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肺がんの個別化治療

遺伝子異常に対する治療薬の開発

遺伝子異常に基づく個別治療へ

 近年の研究成果によって、がんには多くの遺伝子異常が蓄積しており、しかもその種類や数もがん患者さんごとに違いがあることが分かってきました。患者さんそれぞれの遺伝子異常に合った治療法を選ぶことができれば、より効果が大きく、副作用の少ない治療をできることが期待されます。
 21世紀になってから肺がん患者さんの一部に対して、遺伝子異常に基づいて治療を個別に行えるようになりました(図1)。

図1 肺がん患者さんの遺伝子異常に合わせた阻害剤を使った個別化治療

がんの「アキレス腱」と分子標的治療

 細胞は多くのタンパクが機能を果たすことで生存しています。遺伝子はタンパクを作るための設計図です。がん細胞には多くの遺伝子異常が蓄積されていますが、全ての遺伝子が重要というわけではありません。がん細胞の生存、増殖は少数の遺伝子だけに強く依存していることが分かってきました。
 つまり、この遺伝子異常は、がん細胞にとって「アキレス(けん)」といえます。その「アキレス腱」遺伝子が作り出す異常なタンパクの機能を止めることで、がん細胞を死滅させるのが分子標的治療です。肺がんでは、EGFR(上皮成長因子受容体)やALK(未分化リンパ腫キナーゼ)という遺伝子異常に対する治療薬が臨床の場で使われています。

EGFR遺伝子異常に対する治療

 EGFRは、がん細胞の表面に増加していて、がん細胞の生存、増殖を促していることが知られています。2002年にゲフィチニブ、2007年にエルロチニブというEGFRに対する阻害薬(そがいやく)が日本で承認されました。当初、一部の肺がん患者さんの腫瘍(しゅよう)が著しく縮小することが知られていましたが、どのような患者さんに効くのかは分かっていませんでした。
 ところが、2004年、一部の肺がんにEGFR遺伝子の突然変異が見つかり、その阻害剤(ゲフィチニブやエルロチニブ)が著しい腫瘍縮小効果を示すことが明らかになりました(画像)。つまり、EGFR遺伝子の突然変異は、肺がん細胞の「アキレス腱」だったのです。国内において、この遺伝子異常は肺腺(はいせん)がんの約半数に認められ(図2)、さらに女性や非喫煙者に多くみられることも分かりました。
 EGFR遺伝子異常がある肺がんの患者さんに対して、ゲフィチニブやエルロチニブは、従来の抗がん剤よりはるかに優れた効果を示します。

  • 画像 EGFR遺伝子異常をもつ肺がん(↑)に対するEGFR阻害剤による治療例タルセバ内服前(左)、内服後(右)
  • 図2 肺腺がんの「アキレス腱」となり得る遺伝子異常の頻度Yoshidaetal.AmJSurgPathol.2013Kohnoetal.NatMed.2012

ALK遺伝子異常に対する治療

 ALK遺伝子異常は2007年に国内で発見されました。その異常は、ALK遺伝子の一部が切れて、ほかの遺伝子と結合(融合)するというものでした(ALK融合遺伝子)。肺がん細胞はEGFRの場合と同様、これに強く依存して増殖しています。
 ALK融合遺伝子は比較的まれで、肺腺がん患者さんの3%に認められるにすぎませんが(図2)、非喫煙者や若い患者さんに多いことが知られています。ALKの阻害剤であるクリゾチニブは2012年に、アレクチニブは2014年に国内で承認されています。

臨床応用が期待される遺伝子異常

 近年、EGFRやALKに引き続き「アキレス腱」となり得る遺伝子異常が見つかってきています(図2)。頻度は低いながらも、特にROS1、RETという遺伝子の異常に注目が集まっています。これらは前述のALK遺伝子異常と同じ融合遺伝子であり、2つの遺伝子異常に対する治療薬の開発が急ピッチで進んでいます。  このように、遺伝子異常に従った個別化治療の発展に期待が集まっていますが、全ての遺伝子異常に対して治療法が確立しておらず、遺伝子異常が分かっていない肺がんもあります。近畿大学医学部では、肺がん手術後の腫瘍サンプルを使って、ゲノム生物学教室と共同でさまざまな遺伝子の量や突然変異を幅広く解析し、さらなる個別化の指標となる遺伝子異常の探索を行っています。

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