これは平成15年10月18日に大阪NHKホールで開催された運動器フォーラム2003における浜西の講演内容です。
当日一般の方々が約900名こられ、約半数の方からいただいたアンケートの大半は勉強になった、ためになったというものでしたが、唯我独尊である、極論過ぎるがそれぞれ一通づつありました。さもあろうかと存じます。お読みになった皆様の感想をお待ちしています。

近畿大学の浜西でございます
皆さんの中には、肩こりや腰の痛い方がたくさんいらっしゃる。残念なことに65歳を境にして国民の医療費の半分が使われています。ですからそんなことを言われないように今から鍛えていただきたいと思います。私の今日の話も皆様方を慰めることは決してしない。むしろ、叱咤激励し警告するという役割だと考えています。
肩こりといいますと、皆さん方のほうが症状は詳しいかもしれませんが、私にもあります。肩と首の真中がはる、重い、刺し込む、或いは、固い、私のように首から痛みが走るという方もおられます。肩がこるのはとにかく筋力のない方です。肩がこるのは力仕事と無縁の方です。ですからスポーツ選手には腰痛はあっても肩こりはありません。主婦、事務職、あるいはなで肩、こんな人がこりやすいし、性格的に緊張しやすいタイプ、根をつめてしまう、人一倍ストレスを感じてしまう、そういった方ですね。それから環境に問題がある場合もあります。注意していただきたいのは、主婦の方であれば台所のキッチンカウンター、パソコンのキーボード、あるいは作業台の高さに問題があったりする場合もこります。もちろん目や歯や顎に問題がある場合もあります。
しかし、肩こりは基本的には筋肉の問題である、と私は理解しています。皆さんの肩こりの10人中8人はおそらく腕の重みで疲労性の筋筋膜痛を覚えています。これはまぎれもなく筋力が大切ということです。腕を支えるだけで慢性疲労状態になっている、そうするとどうしても凝って固くなる。そして揉むと気持ちがいいのでぐりぐり揉んでしまう、そうすると筋肉や神経がさらに傷められて翌朝はもっと痛むということになる。肩がゴリゴリという場合は筋肉が薄くなって肩甲骨が肋骨に近づいています。皆さんのなかでそのようにゴリゴリいう人がいませんか、そういう人は肋骨の上を肩甲骨がこすれているのです。そこでまた肩甲骨の一番上の滑膜包で炎症がおこる。ここもあまり圧し過ぎると慢性炎症となり肥厚して硬くなります。
とにかく問題になるのは揉みすぎ、おしすぎ、叩きすぎです。みなさんはマッサージ、鍼、灸、接骨などにも行かれます。そうするとプロの強い力で揉まれたり指圧されたりする。そのときはうっとうめきますが、後はすーっとして何か気持がよい。しかし炎症が起こり、さらに腫れて翌日は必ず、もっと凝ります。そして週に二日も三日も揉んでもらわずにはおれないマッサージ依存症になります。
また皆さんの中には肩こりや腰痛とつきあい、戦うことが私の生活のすべてと思っている人いませんか。あるいは何かあの事故のせいで、あの人のせいで自分は被害者になった、腰が痛み出し、肩が凝り、手がしびれて何も仕事ができない、何をする気もおこらない、人生が狂ってしまった、と思い込んでいる人いませんか。こういう人はうつ状態です。この状態では肩こりも腰痛も非常に強く感じます。何をしても治ることはありません。こういった人はまずうつ状態の治療をしなくてはなりません。痛みのせいで自分の人生、真っ暗だと言う人には、抗うつ剤がよく効くんです。これで皆さんよくなってしまう。あの痛みはうそだったのか、肩こり、腰痛はうそだった、いっぺんに元気が出たという人が多いのです。
肩こりの中でも根性神経痛の場合、肩がつまるだけではなく首の動きで手までしびれが響きます。原因の1つは椎間板ヘルニアです、そして中高年では軟骨がすりへって骨が増殖し、男性の場合、神経の出口や、あるいは脊髄をすでに圧迫しつつあるということが普通です。もしこのような首をひねったり強くもんだりしたときに非常に怖いことが起こる。わかりますね。こんな状態でもしカイロプラクティークや接骨や整体でひねられたら、足も手も麻痺してしまう、動けなくなる。そういう患者さんが我々のクリニックで珍しくないから怖いのです。
肩こりや腰痛をきたしている筋肉は疲労しやすい弱い筋肉です。筋肉はそれ自身が血液のポンプで古い血を押し出し新しい血を取り込むのが仕事です。だからポンプを動かすこと、つまり自分で体操し、筋肉トレーニングでポンプ自体を大きくすることが何よりも大事な治療なのです。運動選手に肩こりはないのはこの単純な理由からです。
