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1. 内分泌、骨代謝の研究

(1)筋・骨ネットワーク

 超高齢化社会を迎えるわが国において、運動器疾患が原因で寝たきりの状態になる患者数が増加することが予測され、臨床的に重要な問題です。その中でも、骨脆弱化を来す骨粗鬆症や骨格筋の筋量や筋機能が低下する病態であるサルコペニアが注目されています。

 骨粗鬆症とサルコペニアの両者にはいくつかの共通した病因が推定されており、内分泌的要因、遺伝要因、力学的因子、加齢などが関連しています。その詳細については未だ不明であり、基礎研究による分子機構の解明が必要となります。

 私共は、10年ほど前より、筋と骨のネットワーク、すなわち、筋と骨が体液性因子(内分泌因子)を介して相互作用する機構や局所的に相互作用する機構を研究してきました。その中で、筋から産生される液性因子としては、オステオグリシン、FAM5Cを見いだし(Kaji. Curr Opin Clin Nutr 16:272,2013; BoneKey Rep 5:826,2016; Kawao, Kaji. J Cell Biochem 116:687,2015; Tanaka et al. J Biol Chem 287:11616,2012; Biochem Biophys Res Commun 418:134,2012)、局所因子としては、Tmem119、MMP-10、Tmem176bを報告しました(Hisa et al. J Biol Chem 286:9787,2011; Tanaka et al. Bone 51:158,2012; Calcif Tissue Int 94:454,2014; Mao et al. Endocr J 60:1309,2013; Yano et al. Exp Clin Endocrinol Diabet 122:7,2014 )。さらに、筋組織が進行性に骨に変化する難病の一つである進行性骨化性線維異形成症(FOP)の病態機序に関連した研究も行っています(Yano et al.J Biol Chem 289:16966,2014;Kawao et al.J Bone Miner Metab 34:517,2016)。これらの筋と骨のネットワークは新しい研究分野として、最近は国際的に注目されています。

 
老年医学55:69, 2017より

 現在、岐阜大学森田教授との共同研究(新学術領域研究『宇宙に生きる』:領域(代表:古川聡)に参加)を行っています。その中で、重力変化やメカニカルストレスの筋・骨連携への影響を遺伝子の切り口から研究を進め、マウスを用いて、重力変化が前庭系を介して筋や骨に影響をおよぼすことを見出しています(Kawao et al. Physiol Rep 4:e12979,2016;Shimoide et al. Biochem Biophys Res Commun 479:602,2016)。また、ビタミンD、GH-IGF-I系、性ホルモン、糖尿病、糖質コルチコイドなどの内分泌学的な視点から、筋と骨ネットワークの解明を目指しています。
 これらの筋・骨ネットワークの詳細なメカニズムや重要な因子が明らかになれば、サルコペニアや骨粗鬆症の診断に有用な血液・代謝マーカーや治療薬の開発につながっていくことが期待できます。



(2)糖尿病と骨粗鬆症の相互関連における分子機構の解明

 糖尿病が、骨粗鬆症の原因となることが最近わかってきました。そして現在、我が国における糖尿病患者数は、予備軍も含めて1650万人にもおよぶといわれており、今後、糖尿病性骨粗鬆症の臨床的重要性は増すことが予測され、その病態解明が急務となっています。

 線溶系阻害因子であるPlasminogen activator inhibitor-1 (PAI-1)は、肥満および糖尿病病態において増加する悪玉アディポカインとして知られており、糖尿病や心血管疾患の進展に関与するとされています。私共は糖尿病性骨粗鬆症の病態機序におけるPAI-1の役割についてPAI-1遺伝子欠損マウスを用いて検討し、PAI-1が糖尿病雌マウスにおける骨量の低下に関与することを報告しました(Tamura et al. Diabetes 62:3170,2013)。その機序として、糖尿病病態で肝臓から血中へのPAI-1の分泌が増加し、骨芽細胞の分化および石灰化障害を引き起こすことが示唆されました(図)。そして、このPAI-1の骨形成抑制作用は雄マウスでは認められなかったことから、糖尿病性骨粗鬆症の病態機序に性差が存在することが考えられました。
 


 さらに、2型糖尿病を合併する肥満マウスやステロイド性糖尿病マウスの骨病態におけるPAI-1の役割も明らかにしました(Tamura et al. Endocrinology 155:1708,2014; Diabetes 64:2194,2015; Kaji.Compr Physiol 6:1873,2016)。

 
現在、糖尿病、肥満、糖質コルチコイド過剰などの病態モデルマウスを用いて、脂肪組織・肝臓・骨格筋・骨のネットワークという視点から、PAI-1や関連した因子の関わりを、遺伝子改変マウスを用いて、研究を進めています。また、骨粗鬆症病態における性差のメカニズムに関する研究もおこなっています。



(3)内分泌・代謝と骨の関連

 糖尿病以外の内分泌疾患についても、臨床研究、マウスや細胞レベルの実験により、内分泌代謝疾患の臨床におけるさまざまな病態を明らかにしようとしています。



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