テュートリアル Unit 7 「病因・病態 I」

第3週 アレルギーと炎症
(平成18
年12月 4日〜 9日)

 2007年 11月18

目 次

週の担当教員 週の教育目標 週の時間割 事例とその解説
参考書 ホームページへのリンク

 週の担当教員名簿・連絡先

Unit 主任: 宮澤 正顕 (免疫学教室 教授)

週担当教員、実習指導担当者:

宮澤 正顕 (免疫学教室 教授)
義江 修 (細菌学教室 教授)
伊藤 浩行 (病理学教室 教授)
奥野 清孝 (外科学教室 教授)
佐藤 隆夫 (病理学教室 教授)
木村 雅友 (病理学教室 助教授)
松村 治雄、河原 佐智代 (免疫学教室 講師)
稗島 州雄 (細菌学教室 講師)
加藤 光保 (免疫学教室非常勤講師、筑波大学 教授)
塩沢 俊一 (免疫学教室非常勤講師、神戸大学 教授)
金成 安慶、梶原 栄二 (免疫学教室 助手)

 週の教育目標 :
 週の一般目標

 生体防御反応としての炎症反応を制御する分子群と細胞のはたらきを理解し、組織傷害の発生と修復のしくみを、時間経過を追って説明できるようにする。

 週の行動目標

  1. 皮膚を例に、組織傷害に対して直ちに修復反応の起こるしくみを説明できる。
  2. 同種移植片に対して強いTリンパ球の反応が起こるしくみを、Tリンパ球による抗原認識の機構から説明出来る。
  3. 細胞増殖の調節に関わるレセプターのシグナル伝達機構を、MAPキナーゼ、Smad、β-カテニンをキーワードに説明できる。
  4. 急性炎症の発生と終息の過程を、血管反応と細胞の動員の段階に分けて、順を追って説明できる。
  5. 急性炎症反応の四主徴(発赤・熱感・疼痛・腫脹)を言え、それぞれの起こるしくみを簡単に説明できる。
  6. 急性炎症反応の主要なケミカルメディエーターを、それらの由来する細胞と分子構造からグループ化して挙げ、それぞれが末梢血管に与える効果を血管系の部位別に区別して説明できる。
  7. アラキドン酸代謝経路の産物を、酵素反応に基づいて二分類でき、それぞれの血管への作用を説明できる。
  8. 抗炎症薬を、その作用機序に基づいて分類して挙げ、それぞれの副作用を説明できる。
  9. 炎症を慢性化させる要因を、侵襲側と宿主側に分けて説明できる。
  10. 肉芽を構成する細胞を挙げ、「肉芽腫」とは何かを説明できる。
  11. アレルギー反応の4分類を説明でき、この分類の問題点を指摘できる。
  12. 代表的なヒトの慢性炎症性疾患を3つ挙げ、それぞれの特徴的な病変を説明できる。

 事例における行動目標

  1. 炎症の4主徴を言える。
  2. 免疫複合体による炎症発生のしくみを説明できる。
  3. 関節リウマチにおける炎症発生のしくみを、Tリンパ球をキーワードとして説明できる。
  4. 関節痛と関節炎の違いを、その症状・所見と発生メカニズムから説明できる。
  5. ステロイド薬による炎症抑制のしくみを説明できる。
  6. 自己抗体としてのリウマトイド因子について、その本態を説明できる。
  7. C-reactive protein (CRP)を測定すると、何がわかるのかを説明できる。
  8. 炎症性サイトカインとしてのTNF-αの作用を説明できる。

 週の時間割表
 (12月 4日〜 9日)

日付 12月 4日(月) 12月 5日(火) 12月 6日(水) 12月 7日(木) 12月 8日(金) 12月 9日(土)
1時限目
9:00〜10:00
テュートリアル 講義 31
炎症のケミカルメディエーター
(宮澤)
テュートリアル 講義 39
HIV感染とエイズ
(宮澤)
テュートリアル 自習
2時限目
(時間に注意!)
自習
10:00〜11:00
講義 32
急性炎症と
慢性炎症

(宮澤)
10:15〜11:15
自習
10:00〜11:00
講義 40
炎症の形態学
(伊藤)
10:15〜11:15 
自習
10:00〜11:00
ユニット試験 1 
スペアタイム
(時間に注意!)
講義 27
細胞内シグナル伝達総論
(河原)

