放射線腫瘍学部門 教授 西村 恭昌
放射線療法は、手術療法、化学療法とならぶ悪性腫瘍に対する三大治療法の一つである。しかしながら、従来わが国では多くの医師や患者はがんにかかったらまず外科的切除を考え、手術の出来ない進行例や遠隔転移例などの患者を放射線腫瘍医に紹介するということがなされてきた。一方、最近の傾向として、医師も患者も、命さえ助かれば良いという考えは少なくなり、治療後の生活の質(QOL)の高い治療法を希望するようになっている。放射線療法はこのような時代の要求合致するがん治療法である。放射線療法の特徴を一言で言うと、がんに侵された臓器の機能と形態の温存が出来るということにつきる。また、がんの局所療法であるため、全身的な影響が少なく、高齢者にも適応できる患者にやさしいがん治療法である。
米国ではがん患者の約50%がその治療経過中放射線治療を受けているのに対して、わが国ではがん患者の高々25%程度にしか放射線治療が行われていないと推定されている。わが国は被爆国ということもあり、放射線は怖いという印象がある様で、大変有効ながん治療法であるにもかかわらず、患者や医師の無理解のため、あるいは放射線腫瘍医のマンパワー不足および宣伝不足のため、残念ながらその力を十分発揮できているとは言い難い。ここでは放射線療法の考え方をわかりやすく解説するとともに、最近の放射線療法の進歩を紹介する。
放射線治療においては、1) 腫瘍の局所制御 2) 正常組織の急性反応、3) 正常組織の晩期障害の三因子が基本となる。わかりやすくするためマウスの実験データを基に説明する。マウスの足背部に移植した直径4-5mmのマウス乳癌腫瘍を同一の線量で10回照射する(右図;マウスの実験データ○印データ、マウスの直径5mmの乳癌移植腫瘍の10回分割での合計線量と局所制御率の関係)。
照射後120日目にマウス腫瘍が完全に消失していれば、癌は治癒したと考え局所制御とする。例えば6Gy x 10回の照射を行った場合合計線量は60Gyとなり、局所制御率は0%(すなわちマウス腫瘍は1つも治癒しない)であるのに対し、7Gy x 10回の照射では合計線量70Gyで局所制御率は約50%、さらに8 Gy x 10回の照射では合計線量80Gyとなりマウス腫瘍は100%治癒する。マウス腫瘍を用いた実験では高い再現性をもって、放射線治療が照射線量に大きく依存することが証明できる。このことから放射線治療は実に単純であることが理解できると思う。すなわち放射線治療では線量さえ十分投与すればがんは100%治しうるのである。
ただし、ここで問題になるのは正常組織の反応である。例えば60Gy程度の照射をすると照射開始10-14日ぐらいでマウスの下肢皮膚は放射線皮膚炎を起こす。線量が高いと皮膚が全てむけてしまうほどに強い皮膚炎を来すが、照射終了後2-4週間でほぼ治癒する。これが急性障害である。人体においても照射野に含まれる臓器に色々の急性障害がおこる。例えば放射線粘膜炎、放射線食道炎、放射線皮膚炎、下痢、骨髄抑制などである。これらの急性障害は治療終了後数カ月以内に消失するので照射中はつらいが、心配することはない。
放射線治療で最も注意しなければならないのは、照射後数年、場合によっては10年以上もたって発生する晩期障害である。先ほど8Gy x 10回の照射を行うとマウス腫瘍は100%治癒すると述べたが、この時マウスの足は萎縮し、指はとけてなくなっている。これが晩期障害である。晩期障害は一度生ずるとなかなか治らない。マウスの足指だから許されるものの、患者さんの皮膚に放射線潰瘍が出来たり、放射線脊髄炎で下半身麻痺になったりしたら、がんは治癒しても患者さんに感謝されないのは当然である。我々放射線腫瘍医は重篤な晩期障害を作ることなく、腫瘍を治癒させるうる線量にて放射線治療を行なっている。
近年放射線療法は大きく進歩している。この進歩は、大きく3つに分けられる。
(注:
は、近畿大学医学部放射線腫瘍学部門で、実施しているもの。)
| 空間的線量分布の改善 | CTシミュレーション、PET/CTシミュレーション |
