アトピー性皮膚炎の説明

   1994年1月改定(第4稿)(91年初稿)近畿大学皮膚科 山田秀和記  94/1/10HY



 目次


 

基礎的説明

 私達の体には病気からのがれようとする”しくみ”があります。細菌、ウイルス、ダニ、ある種の食物、癌細胞を、排除しようとするわけです。これを生体防御のしくみといいます。これらの体にとって好ましくない異物(抗原)を排除する機構を特に免疫反応と言います。この免疫反応とは抗原と抗体(グロブリン蛋白)が、またリンパ球などの細胞が結合して起こる反応のことです。
 アレルギーとはこのような免疫反応が一度に多量に起きたために私たちのからだに生じた不都合な状態を言います。正常状態から崩れている状態を言うのです。アレルギーをおこす原因物質(抗原)をアレルゲンと呼びます。
 アトピーとは生まれたときから、遺伝的にアレルギーを起こしやすい状態(過敏症)をいいます。そのような要素を持つ人をアトピー素因の有る人と言います。このような人は、花粉類、動物の毛、かび、ゴミ、食べもの、等のありふれたものが抗原となりアトピー性皮膚炎(湿疹)、喘息、アレルギー性鼻炎、花粉症、アレルギー性結膜炎、蕁麻疹、等を起こします。ですから、アトピーとアトピー性皮膚炎は同じ意味ではありません。また、アトピー性素因の有る人では、皮膚が乾燥し、鳥肌が立ったように毛穴が目立ちます。このような皮膚をアトピー皮膚とよびます。このアトピー皮膚は正常の人の皮膚よりも抗原を身体の中に通し易いので、このアトピー皮膚に数々の刺激が加わると、アトピー性皮膚炎となります。もともと、免疫とは、漢字のように、疫を逃れることを言うわけです。あるいは、麻疹(はしか)を一度すると二度となることはまず有りません。これを免疫と言います。ではどうして一度しか起こらないのか?これが関係しているのが、生体のいろんな細胞や物質です。その中心と思われているのが、細胞性免疫や液性免疫です。液性免疫というのは、血液中にあるガンマーグロブリンという蛋白(リンパ球のうちBリンパ球細胞がつくります)がウイルスや細菌にくっついて、無害にしてしまうものを言います。その他の作用もありますが、IgE もこの仲間です。一方、細胞性免疫はリンパ球が主体です。とくにTリンパ球がその役割を担います。接触性皮膚炎ではこの反応が主体と考えられています。。患者さんのなかにも、血液をとって抗原に対する反応を測定(RASTスコアとよばれています。)した人もいると思いますが、その際に医師より ”あなたに反応している抗原は、ダニやハウスダストです。”とか言われていると思いますが、この機序は次のように考えられています。



ダニのもっているタンパクの一部(抗原)が体の中にはいると、皮膚にあるランゲルハンス細胞と反応して、これがT細胞に情報を渡します。渡った情報により、T細胞はこの物質を覚えていて、再度ダニたんぱくが体にはいってくると細胞は増殖します。そして、物質の入ってきた所(例えば皮膚、)に集まってきます。そうして、この局所を攻撃してしまうのです。言葉を変えて言えば、T細胞はこの物質(抗原)を排除しようとするわけです。そのおりに、自分自身の表皮細胞もやっつけてしまうことになります。その際マスト細胞というかゆみに関係する細胞が、ヒスタミンと言う物質を出して、神経を刺激しかゆみが感じられますし、マスト細胞が出すその他の因子によって炎症が進み、赤みや、滲出液、等が出来てくることになります。一方、このT細胞の攻撃に際して、表皮内にあるランゲルハンス細胞や、IgE が重要な役割を果たしていると考えられています。

 

 


 

