遺伝性ポルフィリン症の概念と疫学

遺伝性ポルフィリン症の臨床統計

 

ポルフィリン症を「病気の主座がポルフィリン代謝の異常にある一群の疾患」と定義する。本症は他の先天性代謝異常症と同じく極めてまれな疾患であるが、その特異的な症状のため、古くから(世界最初の報告例は1876年)知られ、注目されてきた。本症は1923年にGarrodにより先天性代謝異常症の代表的疾患として取り上げられて以来、現在までに8病型が知られ、酵素異常がどの臓器に発現するかによって、肝性と赤芽球性に大別される1)。しかし、一般的には皮膚の光線過敏症状を主とする皮膚型ポルフィリン症(先天性赤芽球性ポルフィリン症;CEP、 赤芽球性プロトポルフィリン症;EPP、 肝赤芽球性ポルフィリン症;HEP、晩発性皮膚ポルフィリン症;PCT )と急性の神経症状を主とする急性ポルフィリン症(急性間欠性ポルフィリン症;AIP、多様性ポルフィリン症;VP、 遺伝性コプロポルフィリン症;HCP、 δ-アミノレブリン酸脱水酵素欠損性ポルフィリン症;ADP)として分類されることが多い2)

本論文では、大正9(1920)に報告された第1例3)からポルフィリン症として報告された症例について、本邦におけるポルフィリン症の実態を把握すべく、7病型についての諸情報を整理し(ADPについては情報不足のため除いた)前報4)と同じく病型別に年齢・性・地理的分布、発症要因、臨床症状、初期診断、ポルフィリン検査値、治療および予後などにつき、前報以後に得られた新知見を投入しながら臨床統計的検討を行った。

 

1.調査方法

大正9(1920)に報告された第1例3)から医学中央雑誌(2008 12月現在)にポルフィリン症として記載されたすべての原著の中から、ポルフィリン症として記載するのが適当でないと思われたもの(例えば、他疾患に併発した一過性のポルフィリン尿症、ポルフィリン症の診断基準をみたしていないもの、ポルフィリン症の可能性が高いが検査所見の記述が不十分なものなど)を除き、これに著者らによる未発表の自験症例を加えた。すなわち、2002年に報告した症例数8724)から2008年までの情報に6年間を追加して調査を行い、1920年から200812月までに報告された全報告例についてまとめた。

 

2.疫学統計

1)病型別・性別・報告年代別頻度(表1)

遺伝性ポルフィリン症として確定した898 例につき、病型別、性別および報告年代ごとにまとめた。年代区分は、ポルフィリン生合成系が解明されるまでを~1955、生合成系の解明からALAS測定による酵素学的診断の幕開けまでの時期を19561965、生合成系各段階の酵素学的研究の進歩により、ほぼ現在の病型分類が確定した時期を19661975とした。その後の19761985および19861995は高速液体クロマトグラフィ-によるポルフィリン症の生化学的診断および酵素活性測定による病型診断が比較的ポピュラ-になり、診断がより厳密になると共に、ポルフィリン代謝系の病態解明が盛んとなった時代といえ、 1996以降は他の遺伝性疾患と同様に遺伝子診断による時期といえる。

 報告年代と病型別頻度の推移を見ると、各病型とも本邦での第1例報告年次から報告数が増加しているが、特に、ポルフィリン生合成系の解明と同時に各病型のポルフィリン症の報告数が増加し、19661975では急性ポルフィリン症の報告が主流となり、それにやや遅れてEPPPCT などの皮膚型ポルフィリン症の報告が増加している。

 しかし、ここ20年、急性ポルフィリン症各型の報告数が少なくなっている。これは本症の発症数の減少を示すものではなく、すでに単なる症例報告のみでは報告する価値が認められない時代に入っていることを反映していると考えられる。または、希少疾患ということで誤診されているものと思われる。したがって、未報告例、潜在例を含めた実数は、本報告書に現れたものの数倍~10数倍に達するものと思われる。

 なお、898 例中58例の急性ポルフィリン症についてはデ-タ不足により分類不明型の急性ポルフィリン症とした。



2)年齢別報告数  

病型ごとに年齢別発症頻度が異なっていた。すなわち、CEP の約半数が幼年~若年に多く、この内7 例は1640歳に発症しており、注目に値する。EPP630歳に多く(男>女)、また、PCT 30歳以降の男性に多かった。急性ポルフィリン症では思春期から中年期の女性に多く見られた。CEPを除いていずれも常染色体優性に遺伝することが知られているが、このような年齢差、性差は本症発症機構および発症の予防を考える上で重要であり、急性ポルフィリン症に代表されるごとく、本症の発症には遺伝的酵素障害のほかに、別の発症誘因が加わることが必要である。

 

3)同胞発症・血族結婚の頻度(表2)

 遺伝的疾患にもかかわらず、血族結婚も同胞発症も見られない弧発例の報告が少なくない。これは、個々の報告の不完全さ、医学中央雑誌による資料面での検討という制約にもよるが、著者らの経験からしても、潜在患者のまま無症候性に経過する同胞が少なくないことも事実であり、ここでも誘発因子の有無が重要な意味を持っていると考えられる。PCTに関しては、従来から同胞発症の報告は少なく、これまでに同胞発症を見たものは3例にすぎない。遺伝子機構、発症要因も含めて詳細な検討が必要である。

