テュートリアル 「生体防御コース」

第6〜7週 免疫学総論
(平成12年12月 4日〜12月16日)

  2000年12月16日

目次

コース担当教員 コース全体の教育目標 週の時間割  講義内容 各週の概要
行動目標 レポートと事例・症例発表会 参考書 
事例・症例の解説
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1) コース担当教員名簿・連絡先

コ−ス主任: 宮澤 正顕 (免疫学講座、教授)

第6〜7週 担当教員:

宮澤 正顕 (免疫学講座 教授、内線 3265)
松村 治雄 (免疫学講座 講師、内線 3267)
田端 信忠 (免疫学講座 助手、内線 3267)
泉山 朋政 (免疫学講座 非常勤講師)
加藤 光保 (免疫学講座 非常勤講師)
丹羽 淳子 (免疫学講座 助手、内線 3267)
阿部 弘之 (免疫学講座 助手、内線 3267)
河原佐智代 (免疫学講座 助手、内線 3267)

2) コ−ス全体の教育目標 :
  生体防御コース」は、薬理学・細菌学・免疫学の三講座を中心とした総論的な講義と実習に、テュートリアル形式による自己学習を組み合わせた7週間のコースです。このコースでは、生体の恒常性や自己同一性の維持に対する内部・外部からの攪乱に対し、どのような反応が起こり、それが薬物によっていかに制御できるかを学びます。
 最初の3週間は、内部環境の維持に対する薬物の影響と、それを用いた治療の原理を、テュートリアルと講義・演習・実習を通じて学びます。続いて感染症の原因となる病原体の性質を2週間かけて学びますが、ここでは教科書を使った講義と実習が重視されます。最後に、個体の同一性を維持する免疫のしくみを、テュートリアルと講義・実習を通じて2週間にわたって学びます。

3) 週の時間割表
 第6週 (12月 4日〜12月 9日)

日付

12月 4日(月)

12月 5日(火) 12月 6日(水) 12月 7日(木) 12月 8日(金) 12月 9日(土)

1時限目

8:30〜9:30:
テュートリアル
9:30〜10:30:
自習

人間論/
英語表現

8:30〜9:30:
テュートリアル
9:30〜10:30:
自習

講義 7 8:30〜9:30:
テュートリアル
9:30〜10:30:
自習
事例発表会
2時限目 講義 1 英語表現/
人間論
講義 4 講義 8 講義 9 試験
3時限目 講義 2 実習 講義 5 実習 講義 10
4時限目 講義 3 実習 講義 6 実習 自習
(レポート作成)


 第7週 (12月11日〜12月16日)

日付

12月11日(月)

12月12日(火) 12月13日(水) 12月14日(木) 12月15日(金) 12月16日(土)

1時限目

8:30〜9:30:
テュートリアル
9:30〜10:30:
自習

人間論/
英語表現

8:30〜9:30:
テュートリアル
9:30〜10:30:
自習

講義 18 8:30〜9:30:
テュートリアル
9:30〜10:30:
自習
症例発表会
2時限目 講義 11 英語表現/
人間論
講義 16 講義 19 講義 20 試験
3時限目 講義 12 講義 14 講義 17 実習 講義 21
4時限目 講義 13 講義 15 実習 実習 講義 22

講義内容:

講義 1  12月 4日(第2時限)  免疫学入門 (宮澤)
講義 2  12月 4日(第3時限)  抗体分子の働きと血清療法 (宮澤)
講義 3  12月 4日(第4時限)  実習説明:血球凝集反応 (松村)
講義 4  12月 6日(第2時限)  抗体分子の構造と機能 (宮澤)
講義 5  12月 6日(第3時限)  補体の活性化と制御 (松村)
講義 6  12月 6日(第4時限)  Fcレセプター (宮澤)
講義 7  12月 7日(第1時限)  Bリンパ球抗原レセプターとクローン選択 (宮澤)
講義 8  12月 7日(第2時限)  免疫グロブリン遺伝子 (宮澤)
講義 9  12月 8日(第2時限)  Bリンパ球の発生分化と体内分布 (宮澤)
講義10  12月 8日(第3時限)  特別講義: IgAと粘膜免疫 (大谷<東北大学助教授>
講義11  12月11日(第2時限)  MHCとTリンパ球による抗原認識 (宮澤)
講義12  12月11日(第3時限)  胸腺とTリンパ球の分化 (宮澤)
講義13  12月11日(第4時限)  抗原提示とTリンパ球の活性化 (松村)
講義14  12月12日(第3時限)  サイトカイン入門 (松村)
講義15  12月12日(第4時限)  サイトカインレセプターと細胞内シグナル伝達 (加藤
                       <免疫学教室非常勤講師・癌研究会癌研究所 生化学部>
講義16  12月13日(第2時限)  Tリンパ球のエフェクター機能 (宮澤)
講義17  12月13日(第3時限)  MHC拘束と疾患感受性遺伝子 (宮澤)
講義18  12月14日(第1時限) アレルギーと自己免疫病 (宮澤)
講義19  12月14日(第2時限) 先天性免疫不全症候群 (田端)
講義20  12月15日(第2時限) 後天性免疫不全症候群 (宮澤)
講義21・22  12月15日(第3/4時限)  膠原病・リウマチ入門 (泉山
                       <免疫学教室非常勤講師・東北労災病院膠原病リウマチ科部長>