診断、検査について

 アトピー性皮膚炎と診断をつける基準(診断基準)が色々な研究者より提唱されています。1993年に日本皮膚科学会がアトピー性皮膚炎の診断基準案を発表し、また厚生省より小児のアトピー性皮膚炎の実態調査のための診断の手引きが発表され、さらに日本アレルギー学会がアレルギー性疾患の治療のガイドラインの中にアトピー性皮膚炎の診断法が書かれています。
しかしながら真のアトピー性皮膚炎は何かと言うと難しく、バリエーションが多くあると考えられるようになってきました。簡単にアトピー性皮膚炎の症状を言うと、かゆみがあること、季節で増悪の繰り返しがあること、典型的な皮疹の分布を示すことがあげられます。さらにIgE の高い人が多い、いろんな抗原に反応する人が多い、等があげられます。
ただし難しいのは年齢によってその皮膚の反応が異なることです。このため乳児から幼児にかけての診断は十分注意する必要があります。その原因についても成人とは若干異なっていると考えられているため治療法が異なります。
これらを正確に知るためにはアレルギー総量とかんがえられるIgEを測定したり、どのようなものに反応しているのかを知る目的で、血液検査による特異的 IgE抗体の検索や皮内反応が必要なのです。現在では、約200項目も抗原を調べることができるので、増悪因子を調べてもらうのがよいでしょう。血液量がすくなく10項目を一度に抗原を調べることのできる検査法も出来てきてきましたので小児などにはよいかもしれません。さらに好酸球が多い場合に重症のことが多いのでIgE と共に定期的に調べるのがよいのです。あるいは血液中のある種のの酵素は皮疹の程度と関連していることがわかってきましたので経過の観察に役立ちます。このように血液検査で現在の抗原に対する反応の程度をしることができますので、定期的に調べるのがよいと考えられます。原因となっている物質が特定できるればこれを除去することで皮膚の症状は改善します。

 

 


 

治療法について

 いろんな治療法が言われていますがまだ確定的でだれにでも有効な治療法はないのです。治療の原則は抗原からの回避です。アトピーの体質は直すことができると説明する人もいますが体質の意味が人によってことなっています。体質をその人のDNAの情報(遺伝子)で決まるという立場をとれば否定的です。

 

1抗原からの回避

 多くの人がダニやハウスダストに反応しています。最近の住宅環境が関連しさらに自動車などの排気ガスが関係しているとの報告もあります。いずれにしろ環境整備には十分な注意が必要です。もしダニ抗原特異的IgEの高い人はお部屋の掃除を十分にして下さい。じゅうたんを使用しているひとは特に注意してください。ダニ退治用の掃除機などが出ていますから上手につかってください、しかしいくらダニを殺してもまたすぐにもどりますから面倒でも掃除しかありません。とくにふき掃除がいちばん有効でしょう。
その他 人によっては食事で皮膚炎が起こっていると言われることもありますが、食事が原因の皮膚炎は乳児や2歳未満の幼児におおく成人ではたいへん少ないのです。これらは血液検査である程度わかります。その他、患者さんの生活史より増悪因子がわかることがるので、本人の日記や記憶が重要ですし、数年間の患者さんとのつきあいからわかる場合もあるので気長な受診が必要でしょう。その際に重要なことは何が増悪因子かをよく考えておくことです。このことだけでも病気の改善に役立ちます。

 

2内服剤について

 抗原には十分注意したがそれでも皮膚炎がでる場合は内服剤の使用が有効です。
 現在のところ、アトピー性皮膚炎の患者さんに特に有効な内服剤としては、抗アレルギー剤と抗ヒスタミン剤があげられます。抗ヒスタミン剤はかゆみをとることを主体にしていますが、その作用機序については、比較的単純です。一方、抗アレルギー剤はその機序は複雑で、抗ヒスタミン作用を含むものと、含まないものとがあり、さらに当然のことながら、その他の作用(好酸球の抑制、細胞膜の安定性、等)が主力となっていて、個々の薬剤によってその効果は異なります。
このため、内服薬の出し方として、あるときは抗アレルギー剤単独、あるときはアレルギー剤+抗ヒスタミン剤の2種となることがあります。更に、時にはかゆみをおさえるため、あるいはかゆくて睡眠時間がすくない人には、睡眠導入剤や精神安定剤を出す場合があります。いずれにしろあまり強いものではないので心配はいりませんが、内服の方法についてはよく主治医の先生の指示を守ってください。アトピー性皮膚炎の患者さんは、その病態によって少しずつ違う薬がでることがあります。また以前にも書きましたように、アトピーと言う病態は皮膚だけに限るものではなく、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、その他の病気と重なっていることが多いため、眼科や耳鼻科で罹ったときに類似の薬がでることがあり、重ねて飲まないほうがよい場合もあるため、必ず医師にどのような薬をのんでいるのかを話してください(できれば薬をもってきて見せてください)。さて実際にはここ数年間に、約9種類のアレルギー剤がでており、ステロイドの外用剤の量を減らすという目的で長期投与がなされるようになってきています(1994年1月現在)。もちろんいつも言うように副作用の全くない薬はありませんので外用、内服とも十分注意が必要です。自分の体に異常があると感じた場合は、次回の診察まで待てる場合は、速やかに内服などを中止してください。そして次回の受診日より早く来ることができるなら再診してください。もし、重篤な症状の場合は速やかに連絡して指示を受けてください。漢方薬を投薬する場合も副作用はでますが、重篤なものは少ないようです。ただ西洋薬と同時に投与して有効か、問題があるかは現在では不明な点も多く十分な注意が必要です。もちろん漢方が有効な場合もありますので、場合によっては投与を続けることもよいと思われます。ただよく医師と相談して投与をうけるのが良いでしょう。医療機関でも漢方薬が保険でだすことのできることもありますので相談してください。


