テュートリアル Unit 7 「病因・病態 I」

第2週 抗原提示とTリンパ球による認識
(平成18年11月27日〜12月 2日)

  2006年 4月13日

目 次

重要!: 「事例の行動目標」は、コースガイドから変更されています

週の担当教員 週の教育目標 週の時間割 事例とその解説
事例発表会 参考書 ホームページへのリンク

 週の担当教員名簿・連絡先

Unit 主任: 宮澤 正顕 (免疫学教室、教授)

週担当教員、実習指導担当者:

宮澤 正顕 (免疫学教室 教授、内線 3265)
松村 治雄 (免疫学教室 講師、内線 3267)
河原 佐智代 (免疫学教室 講師、内線 3267)
金成 安慶 (免疫学教室 助手、内線 3267)

梶原 栄二 (免疫学教室 研究員、内線 3267)
北口 大輔 (免疫学教室 研究員、内線 3267)
武田 英理 (免疫学教室 研究員、内線 3267)

 週の教育目標 :
 週の一般目標

 高等多細胞生物の免疫系は、個体を構成するすべての細胞が一個の受精卵に由来する同一ゲノムを保持するよう監視していること、ウイルス感染細胞の排除や移植片の拒絶は、その当然の帰結であることを理解する

 週の行動目標 (赤の文字は去年から変更された目標)

 
  1. MHCクラスI分子による抗原提示のしくみを、簡単な図を描いて説明できる。
  2. CD4陽性Tリンパ球とCD8陽性Tリンパ球による抗原認識機構の違いを説明できる。
  3. 樹状細胞の分化と活性化の過程を、その抗原提示機能との関わりから説明できる。
  4. MHC遺伝子に多重性と多型性が存在する理由を、個体維持と種の進化の両面から説明できる。
  5. Th1細胞とTh2細胞の産生する代表的なサイトカインを二つずつ挙げることができ、両者の誘導する免疫反応の違いを説明できる。
  6. 抗体産生の誘導とクラススイッチにおけるヘルパーT細胞の役割を、ウイルス感染症を例に説明できる。
  7. 胸腺におけるT細胞レセプターの正の選択と負の選択により、自己反応性Tリンパ球の除去と「MHC拘束」が生じることを説明できる。
  8. 上記7.の結果として、同種移植片に対して強い免疫反応が起こることを説明できる。
  9. 共通γ鎖の遺伝子異常が、重症複合型免疫不全症候群の発症に結びつく理由を説明できる。

 週の時間割表
 (12月 5日〜10日)

日付

12月 5日(月)

12月 6日(火) 12月 7日(水) 12月 8日(木) 12月 9日(金) 12月10日(土)
1時限目

9:00〜10:00:
テュートリアル
10:00〜10:30:
自習

講義 14
胸腺とTリンパ球の分化
(宮澤)

9:00〜10:00:
テュートリアル
10:00〜10:30:
自習

講義 19
MHC拘束と免疫応答遺伝子現象
(宮澤)

9:00〜10:00:
テュートリアル
10:00〜10:30:
自習

自習
(宮澤)
2時限目 医学英語
(松村)
講義 15
抗原提示とTリンパ球の活性化
(宮澤)
自習
(宮澤)
講義 20
MHCと疾患感受性
(宮澤)
自習
(宮澤)
週末試験
3時限目

講義 13
MHCとTリンパ球による抗原認識
(宮澤)

講義 16
サイトカイン入門
(松村)
実習 3
ヒト末梢血リンパ球の分離と計数
実習 4
FACSによる細胞表面抗原の検出と陽性細胞の計数

事例発表・討論
(宮澤)

4時限目

講義 14
Tリンパ球抗原レセプターとその遺伝子
(宮澤)

講義 17
Tリンパ球のエフェクター機能とT-B細胞間相互作用
(松村)
実習 3
ヒト末梢血リンパ球の分離と計数
実習 4
FACSによる細胞表面抗原の検出と陽性細胞の計数
講義 21
移植免疫と腫瘍免疫 
(宮澤)

 

