『からだサイエンス』91

 

○下記枠内は前号・第90号記念特別インタビューの質問に対しての解答で最期に話された内容です。改めて今月号ではその続きから新シリーズとしてスタート致します。

☆新シリーズbP

―いま、浜西教授が医療全般の中で一番危ないと思われていることは何でしょうか? -

 

皆保険制度を存続するためになくてはならなかったのが、前号でも述べたように、きわめて安い人件費で勤勉に働いてきた医療従事者たちでした。その最たるものが御存知、勤務医師です。しかしこれまではそれぞれ今ほど疲弊はしないですんでいたのです。医局がしっかりしていて後任の医師や何かあったときのバックアップが保証されていましたから、たとえしんどくても安心できたのです。これまでは日本中どこの大学でも、卒業生の7割が自分の母校で、自分が意欲や希望や大志を抱いていた専門科医局に入局し、ただちにトレーニングをスタートできていたのが、2年間にわたる全く無駄どころか、高い意欲までも挫くスーパーローテーションに投げ込まれたのです。そして今回の新制度のもっとも悪質な部分で、医療破壊の有効な手段がマッチング制度でした。日本の医局制度憎しで凝り固まり、アメリカに傾倒した厚労省御用達医師の強引な誘導で、アメリカの若い医師はテレビ番組ERのように何でも治療できる能力があるのは研修制度があるからだとマスコミをあおり、日本の医療をこれまでささえてきた医局制度(これをつぶす役割を演じさせられたマスコミも今は認め、後悔していますが決して記事には書きません)を目の敵にして、これからはどこの病院でも自分の好きな病院で研修できる、卒業したての医師でも多額の報酬が約束される、他学出身者と切磋琢磨して自分のキャリアを自分で作れる、とあおってマッチング制度を導入しました。その結果、大学を離れて初期研修を行うのが当然と誘導されてあせってホームページを探索し、実家の近くとか、有名な先生がいるとか、給料がいいとか、症例がたくさんある(実は医師・指導医が少ない)とか、とにかく大都会の病院とか、個人の欲望を満たすだけの浅はかな理由づけで病院選択を迫られ、大学から離されることになりました。全国で千数百の病院が7000人の医師を獲得せんと競わされましたから、卒業生にとっては売り手市場でなんでも可能といった気分が蔓延し、実際6割近い医師が大学から離れました。ところが一旦大学を離れてしまうと、後期専門研修のためといっても安月給の大学には戻らずそのまま外で研修を続ける医師が8割にも達しました。まさに制度の思惑通り大学離れをあっというまに達成したのです。そして大学にもどった医師でもその多くは関東の大学に集中し、それ以外の地域の大学には御存知のように卒業生の3-5割しか戻りませんでした。東京以外の大学医局は物理的にあっというまに崩壊したのです。医局が崩壊することは地域医療やへき地医療の崩壊にダイレクトにつながっているのに、「教授の逆鱗に触れた正義派医師が僻地に飛ばされる」と「白い巨頭」を演出していたマスコミはそれを理解できず、制度側はそれを利用して医療崩壊を誘導したのです。医局を離れて自分でキャリアをつくるという宣伝コピー通りの道を選んだばかりに、系統だった必要な研修を受けられず、「就職活動」に悩む医師群がぞくぞくと作られています。無入局者は整形外科学会でも毎年2割以上出現しています。彼らは専門医になれないので基幹病院における勤務がかなわず、もし問題を起こして病院を首になればたちまちフリーター医師とならざるをえません。そして数百ある

医師派遣業者のリストに載せられ、市場原理の需給関係からは資格のない安上がりの医者にならざるをえません。ここに医療から膨大な利潤をもくろむ側が意図した最下層の医師群が形成されてゆくのです。医業類似行為者も組み込まれかねない構図は次号でお話ししましょう。