4) 週の概要

第6週のテーマ: 抗体分子の構造と機能

 一般目標:

 免疫グロブリン分子の抗原認識多様性の起源と、エフェクター機能活性化のしくみを、その分子構造から理解する

第7週のテーマ: 自己認識とその破綻

 一般目標:

 高等多細胞生物の免疫系は、個体を構成するすべての細胞が一個の受精卵に由来する同一ゲノムを保持するよう監視していること、ウイルス感染細胞の排除や移植片の拒絶はその当然の帰結であることを理解する。

 「生体防御コース C. 免疫学総論」は、免疫系の構成分子・細胞とそれらの基本機能を学ぶことから出発し、Tリンパ球による抗原認識の機構とその生物学的意味に至ります。前半は比較的古典的な血清学から出発しますが、すぐに免疫グロブリンの分子構造や遺伝子再構成の話が入ってきます。ここで皆さんはタンパク質分子の立体構造に目を向け、分子間の認識が立体的な相互作用に基づいて行われることを実感を持って理解します。これが、MHC分子の機能とT細胞による抗原認識の正しい理解にも必要です。
 後半は「外来異物に対する免疫反応」と言う古典的視点を離れ、免疫系が実は自己の身体を構成する全ての細胞の遺伝的同一性を監視していること、だからこそウイルス感染細胞の排除も移植片に対する拒絶反応も起こることを理解します。このような考え方が実体として正しいと言うことが分子のレベルで証明され、全ての免疫学者に受け容れられるようになったのはこの10年以内のことです。しかし一方で、この新しい考え方が明確に証明されたお陰で、それまで謎が多かったMHC拘束などの現象が、まるでT細胞による抗原認識の仕組みを目で見ているかの如く簡単に説明できるようになったのです。
 Tリンパ球による抗原認識の仕組みを理解しておくことは、MHCと疾患の関連やアレルギー・自己免疫病の発症メカニズム、そして移植免疫の仕組みとその制御法を知る上でどうしても必要です。また、皆さんに個別の事実の記憶でなく、論理的な思考による現象の説明を訓練して頂く点でも、この週の学習内容は役に立つと信じます。

5) 行動目標とその解説

 以下の行動目標は、テュートリアルと講義・実習の全体を通じて達成されるものです。テュートリアルの時間内のみで、これら行動目標の全てをカバーしようとする必要はありません。

 第6週の行動目標

  1.  免疫グロブリンの主要なクラスの名前を血清中の濃度が高い順に言え、それぞれの分子構造の違いをドメインモデルを用いて説明出来る。
  2.  免疫グロブリン分子の重鎖と軽鎖、抗原結合部位、Fc部分、可変部と定常部を、図を描いて説明出来る。
  3.  抗体分子によるウイルス中和の複数のメカニズムを説明出来る。
  4.  分泌型 IgAの構造上の特徴、secretory component (Sc) の由来、粘膜免疫に果たすIgAの役割を説明出来る。
  5.  抗体のエフェクター機能を担う補体の活性化機構と、補体による細胞膜傷害のしくみを簡単に説明できる。
  6.  補体の活性化が炎症反応に結びつくしくみを、「アナフィラトキシン」をキーワードとして説明出来る。
  7.  Fcレセプターに細胞機能を活性化するものと抑制するものがあることを、その分子構造の違いから説明出来、抑制性レセプターの存在意義を言える。
  8.  免疫グロブリン分子の多様な抗原特異性が、遺伝子断片の再構成によって創られることを簡単に説明でき、クラススイッチの分子機構を略図を描いて説明出来る。
  9.  ABO式血液型抗原の分子実体と、自分の持たない血液型抗原に対する自然抗体が作られる仕組みを説明出来る。

