漢方・大阪/近畿大学東洋医学研究所
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これまでに連載した記事よりピックアップしたものを掲載いたします。
漢方との出会い
「西洋医学が万能の今日にあって、なぜ時代遅れの東洋医学を志したのですか?」とよく聞かれる。これに答えるまえに、「なぜ医学部に入学したのか?」についてふれる。
私の親類には医師と歯科医師が合わせて十二人いるが、一般常識からするとかなり偏りのある家系だ。しかし、父は医者ではない。眼の障害のため医師志望を断念したいきさつがある。そんな父に「ほんとうは医者になりたかった」と普段無口な人から、ことあるごとに聞かされ、父の果たせなかった夢をかなえようと、物心ついたころから決めていたようである。そして、医学生になった。
大学5年ともなると、医師の志望コースをそろそろ決めるころであったが、入学した時の「人の役にたてる医者になりたい」というあつい気持ちはどこへやら、進級のための試験勉強と盆と正月だけが休みの体育会系のクラブ活動に明け暮れ、将来の青写真のないまま最終学年に突入しようとしていた。
そんなある日、過労のためか私はウイルスによる病気にかかった。顔面に無数のイボの花が咲いた。その数の多さから自分の顔を鏡で正視することができず、無理にみようとすると吐き気をもよおすほどであった。近くの皮膚科の先生にみてもらったところ、「青年性扁平ゆうぜい」という病気で、抗がん剤をつかえばすぐ治るが、どうしてもヒフに色素沈着が残ることが多いと言われた。男性でもまだ未婚の身であり、これにはさすがに困った。するとその先生は、もちろん西洋医学が専門の医師であったが、「ハトムギ(生薬名はヨクイニン)をのめばイボが治ることがある」といわれ、薬を処方することもなく診察が終わった。そこで、急ぎ薬局でハトムギの原末(粉末)を購入し、毎日食前に大さじいっぱいのハトムギをむさぼりのんだところ、二日目から顔がいつもよりほてり、かゆみを感じていたら、三日目の朝には、あとかたもなくすべてのイボが消え、むしろイボができる前のヒフよりもきれいになった。後から思えば、ハトムギだけを使うのは漢方治療ではなく民間療法なのだが、この時は劇的に完治し、すっかり漢方の底力にみせられてしまった。私の原点は、この青春時代の一体験にもとづく。
現在通院中の患者さんを見回してみると、アトピー性皮膚炎、乾癬(かんせん)、じんましん、紫斑(しはん)、皮膚そう痒症、ヒフや粘膜に潰瘍(かいよう)を形成するベーチェット病などの膠原(こうげん)病から脱毛、痔にいたるまで、ヒフ類縁疾患の患者さんが多い。「類は友をよぶ」を地でいっているようである。(注:この原稿は平成10年に書かれたものです。)
近畿大学東洋医学研究所 新谷卓弘
平成10年8月 「ドクターの目」に掲載

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