近畿大学医学部神経内科

 ギラン・バレー症候群は、急に(1日から数日の経過で)腕や脚がしびれて力が入らなくなる病気で、たいていは2−3週間以内に症状がピークとなり、その後回復するという経過をとります。大部分の例で、病気のはじまる1−3週前に、風邪をひいたり下痢をしたりといった感染症の症状があります。
 腕や脚の筋力低下以外に、感覚が鈍くなったり、顔が動かなくなったり、眼が動かなくなって物が二重に見えたり、しゃべったりものを飲み込んだりが難しくなることもあります。自律神経が障害されると、血圧や脈が不安定になったりする場合もあります。最初の時期を過ぎれば、回復していく病気ですが、症状がピークの時には、寝たきりになったり、呼吸ができなくなる場合もあります。呼吸する筋が麻痺すると、人工呼吸器を使用する必要があります。また後遺症が残り、筋力が完全に回復しないこともあります。中には特殊なタイプもあり、腕や脚の力は保たれるが、眼が動かなくなり、ふらついて歩けなくなるフィッシャー症候群もそのひとつです。
 ギラン・バレー症候群は、大脳・小脳・脊髄などの中枢神経ではなく、脊髄から筋に至る運動系の、あるいは皮膚や関節などから脊髄に至る感覚系の、末梢神経が障害される病気です。自分の末梢神経をリンパ球や抗体が誤って攻撃してしまう「自己免疫」というメカニズムによる病気だと考えられています。
 一定期間を過ぎれば病気の活動性はおさまるので、早期に的確に診断して、症状がピークの時に適切な治療を行うことが重要です。治療としては、全身状態の管理とともに、血液中の有害な成分を取り除く「血液浄化療法」や、免疫グロブリンを点滴で静脈注射する「IVIG療法」を行います。血液浄化療法とIVIG療法はどちらも同じ程度に有効とされていて、それぞれの患者さんによりふさわしいどちらかの方法を行っています。回復していく過程では、リハビリテーションも重要です。
 病気のメカニズムである自己免疫については、リンパ球が主役を演ずる細胞性免疫と、抗体による液性免疫の両者について、数多くの研究が行われてきました。おそらくどちらもこの病気を起こすうえで重要な役割を果たすと考えられますが、とくに抗体についての研究が近年大きくすすみました。抗体の標的となるのは、細胞膜表面のガングリオシドという分子で、いくつかの種類があります。ギラン・バレー症候群の約60%にガングリオシドに対する抗体がみられます。抗ガングリオシド抗体は、ギラン・バレー症候群や類縁疾患にみられますが、他の多くの神経系や免疫系の病気ではみられず、それだけこの病気の発症に重要な役割を果たすと考えられます。中でも前に書いた特殊なタイプであるフィッシャー症候群では、90%以上にGQ1bというガングリオシドに対する抗体がみられ、特に強い関連が認められます。抗体の標的であるGQ1bは眼を動かす神経の重要な部分に分布しており、そのためフィッシャー症候群では眼が動かなくなると考えられます。
 抗ガングリオシド抗体は、病気のメカニズムの解明だけでなく、診断のための検査としても役に立つものです。ギラン・バレー症候群になる前の感染症を起こす細菌やウィルスが、ガングリオシドと似た構造をもっていて、それに対する免疫反応により自分のもつガングリオシドを攻撃する抗体が産生されると考えられています。
 近畿大学神経内科では、従来からギラン・バレー症候群などの免疫性末梢神経障害と抗ガングリオシド抗体について、世界に先駆けた研究を行ってきました。現在も、さらに詳細な病態の解明と、より有効な治療法の開発をめざして研究がすすめられているところです。
近畿大学医学部神経内科  楠 進