この治療には自分で行う筋トレしかありません。だから、ここで皆さんにお伝えしたいのは、人に揉んでもらいたい、注射してもらいたい、温めてほしいと思っていろんな場所に通うのは正しい治療では決してないということです。自分で筋肉を鍛えなくては駄目です。あとで体操の指導がありますが、私は肩こりの患者さんにははっきり言います。腕立て伏せ、何回出来る?一回もできません?そらこるの当たり前や、だから来週来るときには3回出来るようにして下さい、1ヶ月間毎日頑張って10回出来るようにして下さい。そうすれば肩こりは消えるのです。それをやらない人は残念ながら肩こりから絶対に解放されない、そのぐらいの治療意欲と迫力を私に示す人しか治らない、と私は宣言します。そこで来なくなる人は治りたいと口ではいうけれど自分では何もしたくない、治る意欲に乏しいです。実は治りたくない、症状があるほうが都合がいいなんて人もいるかもしれない。
温めるということは循環が改善されますのでいいことですね。それから冷やさないことです。いまは、腰痛、関節の痛み、神経痛に年に2回ピークがある。昔は冬が多かった、寒いので当たり前です、でも今は夏場が一番多い、冷房で冷えるからです。だから冷やさない、あるいは布団を被っているつもりでも肩は出てしまっている、どうしたって蒲団で蓋うことは出来ない、タオルでもよいから首に巻いて布団をかぶることをお奨めします。
私は『肩や腰、揉むな、叩くな、押えるな』という標語を創りました。私の患者さんは皆、揉んだり、叩いたり、押さえたり、したり、されたりしてどんどん慢性化しているのです。病歴を聞くと大体わかります。みょうに症状が長引いているので、あ、これはどっかに行っているなと直感し、しっかりと聞くと、実は毎日いろいろな器械をつかったり医療類似施設に通って揉んだり、つぼを押さえられているんです。外来でも私の前で話をしながら肩に手をやって揉んでいる人がたくさんいますがほとんど無意識です。
もし皆さん方の細い肩の筋肉をプロの力で揉みますと組織は潰れます。力は軽くなぜるくらいでないといけない。それを今はやりのローラーやマッサージ器なんかでゴリゴリやる、気持ちが良い、でも自分で潰してる、出血するんです。揉まれると組織は腫れます。寝ている間に腫れますから翌朝もっと痛む、そしてマッサージに通う、もっと悪くなる、悪循環です。
  指圧や道具でつぼを押し続けると、そこで生体組織は傷つけられ炎症を起こします。どんな組織でもそうです。もちろん神経もそうです。せっかく炎症が落ち着いていたものをまた揉んで、押したためによけい悪くなるということが多いのです。
たくさんの神経が筋肉の間から皮下へ出ます。その出口がみんな鍼灸のつぼになっています。だから上手に刺激しないといけない。本当に上手な鍼灸・指圧マッサージ師の方は、そんなむちゃなことはしないはずだけれども、皆さんはつぼが見つかったらそのときだけ気持がいいから押しまくる、神経が炎症をおこす、そうすると神経がよけいに過敏になります。
腰痛も筋肉を揉んだらだめですよ。みんな自分でよけい悪くしているのです。自分で予防できる、自分で治せる、ということを肝に銘じておいて下さい。
次に腰痛の話にうつりましょう。腰痛は65歳を過ぎると5人に一人は必ずある。年齢が上がってくると脊椎そのものが傷んで変形してくる。腰部脊柱管狭窄症で神経が危ないという病態が起こっているのです。ところが皆さん、軽く考えて肩こりや腰痛はまず接骨、整骨、マッサージ、あんま、はり、灸へ行っちゃうんですね、でもこういった施設では正しい診断はありません。みなさんが訴える症状に施術するだけですから非常に怖い。軽く考えずにまず整形外科医のところへ来て下さい。医師には責任があるんです、あらゆる手段を用いてまず診断するという、そして適切な治療も行うという責任です。
皆さん方のなかで、椎間板ヘルニアだと言われている方はいませんか、それは50以前の方の話ですよ、50を過ぎた方で椎間板ヘルニアの方はまずありません。椎間板ヘルニアと医者や接骨やカイロに言われているからといって信じる必要はありません。髄核といってみずみずしい部分がある、これが残っている人に椎間板ヘルニアが起こるのです。ヘルニアは若い人の病気だと思ってください。50を過ぎた方の場合は骨が飛び出している場合が多いのです。
椎間板ヘルニアの特徴は動くと痛みが走るということです。
