治療方法の説明

迷走神経刺激治療

迷走神経刺激とは

頚部の迷走神経に電気刺激を与え、てんかん発作の発生を軽減する治療です。
英語で「Vagus nerve stimulation」と綴り、略してVNSとも呼ばれます。
電気刺激発生装置(ジェネレーター)を胸部に埋め込み、そこからリード線を延ばして頚部の迷走神経に巻付ける手術が必要です。原理と手術は心臓ペースメーカーとよく似ています。
迷走神経は脳の深部を活性化する働きがあり、「脳のペースメーカー」ともたとえられます。
1997年にアメリカでFDA承認を取得し、現在では世界70カ国で医療承認され、約5万台が使用されています。本邦では2010年7月より使用可能となりました。この治療は所定の研修を修了したてんかんの専門医によって行われます。

迷走神経刺激治療の対象となる患者
難治性てんかん全般が対象です。成人だけではなく、小児の難治性てんかんにも治療可能です。ただし、焦点切除など、開頭によるてんかん手術が奏功すると考えられる患者さんには、開頭手術を優先いたします。てんかんのなかでも、特に部分てんかんに、より効果が高いとされています。

迷走神経刺激の効果
約2年間刺激療法を続けたとき、約半数の患者さんで発作頻度が半分以上減少します。刺激療法を継続するほど発作がだんだん抑えられるようになります。(5-7年間刺激で平均72%の発作減少)また、発作が難治となれば早期に治療を開始するほうが効果が大きいことも分っています。
発作の減少とは別に、治療の効果として、注意力、集中力、不安、記憶機能、言語機能の改善が約2/3の患者さんに認められています。

迷走神経刺激治療、手術の実際、費用
胸部の皮下にはジェネレーターを埋め込みます。頚部の迷走神経を露出し、神経に電極を巻付け、リード線を皮下に通してジェネレーターに接続します。頚部と胸部にそれぞれ5cmほど、皮膚を切開します。全身麻酔が必要ですが、基本的に身体への負担が少ない手術ですので、早期に退院できます。手術・入院費用は高額療養費の対象となり、おおむね10万円以下の自己負担限度額となります。

迷走神経刺激治療、術後のケアー
てんかん発作の状況に応じて電気刺激の強度や頻度を調整いたしますので、定期的に通院いただきます。そのため、手術の前3ヵ月程度ならびに手術後の発作日誌を付けて頂きます。また、患者さんには電気刺激をオン・オフできるマグネット装置をお渡しします。これはジェネレーターの直上の胸部皮膚に当てて、磁力信号で刺激を開始または停止できるものです。このマグネット装置と「VNSシステム手帳」、ならびに「患者情報カード」をふだん必ず携帯してください。
ジェネレーターの電池はおおむね6年間以上持ちますが、消耗したとき、交換の手術が必要です。
頭部MRI(1.5T以下)は可能ですが、検査前にジェネレーターをオフにしなければなりません。MRI撮像時には担当医師にも申し出てください。(頭部以外の体幹MRIは不可)
その他、乳房撮影(マンモグラフィー)は可能です。乳房に対する放射線治療を行ったとき、ジェネレーターへの影響は不明です。健康機器などの電気治療装置は避けてください。

迷走神経刺激の副作用
手術によるものと刺激によるものがあります。
手術によるもの
手術部の出血、血腫、嚢胞形成、感染など [3%以下]
迷走神経症状:変声、声帯障害 [1%程度]
顔面神経麻痺・顔面感覚異常 [1%以下]
不整脈・心停止 [手術中テスト刺激でごく稀に生じた:一時的、6患者 / 7000手術]
刺激によるもので、多くは一時的
変声 [30-60%]
咳 [45%]
のどの炎症・痛み(咽頭炎) [30%]
嚥下障害・誤嚥(むせ) [25%]
呼吸困難(息切れ) [25%]
閉塞性睡眠時無呼吸症状の悪化 [不明]

注釈

難治性てんかん
薬物治療では発作を抑えられないてんかん
              通常、主要な抗てんかん薬を2剤以上用いても発作を抑えられない状態。
              あるいは、副作用により、有効な薬の服用が困難な場合。
てんかん全体のなかで約35%を占める。
てんかん発作が続くことで、外傷・事故、就労困難、学習障害、精神退行など、生活の質が低下する。

 

厚生労働省 保医発0630第5号 平成22年6月30日 より
埋込型迷走神経電気刺激装置及び迷走神経刺激装置用リードセット
当該装置は、薬剤抵抗性の難治性てんかん発作を有するてんかん患者(開頭手術が奏功する症例の者を除く。)について、てんかん発作の頻度を軽減する目的として使用した場合に算定できる。
イ以下の要件を満たす医師が使用した場合に限り、算定できる。
a当該装置を用いた手技に関する所定の研修を修了した者であること。
bてんかん外科治療に関する専門の知識及び5年以上の経験を有する者であること。
ウ当該装置を使用するに当たっては、関係学会の定める実施基準に準じること。
以下略