 第6週の行動目標の解説

1. 免疫グロブリンの主要なクラスの名前を血清中の濃度が高い順に言え、それぞれの分子構造の違いをドメインモデルを用いて説明出来る。

  ヒト血清中の免疫グロブリンは、その濃度の順に IgG, IgA, IgM, IgD, IgEの5つのクラスに分類されます。IgGにはIgG1〜IgG4の4つのサブクラスが、IgAにはIgA1, IgA2の二つのサブクラスがあり、分子構造と機能(補体活性可能やFcレセプター結合能)に差を認めます。
 免疫グロブリン分子は100〜110アミノ酸残基からなるドメイン構造の繰り返しにより構成されており、各ドメインはβ-シート構造が逆平行に重なり合うことにより、全体として球状の立体構造を形成しています。ドメインの反復回数は免疫グロブリンのクラスによって異なり、これによってクラス毎の機能の違いを生じるとともに、進化上の対応関係も推測できます。

2. 免疫グロブリン分子の重鎖と軽鎖、抗原結合部位、Fc部分、可変部と定常部を、図を描いて説明出来る。

 教科書に詳細な記載がありますので、説明の必要はないと思います。可変部と定常部の存在は、抗原結合能の多様性と機能の共通性を繋ぐ大切な分子構造上のポイントです。

3. 抗体分子によるウイルス中和の複数のメカニズムを説明出来る。

 講義で説明しますが、抗原と抗体の結合を立体的な分子間相互作用として把握することと、一つの抗体分子に複数の抗原結合部位が存在することの意義を理解することの両方を求めています。「ウイルスの中和」と言う現象は、ウイルス粒子の細胞側レセプターへの結合の立体阻害、補体活性化によるウイルス被膜の破壊、Fcレセプターを介する貪食の促進、粒子凝集によるヒットネスの減少など、複数の機構を介して起こります。体内で生体防御分子がどのように機能しているか、分子レベルの実体を把握するのが目的です。

4. 分泌型 IgAの構造上の特徴、secretory component (Sc) の由来、粘膜免疫に果たす IgAの役割を説明出来る。

 分泌型 IgAは二量体で、Scが付着しています。二量体 IgAを作るのはBリンパ球に由来する抗体産生細胞(プラスマ細胞)ですが、Scは粘膜の上皮細胞で作られます。実際にはScは上皮細胞の持つ一種のFcレセプターであるpoly Ig receptorの断片です。粘膜固有層で抗体産生細胞によって作られた IgAは、上皮細胞の poly Ig receptorに結合して基底側から頂上側へと運ばれます。上皮頂上側でpoly Ig receptorが部分的に切断され、Sc断片を結合したままで IgAが上皮細胞を離れ、粘液中に分泌されます。

5. 抗体のエフェクター機能を担う補体の活性化機構と、補体による細胞膜傷害のしくみを簡単に説明できる。

 補体の活性化機構は古典的な免疫学の教科書にも詳しく説明されています。最近分子レベルで明らかになった重要なポイントは、初期補体成分の断片が細胞膜表面に共有結合により固定されるしくみです。また、膜侵襲複合体(membrane attack complex: MAC)については、分子構造と機能が細胞傷害性Tリンパ球のパーフォリンと似ていることを指摘する必要があります。
 補体はもともと、常時自然に活性化されていること、補体の自然活性化が過剰に進むのを抑制するしくみが血清中にも細胞側にも存在すること、特に膜侵襲複合体は自己細胞を傷害することがないようになっていること(CD59の機能)を理解することも大切です。

6. 補体の活性化が炎症反応に結びつくしくみを、「アナフィラトキシン」をキーワードとして説明出来る。

 医学的に非常に重要なのは、補体の活性化により、抗原特異的な免疫反応が非特異的な炎症反応と結びつくことです。ここでカギとなる物質がアナフィラトキシンです。アナフィラトキシンと総称される補体成分の断片は複数あります。どれが一番強力でしょうか?また、補体の活性化は体外循環時の肺組織傷害など、病気のしくみも説明します。