 

3外用剤について

 アトピー性皮膚炎の治療では、皮膚炎を治すにはステロイド外用剤がもっとも効果的です。従来の塗布薬とは桁違いに強力です。ステロイドの外用がなかった時代(約30年以前)では、全身に包帯を巻いている人達を町でよく見かけたものですが、ステロイド外用剤ができてからはそのような姿を見なくなってしまいました。単純に塗るだけで、症状が改善するようになったのです。問題は、このようなことから、初期には、注意深く使われていた薬が次第に安易に使われるようになってきたことです。医師も十分な注意を患者さんにしないことや、患者さんも、薬の又貸しや良く効くからといって、適当につけることが行なわれるようになってきたのです。また、薬局でも一部の薬剤は入手できるので手軽さもあってステロイドを安易につかってしまうのです。単純なかぶれなら2-3日で直ってしまいますからこの治療法は正しいのですが、慢性に起こるものや、原因を特定しないで漫然と使用する場合は、ステロイド性の糖尿病、副腎機能不全、などの全身的影響や、ステロイド酒さ(赤ら顔)、ステロイドざ瘡、などの局所のトラブルに巻き込まれることがあります。この点を良く理解して、正しい使用法に心掛けるべきです。当科ではステロイド外用剤の使い方を書いたパンフレットを渡しますので、これも参考にしてください。私達が気づいた誤った使用法としては、

1)皮疹の部位による使い分けが誤っている人がいる。
 なんどでも話しているように、顔、首にはステロイド外用剤の使用は3日以内が好ましく、できれば使用しないことにこしたことはありません。それ以上使用する場合は、常に医師と相談することが大切です。眼瞼(まぶた)に発疹が有る場合、強いステロイドを4ー5日つけて炎症を治めるようにして、なるべく眼をこすらないようにしましょう。強く、何回も眼をこすると物理的な力で網膜剥離をおこしやすいと最近考えられています。

2)薬の種類を理解していない人がいる。
 ステロイドの外用剤については、最強、非常に強い、強い、普通、弱いと分けられてます。しかし部位による生理的吸収や組織学的なちがいにより、また病気のていど、季節などにより使い分けを必要とします。この点を理解して使用するようにして欲しいものです。簡単に言うとしこりが強い、かゆみが強い等があると、強いステロイド外用剤がでることが多いのですが、だからといっていつも強い薬では問題があるので良くなってきたら軽い薬に変えたいのです。アトピー性皮膚炎の場合は、増悪したときにのみ外用剤をつけるのでなく改善していても弱い薬で治療する必要が有ります。そのためステロイドではなく非ステロイド性の消炎剤がでる場合があります。使い分けを良く理解するようにしましょう。そのためには面倒でも実際に皮膚炎をみせて相談してください。最初の、数年間はやはりしっかりと見せてください。そうすることによって、どこにどのような薬をぬるのか、又、飲み薬の使い方などを患者本人が、あるいは親が勉強してください。そのために外用法はよく医師にきいてください。

