テュートリアル Unit 7 「病因・病態 I」

第2週 抗原提示とTリンパ球による認識
(平成19年11月26日〜12月 1日)

 2007年 12月 2日

aniup01.gif 事例の解説を掲載しました

目 次

週の担当教員 週の教育目標 週の時間割 事例とその解説
事例発表会 参考書 ホームページへのリンク

 週の担当教員名簿・連絡先

Unit 主任: 宮澤 正顕 (免疫学教室、教授)

週担当教員、実習指導担当者:

宮澤 正顕 (免疫学教室 教授、内線 3265)
松村 治雄 (免疫学教室 講師、内線 3267)
河原 佐智代 (免疫学教室 講師、内線 3267)
梶原 栄二 (免疫学教室 助教、内線 3267)
武田 英理 (免疫学教室 研究支援者、内線 3267)
木下 さおり (免疫学教室 研究員、内線 3267)
馬野 奈津子 (免疫学教室 研究員、内線 3267)

 週の教育目標 :
 週の一般目標

 高等多細胞生物の免疫系は、個体を構成するすべての細胞が一個の受精卵に由来する同一ゲノムを保持するよう監視していること、ウイルス感染細胞の排除や移植片の拒絶は、その当然の帰結であることを理解する

trimolc.gif 週の行動目標

  1. MHCクラスI分子による抗原提示のしくみを、簡単な図を描いて説明できる。
  2. CD4陽性Tリンパ球とCD8陽性Tリンパ球による抗原認識機構の違いを説明できる。
  3. 樹状細胞の分化と活性化の過程を、その抗原提示機能との関わりから説明できる。
  4. MHC遺伝子に多重性と多型性が存在する理由を、個体維持と種の進化の両面から説明できる。
  5. Th1細胞とTh2細胞の産生する代表的なサイトカインを二つずつ挙げることができ、両者の誘導する免疫反応の違いを説明できる。
  6. 抗体産生の誘導とクラススイッチにおけるヘルパーT細胞の役割を、ウイルス感染症を例に説明できる。
  7. 胸腺におけるT細胞レセプターの正の選択と負の選択により、自己反応性Tリンパ球の除去と「MHC拘束」が生じることを説明できる。
  8. 上記 7.の結果として、同種移植片に対しては強いTリンパ球の反応が起こることを説明出来る。
  9. 共通γ鎖の遺伝子異常が、重症複合型免疫不全症候群の発症に結びつく理由を説明出来る。
  10. T細胞メモリーの分子機構を、染色体構造と遺伝子発現調節の観点から簡単に説明出来る。

newmark.gif 事例における行動目標

  1. autoabdet.gif末梢血リンパ球の各サブセットを、互いに区別して計数する方法を言える。
  2. 組織切片を用いた免疫化学的手法により、自己抗体を検出する方法を図に描いて説明できる。
  3. CD4陽性Tリンパ球の機能を、そのサイトカイン産生能から説明できる。
  4. CD25分子がどのようなレセプターを構成するか、またその機能は何かを言える。
  5. 末梢免疫寛容のしくみが何故必要かを、自己反応性レセプター選択排除のしくみから説明できる。
  6. 制御性Tリンパ球と、「抑制性Tリンパ球」の違いを言える。
  7. シクロスポリンが免疫抑制薬として有効である理由を、その作用機序から説明できる。
  8. マウスにおける生後3日目での胸腺摘除が、「臓器特異的自己免疫疾患」の発症に結びつくしくみを説明できる。

 週の時間割表
 (11月26日〜12月 1日)

日付 11月26日(月) 11月27日(火) 11月28日(水) 11月29日(木) 11月30日(金) 12月 1日(土)
1時限目
9:00〜10:00
テュートリアル 講義 19
胸腺とTリンパ球の分化
(宮澤)
テュートリアル 講義 25
MHC遺伝子
(宮澤)
テュートリアル 自習
2時限目
(時間に注意!)
自習
10:00〜11:00
講義 20
抗原提示細胞とTリンパ球の活性化
(宮澤)
10:15〜11:15
自習
10:00〜11:00
講義 26
MHCと疾患
感受性

(宮澤)
10:15〜11:15
自習   自習
スペアタイム
(時間に注意!)
講義 15
免疫学的
自己とは何か

(宮澤)
11:00〜12:00
自習
11:15〜12:00
講義 24
T-B細胞間
相互作用

(河原)
11:00〜12:00
自習
11:15〜12:00
自習
(事例発表準備)
自習
3時限目
13:00〜14:00
講義 16
MHCとTリンパ球による抗原認識
(宮澤)
講義 21
エフェクターT細胞とメモリー
(宮澤)
実習
ヒト末梢血リンパ球の分離と計数
実習
FACSによる細胞表面抗原の検出と陽性細胞の計数
講義 27
原発性免疫不全
症候群