7. Fcレセプターに細胞機能を活性化するものと抑制するものがあることを、その分子構造の違いから説明出来、抑制性レセプターの存在意義を言える。

 Fcレセプターの構造と機能は最近明らかになった重要なポイントで、多くの教科書で記載が間違っていたり不十分だったりします。Fcレセプターを介する細胞機能の活性化は昔から知られていますが、最近特に重要性が増しているのは、抑制性レセプターに関する理解です。抗体産生がどのようにして終息するか、抑制性レセプターの存在によって初めて明確に説明出来るようになりました。

8. 免疫グロブリン分子の多様な抗原特異性が、遺伝子断片の再構成によって創られることを簡単に説明でき、クラススイッチの分子機構を略図を描いて説明出来る。

 現代免疫学の最も輝かしい成果であるとともに、分子生物学の一つのハイライトでもあります。「遺伝子再構成」の細かい分子機構を「憶える」必要は一切ありません。これまでに一度も出会ったことのない抗原構造に対しても、予め体内に抗体が準備されていることを理解し、全宇宙の全ての抗原構造を認識可能なほど多様なレセプターの構造が、遺伝子断片のランダムな組み合わせで作られる事実の巧妙さを感嘆して貰えれば良いのです。
 多様なレセプターが予め用意されていることを理解すれば、当然「クローン選択」の概念に行き着きます。また、抗原特異性を維持したまま抗体のクラスが変わる「クラススイッチ」のしくみは、行動目標 1.)と 2.)で学んだ免疫グロブリンの分子構造にそのまま反映されています。

9. ABO式血液型抗原の分子実体と、自分の持たない血液型抗原に対する自然抗体が作られる仕組みを説明出来る。

 ABO式血液型については、以前のコースでも取り上げられています。ここで問題にしたいのは、一度も輸血や移植を受けたことのない人でも、その血清中に自分とは異なる血液型の抗原に対する「自然抗体」と持っているという事実です(血清型)。これは何故でしょう?ヒトの血液型糖鎖と同じような構造を持った多糖類が、消化管の常在細菌叢にも、環境中の微生物抗原中にも存在するからです。→「わかる!独説免疫学」を見よ

 第7週の行動目標

  1. MHCクラス I分子による抗原提示のしくみを、簡単な図を描いて説明出来る。
  2. CD4陽性Tリンパ球とCD8陽性Tリンパ球による抗原認識機構の違いを説明出来る。
  3. MHC遺伝子に多重性と多型性が存在する理由を、個体の維持と種の進化の両立の観点から説明できる。
  4. Th1細胞とTh2細胞の産生する代表的なサイトカインを二つずつ挙げることが出来、両者の誘導する免疫反応の違いを説明出来る。
  5. 胸腺におけるT細胞レセプターのポジティブセレクションとネガティブセレクションの結果、自己反応性T細胞の除去と「MHC拘束」が生じることを説明出来る。
  6. 上記5の結果として、同種移植片に対しては強いTリンパ球の反応が起こることを説明出来る。
  7. アレルギー反応のしくみを、従来の4分類に基づいて説明出来、同時にこの4分類の問題点も指摘できる。
  8. 共通γ鎖の遺伝子異常が重症複合型免疫不全症候群の発症に結びつく理由を説明出来る。

 第7週の行動目標の解説

1. MHCクラス I分子による抗原提示のしくみを、簡単な図を描いて説明出来る。

 Tリンパ球は、個体内のすべての細胞が単一の受精卵に由来する同一ゲノムを持ち続けているかどうかを監視しています。生きた細胞のゲノムを細胞外から監視するしくみがMHC class I分子による抗原提示です。
 細胞内で合成された蛋白質は一方でプロテアソームにより分解を受けています。蛋白質の分解によって生じたペプチドはTAPトランスポーターにより小胞体内腔に運ばれ、MHC class I分子に結合して細胞表面へと運ばれます。Tリンパ球は、ペプチドの結合したMHC class I分子の構造をT細胞レセ     プターで認識します。

2. CD4陽性Tリンパ球とCD8陽性Tリンパ球による抗原認識機構の違いを説明出来る。

 CD4陽性Tリンパ球はMHC class II分子上のペプチドを認識し、CD8陽性Tリンパ球はMHC class I分子上のペプチドを認識します。CD4陽性Tリンパ球には、サイトカイン産生を通じて他のリンパ球やマクロファージ・NK細胞などの機能を調節する働きが目立ち、CD8陽性Tリンパ球には細胞傷害性T細胞としての働きが目立ちます。