『からだサイエンス』92

現在大から小まで3桁の医師人材派遣会社が存在し、その業界が肥大しつつあること、そしてそこに登録して医師免許証で日銭を稼ごうとするフリーター医師群が生み出されていることは前回お話ししました。どのような医師がフリーターになるのか、わなにはまってフリーターにならざるを得ないのかもお話ししました。そこを支配しているのは本来医療とは無縁であるはずの市場原理です。ここ10年の新設の柔道整復師養成学校経営者のような金の亡者たちが跋扈し、人の命をネタにしてもうけようと眼の色を変える市場が作られています。ある民間大手派遣企業は何と「□□医局」と名乗っています。医局の果たしてきた重要な役割をさも肩代わりできるかのように名前だけとっています。しかし実際やっていることは正反対です。「□□医局」の宣伝ページに漫画が掲載されていました。「会員登録すれば割安で医師賠償保険に加入できます! 」の見出しで、その漫画吹き出しを書き出すと、「医師賠償責任制度一事故2億円で年額46710円。そんな馬鹿な、どうしてこんな(安い)保険料で!!」フリーターのボス医師が「もちろん理由はある。会員3万人の□□医局だから割引があるんじゃ!!」 「おおーツ非常勤先の事故も補償!なんて心強いんだ」-- まず会員登録を-- 「よしっ今すぐ申し込みだ!」カタカタカタ(キーボードの音) ---不安な研修医や無入局者(流動化医師)の味方!!---というわけです。研修と称して病院斡旋を行いますが、アルバイトみたいな派遣だから先方の病院では医師賠償保険はないよ、もちろんうち(派遣会社)はあなたが派遣先の病院で起こした医療事故の責任を負う気はまったくないから、あなたが自分で保険に入りなさい。ついてはうちの関連保険会社を紹介しましょう。うちにはあなたみたいな登録医がたくさんいるから保険費用を割安にできるのです。感謝しなさいというわけです。命をネタに、患者と医界の両方から利潤を求める、アメリカ型商売の典型ですね。大手ともなると既に医師と医療機関を大量に登録させていますからこのようにいくらでも金蔓を伸ばすことができます。公的医療をまず破壊してから、“良い医療”は金次第という民間市場原理を導入しようとする新制度の役割をはからずも露呈しているのです。私は立場上、さまざまのレベルの病院から整形外科医師の派遣を今でも頼まれます。7年前に新制度が始まった頃は、医局が小さくなりましたからとても医師派遣は無理です、しかしこれからはお金さえ出せば派遣業界から医師を獲得できる時代になったのですよと、慰めともつかない言葉で結んでお帰り願っていたのです。しかし最近は、派遣医師を雇用してみたのだけれどひどい目にあったという悲鳴しか聞こえてきません。今こそなんとか医局でよろしくというわけです。民間派遣業界の医師あっせん手数料は契約年俸の約3割です。そして半年以内に医師が辞めるとこの契約金の半額を返還せねばなりません。ですから業界にとって医師は半年プラス1日で病院を辞めて戻ってくるのが一番ありがたいわけです。特にメスを持つ専門科の医師ほど登録医の数が少ないので金蔓になります。派遣医師が病院を辞める口実はいくらでも作れますし、患者さん側がひどい目にあい、病院が愛想を尽かして解雇するならそうしてもらって全然構わないわけです。半年位は解雇されないよう努力するでしょう。しかし派遣業者に望めないと同じく彼らには医療倫理は望めないでしょう。もちろん何回も退職や斡旋を繰り返す札付きの医師や業者は淘汰されてゆくのも市場原理ですが、その結果業界が寡占・独占状態になり日本の医療はますます悪くなるだけです。これが現在の医師派遣の実態ですので読者が通われる市中病院でもしそう若くもないのに新人の医師がいたら半年は注意された方がいいでしょう。

さて上記の漫画で一事故2億円の賠償とありました。若い医師を脅かすのもほどほどにせいと言いたくなりますが、実は現在、病院や開業医には1件1億以上の賠償請求は珍しくないのです。そして患者の権利意識が高まっており、これからは接骨院でも、施療中の事故はもちろんのこと、入り口で転倒されても、あるいは骨疾患や癌転移があるのに漫然と通わせ、もし病院への紹介が結果的に遅れたり、その遅れが死亡につながったりすると、この億に達するような賠償請求が提訴される可能性は柔道整復師にも十分あるのです。もう既にあるかも知れない。2月号のインタビュー記事の最後に、柔道整復師は<「自分の資格」と、「自分ができること」、そして「やってはいけないこと」にいつも謙虚でいてほしいと思います。目の前の施療台に身を横たえている患者さんは「いのち」をあなたに預けているのですから。痛みやしびれや腫れの陰に隠れているがんの見逃しや見落とし、もろい骨や怖い脊椎の病態、「わしら知らんでええねん」、「来た方がばかや」ではもう済みませんよ。>と書きました。もう済みませんよと言ったのは、これまでのような、所属団体の応援を頼み、接骨院に来た患者の方がバカやったと思わせて数十万程度の和解金や示談金で済ませていた時代ではない、ケタ違いの金が柔道整復師に請求される時代になりましたよ、特に腰痛や肩こりなど誰が見ても骨折・脱臼・捻挫とは思えない患者にうかつに手を出し、電療やマッサージを続けていると、今はたとえ慰安施術を求めて施療台におとなしく横たわっている人であっても、何か不都合があったら提訴もちらつかせるモンスターにいつ豹変するかもしれない、そんな時代ですよということです。そしてもし裁判になったら柔道整復師におそらく勝訴はないことはわかりますよね。