事例

 事例における行動目標

上記週の行動目標のうち、1〜3と8

 事例の解説

 事例1
 弟のアレルギー性結膜炎がすっかり良くなって、安心していた近畿太郎君のところに、従兄弟から電話がかかってきました。従兄弟は以前から「円錐角膜」があり、コンタクトレンズをしていたのですが、角膜が混濁してきたので移植を受けるというのです。思わず「誰の角膜を貰うの?」と尋ねた太郎君に、従兄弟は「アイバンクに登録している方が亡くなると、その人の角膜を貰えるんだよ」と教えてくれました。どこのどなたかわからないアイバンクの登録者から角膜の移植を受けて、拒絶反応は起こらないのだろうかと、太郎君は大変不思議に感じました。

 キーワード (学生に挙げて欲しかったもの)

 □ 円錐角膜
 □ アイバンク
 □ 角膜移植
 □ ドナー
 □ 拒絶反応

 学生の討論を促すための質問例

 1. アイバンクって知ってる?
 2. アイバンクのホームページを調べてみたら?
 3. 誰か知り合いや親戚に角膜移植を受けた人はいる?
 4. 角膜移植って、どうやってやるのだろう?
 5. 拒絶反応って何?

 事例のねらいと解説
 今週は、Tリンパ球による抗原認識と免疫応答の調節機構を学びます。事例は先週に続いて近畿太郎君を主人公にしました。抗原特異的なTリンパ球の活性化には、抗原提示細胞の機能が不可欠ですが、それを学ぶのに最も良いモデルが移植片の拒絶反応です。今週の事例では、抗原提示細胞がどのようにしてリンパ節に移動し、自らの提示する抗原を認識できるTリンパ球と出会うかを、角膜や皮膚の移植を例に考えて行きます。
 事例1では、いきなり「円錐角膜」という眼科の疾患が出てきますが、これに深入りする必要はありません。円錐角膜は、本来半球面であるはずの角膜の一部が、不整に突出する疾患で、眼球のレンズ機能の大半を担う角膜が本来の役割を果たせなくなるため、視力に障害を生じます。中等度までの突出例はコンタクトレンズにより矯正が可能ですが、重症例では徐々に角膜の混濁を伴うようになり、移植が必要となります。角膜移植の適応疾患には、他に角膜白斑、角膜変性症、水疱性角膜炎などがありますが、今回は炎症反応などの少ない状態で角膜移植が行える円錐角膜を事例としました。
 角膜は昔から、免疫系による認識を免れた「隔絶抗原(immune previleged site)」であるとされ、MHCの一致しない第三者から移植を行っても、拒絶反応が殆ど起こらないことで知られてきました。実際、他の臓器の移植と異なり、角膜移植ではヒトMHC(HLA)の遺伝子型と拒絶反応との間に、明確な相関関係は知られていません。このため、死体からの角膜移植は1928年以来多数が行われるようになり、現在米国においては年間4万件以上が実施されています。技術的にも確立された手法で、単純な移植だけであれば手術は1時間程度で終わり、患者は術後1〜2週間で視力を回復します。我が国のアイバンクには、現在二万人以上の献眼登録者があり、年間およそ800名が実際に献眼、1,500個の眼球が移植に利用されていますが、それでも4,000名以上の患者が移植待機状態にあります。大阪アイバンク協会のホームページには、患者さんや献眼者遺族の手記なども載っていますので、適宜参照して、認識を持って下さい。
 勿論、今週の事例の主要目的は移植片の拒絶のしくみを学ぶことですので、角膜移植やアイバンクについてある程度考えた後は、「そもそも拒絶反応とは何だろう?」と、自主学習の方向を免疫学的事項に向けて下さい。水曜日までに、学生たちが拒絶反応のしくみに関する基本的な知識を持ってくれることが目標です。

 事例2

 太郎君は先ず、教科書で皮膚移植のことを調べてみました。一卵性双生児間を除き、同種の個体間で皮膚を移植すると、必ず拒絶反応が起こるようですが、移植をしてから拒絶反応が起こるまでには、10日間ほどの時間がかかるようです。また、一旦拒絶反応が起こった後、同じドナーからもう一度皮膚移植をすると、今度は数日で拒絶されてしまうこともわかりました。太郎君は、移植をしてから拒絶が起こるまでの間に、レシピエントの体内で何が起こっているのだろうと考えました。