このMRIをみてください、この白い部分がありますね、これが、髄核ですね、ですからこのMRIは20才代だと思います。髄核が後ろに飛び出てこれが椎間板ヘルニアです。皆さんの場合、昔はヘルニアであった組織の周りに骨ができている。お尻も足も痺れる、腰だけじゃないですね、そして決まった筋肉が弱っちゃう、だから歩くときにつまづきやすくなる。親指の力を見てどことどこの間のヘルニアだなということが分かります。
痛みはすべて急性炎症だから、安静で治ると思ってください。椎間板ヘルニアの場合、きつい痛みだけでは手術はしないのです。手術をするのはまず膀胱直腸障害、これはおしっこがでない、それからおしっこが何回もでる、コントロールできない、それから足が弱ってしまって麻痺してくるという場合だけなのです。
だから髄核を破壊したらいけません。そのような勧めにも簡単に応じないように。ましてテレビや広告やインターネットのいんちき宣伝にひっかからないようにしてください。手術をするということはヘルニアを取るというだけでなく、この中の髄核も取りますから、髄核を破壊することになる。だからあとで変形性脊椎症という病態が必ず来るんです。そういうより困難な病態を手術で解決できる人以外、髄核に手を出したらいけないのです。今レーザーがおおはやりです。皆さんレーザーのヘルニア手術を勧められたり宣伝を見たりしたことありませんか、いま保険が効かないので整形外科医以外でも、もうかるためにやりたい放題です。しかし、レーザー手術は決してうけないように私はお勧めします。安易に手術するものではないのです。レーザーで髄核を焼いたら必ず変形性脊椎症がおこるんです。神経まで焼けてしまうような合併症も起こるのです。
私の病院では腰からの症状の入院患者さんでも8割の人は手術しません。腰痛は大半は筋膜性腰痛です。肩こりとおなじですね。つっぱる、こわばる、押したり揉んだりするとすごく気持がいいけれども、翌日もっと痛くなるのでまた揉まずにおれない、悪循環ですね。朝起きる時だけつらい、動き出したら気にならない、という人は余り心配しないで下さい、そんなものは腰痛と違います。疲労物質が溜まっている、こわばっているだけなのです。うっかり施療所にいってもまれたりしないように。もみ起こしがきてマッサージ依存症になってしまいますよ。腰痛も筋力低下のある人に多い、受験生も最近はある、だから腰背筋の筋力をトレーニングしなくては決して治らないと思って下さい。筋肉はそれ自身がポンプであり、自分で体操し、筋肉トレーニングでポンプ自体を大きくすることが何より必要だと言いました。
それなのに人に何かしてもらいたいと願って接骨でぐいっと押さえられる、カイロでずれていると言われて、それをギクッとひねられる、こういったぞっとするような体験者がたくさんいます。あやしげな民間療法で背骨が曲がっている、仙腸関節がずれている、骨盤が歪んでいる、こんな事しか言わない所いっぱいあるでしょう?変なところに行かないで自分で治して下さい、治せるのです。首や肩のこりも同じです。
ぎっくり腰は急性腰痛です。これは背骨の関節の捻挫ですから関節が腫れ上がります。腫れが引くまで安静をいかに守れるかが鍵です。ぎっくり腰で、すぐ揉んだり、マッサージしたり、ぐきっとひねられたりは決してしないで下さい。温めるのもこの段階では余計な事です。
とりあえずは、自分もしないし、人にもさせてはいけません。仕事を休めない場合は腹巻きかサポーターをとりあえずあてて薬や坐薬でできるだけ安静を保つ。
しかし腰痛のほとんどの方は慢性腰痛です。筋肉の疲労が原因ですから、これは朝がつらいという特徴があります。温めるのが一番いい。温めると循環がよくなる。しかし何度も繰り返しますが筋肉はそれ自身がポンプです。むしろ痛くこわばっている時は動いて筋肉のポンプを動かす方が良いのです。そして筋肉トレーニングをして、ポンプを大きく強力にしておくということが一番大事な予防なのです。
皆さん、いまお座りの椅子はとっても座り心地がいい、さきほど座ってみました。楽にもたれられる。そこでもたれないで椅子から少し、背中を起こしてみてください、力がいるでしょう?お腹がぐっと引き締まるでしょう、もたれてください。楽ですね。ここでお腹に力をいれてグッと起こしてください。斜めのまま、5秒間保つ、これが、腹空引き締め運動です。これはお腹だけではありません、背中もきちっと背筋を伸ばします。このトレーニングはいつでもやれます。今度は前に楽に身体を起こしてください、その状態から後ろに身体を倒してください、もたれてしまわないで、倒しきらないで、途中でとめてください。そのときにすごく力が要るでしょう。そしてもう一回前にもっていって緩める、また後ろへ倒していって急に止める。もたれているようで、もたれていない、ちょっと背中を起こす、すごく力が入る、これをいつも、テレビを見ながら、人と話をしながら、あるいはつまらない会議中ずっとトレーニングしてください。テレビコマーシャルになったらその間ずっと力をいれて腹空引き締め運動をして下さい。