             さて本号のテーマである安上がりの医療に話を戻しましょう。安上がりとは金を支払う立場の人間・組織が使う言葉です。市場原理では医療効果はそこそこでいいから要は安いということが重要です。高い医療効果がほしければ高い金を払いなさいというわけです。公的医療保険が完備している日本では、まだ民間保険会社の販売している保険、つまりがん保険やメタボ保険はなにかおまけのように感じますね。しかしアメリカではそれが医療保障のほぼ全てです。オバマの改革が一部にせよ議会の承認を得、かなりの無保険者がいわゆる医療を受けられるようになりましたが、日本で医療と呼べるレベルの医療を病院や医師に提供させるのはこれからも民間保険です。そこではカイロプラクティークやオステオパシーや足の医者が重宝されているのです。カイロプラクティークは正味40カ月の教育が必要です。オステオパスは医学校と同じです。足の医者は巻き爪や胼胝の治療者でしたが、今は州によっては人工膝関節置換術まで許されており、保険会社にとってはありがたい存在です。日本ではどうでしょうか。介護保険制度ができる時には、これで医療費が安くなるはずでしたね。しかしとんでもない。医療費は上がり続け、おまけに6-7兆円の介護支出が税金から余計に払われるだけになりました。

 

『からだサイエンス』93

「統合医療が普及すると医療費の削減につながる。鍼灸の保険適応が増えると医療費が節約される」などという論を最近よく耳にします。接骨院に来る人は病院には行かない、病院で高い医療費を払わないのだから医療費の節約になっているはずという論旨ですが私には笑止千万としか思えません。国民からの3千億円の柔整支出は医療費支出そのものですがそれが節約の結果なのでしょうか。6年前にいくつかの接骨院で受診者にアンケートをとっていただいたことがあります。自分の症状は(毎度のことで)病院に行くようなものではないので(いつも)接骨院に行くという意見がありました。電療とマッサージだけでいい。しかしマッサージ師のいるマッサージ院で5000円払うのはばかげているし、保険が効く医療マッサージの適応でもない、だから自己負担数百円で済む接骨院で済ませていますというわけです。もちろん自分の代わりに医療費を支払ってくれている子供や孫の加入している保険組合には、毎月体中打撲や捻挫だらけで、家族に虐待されているとしか解釈しようのないぼろぼろの体になっていると報告されていること、そして水増しで支払わされていることなどつゆ知らない受診者も多いのではと思います。このような受診者が接骨院に求めているのは医療ではなく、疲れた体に気持ちのいい慰安施療に過ぎないのに、それを柔道整復レセプト3700万件中、捻挫打撲が99.2%、三部位以上の捻挫打撲が50.5%というような異様な請求をする施療集団が受け取る3000億円がいったいどうして貴重な医療費の無駄遣いではなく逆に“医療費の削減”に貢献しているなどと言えるのでしょう。接骨院に定期的に行って慰安施療を満喫している人は、運動器の痛みが耐えられなくなっても病院には行かずに接骨院で我慢しているというデータでもあるのでしょうか。私の外来患者さんの1-2割は接骨や整体で医学的な治療はされずに慢性化・重症化した人です。 自分の腰痛が耐えられなくなり、手足のしびれや麻痺が増強し、急にふしぶしが痛みだして腫れてきても、接骨院の電療と柔整マッサージという業界「医療」を信頼し病院に行かずに頑張る方がもしおられたら、そういう方こそ接骨院があるから医療費は削減できるなどと主張する資格があるでしょう。しかし自分が頑張ったところで、あるいはそういう患者を引きとめて何カ月も「医療」を行ったために結局は手遅れになり、接骨院など経由しないですぐに病院受診したヒトの倍も三倍も本当の医療費がかかり、国民の負担がさらに増すだけです。統合医療が充実すると病院に来る人が減って医療費が削減されますなどという論理がいかにおかしいか認めていただきたいと思います。原理は簡単なのです。たとえば病院や地域で医師が増えれば患者も必ず増えます。供給が増えれば需要は必ず掘り起こされて増えるのです。接骨院が立ち並べば必ず総体として受診者が増えます。過当競争が激しくなり看板でも堂々と慰安施療を競うことになるから体がしんどい、凝っているだけの施療予備軍が新たな受診者として掘り起こされてくるのです。もちろん鍼灸の保険適応が緩めば鍼灸患者もその医療費支出も一気に増えます。そしてこの増加部分は接骨院患者さんの減少と柔整支出の減少部分と一致するでしょう。