陽子線治療、粒子線治療 |
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| 時間的線量分布の改善 | 加速過分割照射 |
| 放射線増感法の進歩 | 化学放射線療法 |
温熱療法、放射線増感剤 |
第一の進歩は、空間的線量分布の改善である。これはがんの病巣に線量を集中しその周囲の正常組織には線量を当てないようにする照射法の進歩である。かつて放射線治療をコバルト治療と言った時代があった。いまでもこの言葉を使う患者や医師も多いが、現在は電子を加速し電子線やX線を作る直線加速器(リニアック)で放射線治療の大半は行われている。コンピュータの進歩とともにリニアックも高精度化し、原体照射、がん病巣をピンポイントでねらい打ちする定位放射線治療、さらに究極の外照射法とも言うべき強度変調放射線治療(IMRT)などが行えるようになった。
当院は平成18年7月より先進医療としてのIMRT実施施設として承認された。治療計画も二次元から三次元となり、PET-CTを用いた画像を基にするPET-CTシミュレーションも可能となっている。この他、がん病巣にチューブや密封された放射線同位元素を刺入し線量を集中する小線源治療法や、専用の治療設備が必要な陽子線治療や重粒子線治療なども行われ、がんの形状に即した高精度放射線治療が行えるようになった。
![]() 【高精度直線加速器リニアック】 |
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![]() 【強度変調放射線治療 IMRT】 上咽頭腫瘍に対するIMRTの線量分布図:耳下腺や脊髄などへの線量を低減し、腫瘍へは十分な線量が投与されている |
【PET-CTシミュレーション】 |
【192-Ir高線量率小線源治療装置】 |
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時間的線量配分の改善も大きな放射線療法の進歩である。通常の放射線治療は1回2 Gyを週5回照射し、合計60 Gyを約6週間かけて治療する。近年この照射期間が腫瘍の局所制御に関連することが明らかにされ、頭頸部腫瘍、食道がん、子宮頸がんなどの扁平上皮癌を放射線単独で治療した場合、照射期間が6週間を越えると局所制御率は減少することが報告されている。逆に、頭頸部腫瘍や食道がんでは、週6日照射や加速多分割照射で照射期間を短縮することにより、局所制御率および生存率の向上が示されている。照射期間の短縮を目的とする加速多分割照射では、晩期障害を増加させないように1回1.2-1.5 Gyの照射を1日2-3回照射する。基本的にはどのようながんでも、一旦開始された放射線療法はよほどの急性障害がない限り、休止することなく終了させることが望ましい。
また、放射線増感法の改善も進んでいる。抗がん剤と放射線療法を組み合わせる化学放射線療法は多くのがんで試みられ、頭頸部腫瘍、肺がん、食道がん、膵がん、大腸がん、肛門がん、膀胱がん、子宮頸がんなど多くのがんで臨床試験が行われた。これらのがんでは、ランダム化比較試験によって化学放射線療法が放射線治療単独よりも良好な治療成績を示され、化学放射線療法が標準的な照射法として認められている。この他、温熱療法も臨床応用された放射線増感法の一つである。加温の容易な表在腫瘍はもちろん、深部腫瘍の中でも子宮頸がんなどでは温熱併用放射線療法と放射線単独治療のランダム化比較試験が行われ温熱群でより良好な成績が示されている。
最後にまだ実用化はされていないが、放射線治療効果予測の研究も進められている。同じ部位にできたがんでも、個々のがんの放射線感受性は異なり、これまでは照射してみないとその効果は分からなかった。しかしながら、遺伝子レベルの研究も進み個々の腫瘍の特性に合わせた放射線治療も近い将来可能になるものと思われる。さらに正常組織の障害予測と合わせ、晩期障害を作ることなく最大の局所制御率を上げるうる照射法を患者ごとに選択するオーダーメイドの放射線治療が達成できるものと思われる。