 

4)ポルフィリン症の地理的分布(表3)

都道府県別分布は(資料の関係上患者の出身地ではなく、症例報告者の所属する都道府県になっている)、各病型とも全国から報告されているが、研究者、医療施設の分布による偏りがかなりあると考えられる。日英比較5)では、各病型において患者の発現頻度が一致していることから、地理的偏りは殆どないものと思われることから、かなりの頻度にて診断し得ていない患者が存在するものと思われる。

 



2.臨床統計-臨床症状の検討-

 ポルフィリン症の臨床症状の特徴から、皮膚型ポルフィリン症は皮膚科で見いだされることが多いが、内科、小児科(血液、肝臓内科)で発見されることもある。一方、急性ポルフィリン症は神経内科、消化器科、精神科などを初診とすることが多く、一部は急性腹症として救急外来、外科、婦人科を最初に受診することも少なくない。

 

1)皮膚型ポルフィリン症の臨床症状(表4) 

 皮膚型ポルフィリン症の皮膚症状の程度は蓄積するポルフィリン体の種類によって皮膚症状の程度が大きく異なり、CEPが最も激しく、次いでPCT EPP の順である。CEP では皮膚病変以外に多毛・剛毛、爪の変形、耳、鼻や指の部分的欠損、赤色歯牙、脾腫が注目される。PCT では肝障害がほぼ必発であり、大多数の症例で血清鉄の上昇を認める。また、表5に示したように、PCT患者の約 39%(123/320) に肝生検が施行されており、その組織学的所見を表に示したが慢性肝炎、肝硬変、肝癌が多い。さらに、1987年に C型肝炎ウィルス(HCV)の抗体検査が可能になって以来、PCT 患者のC型肝炎合併の報告例が高率で見られ6)、詳細は不明であるが、その因果関係は今後の問題点の一つである。

 



2)急性ポルフィリン症の臨床症状(表5~7)

 急性ポルフィリン症は多彩な症状が種々の組合せで、急性または亜急性に出現し、増悪・緩解を見るのが特徴である。表5にその自覚的初発症状を、表6に初診時の他覚的所見を、表7に全経過中に見られた症状をまとめた。






 自覚的初発症状では神経症状よりは腹痛、嘔吐などの腹部症状が先行することが多いが、まれには意識障害、痙攣などで初発することがあり、表には入れていないが、不眠とか不安感、あるいは胸部絞扼感とか腰背痛などが初発症状と考えられるものも見られた。また、集計には現れてこなかったが、分裂症、うつ症など精神症状として扱われているものの中に急性ポルフィリン症が見逃されていたという報告もあり、注意を要する。

 全経過を通じての症状も従来の報告と変わるところはないが、例えば、腹痛だけで終始するという症例もあり、診断上、注意を要する。また、ポルフィリン症といえば、尿の着色が有名であるが、暗褐色尿を見ることは比較的少なく351 例中132(38%) にすぎず、注意しないと診断を誤ることになる。表6、7の自律神経症状としては著明な発汗を認めるものが多く見られた。その他、比較的まれな症状として、デファンス、運動失調、低血圧、分裂病様精神症状などが見られた。

 

3)発症、増悪の誘因(表8)

 

  急性ポルフィリン症では種々の薬剤その他により発症、増悪することが知られている。とくに薬剤に関してはフェノバルビタール、ヒダントインなどの絶対的禁忌なものから、症例によって、安全とも禁忌とも報告されているものまで複雑であり、日常診療に際しては十分な注意が必要である。

 PCT では317 例中248 (78) が飲酒歴を有し、PCT の病因論上アルコ-ルの占める役割が重要な課題となっている。諸外国では前立腺癌や更年期障害の治療、あるいは避妊目的でエストロゲン投与による発症例が多い。また、後天性免疫不全症候群(AIDS)患者のPCT が多く、HIV HCV の感染はPCT の誘発因子となっている。EPP では強い紫外線曝露が誘因となることが多い。

4)初期診断(表9)

 ポルフィリン症は従来からまれな疾患とされ、また日常の臨床検査では発見されにくいことから、誤診や診断の遅れにより治療の時期を失することが少なくない。とくに急性ポルフィリン症では皮膚症状の出るものは少なく、急激な腹痛にみまわれることが多いため、イレウス、虫垂炎、急性膵炎、結石などを含む急性腹症などと誤診されることが多く、これらの約1/4 では誤って開腹手術を受けている。つわり、ヒステリ-、Guillain-Barre症候群なども十分に注意することが必要である。

 その他の中には脳炎、脳腫瘍、筋萎縮症、腹部てんかん、潰瘍性大腸炎、心因性疼痛、うつ病、心身症、慢性収縮性心膜炎などの病名も見られた。皮膚型ポルフィリン症では致命的な誤診に至るものは少なく、CEPEPP では初めに日光皮膚炎と診断されることが大部分であり、PCT では肝障害、肝硬変としてフォロ-されているものが少なくない。

