全国保険医団体連合会機関紙「全国保険医新聞」平成22年9月15日号
全国保険医団体連合会の調査によると、平成19年度の柔道整復師のレセプト3680万件中99.2%が打撲捻挫である。これは整形外科診療所の調査では6.1%である。また3部位以上の外傷が柔整で50.5%、整形外科で2.4%であった。これは何を意味しているのであろうか。誰が考えても、医学的にも受傷機転や日時が明らかなものが外傷であり、打撲・捻挫である。打撲・捻挫は患者さんの6.1%。そして滑って転んだなどとして3部位の外傷を請求できるのが2.4%というのが医学的にも法的にも正当な数字である。柔道整復は受診者の大多数を占める腰痛や肩こりを療養費請求できる正当な項目がないので仕方なく肩コリは頚椎捻挫、腰痛は腰部捻挫にする、そして「習慣的に」3・4部位まで施療したと請求してきたのである。そして患者さんに「満身創痍」の病名や請求額を知られないですむ受領委任払という特例のおかげで、こういう異様な請求実態が見過ごされ、これも「習慣的」に保険組合から支払われ続け、そして柔道整復師の生活の糧であり続けてきたのである。平成19年度にはなけなしの医療保険資産の中からこれに3377億円もが出費された。この甘い汁に学園産業が群がるのは当然で、昭和30年には専門学校は5校で121人の卒業生であったものが、今年は96校から7156名が卒業し5570名が資格を得た。彼らが接骨院を開業すれば少なくとも年400億の単純請求増となる。患者さんの6.1%の打撲・捻挫をどうすれば接骨院で99.2%まで膨らませる事が出来るのか。それは微小な外力が慢性的に加わって発生した症状はすべて「外傷」なのだという「暴」論に立つからである。もちろん医学的にはそのような原因によって発生する変性疾患は外傷の範疇に入るはずもない。変形性関節症や変形性脊椎症、またoveruseに基づくスポーツ障害(スポーツ外傷ではない)ですら独立した疾患単位である。「外傷」なるものは急性外傷しかないのである。
あまりの手前勝手の解釈で不正請求がまかり通り、野放図に支払われるので、鍼灸マッサージ師達が平成15年、千葉地裁に国家賠償訴訟を提訴した。柔道整復師には認められている療養費の受領委任払いを鍼灸マッサージ師に認めないのは不当な差別であり、国民の権利も侵害するものであるから精神的慰謝料請求、謝罪広告、そして受領委任払いを要求したものである。平成16年1月に判決が出た。要約すると@柔道整復師に認められている受領委任払いは健康保険法上容認し難い。
Aしかし柔道整復師が扱えるのは発生原因が明確な外傷に限られ、他疾患との関連が問題となりにくい。 Bゆえに拡大されない範囲なら合理性がないとはいえないという内容である。柔整側にとっては一見喜ぶべき判決ではあるが、受領委任払存続の前提が実態と大きくかけはなれていて、もし同じ裁判官が鍼灸マッサージに受領委任払を否定した理由の一つである「疲労回復」施療が実は接骨院でも中心であるのに、打撲・捻挫患者が99.2%を占めるという実態を知ったら、直ちに受領委任払いを否定するに違いないからである。
しかし問題は医療費にとどまらず、真の問題はもっと深刻である。柔道整復師は応急処置だけが許され、診断できない業種である。もし接骨院で診断なしに漫然と施療が続けられると、真の患者が正当な医療を受ける機会を奪われて手遅れになったり、療術によって患者が傷害されあるいは病態が増悪する、そのような事例が多数発生ししかも自然増しつつある。「医療費」を3300億円も支払って、逆に国民があやうい状況に追いやられるという愚かしい医業類似業態が日本には存在し、しかもその規模が膨れ上がっているのである。