3. MHC遺伝子に多重性と多型性が存在する理由を、個体の維持と種の進化の両立の観点から説明できる。

 「多重性」(multiplicity)とは、単一の細胞が複数のMHC class I及びMHC class II遺伝子産物を同時に発現していることです。一方「多型性」(polymorphism)とは、単一のMHC遺伝子座に同一種を通じて複数の対立遺伝子が見出されることを言います。
 外来抗原に対して強い免疫反応を起こせるか否かはMHC遺伝子の型によって遺伝的に決まります。外来抗原由来のペプチドがMHC分子に結合出来なかったり、結合しにくい場合、あるいはその「外来抗原ペプチド+MHC」の構造が「自己抗原ペプチド+MHC」の構造と区別できない場合などは、その抗原に対するTリンパ球の反応が起こりません(免疫応答遺伝子現象)。MHC遺伝子に多重性があるのは、一つの個体内でT細胞が認識可能なペプチドの種類を増やすためと考えられます。また、種内での多型性は、どんな抗原構造に対しても少なくとも少数の個体は反応できるようにして、全体として種を維持しているのだと理解出来ます。

4. Th1細胞とTh2細胞の産生する代表的なサイトカインを二つずつ挙げることが出来、両者の誘導する免疫反応の違いを説明出来る。

 Th1タイプのサイトカインとしては TNF-α, INF-γ, IL-2などが、Th2タイプのサイトカインとしてはIL-4, IL-5, IL-10などが挙げられます。一部の教科書にTh1を「炎症性T細胞」、Th2を「ヘルパーT細胞」と記載しているものがありますが、科学界で一般的に受け容れられた表現ではありませんし、誤解を招きやすいので、この表現を使わないようにして下さい。

5. 胸腺におけるT細胞レセプターのポジティブセレクションとネガティブセレクションの結果、自己反応性T細胞の除去と「MHC拘束」が生じることを説明出来る。

 MHC分子は、細胞内で合成され、或いは外部から細胞内に取り込まれた蛋白質の構造サンプルを細胞表面に提示する「お皿分子」であり、Tリンパ球はこのお皿とその上に載せられたペプチドの構造を全体として認識します。Tリンパ球が胸腺で分化する際、自分のお皿に載ったペプチドを認識するようなレセプターを持った細胞だけが増殖出来(正の選択)、その中で自己の正常構成成分由来のペプチドを認識するレセプターを持った細胞は排除される(負の選択)ことにより、最終的に末梢Tリンパ球の「レパトア」が形成されます。

6. 上記5の結果として、同種移植片に対しては強いTリンパ球の反応が起こることを説明出来る。

Tリンパ球から見ると、同種異系細胞はウイルスに感染した自己細胞と区別できないのです。

7. アレルギー反応のしくみを、従来の4分類に基づいて説明出来、同時にこの4分類の問題点も指摘できる。

 アレルギー反応の4分類は医師国家試験出題基準にも出ていますが、現代免疫学の成果に立つと問題点も含まれています。
 II型アレルギー反応は、実際には生体内ではほとんど起こりません。特に、ADCC(抗体依存性細胞介在性細胞傷害反応)と呼ばれている現象に、生体内での意義があるかどうかは大いに疑問とされています。また、III型アレルギー反応は単独では起こり得ず、必ず引き金としてI型に相当する反応が必要であることが、遺伝子ノックアウト実験で証明されています。

8. 共通γ鎖の遺伝子異常が重症複合型免疫不全症候群の発症に結びつく理由を説明出来る。

 先天性免疫不全症候群については、講義で詳しく述べます。3年生のコースでも繰り返し出て来ますので、ここではサイトカインレセプターを介するシグナル伝達の理解を試したいと思います。

6) レポートと症例発表会

 週の事例・症例に関し、金曜日2時限目の自習時間内に「症例の全体像(グループとしての解釈)」と「この例から学んだこと」を盛り込んだ短いレポ−トを、各グループで一つ作製して下さい。レポ−トはA4版1〜2枚とし、グル−プごとに、金曜日の午後6時迄に免疫学講座教授室へ提出して下さい。このレポ−トは症例発表会におけるディスカッションと補足説明に活用します。
 土曜日の1時限目には、予め選ばれた代表グル−プがその週の症例の学習内容を発表します。発表会は学生がOHPシートを使って行います。発表に使うOHPシートは、原稿を持参すれば免疫学講座で作成します。