このまま論を勧めると、今回の主題である安上がりの医療に一番貢献するのは、無駄な「医療費」支出の元凶である柔道整復師の受領委任払の撤廃や、急性外傷を適用とする保険取扱の徹底であるということになります。本当に本来の急性外傷の応急処置、そしてその後療に絞れば3000億円はおそらく現在の鍼灸並みの300億円程度になるでしょう。こうなったら読者方は生存権が脅かされる事態になると危惧されるかもしれません。しかし健康保険組合も昔からわかっていますし、今は組合の存亡がかかっていますから3部位の外傷原因にこだわり、安上がりで、できれば支払わないですむ可能性を探っています。昨年の事業仕分けでは当局はもとより議員達も捻挫打撲が全体で99.2%を閉めるような異様な業界と、その不正の横行はもはや見過ごせないという流れになってきました。そして保険も厳しい方向に改定されました。そのはずですが以前の1部位あたり470円が今回500円にアップしたことで、たとえ部位数制限があっても何と全体としては実質値上げを勝ち取ったというのですから、厚労省と業界が両方のメンツを立て会う、いわゆる長年の腐れ縁もたいしたものです。

病院には外傷外来があります、多発外傷を専門に治療する外傷センターも出来つつあります。しかしそういう施設に来るはずのない「多発外傷患者」が接骨院にひしめいているようです。急性外傷だけではない、「亜急性や慢性の外傷」という業界独特の「外傷」があるらしく、ごくわずかの外力であってもくりかえされると関節や軟部組織に痛みがくる、それを「慢性の外傷」と言って、とにかく外傷が原因だから運動器の痛みは全て柔道整復術で保険適用できるという大変に都合のよい理屈です。しかしそれらこそ医学上は慢性の変性疾患なのです。変形性関節症、変形性脊椎症などという整形外科的な病態です。それを外傷であると強弁するのは世界広しといえども日本の柔整業界だけです。「骨接ぎの技術を」を保証され「医療人」を豪語する柔道整復師が医学を無視せねばならないのもつらいことでしょう。上記の接骨院の患者さんの99.2%を占める「多発外傷患者」の大半はこの分類に属する方なのでしょう。そしてそれらを「外傷」と主張して保険施療にしないと業界がつぶれると妄想し、あえて強弁する方々も大変だなとお察しいたします。業界独特の解釈も施療も勝手です。しかしそれは受診者の痛みを「対症治療」する慰安施療であって、その支出が医療支出であるとは国民ならだれも納得するはずがないでしょう。大変な死ぬ病を持っている患者さんが到るところでまともな医療を受けられなくて大問題になりつつあるのです。医療そのものが、お金がなくて崩壊しつつあるのです。運動器の痛みは全てテリトリーだなどと暴論できるのは法律的には医師免許を持つ医師だけです。高卒でたった3年で資格を取れる柔道整復師の、患者に請求できる初療料が医家の半分でしかないのは不当であると主張する業界浄化論者がおられます。本当にそう思われるのでしょうか。その方がもし自分の手足のしびれや麻痺が増強し、骨が腫れ、折れて激痛をきたしても、接骨院で施療し続け、病院に行かずに死ぬまで頑張るのであれば、その接骨院の初療料がたとえ医家並みに引き上げられても、結果的に安上がりの医療に貢献することにはなりますが。

以前の号で「柔道整復師に受領委任払というとんでもない大盤振るまいが許されているのは、受傷機転がはっきりしている外傷を扱うのだからだましようがない、保険者もだまされるはずがないからという行政や司法の判断があったからだ」と申しました。また「自分の資格と、自分ができること、そしてやってはいけないことにいつも謙虚でいてほしいと思います」とも申しました。この思いを再度述べ、この項を校了とさせていただきます。