11:00〜12:00
自習 医学英語
(松村)
11:00〜12:00
自習 自習
(事例発表準備)
ユニット試験 1
3時限目
13:00〜14:00
講義 28
侵襲と組織修復
(宮澤)
講義 33
白血球の遊走と組織浸潤
(義江)
講義 36
アレルギー反応 2
(宮澤)
実習
炎症の形態
(病理学)
講義 41
膠原病・リウマチ入門 1
(塩沢)
4時限目
14:10〜15:10
講義 29
細胞増殖の制御 1
(加藤)
講義 34
抗炎症薬と
炎症の制御

(義江)
講義 37
移植免疫
(宮澤)
実習
炎症の形態
(病理学)
講義 42
膠原病・リウマチ入門 2
(塩沢)
5時限目
15:20〜16:20 
講義 30
細胞増殖の制御 2
(加藤) 
講義 35
アレルギー反応 1
(宮澤)
講義 38
腫瘍免疫
(奥野) 
実習
炎症の形態
(病理学)
 
事例発表・討論
(宮澤・塩沢)

 

事例とその解説

事例 1 (月曜日に配布)
 40歳、女性。主訴は両手の関節痛。既往歴は特記すべきことなし。家族歴では、父に関節リウマチ(RA)がある。
 平成16年10月に両腕の痛みを自覚し、11月には起床時に両腕が挙げられなくなった。近医を受診したところ、湿布を処方されたが、改善しないため、12月からは非ステロイド抗炎症剤(ロキソプロフェン)とプレドニゾロン10mg/日が開始された。これによって、平成17年1月には関節痛が軽減し、プレドニゾロンは7.5mg/日に減量された。
 2月にインフルエンザに罹患し、これに伴って、膝・手首・肩・右III指の関節痛が増悪するようになった。5月には両下腿の痛みと尿の減少が気になったが、その後もほぼ同様の治療を続けていた。しかしながら、ステロイド剤がなかなか減量されないので心配になって、精査を求めて同年12月大学病院膠原病・リウマチ科を受診した。
 診察では、身長160cm、体重51kg、心肺所見に異常なく、左U指と右V指PIP、左足首と右足首(軽度)に関節炎を認めた。
 胸部X線写真に著変はないが、手首・手指・膝・足首・足趾にX線上関節周囲の骨粗鬆症(periarticular osteoporosis)を認めた。

学生さんに挙げて貰いたかったキーワード

  関節炎 arthritis
  関節周囲の骨粗鬆症 periarticular osteoporosis
  非ステロイド抗炎症剤 (NSAID)
  プレドニゾロン