3)他人の薬を流用する人がいる。
 皮膚科で出されているステロイド外用剤は比較的強いものが多く、ときにはステロイドの内服剤と変わらない場合があります。このように、緊急避難的に使われている強力なくすりを他人に使用すると、全身的な副作用を起こすことになります。この点も十分注意して皮膚科からでた薬は使用して欲しいと思います。

4)その他、非ステロイド外用剤やガーゼなどに重層して使うくすりがありその使い方はむつかしい場合があり、長い時間をかけて身につけるしかなく、主治医の先生の指導にしたがってください。(くわしい方法は処置のときに説明を受けてください、しかし簡単にわからないと思うので、重症の人の場合は、特によく治療法を理解する必要があります。)上手な外用療法の使い方をすると、ステロイドの減量にもつながり大変有効です。しかし、あやまった使い方はかえって増悪させますので専門家の指示にしたがってください。
 しかし、ステロイド外用剤は毒薬ではありません。上手に使えば素晴しくよく効く薬です。

4光線療法

 アトピー性皮膚炎が日光浴で軽快することは古くからいわれていますがその一方で増悪因子として説明されている場合もあります。日光による増悪の場合はおおくは過度の日光浴や発汗によるものと考えられ、うまく光を用いることで皮膚炎の改善に有効でしょう。現在用いられているのは、人工紫外線照射装置をもちいた長波長紫外線(UVA)、中波長紫外線(UVB)をもちいた方法です。当院ではこのような装置をもちいて治療する場合がありますが、初めはどれくらいのエネルギー量が必要かなどの検査が必要ですので、十分な医師の指導のもとに行う必要があり、初めは、ほぼ毎日、照射し改善してきたら、維持照射を週1回から月1回程度受ける必要があります。

 

 

 


〈アトピー性皮膚炎・接触皮膚炎などでステロイド軟膏を使う患者さんに〉ステロイド軟膏の効果的な塗り方  94/1/10/HY


アトピー性皮膚炎などでステロイド軟膏を使う患者さんに対するステロイド軟膏の効果的な塗り方
1、基本
朝と夜の2回の外用が基本です。
1日2回の塗布の指示がでた場合は、朝と夜の2回塗りが基本です。塗りわすれしないこつは、朝は起床時、夜は入浴後と時間をきめて塗ること。ただし症状によっては1日3回などの指示がでたときは朝昼夕の3回、症状がかるくなって1日1回で良いときは入浴後が効果的です。また外用していてよくなってきている場合は外用の回数を減らしてください。減らさないほうが良い場合は再診時に説明します。

2、塗り方
薄く塗るのが基本です。
初診時には外用法を説明するのを基本としています。擦り込まないのが特に大切な点です。こちらで外用する仕方を良く見て、外用法を覚えてください。解かりにくい場合は来院時に尋ねてください。

3、お薬の強さ
ステロイドの外用剤は強さだけでなく、その中に抗生物質などの混ぜ物が入っているものがあります。その他、軟膏(透明でべとべとしているもの)、クリーム(白くてつるつるしたもの)が有ります。さらにローション、ソリューション、アルコール液等もあり、クリームと軟膏の中間のタイプも有ります。この違いは単に塗りやすいと言う意味ではありません。その使い方は大変難しいものです。その点で皮膚科の専門医にて治療する必要があると考えます。
例えば、最初は強めのステロイド外用剤から様子を見ながら変更して1ー2週間で中止するということをすることがあります。又、非ステロイド系の外用剤に変更して行くことも良くあります。アトピー性皮膚炎の場合は更に長期間外用することが多いことと小児にも使うためその強さやタイプをまめに変える必要があります。また部位によっても違います。特に指示がないかぎりステロイドを顔には塗らない方向で治療するのがよいのです。最後にこのような意味でもステロイド剤は一人一人の症状や部位におおじて処方しているので、家族内でも使い回しはしないことです。

 

 


 

