面には補体C3b, C4bに対する受容体CR1分子が存在します。血中に増えた免疫複合体には補体の成分が順次C1qから結合していって、免疫複合体にはC3bなどが結合していますから、免疫複合体はC3bなどの補体成分を介して赤血球表面のCR1受容体に補足されて、やがて血流にのって肝臓へ運ばれます。肝臓では赤血球表面の免疫複合体だけがうまく除去されて、やがてまたフリーの赤血球が循環する仕組みです。ですから、SLEで補体が低下することは、すなわち血中に免疫複合体が量的に増えていることを示します。血中に増えた免疫複合体は巨大分子ですから、除去されないと腎臓などに沈着して腎障害を引き起こします。SLEの活動期には、血中補体が極端に低下して、同時に腎などに免疫複合体が沈着して腎障害をはじめ種々の臓器に障害を引き起こすことになり、このようにしてSLEの病像が形作られます。

 腎障害ははじめに蛋白尿として現れます。腎障害が軽度であると、この患者さんのように、蛋白尿が現れたり消えたりしますが、進行するとつねに蛋白尿が見られるようになり、しばしばネフローゼ症候群を呈します。ネフローゼ症候群は、診察では浮腫として認められます。軽度の場合は下腿浮腫、進行すると全身の浮腫(これをアナサルカanasarcaと呼びます)になります。検査では、血中アルブミンが低下し、コレステロール値が上昇します。アルブミンが低下すると血管内の膠質浸透圧が下がり、このため水分が血管外に漏出し、これが浮腫を形作ります。この患者さんでは浮腫はみられませんでしたが、体重が増加していて、血中アルブミンも低下しています。すなわち、ネフローゼ症候群の準備状態になっていたと解釈されます。

 疾患には疾患特有のサインがあると診断にも便利です。SLEの場合、抗DNA抗体とくに抗二本鎖DNA抗体が特徴的にみられます。英語ではanti-double stranded DNA antibodyといい、日本語では抗dsDNA抗体と略記します。抗Sm抗体もSLEに特有な自己抗体です。自己抗体の詳細に立ち入るのは講義の主題ではないので控えますが、興味あるひとは調べてみてください。講義では自己抗体についても簡単に解説する予定です。

DNAのようにからだに普遍的に存在していて人類全員が共有しているはずの抗原に対して、なぜSLEという疾患においてだけこれに対する自己抗体が出来るのか?とても不思議です。病気になった患者さんに対しては多少不謹慎かも知れませんが、医学的にはこれは一つのロマンでもあり、同時にこうした疑問を解明することが医学研究の重要な課題であることが分かります。でも、人が抱いたロマンを解明するには、忍耐強い勉強と不屈の意思が必要で、あのバンティング博士のインスリンの発見、サンガー教授によるインスリンの構造決定、そしてこの間亡くなったペルツ教授による世界で初めてのタンパク質の立体構造解明など、偉大な研究者はすべて前人未到の領域を開拓しています。私達も先人の跡を慕ってさらに成長したいものです。その他、抗SS-A抗体、抗SS-B抗体については、講義で説明しますが、現段階では詳しすぎるのでここでは省略します。

 

 

事例3

 入院後本人の同意の下に腎生検が行われた。結果はWHOの分類(図3)によるU型のループス腎炎すなわちメザンギウム細胞増殖型腎炎であった。その後、治療としてソルメドロール1gの点滴静注を3日間続けるステロイドパルス療法に続いて、内服投与でプレドニゾロン60mg/日から漸減して、最終的には症状がほぼ全て消失したほか、検査所見もC3 91mg/dL, C4 18mg/dL、尿蛋白陰性と正常化し、同年11月末に退院となった。経過中、帯状疱疹、薬剤性肝障害、軽度の感染症を来したがいずれも軽快消失している。

 

キーワード

n         腎生検

n         補体の正常化

 

解説

 腎不全は一昔前までSLEの死因の第一位でしたが、診断と治療が進歩した今日では、死因の上位はむしろ感染症、播種性血管内凝固症候群disseminated intravascular coagulation (DIC)、心不全などで占められるようになって来ています。腎生検はつい最近まではSLEの病態の把握と重症度の判定に必要不可欠とされていましたが、現今では腎生検は必ずしも不可欠でないが、腎生検の情報はSLEの診断と臨床経過における治療の決定に有用な情報を提供してくれるのは間違いないと考えられています。従って、許可さえ得られれば行なうよう推奨されています。というのは、尿の検査で判定できる蛋白尿の有無やその程度からだけでは患者さんの腎臓の病態が正確には把握できなからです。とくに、SLE患者が臨床的にネフローゼ症候群を呈した場合には、その腎病変はWHOのW型ないしX型(図3と図4)である場合が多いのですが、後者の場合には、ステロイドの大量療法だけでSLEを治癒に導くことが可能であるのに対して、前者の場合はステロイド単独治療は無効なのです。この場合はすみやかにステロイドに加えて免疫抑制剤を併用して治療する必要があります。このようにしばしば腎生検は治療に不可欠の情報を与えてくれます。

この患者さんの場合はWHOのU型であり、これは軽症の腎障害にあたります。従って、本来ならば治療も中等度以下のもので十分と考えられます。しかし、当院では腎生検を腎臓内科に任せている関係上その治療に関する意見を無視するわけにはゆかず、結局、この方の場合、私の期待よりは多量めのステロイドが処方されました。腎臓内科と膠原病内科では同じ疾患に対しても見方が異なり、概して言えば腎臓専門医はステロイド大量治療を好みます。もちろん、いずれも場合も患者さんは治るのですから悪いというわけではありませんが、私からみるともう少し少ない治療でも十分治ったのではないかと今も思われるのです。すなわち、膠原病のステロイド治療は、ちょうど学生さん達の勉強方法に似て、必要最小限の治療の方が望ましいと私は考えています。治療による副作用が少ないからです。

 また、治療がうまく行っているか否か、すなわち治療の加減の目安となるモニターは、SLEの場合には血中補体です。すでに述べたように血中補体が低下しているということはすなわち血中に免疫複合体が増加しているということですから、疾患が活動性であると判定できます。反対に補体が正常化していれば当然血中の免疫複合体も存在しないと言えますから、治療の手をゆるめてもよいということになります。従って、臨床の現場では血中補体がほぼ正常化したら、ステロイドなどの薬剤の減量を開始します。

 以上のように臨床的な立場からみてみると、皆さんはこれまで習った免疫学や微生物学の基礎知識が、単なる理屈でなく、臨床の現場において実際に使われていて、しかも重要な役割を演じていることに気付かれたと思います。臨床医はただ単に患者さんに聴診器を当てているだけのようにも見えますが、良い臨床医というのは、単純な診察の作業の中にも、絶えず「何故なのだろうか?」とか「こうであるはずだ」とか、考え詰めているのです。考えては実践し、現場の結果からまた考え、いわゆる名医は現場と思考、すなわち原因と結果、を蔑ろにしません。現時点で解決のつかないことは忘れず覚えておいて、その当時分からなかったことが十数年の時日をへてはじめて解決することもあるのです。すなわち、一つ一つを丁寧にしかもしっかりと猛勉強することが医師あるいは医学研究者には非常に大切なのです。

 

 


図3.ループス腎炎の改訂WHO分類

 

 


図4.ループス腎炎の改訂WHO分類。臨床経過との関連。