 塩沢教授の解説
 内科の診察、とくに膠原病の場合は、定法通り、病歴で診断が90%決まり、診察で95%決まり、さらに検査で100%診断が確定します。この患者さんの訴えは関節の痛み、すなわち関節痛 arthralgiaです。皆さんもよく経験するように、インフルエンザなどのウイルス性疾患に罹るとしばしば関節痛が自覚されますが、インフルエンザの場合は痛んでいる当該関節が腫れてくるということはまずありません。すなわち、インフルエンザの場合は、関節痛はあっても、関節炎には至っていない、すなわち軽度な関節炎なのです。その理由は、インフルエンザの場合は、インフルエンザウイルス抗原とこれに対する抗体が結合した免疫複合体が血流を介して関節に到達し、この免疫複合体が関節に経度の炎症を引き起こすことによると推定されます。これに対して、関節リウマチの場合は、関節に免疫複合体が流れてくるといった外来性の原因ではなくて、関節局所を「場」とした炎症です。単に免疫複合体が流れてきて関節の免疫系を刺激するというものではなく、関節局所で抗原提示細胞が活性化され、T細胞に抗原が提示されてサイトカインを産生し、その結果B細胞が活性化されて抗体を産生するといった、一連の免疫応答が進行します。ですから、免疫応答の「程度」そのものが大きい炎症であり、従って関節の痛みだけでなく関節の腫れまでを伴うことになります。
 このように膠原病の診断には、患者さんが訴える関節の痛みが、関節痛arthralgiaであるのか関節炎arthritisであるのかが重要です。関節炎の「炎」は、炎症を意味しますから、関節炎ではいわゆる炎症の4主徴(痛み dolor、腫れ tumor、発熱 calor、発赤 rubor)が認められてしかるべきですが、実際の診察においては、この4主徴のなかで、関節の腫れと痛みが外からはっきりと認められます。発熱と発赤は、よほど強力な関節炎(たとえば痛風がこれにあたります)でないと外からは診察上認められません。これに対して、関節痛の「痛」は痛みですから、痛みはあっても腫れがはっきりとしない状態であり、軽度の関節炎であるといえます。臨床上はこれを関節炎とは言わず、「関節痛」と表現します。これに対し、いわゆるリウマチ、正式には関節リウマチと呼ばれる疾患では、医師が診察して明らかな関節の腫脹ないし疼痛が証明されます。
 この患者さんは、左U指と右V指PIP、左足首と右足首(軽度)に関節炎が、医師による診察を通じて認められていますので、関節リウマチ(RA)である可能性が高いと考えられます。当然、RA以外で多発性関節炎を呈する他の膠原病も、この時点では診断の可能性として考えておく必要があります。これについては後述します。
 関節周囲の骨粗鬆症periarticular osteoporosisは、リウマチのごく早期、すなわち発症して数ヶ月の時点から、手のX線写真で認められる特徴的な所見です。炎症のある関節局所から骨吸収性の物質が放出されて、周囲の骨に骨粗鬆症を来たすのが原因と考えられています。ですから、関節周囲の骨粗鬆症は関節炎があれば必ず見られる所見であって、関節炎を来たす疾患は何もRAだけではないのですから、必ずしもRAに特有とは言えないのですが、臨床の現場では、手のX線所見で見て関節周囲の骨粗鬆症が認められるのは、ほぼRAに限定されると言ってもよいと思われます。
 治療については、RAは関節の痛みがもっとも強い疾患の一つですから、症状としての痛みを緩和することは重要です。従って、RAの患者さんにはほぼ例外なく、非ステロイド抗炎症薬 non-steroidal anti-inflammatory drug (NSAID) が処方されます。ロキソプロフェンはその一つです。
 ステロイド薬も関節炎に対して処方されます。RAに対してステロイドを使用するのは賛否両論があります。ステロイドはプレドニゾロンで10mg/日の量で十分に関節炎を抑えることが出来ますが、長期に亘って関節炎を抑えるには連続投与が必要になります。連続投与する場合、10mg/日という量は少量に属する投与量ではありますが、ステロイド特有の副作用を必ずしも回避できなくなります。従って、RAに対してはむしろ、ステロイド以外の疾患修飾性抗リウマチ薬 disease-modifying anti-rheumatic drug (DMARD) が用いられます。これについては後述します。

事例 2 (水曜日に配布)
 検査所見は、白血球数 16,900/μl、血小板数 38.1万/μlと増加していたが、ヘモグロビン(Hb)値は13.2g/dlと正常範囲内であった。CRP (C反応性蛋白: C-reactive protein)は 2.1mg/dl、リウマトイド因子は 1,120 IU/mlと上昇していた。尿蛋白、尿糖は共に陰性であった。肝機能検査値、尿素窒素、クレアチニン等は正常範囲内にあった。抗dsDNA抗体、抗Sm抗体、抗Jo-1抗体、抗Scl-70抗体、抗セントロメア抗体等は陰性であった。

学生さんに挙げて貰いたかったキーワード

  リウマトイド因子 rheumatoid factor (RF)
  C反応性蛋白 C-reactive protein (CRP)
  抗dsDNA抗体抗Sm抗体
  抗Jo-1抗体
  抗Scl-70抗体