 

5)治療と予後

a. 治療(表10,11



 皮膚型ポルフィリン症のうち、CEP では外用薬が、EPP ではβ- カロチンが、PCT では断酒、瀉血が遮光と共に治療の主体をなしている。PCT に関しては HCVとの関与が示されるようになってからはインターフェロンの投与が試みられるようになってきている。最近10年間で16例に投与され、肝機能の改善と同時に尿中ポルフィリンの減少が報告されているが、効果については必ずしも一定してなく、皮疹の抑制、鉄やポルフィリンの除去には瀉血が良いとする報告が多い。

 急性ポルフィリン症ではグルコースを主体とする大量の補液が治療の中心となり、疼痛のコントロールにはクロルプロマジンが用いられている。最近では急性発作に対してシメチジンの投与に関する報告が13例あり、そのうち9例に症状の改善がみられている。また、国外ではヘム・アルギニン酸、ヘマチン静注療法が比較的原因療法に近いものとして利用されているが、本剤は国内では市販されていない関係から、報告数は少ない。

 

b. 予後(表12

急性ポルフィリン症は知識の普及による早期発見、血漿交換、人工呼吸器などの普及により死亡する症例が減少し、軽快する例が多いが、いまだに死の転帰をとるものの割合も高い。一方、PCT では不変、または増悪する例の割合が高く、C型肝炎との合併率が高いことなどから、今後肝癌死亡例が増加することが予想される。HEPでは予後が悪く6例中4例が死の転帰(主に肝不全)をとっている。EPP では血中PP値が高い例ほど肝障害を起こす可能性が高く、肝硬変、肝不全により予後は悪い。

 



6)検査値と診断基準(表13

1985年以降、高速液体クロマトグラフィ-法を用いた正確な測定値や酵素活性測定による確定診断8)がかなり普及しているが、それ以前の症例では報告者により、測定方法及び健常値の範囲が異なる。また、近年においても、検査デ-タの読み間違いからおこる鑑別診断ミスがいまだに絶えず、そのため、これまでの検査値を一括して比較検討するにはかなりな無理があり、ここに記載された結果はあくまでも一つの参考に過ぎない。

 

3.おわりに

 わが国において、1920年にCEPが初めて報告されてから200812月までに898例を見出した。これらの症例は発症者の報告であり、遺伝的素質を持ちながら未発症者または医師が報告していない症例、および誤診症例などは含まれていない。これら898例について、原著や症例報告書に記載してある内容についてまとめたが、ポルフィリン症の実態解明に大変参考になるデータと思われる。

 これまでに、海外においてはポルフィリン症についての統計についての報告は一部の研究室レベルにて散見されるが、国家的な集計はない。今回の調査は、国際的にも大変参考になるデータであり、本症は世界中に存在し、その希少性および深刻な症状から注目されているが、その実態については不明である。今回、本研究にて集計されたデータは国際的に広く利用され、いまだに報告例が見られないと東南アジアなどの途上国にても、診断されるものと推測され、このような意味からも社会的意義は高い。

 今後、毎年データを積み重ねていくと同時に、本症の症状の多様性など医療現場の医師などに広く啓蒙し、早期診断の向上並びに患者のホローを行う必要がある。また、患者の相談窓口や医師のネットワー作りを行う必要がある。

 

文 献

1) Anderson KE, Sassa S, Bishop DF, Desnick RJ: Disorders of heme biosynthesis: X-linked sideroblastic anemia and the porphyrias. In: Scriver CR, Beaudet AL, Sly WS, Valle D, eds. The Metabolic & Molecular Bases of Inherited Disease.  8 Ed. New York: McGraw-Hill Medical Publishing Division, 2001:2991-3062.

2) 近藤雅雄:ポルフィリン代謝異常、代謝・栄養疾患、内科学書改定第7版、中山書店399-405, 2009.

3) 佐藤彰、高橋寛:未ダ記載セラレザル一種ノ家族的貧血症カ偽血色素尿性貧血症(一名、「ポルフィリン」尿性貧血症、児科雑誌239:47, 1920; 遠山郁三:先天性ポルフィリン尿性貧血症ノ爾後ノ経過、皮膚科泌尿器科、23(5):68-711924

4) Kondo M, Yano Y, Shirataka M, Urata G,

 

Sassa S: Porphyria in Japan: Compilation of all cases reported through 2002. Int J Hematol, 79: 448-456, 2004.

5) 近藤雅雄:日本と英国におけるポルフィリン症患者数の比較、ポルフィリン 5(4):375-377, 1996.

6) Kondo M, Horie Y, Okano J, Kitamura A, Maeda N, Kawasaki H, Mishiro S, Yamamoto S,  Itou T, Saeki S, Tanaka S, Okamoto H: High prevalence of hepatitis C virus infection in Japanese patients with porphyria cutanea tarda, Hepatology, 26(1): 246, 1997.

7) 近藤雅雄:ポルフィリン・ポルフィリン前駆体の測定、特集ポルフィリン症、日本臨床 

 

BACK