 キーワード (学生に挙げて欲しかったもの)

 □ 皮膚移植
 □ 一卵性双生児
 □ 同種
 □ 拒絶反応
 □ ドナー
 □ レシピエント

 学生の討論を促すための質問例

 1. 臓器移植の時、拒絶反応を防ぐためにどんなことをするのだろう?
 2. 腎臓や肝臓の移植は盛んに行われているのに、皮膚の移植が難しいのは何故だろう?
 3. 最初の移植と、同じドナーからの二回目の移植で、拒絶の速さが違うのは何故だろう?
 4. 移植をするとき、手術でどこを繋ぐの?
 5. 移植片が「生着する」とは、組織学的にはどういうこと?

 事例のねらいと解説
 火曜日までの講義で、学生たちは抗原提示細胞との相互作用によるTリンパ球活性化の機構を、細胞レベルでは理解します。しかし、実際に体内でTリンパ球の活性化が起こるためには、抗原提示細胞がリンパ節に移動し、自らが提示する抗原ペプチドと反応するナイーブTリンパ球と接触しなければいけません。移植片の拒絶においては、移植片中にレシピエントの抗原提示細胞が侵入し、そこから移植抗原をリンパ節に持ち込むか、移植片そのものに元々存在するドナーの抗原提示細胞が、レシピエントのリンパ節に到達することが必要です。
 皮膚には、元々高い抗原提示能を持つprofessionalな抗原提示細胞が多数常在しています。それは表皮細胞間に存在するランゲルハンス細胞や、真皮の樹状細胞・マクロファージです。これらの細胞は、「常在している」と言っても、皮膚組織中に固定されていて動かないわけではなく、常時血管とリンパ管を通ってリンパ組織との間を往き来しています。即ち流血中の「単球」には、ランゲルハンス細胞や樹状細胞の前駆細胞が含まれており、これらの細胞は真皮の小血管から遊出して表皮に侵入し、あるいは真皮内に分布して、ランゲルハンス細胞や樹状細胞へと分化します。炎症刺激や異物の侵入が起こると、表皮のランゲルハンス細胞や真皮の樹状細胞はリンパ管に流入し、所属リンパ節に到達してTリンパ球と相互作用を営みます。実際、皮膚に紫外線による刺激をおこなうと、十数時間のうちに表皮のランゲルハンス細胞が激減しますが、これはこの細胞がアポトーシスに陥るなどして失われるのではなく、表皮から真皮に遊走し、リンパ管に入っていくのが主な原因であることが証明されています。
 皮膚移植を行うと、数日のうちに、移植片の血管やリンパ管がレシピエント組織の血管・リンパ管と繋がります。血管内皮細胞をお互いに接着させている細胞表面の分子には、同じ種の中で個体間の構造の違い(多型性)はないので、他人の皮膚を移植されても、血管が繋がらないと言うことは起こりません。しかし、移植片とドナーの間で血管が繋がっても、直ちに拒絶反応が起こるわけではありません。このことから、拒絶の原因になるエフェクター機構は、レシピエントの体内に予め存在しているもの(例えば抗体など)ではないことがわかります。