7)参考書

 このコースでは特に教科書は指定しません。講義に当たって毎回詳細なプリントを配布し、講義内容がテュートリアルの症例や実習のテーマと密な連携を保つよう配慮しているので、必ず講義に出席しその内容を理解するよう努めて下さい。参考書としては以下に挙げるものがありますが、この分野の進歩は早く、古い教科書には現在では間違であることが明らかな理論や実験結果が記載されているので、この点でも講義で最新の知識に触れることが重要です。

 1)Charles A. Janeway, Jr. and Paul Travers: Immunobiology, The Immune System in Health and Disease, 4th Edition.  Current Biology Ltd., London. (この教科書は大変優れており、最新の知識を一貫したスタイルでわかりやすく記載しています。但し、Fcレセプターに関する記述など、最近の進歩が速い部分では理解が間違っているところもあるので、講義を注意して聞いて下さい 。)

 2)笹月健彦 監訳: 免疫生物学 免疫系の正常と病理 第3版、南江堂 (上記の訳書ですが、翻訳によって却って分かり難くなっている部分もあります。)

 3)澤井高志・内藤 眞・名倉 宏・八木橋操六 編: エッセンシャル病理学 第5版、医歯薬出版 (病理学の教科書ですが、その炎症・免疫・感染症・アレルギーに関する部分は生体防御学のエッセンスを上手く盛り込んでいます。第5版の「免疫とアレルギー」及び「感染症」の章は、宮澤が新たに執筆して、全面的に稿を改めました。)

 4)山本一彦 編: 自己免疫疾患 (New メディカルサイエンスシリーズ)、羊土社 (これ自体が、最新の免疫学の教科書として使える内容を持っています。テュートリアル室に備えられています 。)

 5)平野俊夫 編: 免疫の仕組みと疾患(イラスト医学&サイエンスシリーズ)、羊土社 (最新の研究成果をヴィジュアルに纏めてあり、特に病気との関係が理解し易くなっています。)

 6)Marc Da ron: Fc receptor biology.  Annu. Rev. Immunol. 15:203-234, 1997.(Fcレセプターに関する最新の知識はこれを参考にして下さい。)

 7)山村雄一、岸本忠三、R. A. Good 編: 岩波講座・免疫科学9 免疫と病気 I、岩波書店 (やや旧い本ですが、先天性免疫不全症候群の基本的な考え方や分類・病態はこれで分かります。発症メカニズムについては記述が旧いので、最新の知識は講義から得てください。)

 7)東野英明・宮澤正顕 他編著: 医学生のための薬理学、南山堂 (薬理学の教科書ですが、「免疫抑制薬・抗アレルギー薬・抗リウマチ薬」の章には、免疫学の基本知識と免疫応答の薬物による制御のしくみを、最新の知識に基づいて纏めてあります。)

8)事例・症例解説

 第6週の事例

 9歳の男児。生後10日目に鎖肛のため肛門形成術を受けている。
 母親が黄疸に気付き市立総合病院に入院、肝炎と診断を受けたが、安静により肝機能が回復し一旦退院。入院中とその後の血液検査で、血液型が Aであること、C-型肝炎ウイルスに対する抗体が陽転(陰性から陽性に変わること)したことが明らかとなる。

 退院の2週間後、四肢に「うちみ」のような出血斑が出現、血液検査で著しい貧血があり、大学病院小児科に転院。複数の免疫抑制薬による前処置後、HLAの遺伝子型が完全に一致した姉(血液型 O型)から骨髄移植を受ける。

 移植の2週間後から血清中に抗 A型抗体が急速に出現、これとともに末梢血中の A型赤血球が急速に消失し、移植3週間後には殆どの赤血球が O型となった。また、骨髄細胞の染色体分析で、核型は46,XXとなった。

 事例における行動目標

  1. 肝炎が、ウイルスに感染したり薬剤により修飾された肝細胞に対する免疫反応によって起こることを説明出来る。
  2. ABO式血液型抗原の分子実体と、自分の持たない血液型抗原に対する自然抗体が作られる仕組みを説明出来る。 (週の行動目標 9)
  3. 「抗体陽転」とはどのようなことか説明出来る。
  4. 「出血斑を伴う貧血」に対する治療として、骨髄移植を行った理由が推測できる。
  5. 移植後に出現した抗A型抗体が、誰由来のどの細胞から作られたか説明出来る。
  6. 抗A型抗体の出現に伴って末梢血液型が急速に入れ替わったしくみを説明出来る。