皮膚病を治す為の一般的注意


(入浴について)
皮膚が汚れたままだとダニなどの排泄物や黄色ブドウ球菌がついているので症状が悪化します。清潔は大切です。入浴やシャワーは毎日でも構いません。刺激の少ない石鹸(たとえばコラージュD石鹸等)で汚れはおとしてください。外では、髪にも汚れがたくさんついています。やはり刺激の少ないもので洗ってください。リンスやシャンプーの後に、すすぎは十分にしてください。
長時間の入浴はかゆみを増しますので、短時間に手短に入ってください。入浴後、赤みや、かゆみの強いときは冷やすようにしましょう。
入浴と共に塗り薬も取れてしまいます。塗り直しと全身の油分の補給をするとしっとりします。
(衣服と寢具)
チクチクするものが直接肌にふれないようにしてください(例えば、毛のセーターなど)。下着はなるべく木綿のものにして下さい。
まわりの人の着ているものにも気を付けて下さい。
毛布やお布団も出来れば綿のカバーをしてください。
(爪)
爪は清潔にしましょう。
爪は短く切りましょう。
(掃除)
汚れやダニの少ない部屋にしましょう。
拭き掃除が大切です。
絨毯はダニと埃の元になりやすいので、十分掃除しましょう。
(かゆみについて)
塗り薬で、すぐにかゆみをとるのは無理です。お薬を塗ってその後氷袋などをガーゼのハンカチで巻いて、直接水がつかないように軽く冷やしてください。掻くことがさらに病気を悪くします。時に、内服が必要な時が有ります。説明を良く聞いて、正しい内服をしてください。

 

 


 

スキンケアについて

 アトピー性皮膚炎の患者さんは、普通の人に較べてひふが弱く数々の抗原を身体の内に通しやすいのです。そして大きくわけて2つのタイプが有ります。夏に悪くなるタイプと冬に悪くなるタイプです。冬に悪くなるひとは皮膚の水分を保つ能力が低下しているために皮膚が乾燥します。これは角層(あかの直前の層、最外層)での水分保持能が低下しているのです。水分保持能を保てないと乾燥するだけでなく皮膚の表面の緩衝効果が低下して外からの抗原その他の刺激が増えて病気を悪くします。夏に悪くなる人は汗の分泌に異常があるらしく、この汗の成分が逆行性に皮膚の中に浸み込んでひふを刺激して皮膚炎を起こすと考えられています。
さらに気をつけてほしいことは、まず石鹸の問題です。できるだけ刺激の少ない石鹸を使うのが良いでしょう。例えば、コラージュ石鹸といったものです(宣伝のつもりはありません)。更に言うと、乾燥肌用のものがでていますのでつかってみるのもよいでしょう。ただし、汚れを取るのは大切ですが、こすらないこと。次に、外から油を補うという方法です。これにはいくつかの油がでていますが、たとえばベビーローション、椿油(アトピコという名のものあり)、等です。外から補うという点ではスキンクリームもよいのですが、アトピー性皮膚炎の人は、刺激を受けやすいという点に注意してください。そのため、時には尿素軟膏と言う薬がもちいられています。(これは当院でも出すことがあります。)これは、皮膚が体外に出す水分を角層内に閉じ込めようとするもので、入浴後の比較的水気が残っているときに乾燥している所につけるのが良いのです。副腎皮質ホルモンの外用剤は、赤みやかゆみがでたときにつけ、ただ乾燥しているだけの部位は尿素軟膏にしておくのが副作用を減らす良い治療だと考えています。あらたに保湿剤を外用、ときにはステロイド外用後の重層を指示する場合があります。副腎皮質ホルモンと尿素軟膏や保湿剤を重ねて塗る場合もあるので医師の説明を良く聞いてください。
 更に最近、入浴剤(たとえばバスキーナ)やその他のスキンケアー商品(オリゴマリン、ヨモギローションなど)が色々とでてきました。これらには皮膚の乾燥を予防する働きが有ります。これらのスキンケアは乾燥を防ぎかゆみも軽減するので、うまく使いましょう。しかしだいじなことがあります。使用して合わないときはすぐ止めることです。なぜならアトピー性皮膚炎の人は元々いろんなものに反応しやすいのですから、石鹸や外用剤ですら合わないことがあるのです。そのことを良く理解して使用してください。また、温泉療法や海水浴療法が宣伝されていますが、くわしくは医師と相談してください。

 

 


 