 移植片とレシピエントの血管・リンパ管が繋がると、移植片中のランゲルハンス細胞や樹状細胞がリンパ管に遊走し、所属リンパ節に入ります。同種異系(同じ種に属する別の家系の個体)のMHC分子同士は、Tリンパ球抗原レセプターに結合する骨組みの構造は共通で、ペプチド結合溝周辺のアミノ酸配列が違っています。これをTリンパ球の側から見ると、まるで非自己のペプチドを載せた自己MHC分子とそっくりに見えます。このため、同種異系のMHC分子に対しては複数クローンのTリンパ球が同時に反応します。こうしてリンパ節で活性化されたTリンパ球は、増殖してクローンを拡大し、エフェクターT細胞へと分化します。分化したエフェクターT細胞は、接着分子やケモカインレセプターの発現パターンが変わり、リンパ節を離れて末梢血中を流れていきます。そして、移植の行われた場所に近づくと、その部で起こっている組織傷害・炎症反応に引き寄せられて血管を離れ、組織中にと遊出するのです。こうして移植片中に浸潤したエフェクターT細胞が移植片を破壊し、これが拒絶反応として認識されます。実際には、MHC分子を強く発現している血管内皮細胞の傷害が引き金となって、血管壁の破壊が起こり、血栓の形成を伴って血流障害を生じることが、移植片が壊死に陥る最大の理由と考えられます。
 移植片とレシピエント組織の間で血管やリンパ管が繋がるのに数日かかり、リンパ節に流れ込んだドナー由来の抗原提示細胞によってTリンパ球が活性化され、クローンの拡大とエフェクター細胞の分化が起こるのに更に数日〜一週間がかかります。これが、最初の拒絶反応に10日ほどを要する理由です(急性拒絶反応)。
 しかし、一度移植片の拒絶を起こした後は、分裂・増殖したT細胞クローンの一部がメモリー細胞になっています。メモリー細胞の中には、リンパ節にそのまま留まって長期間生きているものもあれば(中枢メモリー細胞)、拒絶反応を起こした局所の皮膚組織に留まって、非分裂状態で暫く生き続けている細胞もあります(末梢メモリーまたはエフェクターメモリー細胞)。同じドナーからの二度目の移植が行われると、血管やリンパ管が繋がった直後に末梢メモリー細胞が移植片に侵入することが出来ますし、移植片からの抗原提示細胞がリンパ節に到達すると、直ちにリンパ節内のメモリー細胞からエフェクター細胞が分化して、血液中に流れ込みます。実際、初めて抗原刺激を受けたナイーブなTリンパ球がサイトカイン産生を示すようになるには数日がかかりますが、一旦抗原特異的に活性化されたメモリーT細胞に再び抗原刺激が入った場合には、1〜2時間でサイトカイン産生が起こります。これが二次免疫応答のしくみです。こうして、同じドナーから二回目の皮膚移植が行われた場合には、数日で拒絶が起こります(促進拒絶反応)。
 なお、ドナーとレシピエントの間で血液型抗原が異なる場合は、一回目の移植の後抗血液型抗体がIgGにクラススイッチし、血液型抗原を多量に発現する血管内皮細胞に抗体が反応して、移植片に血管が繋がった直後、即ち移植後2〜3日で急激な壊死が起こることがあります。これを超急性拒絶反応と言います。