 塩沢教授の解説
  病歴と診察によって、この患者さんの病態はRAのそれであると診断されますが、臨床検査はこうした診断をさらに裏付けるのに役立ちます。検査には二つの目的があって、一つは当該疾患を支持する検査所見を得ること、二つには当該疾患に似て非なる疾患を除外し、診断をさらに確実にすることです。
 この検査が陽性に出ると確実にRAであるといえる検査は、未だ存在していません。リウマトイド因子RFは、関節リウマチであると診断するために必要な検査ですが、RFが陽性である場合、全員がRAであるとは限りません。それでは、RFは他にどのような疾患において陽性となるかといえば、急性肝炎や慢性肝炎、あるいは肝硬変の患者さんの数割に陽性となります。また、癌患者の数割にもRFが認められます。さらに全身性エリテマトーデス(SLE)や多発性筋炎(PM)、皮膚筋炎(DM)、強皮症(SSc)の約1割の例でも、RFが陽性を示します。さらに、女性の1割、老年者の1割強には、健康であってもRFが認められます。従って、ある人が血液検査でRF陽性を示した場合には、その人が関節リウマチRAに罹患している可能性のほかに、肝疾患や癌、あるいは他の膠原病である可能性が少なくないのです。それでは、何故このように特異性の低いRFが現在でも臨床検査として使われているのでしょうか?
 これについては、まずRAは「RFが陽性を示す(これをsero-positiveといいます)多発性関節炎」と定義されているのです。もちろん、RF陰性のRA(この場合はsero-negative RAと診断されます)も存在するのですが、RAであるにはRFが陽性であることがあくまで前提となり、RF陰性のRAを診た場合には、これが将来RAではなくRAに似て違った疾患と診断される可能性が高いと認識すべきなのです。RA以外にどんな疾患がsero-negativeな関節炎となるのかといえば、若年性リウマチと炎症性脊椎疾患です。
 若年性リウマチjuvenile idiopathic arthritis (JIA)は、以前には juvenile rheumatoid arthritis (JRA)と呼ばれていた疾患です。どんな病気かというと、リウマチによく似て多発性関節炎を呈する一群(これを多発性関節炎型JIAと呼びます)、リウマチよりも罹患する関節数が少なく、かつ大関節が罹患しやすく、眼の虹彩毛様体炎をしばしば合併する一群(これは乏関節炎型JIAと呼ばれます)、そして高熱や発疹など全身症状が症状の大部分を占める一群(これを全身発症型JIAと呼び、又の名を「スチル病」Still diseaseと呼びます)の大きく3つの病型があります。そして、JIAがRAと大きく異なるのは、JIAの多くがRF陰性である点です。それではJIAは絶対にRF陰性かといえばそうでなく、多発性関節炎型JIAの一部の患者はRF陽性を示します。また、JIAは16歳未満で発症すること、JIAとRAでは罹患しやすいHLA遺伝子型が異なることなどが、さらなる区別点です。
 炎症性脊椎疾患 sero-negative spondyloarthropathy (SNSA)は、あまり一般的でない呼称ですが、専門的には重要な疾患の一群です。この中で代表的であるのは、強直性脊椎炎ankylosing spondylitis (AS)です。背骨が硬化・癒合して背骨が直線状となって前屈ができなくなる疾患です。強い持続性腰痛があって日常生活動作ADL (activity of daily living)が著しく障害されます。こうした一連のSNSAでは、関節炎のほかに付着部炎enthesopathyが特徴的にみられます。筋肉が骨に付着する部分(腱鞘)の炎症が原因です。従って、患者さんが痛いと訴える各々の関節を実際に触診すると、痛みは関節になく関節周囲の腱鞘に痛みが存在することから、付着部炎が診断されます。はっきり分かるのはアキレス腱で、SNSAの患者さんはしばしばアキレス腱の痛みを訴えるし、炎症が強い場合にはアキレス腱が腫大しているのがしばしば診られます。踵、即ち足底の痛みも付着部炎としてよくみられる症状です。また、SNSAの患者さんは腰痛を呈しますが、その腰痛は運動によって改善するのが特徴です。じっとしていると却って痛くなるのです。腰痛ならば休むと改善しそうなのに、このようないわば逆さまの腰痛は「炎症性腰痛」と呼ばれ、SNSA診断の重要な徴候になります。
 このような考察を踏まえた上で、今回の患者さんを診ると、RF陽性ですから、RAである可能性が高いと考えられます。しかし、同時に他の疾患である可能性も、少なくとも検査上からはあり得ます。けれども、肝機能検査が正常ですから肝疾患の可能性は低いと考えられます。癌である可能性は現時点では完全否定は出来ませんが、体重減少がない、比較的若いなど、何処かに癌が潜んでいる可能性は少ないと思われます。膠原病についてはそれぞれの膠原病を支持する臨床所見がないことから、まず否定的です。さらに、全身性エリテマトーデス(SLE)に特徴的な抗dsDNA抗体が陰性です。強皮症に特徴的な抗Scl-70抗体、皮膚筋炎・多発性筋炎に特徴的な抗Jo-1抗体も、いずれも陰性でした。
したがって、今回の患者さんはRAであると診断されます。それではCRPの高値はどう解釈されるか?CRPは炎症の際の急性期蛋白acute phase reactantの代表であって、例えば感染症があると著明に増加します。それは、炎症に際してその産生が増加する炎症性サイトカインのうち、IL-6 (interleukin-6)が肝臓に作用して、肝臓においてCRP産生を増加させるからです。RAは多発性関節炎ですから、関節において炎症が進展し、その結果炎症性サイトカインが関節局所で多く産生されます。炎症性サイトカインには、TNF-α (tumor necrosis factor-α)、IL-1β、IL-6などがあります。いずれも強力に炎症を促進させるサイトカインです。関節から流れ出たIL-6は肝臓に到達して、肝臓のCRP産生を亢進させます。従って、血中のCRPはRAの炎症の程度に応じて増加すると考えられ、事実CRP値の上下はそのままRAの炎症の程度を反映します。同じ関節でも膝などは面積が大きいので、膝一つが関節炎である場合と指一本が関節炎である場合を比較すると、前者の方が圧倒的に強力にCRPを増加させます。CRPが高いとRAは活動性です。
 この患者さんは、左U指と右V指PIP、左足首と右足首(軽度)に関節炎が認められていますから、CRP 2.1mg/dlという値は関節炎の面積に相応した炎症の値です。もし膝にまで関節炎があればおそらくCRP値は5mg/dl前後になると推定されます。これに対して、SLEは昨年の事例に述べたようにCRPが全く上昇しない疾患ですから、この点においても、今回の患者さんはSLEではないと考えて間違いがないということになります。