日常生活での注意

 抗原を検査してどのようなものに反応しやすいかがわかれば、その物質、たとえばハウスダスト(家のほこり)、ダニ、などを減らすようにしましょう。縫いぐるみや、犬、猫、鳥などの動物も原則として良くありません。絨毯をひいている場合、特によく掃除してください。窓やさんの所も堅く絞ったぞうきんでの拭き掃除が一番良いと考えられています。衣服の洗濯や、寢具の洗濯もまめに行なってください。
その他の一般的な注意は、常識的なことばかりです。爪を短くすることや、できるかぎり掻かないなどです。眼症状(網膜剥離、白内障)が現われることがありますので定期的な眼科の受診も必要でしょう。
 アトピー性皮膚炎のひとは、ほとんどの人の皮膚表面に黄色ブドウ状球菌が感染しています。ですから、シャワーなどをよく使い、その後のスキンケアーをするとよいひとが多いようです。また重症のひとのなかにはこの黄色ブ菌からでる物質が血液中のリンパ球を刺激してアトピー性皮膚炎を増悪させていることがわかってきました。このため消毒剤や抗生物質でこの菌をたたくことが検討されていますが、むつかしいのはすぐ耐性菌をつくるため特効薬がつくりにくいことです。最近問題になっている、MRSA(メチシリン耐性黄色ブ菌)がつくこともおおく、他人への感染が問題になるばあいがあります。免疫能の落ちた癌患者などへの接触は注意してください。しかし皮膚表面にいる間はあまり心配しないでもよいとかんがえられており、定期的に感染の程度をしらべてもらって主治医にどうすればよいかを相談してください。
 また日光が大変強く当たりますと皮膚はいろんな反応を起こします。日光に当てるとランゲルハンス細胞と言う免疫に関係する抗原提示細胞が減少するのです。簡単に言うと外からの抗原に対して、反応しにくくなると言うわけです。このためダニやハウスダストに反応している人の場合は、特に皮疹が改善すると考えられます。このことをさらに進めたのが光化学療法(PUVA)です。数年後には、一般の医療機関でも行なうようになるかも知れません。さて日光に適当に当たると皮疹が改善する人が多くなります。ところが日光を浴びなくなった秋時分には再発しやすくなります。(海水浴療法の一部はこれを利用しています)。と言うのは、ランゲルハンス細胞がふたたび皮膚に戻ってくるからです。また注意して欲しいことは、汗は大変皮膚炎を悪化させるため、日光に当たるとひどくなる人もでてきます。
 また、疲労やストレスも増悪因子です。徹夜やテストなどによって悪化することはよくみられます。その点では、規則正しい生活、早寝、早起きが大切です。

 

 


 

食事とアトピー(アトピー性皮膚炎のみでない)

 アトピー性皮膚炎が食事によってひき起こされるという考え方が有ります(アレルギーマーチ)。特に小児の場合にその話がよくされるため、成人についても盛んに議論されるようになってきました。
 結論から先に話しますと現在でもよくわからないのが現状です。よく混乱があるのはアトピー性皮膚炎のこととその他のアトピー性疾患が混じって話が行なわれることです。ですから患者さんの話と医者の話が合わないのはこの点もあると思います。しかし次のことは明らかになってきましたし、我々も正しいと考えています。最初に、子供のアトピー(皮膚炎に限らず)について書きますのでよく理解してください。
まず乳児の離乳食はできるだけ遅らせてください。これは乳児検診の際の話と異なると思います。この紙を手にする人は、少なくともこの病院でアトピー性皮膚炎と診断している方に渡していますので、アトピー(皮膚炎にかぎらず)の人を対象に書きます。正常の生理的状態では、赤ちゃんの腸は2才位まで大変外界からの物質(簡単に言うと食物)を吸収しやすいのです。特に最初の6ヵ月は敏感と考えられています。だから母乳を飲むのです。そこで離乳食はそのお子さんの成長を考えて始めるようにします。(くわしくは医師に相談してください。誤った食事制限は小児の場合成長障害がおこり脳の発達の遅滞がおこりえますので注意が必要なのです)。卵、大豆、牛乳、が3大アレルゲンと呼ばれています。これらはアトピー(アトピー性皮膚炎のみではない)の人においては初期の離乳食の際に避けるべきでしょう。こうすれば単にアトピー性皮膚炎だけが起こりにくくなるのでなく他のアトピー疾患も起こりにくくなると考えられています。
 2才以上の小児に関しては大変難しいようです。なぜなら、抗原(反応するもの)がなにかを決めるには余りに多くの物を食べたり触ったりするため難しいのです。そのため血液検査でこの増悪因子やアレルギーの程度を調べる必要があります。アトピー性皮膚炎にのみ限ればその食物をとってから必ず発疹がでるという事実が必要です。成人の場合は、さらに抗原物質はたくさん有ると考えられ特定することが困難です。しかし血液検査で陽性にでたものはできるだけ避けるようにするのが適当と考えます。アトピー性皮膚炎に限って話をすれば、近年、米、小麦に強く陽性の人がいます。この人達は、できるだけ代用食をとることがよいのですが、現実として難しい面が有ります。ただ1991年の末より低アレルギー米が使用できるようになってきました。血中でのRAST検査やスクラッチテストなどで陽性になった場合は治療として利用できると思います。(興味がある場合は相談して下さい。)又、食事のアレルギーを抑制することのできる抗アレルギー剤が作られています。腸での抗原の吸収が抑制されると言われておりまたこの薬は生体内に入らないことから副作用も少ないと考えられているものです。このような薬剤の内服も必要な人がいます。
 このように食事ひとつとっても人によって異なるので、それぞれの人にあった治療を患者さんと家族と医療サイドとで、考えていく必要があると思います。いずれにしろ食事は人間にとって大変大切なもので、医食同源と言う言葉もあるくらいです。しかしこれらは楽しくとってはじめて意味があるので、余り気にし過ぎても良くありません。この点もつねに忘れないようにしてください。