 事例3

 太郎君は皮膚組織中に存在する抗原提示細胞が、リンパ管を介してレシピエントのリンパ節に辿り着き、そこでT細胞を感作することを知りました。角膜移植の場合、角膜には抗原提示細胞が無いから拒絶が起こらないのか、血管が無いから拒絶が起こらないのか、どちらなのだろうと疑問を持ちました。

 キーワード (学生に挙げて欲しかったもの)

 □ 抗原提示細胞
 □ リンパ管
 □ 感作
 □ 角膜
 □ 血管
 □ 拒絶
 □ 抗原提示の経路

 学生の討論を促すための質問例

 1. 皮膚移植の場合に、拒絶反応に重要な役割を果たす抗原提示細胞とは、具体的には何か?
 2. 角膜には血管やリンパ管が無いの?
 3. 角膜には抗原提示細胞が居ないのだろうか?
 4. 角膜に外から抗原が入ってきたときは、どうやって免疫反応が起こるの?
 5. 角膜にはウイルス感染は起こらないのだろうか?
 6. もしも角膜にウイルス感染が起こったら、感染細胞はどのように排除されるのだろうか?

 事例のねらいと解説
 今週の事例は、細胞性免疫反応の要であるTリンパ球の活性化機構を、抗原提示細胞の生体内移動の観点から理解することが目標です。講義では、Tリンパ球による抗原ペプチド認識の分子機構や、抗原提示細胞内でのタンパク質分解・搬送機構を詳しく解説しますが、移植免疫など、実際に体内で起こる免疫反応を理解するには、免疫系細胞の体内分布とその移動の経路を把握していることが大変重要です。
 さて、近畿太郎君は皮膚の移植と角膜移植を比較することで、角膜が何故免疫応答の隔絶部位となっているのかを知ろうとしました。皮膚移植時の拒絶反応成立には、移植片からレシピエントのリンパ節に抗原提示細胞が移動することが必要です。角膜移植の場合に拒絶の頻度が低いのは、そもそも角膜に抗原提示細胞が無いためなのか、それとも抗原提示細胞はあるが、それがリンパ節に到達するための経路が無いのか、と言うのが太郎君の疑問です。
 つい数年前までは、角膜には抗原提示を行う細胞は無いというのが定説でした。実際、ヒトやマウスの角膜を免疫組織化学的に調べてみても、少なくともその中心部にはMHC class II陽性のprofessionalな抗原提示細胞は検出できません。ところが、既に事例2の解説に記載した通り、樹状細胞など抗原提示細胞の分化・活性化の各段階が明らかにされるに及び、未熟及び成熟樹状細胞を区別するMHC class II分子以外の機能的マーカーが研究対象となってきた結果、ここ数年で角膜における特殊な抗原提示細胞群の存在が明らかにされました。
 即ち、角膜固有層の中心部には、MHC class II陰性でCD80/CD86(副刺激分子)の発現も陰性の、未熟な樹状細胞が分布しており、同じくMHC class II, CD80/CD86が共に陰性の未熟ランゲルハンス細胞と考えられる細胞も存在しています。また、角膜全体の、特に前眼房寄りにはCD14陽性の単球も分布しているのです。これに対して、角膜の辺縁部にはMHC class II陽性、CD80/CD86陽性の成熟樹状細胞や成熟ランゲルハンス細胞が多数見られます。このように、角膜は皮膚と同じようにその固有層内に多数の抗原提示細胞を含んでいますが、特徴的なのは中心部に存在するMHC class II陰性の樹状細胞およびランゲルハンス細胞で、このような細胞は身体の他の部位には殆ど見出されません。移植に使われるのは角膜の中心部ですから、上記のような未熟樹状細胞/ランゲルハンス細胞の存在が、角膜における免疫反応の成立を抑制しているという考え方もあります。
 一方、角膜そのものに血管が存在しないことも、角膜移植で拒絶反応が起こらない重要な原因であると考えられます。実際、角膜に人工的に傷を付けるなどして、レシピエントの角膜に周囲の結膜から血管が侵入した状態を作っておくと、同種角膜移植後に拒絶反応が起こる確率が上がることが証明されています。また、上に述べた角膜中心部の未熟樹状細胞も、角膜に機械的刺激を加えた後にはMHC class II分子を発現するようになることが知られています。このため、例えば角膜上皮細胞にウイルス感染などが起こった場合は、ちゃんとその抗原をリンパ節に運び、Tリンパ球を感作することも出来るようになるわけです。勿論、このような角膜における免疫反応成立には、前週に述べた、涙腺→結膜→涙鼻管と連なる「眼球関連リンパ装置」の存在も重要な役割を果たします。
 「角膜移植では拒絶が起こらない」というのは、決して正しい理解ではありません。他の臓器・組織、特に皮膚移植に比べると、拒絶反応の起こる確率は格段に低いのですが、実際には過去の統計で角膜移植患者の25〜30%に何らかの拒絶反応が認められると言われています。また、事例のような円錐角膜に比べ、感染性角膜炎など角膜への血管侵入を伴うような原因疾患がある場合では、拒絶反応が起こる確率が高まります。さらに興味深い事実として、軟骨は同種移植を行っても拒絶反応が起こる確率が低いのです。軟骨も血管のない組織ですので、血管のない組織の移植では拒絶が起こらないという原則は角膜と軟骨で一致するようです。

 参考文献

 1) Novak, N., K. Siepmann, M. Zierhut, and T. Bieber.  The good, the bad and the ugly: APCs of the eye.  Trends Immunol. 24:570-574, 2003.
 2) Hamrah, P., Y. Liu, Q. Zhang, and M.R. Dana.  The corneal stroma is endowed with a significant number of resident dendritic cells.  Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 44:581-589, 2003.
 3) Huq, S., Y. Liu, G. Benichou, and M.R. Dana.  Relevance of the direct pathway of sensitization in corneal transplantation is dictated by he graft bed microenvironment.  J. Immunol. 173:4464-4469, 2004.
 4) Dana, M.R.  Corneal antigen-presenting cells: diversity, plasticity, and disguise.  Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 45:722-727, 2004.