事例 3 (金曜日に配布)
 RAの診断の下に、これまで他医で投与されていたプレドニゾロンをそのまま10mg/日で継続投与しながら、葉酸の拮抗剤であるメトトレキサート6mg/日を投与した。すなわち、朝2mg、夕2mg、翌朝2mg、の合計6mg/日が、週に一回の経口投与の量と方法である。これと同時に、メトトレキサートの副作用を軽減する目的で、メトトレキサート投与日の翌日に葉酸(フォリアミン5mg/日)が投与された。やがてメトトレキサートは8mg/日にまで増量され、この処方によって、平成18年4月には手指T指IP関節に関節炎を残すのみとなり、関節炎は大きく改善した。さらに継続投与したところ、プレドニゾロンも徐々に減量されて、10月にはプレドニゾロン2mg/日となり、この際には診察によっても関節炎が全く認められなくなった。

学生さんに挙げて貰いたかったキーワード

  メトトレキサートmethotorexate
  葉酸folic acid
  プレドニゾロンprednisolone
  リウマチの治療薬

 塩沢教授の解説
 膠原病の治療は、最近とくに理詰めになってきています。その中でもっとも治療の進んでいる疾患の一つとして、RAの治療は、原則としてその病態を踏まえてなされます。すなわち、RAでは、関節の炎症によって惹起される関節の疼痛と腫脹があり、慢性炎症のある関節滑膜組織の活動性によってさらに関節が破壊されて、これがX線上の関節破壊となります。そして、関節破壊は、臨床的な関節変形に直結してゆきます。従って、RAの治療ではまず、その強い疼痛を抑える(鎮痛)治療が目指されます。上に述べた非ステロイド抗炎症剤NSAIDsがそれです。そして、RAの炎症そのものを抑える治療が目指されます。炎症を抑えるための薬剤は、寛解導入剤 DMARDs (disease modifying anti-rheumatic drugs)と呼ばれます。そして、このような治療にも関わらず関節に変形が生じた場合は、手術によるかリハビリテーションによるかして、あくまでも患者さんのADLの改善が目指されます。
 さて、世には多数のNSAIDsがありますが、RAの場合は痛みが非常に強いので、もっとも強いNSAIDsのみが奏功します。上にあげたロキソプロフェンはそのうちの一つです。NSAIDはしかし、基本的には鎮痛剤ですから、RAを根本から治す作用はありませんので、治療には寛解導入剤DMARDs が用いられることになります。プレドニゾロンなどのいわゆるステロイド剤はその一つとも考えられますが、RAでは繁用されません。何故なら、第一にRAに対しては少量のステロイドで十分であること、長期投与によって次第に効果が減少すること、他に優れたDMARDsが存在することなどが理由です。また、ステロイドを処方していると、DMARDsの臨床効果が判定され難くなることも、RA治療でステロイドが避けられることの一因です。今回の患者さんでも実際メトトレキサートを主体として、出来るだけステロイドの減量が計られています。メトトレキサートは葉酸の類似化合物で、体内で葉酸が本来営む生化学的作用を阻害します。細胞に対しては、増殖を抑制する(DNA合成阻害作用がある)以外に、滑膜細胞そのものの活動性をも抑制するから、よく奏功すると考えられています。
 現在のRAに対する第一選択薬は、メトトレキサートです。約6割の患者さんに奏功します。これが効かない場合は、他のDMARDsに切り替えるか、生物学的製剤が使用されます。すなわち、抗TNF-α抗体やTNF-α類似化合物で、いずれもTNF-αの作用を阻害します。その他、抗IL-6受容体抗体も臨床に導入されています。
 いずれにせよ、治療に際しては漫然と感覚的に治療するのではなく、一定期間の治療の後に、(1)炎症の度合いのほかに、(2)X線上の関節破壊の進行度を調べて、当該治療の良否が判定されるべきです。そして、必要な場合はより有効な治療へと変更がなされます。