 行動目標達成のため抽出すべきキーワード:

鎖肛と肛門形成術 鎖肛とは?どのような手術を行った?その後の病気との関係は?
血液型 血液型とは?血液型抗原の実体は?自分の血液型は何だろう?
抗体の陽転 感染に伴って、それまで陰性だった抗体が陽性に変わった。その意味は?
出血斑と著しい貧血 赤血球だけでなく、血小板も減少していることに気が付くか?本例は「(肝炎後)再生不良性貧血」
HLAの遺伝子型 これについては次週に詳しく学習する
姉はO型 姉の血液中に元々存在した自然抗体は何型に対するもの?O型の人からA型の人に移植をするのは問題ない?
抗A抗体の出現 この抗体はどこから(誰の細胞から)作られた?
A型赤血球の消失 消えた赤血球はどこでどのように処理された?

 

 事例の解説

 肝炎後再生不良性貧血に対してHLA-identicalな同胞から骨髄移植を行ったが、後に移植片対宿主病を発症して死亡した小児例です。移植片対宿主病については、次週の事例として呈示します。

 9歳の男児。生後10日目に鎖肛のため肛門形成術を受けている。母親が黄疸に気付き市立総合病院に入院、肝炎と診断を受けたが、安静により肝機能が回復し一旦退院。入院中とその後の血液検査で、血液型が Aであること、C-型肝炎ウイルスに対する抗体が陽転(陰性から陽性に変わること)したことが明らかとなる。

 「抗体陽転」が、感染時期を特定する指標になることに気づいて下さい。この症例で、C-型肝炎ウイルス感染のきっかけが何であったかは不明です。一般的な感染経路について調べ、討論して下さい。

 退院の2週間後、四肢に「うちみ」のような出血斑が出現、血液検査で著しい貧血があり、 大学病院小児科に転院。複数の免疫抑制薬による前処置後、HLAの遺伝子型が完全に一致した姉(血液型 O型)から骨髄移植を受ける。

 「再生不良性貧血」であることに気がつくかどうかです。出血斑の出現と貧血から、汎血球減少があることが推測できます。「骨髄移植が治療法として選択される貧血とは何か?」と、逆に考えて行くと良いと思います。「HLAの遺伝子型」については、次週に詳しく解説します。移植の場合にHLAを調べることの意義を理解すれば十分なので、HLA遺伝子の構成や機能について深入りすることは避けて下さい。
 ドナーとレシピエントの血液型が異なることに気付きましたか?この点があとで重要になります。

 移植の2週間後から血清中に抗 A型抗体が急速に出現、これとともに末梢血中の A型赤血球が急速に消失し、移植3週間後には殆どの赤血球が O型となった。また、骨髄細胞の染色体分析で、核型は46,XXとなった。

 抗A型抗体は誰由来の細胞が作ったのでしょうか?また、抗体の出現に伴ってA型赤血球が急速に消失した際、体内で何が起こっていたのでしょうか?
 移植した骨髄には、たくさんのBリンパ球が含まれていたのです。骨髄がBリンパ球(と形質細胞)に富んでいることは、漫然と免疫学の教科書を読んでいると意外に気がつかない盲点です。A型赤血球が補体で破壊されたと考える学生さんはいませんか?補体は意外にも、自己細胞の傷害には働かないのです。その理由は週の行動目標5.でも解説してあります。
 自己免疫性溶血性貧血や胎児赤芽球症に関する旧い教科書の記述で、補体が活性化して自己赤血球膜を破壊する(溶血を起こす)ような記載がある場合がありますが、それは事実とは異なります。実際には、Fcレセプターを介する貪食の役割が重要です。

 第7週の事例

 前週の事例のその後。

 骨髄細胞の核型が46,XXとなり、「HLAの遺伝子型が完全に一致したお姉さんの細胞が上手く骨髄に定着したのですよ」と説明と受けた。ところが、移植1ヶ月後から全身の皮膚に赤い発疹が出現、生検の結果「移植片対宿主病の疑い」と診断された。

 その後間もなく、激しい下痢とこれに伴う低蛋白血症を合併、副腎皮質ステロイド薬を投与するも皮疹と下痢は消長を繰り返し、白血球数も減少、移植8ヶ月後には突然の発熱とけいれんが起こり、昏睡状態に陥った。懸命の治療により移植後1年半まで生存するも、意識障害は持続、最後は尿路感染症を伴い、無尿となって死亡された。