 事例理解の参考になるHP

テュートリアルコース 過去の事例を参照する
(財)日本アイバンク協会
大阪アイバンク協会 関係者の手記
(財)岡山県アイバンク
産業医大 アイバンク 角膜移植の解説
イリノイ大学 Eye facts Oclar Herpes simplex
骨髄移植推進財団のHP
形質マッピングホームページ
連鎖不平衡」「ハプロタイプ」に関する解説があります
Online Mendelian Inheritance in Man
(ヒト疾患遺伝子情報の総合検索サイト)

事例発表会

 週の事例に関し、金曜日3時限目に発表会を行います。「事例の全体像(グループとしての解釈)」と「この例から学んだこと」を、学生がPowerPointまたはOHPシートを使って発表します。発表に使うOHPシートは、原稿を持参すれば免疫学講座で作成します。

 参考書

 このコースでは特に教科書は指定しません。講義に当たって毎回詳細なプリントを配布し、講義内容がテュートリアルの事例や実習のテーマと密な連携を保つよう配慮しているので、必ず講義に出席しその内容を理解するよう努めて下さい。参考書としては以下に挙げるものがありますが、この分野の進歩は早く、古い教科書には現在では間違であることが明らかな理論や実験結果が記載されているので、この点でも講義で最新の知識に触れることが重要です。

 1)Charles A. Janeway, Jr. , Paul Travers, Mark Walport, and Mark Shlomchik: Immunobiology, The Immune System in Health and Disease, 6th Edition.  Garland Publishing ., New York. (この教科書は大変優れており、最新の知識を一貫したスタイルでわかりやすく記載しています。)

 2)笹月健彦 監訳: 免疫生物学 免疫系の正常と病理 第5版、南江堂 (上記教科書の訳書ですが、翻訳によって却って分かり難くなっている部分もあります。)

 3)澤井高志・内藤 眞・名倉 宏・八木橋操六 編: エッセンシャル病理学 第5版、医歯薬出版 (病理学の教科書ですが、その炎症・免疫・感染症・アレルギーに関する部分は生体防御学のエッセンスを上手く盛り込んでいます。第5版の「免疫とアレルギー」及び「感染症」の章は、宮澤が新たに執筆して、全面的に稿を改めました。)

 4)山本一彦 編: 自己免疫疾患 (New メディカルサイエンスシリーズ)、羊土社 (これ自体が、最新の免疫学の教科書として使える内容を持っています。テュートリアル室に備えられています 。)

 5)平野俊夫 編: 免疫の仕組みと疾患(イラスト医学&サイエンスシリーズ)、羊土社 (最新の研究成果をヴィジュアルに纏めてあり、特に病気との関係が理解し易くなっています。)

 6)山村雄一、岸本忠三、R. A. Good 編: 岩波講座・免疫科学9 免疫と病気 I、岩波書店 (やや旧い本ですが、先天性免疫不全症候群の基本的な考え方や分類・病態はこれで分かります。発症メカニズムについては記述が旧いので、最新の知識は講義から得てください。)

 7)東野英明・宮澤正顕 他編著: 医学生のための薬理学、南山堂 (薬理学の教科書ですが、「免疫抑制薬・抗アレルギー薬・抗リウマチ薬」の章には、免疫学の基本知識と免疫応答の薬物による制御のしくみを、最新の知識に基づいて纏めてあります。)

ホームページへのリンク

近畿大学医学部ホームページ
免疫学教室ホームページ

便利なリンク集

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