塩沢教授による昨年の事例解説

事例理解の参考になるHP
 テュートリアルコース 過去の事例を参照する

 
リウマチ情報センター
  Online Mendelian Inheritance in Man
 (ヒト疾患遺伝子情報の総合検索サイト)
 リウマチ情報センター 
「リウマチQ&A」
 難病情報センター 「悪性関節リウマチ」
 北里大学 内科診断検査アクセス 「慢性関節リウマチ」
 岡山大学医学部附属病院中央検査部インフォメーション 「補体、Immune complex」
 岡山大学医学部附属病院中央検査部インフォメーション 「自己抗体」

事例発表会

 週の事例に関し、金曜日5時限目に発表会を行います。「事例の全体像(グループとしての解釈)」と「この例から学んだこと」を、学生がOHPシートを使って発表します。発表に使うOHPシートは、原稿を持参すれば免疫学講座で作成します。

 参考書

 このコースでは特に教科書は指定しません。講義に当たって毎回詳細なプリントを配布し、講義内容がテュートリアルの事例や実習のテーマと密な連携を保つよう配慮しているので、必ず講義に出席しその内容を理解するよう努めて下さい。参考書としては以下に挙げるものがありますが、この分野の進歩は早く、古い教科書には現在では間違であることが明らかな理論や実験結果が記載されているので、この点でも講義で最新の知識に触れることが重要です。

 1)Charles A. Janeway, Jr. , Paul Travers, Mark Walport, and Mark Shlomchik: Immunobiology, The Immune System in Health and Disease, 6th Edition.  Garland Publishing ., New York. (この教科書は大変優れており、最新の知識を一貫したスタイルでわかりやすく記載しています。 テュートリアル室に備えられています 。)

 2)笹月健彦 監訳: 免疫生物学 免疫系の正常と病理 第5版、南江堂 (上記教科書の訳書ですが、翻訳によって却って分かり難くなっている部分もあります。)

 3)澤井高志・内藤 眞・名倉 宏・八木橋操六 編: エッセンシャル病理学 第5版、医歯薬出版 (病理学の教科書ですが、その炎症・免疫・感染症・アレルギーに関する部分は生体防御学のエッセンスを上手く盛り込んでいます。第5版の「免疫とアレルギー」及び「感染症」の章は、宮澤が執筆しました。)

 4)山本一彦 編: 自己免疫疾患 (New メディカルサイエンスシリーズ)、羊土社 (これ自体が、最新の免疫学の教科書として使える内容を持っています。テュートリアル室に備えられています 。)

 5)平野俊夫 編: 免疫の仕組みと疾患(イラスト医学&サイエンスシリーズ)、羊土社 (最新の研究成果をヴィジュアルに纏めてあり、特に病気との関係が理解し易くなっています。)

 6)山村雄一、岸本忠三、R. A. Good 編: 岩波講座・免疫科学9 免疫と病気 I、岩波書店 (やや旧い本ですが、先天性免疫不全症候群の基本的な考え方や分類・病態はこれで分かります。 発症メカニズムについては記述が旧いので、最新の知識は講義から得てください。)

 7)東野英明・宮澤正顕 他編著: 医学生のための薬理学、南山堂 (薬理学の教科書ですが、「免疫抑制薬・抗アレルギー薬・抗リウマチ薬」の章には、免疫学の基本知識と免疫応答の薬物による制御のしくみを、最新の知識に基づいて纏めてあります。)

ホームページへのリンク

近畿大学医学部ホームページ
免疫学教室ホームページ

便利なリンク集

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