 

 


 

その他

 アトピー性皮膚炎は、いつも言うようになかなか治らず、いらいらすることもあると思いますが、またこのようなパンフレットを読んでかえって心配する人もでてくると思います。しかし、現実をしっかりとみすえて治療をすべきと考えます。病気を根本から治すのは大変難しいのですが、コントロールすることは可能になってきました。この点も良く理解して、焦らず面倒くさがらず治療しましょう。ちなみに近大皮膚科の手塚教授もアトピー体質ですが、御自分でよくコントロールしておられます。
 正直なところ、アトピー性皮膚炎については、専門家でも解からないところがたくさんあり、日本アレルギー学会、日本小児皮膚科学会、日本皮膚科学会、日本研究皮膚科学会、日本臨床免疫学会、等で盛んに発表されていますがいまだ群盲象をなでるの状態にとどまっておりまだ解かったと言うところまで行かないのが現状です。このことが実際の臨床医の間でも考え方が違ったりする理由です。このため、あまり科学的でないと考えられる治療は薦めることが出来ません。新聞、雑誌等で評判になったものはもし科学的なものであれば、必ず学会にて報告されまた批判されるものです。その批判なり、追試実験にて正しいかどうかが評価されるものであり、それまでには、数年の歳月を必要とします。このことを良く理解して新聞記事等を読んでください。また新しい薬剤の開発は、長時間を必要とします。細胞のレベルで、理論的に正しいことが解かっても、動物実験のレベルでだめなものもありますし、又、動物実験でも、危険度が、あるいは、高度の催奇性が有る場合は中止となります。さらに高等動物での検討が加えられ、ひとに投与されます。更に、どの濃度で有効か、またどのような副作用があったかが調べられます。この後、さらに有効であれば、症例数を増やして、全国のレベルで検討が行ないます。これらがすんだ後、厚生省での検討が加えられ、企業との間や大学とに対して宿題が繰り返させられており、最終的に厚生省が保険薬剤として認める形を取ります。このような形を取るため、普通10年の歳月が必要と考えられます。このような手順を踏んだものでも、新聞などでの報道のように大規模に薬剤をつかってみると副作用がでてくることがあります。しかしこのような方法で検討されるものと、そうでないものを同等にすることはいかがのものでしょうか?
 その他の治療法としては光線療法、ワクチン療法、抗原遮断法、温泉療法等です。いずれも現在検討中のもので、学会などで報告があるものの、まだ十分な検討がすんだというわけでは有りません。
 また近年ステロイドの副作用が心配のあまり、脱ステロイド療法を試みている人がいますがマスコミでも話題になっているように、勝手にやると、かえって増悪して入院したり顔の症状がすすんで網膜剥離を起こす例が多く出ています。十分注意して専門家のいるところで時には入院して治療するようにしてください。

 

近畿大学医学部付属病院皮膚科