 病理解剖の結果、全身のリンパ組織は著明に萎縮してBリンパ球が消失、消化管粘膜に は多数のTリンパ球が浸潤していた。また、肝臓には胆管の破壊と胆汁鬱滞の所見が見られ、脾臓は腫大していた。一方、胸腺には極端な萎縮所見が見られた。

 事例における行動目標

    1. MHC遺伝子産物が何故「移植抗原」として認識されるかを説明出来る。
    2. MHCの多型性とはどのようなことか、「対立遺伝子」という言葉を用いて説明出来る。
    3. 主要なHLA遺伝子座の染色体上の配列を、模式図に描いて説明出来る。
    4. 移植片の拒絶と移植片対宿主病の違いを説明出来る。
    5. 胸腺におけるT細胞レセプターのポジティブセレクションとネガティブセレクションの結果、自己反応性T細胞の除去と「MHC拘束」が生じることを説明出来る。 (週の行動目標 5)
    6. 上記5の結果として、同種移植片に対しては強いTリンパ球の反応が起こることを説明出来る。 (週の行動目標 6)
    7. 副腎皮質ステロイド薬が用いられた理由を説明出来る。
    8. 消化管粘膜に浸潤したTリンパ球が誰に由来するものか推測できる。

 行動目標達成のため、事例から抽出するべきキーワード:

HLAの遺伝子型 HLAの遺伝子型が一致するとはどういうことか?
皮疹の出現 何故、どのようにして皮膚に炎症反応が起こったか?
下痢 下痢が起こった理由は?消化管粘膜にはどのような病変を生じていた?
副腎皮質ステロイド薬 その作用点は?投与の目的は?
移植片対宿主病 そのメカニズムは?移植片中のどの細胞が宿主細胞の何を認識する?
リンパ組織の萎縮 何故Bリンパ球が消失した?
胆管の破壊 移植片対宿主病との関係は?
胸腺の萎縮 移植片対宿主病の原因か結果か?

 事例の解説

 骨髄細胞の核型が46,XXとなり、「HLAの遺伝子型が完全に一致したお姉さんの細胞が上手く骨髄に定着したのですよ」と説明と受けた。
 ところが、移植1ヶ月後から全身の皮膚に赤い発疹が出現、生検の結果「移植片対宿主病の疑い」と診断された。

 移植片対宿主病(GVHD)には急性型と慢性型があります。移植後1ヶ月以内に出現する皮疹やタンパク漏出性の下痢は、典型的な急性GVHDの所見です。皮膚生検では表皮内へのリンパ球浸潤と角化細胞のアポトーシスがGVHDに特徴的な所見とされます。最近は、浸潤リンパ球DNAのドナー由来遺伝子型をPCRによって検出し、確定診断をすることも出来ます。

 その後間もなく、激しい下痢とこれに伴う低蛋白血症を合併、副腎皮質ステロイド薬を投与するも皮疹と下痢は消長を繰り返し、白血球数も減少、移植8ヶ月後には突然の発熱とけいれんが起こり、昏睡状態に陥った。懸命の治療により移植後1年半まで生存するも、意識障害は持続、最後は尿路感染症を伴い、無尿となって死亡された。

 慢性GNHDへの移行です。慢性GVHDでは消化管・骨髄・肝臓・中枢神経系など、多臓器が標的となります。この症例におけるGVHDの発現については、病理組織標本を詳細に提示して解説します。後半は、免疫抑制療法の副作用が前面に出て来ています。 

 病理解剖の結果、全身のリンパ組織は著明に萎縮してBリンパ球が消失、消化管粘膜には多数のTリンパ球が浸潤していた。また、肝臓には胆管の破壊と胆汁鬱滞の所見が見られ、脾臓は腫大していた。一方、胸腺には極端な萎縮所見が見られた。

 これらの所見がGVHDと一致するかどうか、何故このような病変が起こるのかを考えて下さい。

9) ホームページへのリンク

近畿大学医学部ホームページ
免疫学教室ホームページ
実習マニュアル
ELISA法による未知蛋白質の定量
脾細胞の分離と蛍光セルソーター(FACS)による表面マーカーの解析

便利なリンク集
免疫学教室へのメール: mailto:immunol@med.kindai.ac.jp

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