朝痛むときにうつぶせに寝て背中を引き起こす運動も非常に効果的ですが、この方法は座っていてやれます。私は運転中眠くなったらよくやります。運転中身体を起こすのは力がいりますよ。これが出来るようになったら皆さん、腰痛とはお別れできるということです。
さきほど、調査すると肩こりの人の半分以上、腰痛の人の三分の一はまずどこに行くと言いましたか?あんま、針、灸、接骨院といった医療類似行為です。それらの特徴は訴えのある症状に施療をするのであって医師のような診断責任はないし責任を問われることもないのです。自分の病状を大したことないと信じている人はどうぞ医療類似行為へ行ってください。しかしもし手遅れになっても結局自分の身体に責任をもつのはあなた達自身です。
肩こりには椎間板ヘルニアも日本人に多い頚椎後縦靭帯骨化症も、心臓の病気も癌も隠れているのです。腰痛の中にも沢山の病気が隠れているのです。まず診断されないといけない。結核性脊椎炎、化膿性脊椎炎、多いですよ、非常な痛みがあります。腹部臓器の異常で腰痛がくる、これも多いですね。こんなのに腰にマッサージしても病気はなおりませんね。脊柱管狭窄があったら、うっかり乱暴な整骨や整体でひねると足の麻痺がくる。
高齢の女性で骨粗しょう症という病気が増えています。それがほんとに強い場合、ほんとに前屈みになったりとんと尻をつくだけで、そして押すだけでも骨が潰れますからね。こんな危険があるので決して、医療類似行為所へ始めからは行かないでほしい。
大阪の街は特に多いのですが、接骨院がふえています。昔は早朝から整形外科診療所の前にお年寄りの行列があったのですが今は接骨院の前に行列しておられます。接骨院を経営している柔道整復師がやれることは打ち身、捻挫、骨折、脱臼といったけがだけに保険が効きます。しかし沢山の慢性腰痛や肩こりの方も行って、マッサージや気持良いことしてもらって、しかもそれが怪我の病名で請求され3000億円という医療費が保険から払われているのです。医者の同意も要りませんからやりたい放題で、体に進行しつつ有る病気も何も知らないで揉んでもらいにいっている患者さんには本当に危ない話です。
  柔道整復師は高卒専門学校で3年間でなれます。我々は運動器の専門医になるまでに6年間医学部で全ての医学を学び、卒業してからさらに6年間専門研修して試験をへて専門医になるのです。毎年500人くらいです。しかし、そのうち街の中で開業するのはおそらく50人もいないのでしょう。ところが柔道整復師は来年の春は6000人も専門学校に入学する予定です。町の整骨院は今でもたくさんありますが、愛想がいい、過当競争で皆さんがいくと、よう来た、よう来たともう、病院では考えられないようなサービスがある。しかし暴力的施療が行われたり、病気が進行して手遅れになる事例が後を絶たず、その後始末を我々がしなければならないのです。首がひねられてマヒした、腫瘍が肺に転移するまでもんでいた、腰を押されて動けなくなった。こういった後始末です。この表は1年間でどんな問題が起ったか開業医にアンケートを取った返事です。転移、悪性腫瘍の発見が遅れた、これはもう命にかかわってしまったわけです。それから症状が悪化した、これはさきほど申しました危険な病態が隠れていた。腰痛、肩こりに対して危ない施術がされた、あるいは急性腰痛や骨折で安静が必要なのに揉まれてしまったという事例でしょう。背骨が既に傷んでいて、神経がおさえられているのに、背骨がまがっている、骨盤がずれているからもどすといわれガクっとやられたら何が起こるか、想像つくでしょう?まず診断はいりませんか、診断しないで医療類似行為に行っていいですか、身体が本当に心配なら、まず運動器専門医つまり整形外科医にかかってください。それはもう最低限みなさんがせねばならないことです。医者が心配ないですよ、といったら初めてやさしい孫のような施療師のいる医療類似行為に行ったっていいのです。とにかく体が心配ならまず医療機関にかかってください。しかし医者がいったん診たらもう責任が生じちゃう、そこが医者のつらいところでね。相手を選べない、関わりができる、そしてあと始末、診断責任がわれわれにきてしまいます。
それではこのあたりで終ります。長い時間御静聴ありがとうございました。