(宮澤)
4時限目
14:10〜15:10
講義 17
Tリンパ球抗原レセプターとその遺伝子
(宮澤)
講義 22
T細胞メモリーの分子機構
(宮澤)
実習
ヒト末梢血リンパ球の分離と計数
実習
FACSによる細胞表面抗原の検出と陽性細胞の計数
事例発表・討論
(宮澤)
5時限目
15:20〜16:20 
 講義 18
サイトカイン入門
(松村)
講義 23
Fcレセプター
(宮澤)
 
実習
ヒト末梢血リンパ球の分離と計数
 
実習
FACSによる細胞表面抗原の検出と陽性細胞の計数
 
形成評価
(CBT試験)

IT教室
(宮澤)

 事例とその解説

 事例3 (月曜日に配布)
 治療に反応しない下痢の原因を明らかにするため、主治医は三郎君の血清を用いて蛍光抗体法による自己抗体の検出を試みました。血液型がO型の患者さんから手術時に摘出された小腸より、病変がない周辺部分を選び、本人の同意を得て凍結切片とし、これに三郎君の血清を段階希釈して反応させ、さらに蛍光標識抗ヒト免疫グロブリン抗体を反応させました。その結果、三郎君の血清からは、300倍以上に薄めても小腸絨毛部の正常上皮細胞と反応するIgGが検出されました。対照として用いた三郎君の健常な兄の血清は、ヒト小腸の凍結切片とは反応しませんでした。
 さらに、三郎君の尿中には一日1〜2 gのグルコースが検出され、血糖値も130〜150 mg/dlと上昇していました。

学生さんたちに挙げて欲しかったキーワード (これらに囚われる必要はありません)

□ 下痢
□ 蛍光抗体法
□ 自己抗体
□ 本人の同意
□ 血液型
□ 凍結切片
□ 段階希釈
□ 小腸絨毛上皮
□ 対照
□ 尿中グルコース
□ 血糖値

討論課題の例 (これらに囚われる必要はありません)

どうして手術で取り出された小腸を勝手に使ってはいけないの?
インフォームド・コンセントって何?
血清を段階希釈したのは何故?
自分自身の小腸絨毛上皮と反応する抗体があるとは、どういうこと?
貧血や「抗平滑筋抗体」との関係は?
どうして血液型O型の切片を使うの?
三郎君の血糖値は正常?
糖尿病について勉強したことを憶えている?
下痢との関係はどうなのだろうか?

事例学習のヒント

 いよいよ、この事例の本質に迫り始めました。
 先ず先週の事例1,事例2を纏めるところから始めて下さい。三郎君はX(染色体)連鎖劣性遺伝の何らかの疾患を持っている可能性が考えられます。そして、三郎君の兄も叔父も、生後半年程度で下痢を起こすようになって亡くなりました。三郎君は生後二ヶ月からCoombs試験陽性の貧血を示すようになりましたが、発症時期から考えても、母親の血清が間接Coombs試験陰性であることからも、新生児溶血性疾患とは考えられません。従って、(若年発症の)自己免疫性溶血性貧血と考えることが必要です。そう考えれば、抗平滑筋自己抗体の出現も多彩な自己抗体産生の一環として理解出来ます。重篤な自己免疫性溶血性貧血の治療法として、糖質コルチコイドの投与は標準的です。糖質コルチコイドの免疫抑制作用については、来週のコースでも学びますが、基本的なことは事例2から自己学習が出来ているはずです。
 そこで事例3に入って下さい。ここでは、さらに多彩な自己免疫現象に関する記載が始まります。下痢の原因にも結びつきそうな記述があります。三郎君のような乳児に、自己免疫性溶血性貧血が起こることがあるのでしょうか?多彩な自己抗体はどうして作られるのでしょうか?先週の最後の講義、「Bリンパ球の分化と体内分布」の後半でお話しした、「自己反応性BCRの除去機構」を思い出しましょう。チェックポイントはいくつあったのですか?

 事例4 (水曜日に配布)
 三郎君の末梢血白血球数は 16,400/µlと増加しており、その分画は顆粒球が62%、リンパ球が25%、単球が11%でした。CD8陽性Tリンパ球数は正常範囲内でしたが、CD4陽性Tリンパ球数は 2,300/µlと増加していました。また、CD4とCD25が共に陽性の細胞が、ほとんど全く検出されませんでした。8年前に亡くなったAさん夫妻の長男に関する剖検記録を取り寄せたところ、膵臓に多数のリンパ球が浸潤していたとの記載がありました。

学生さんたちに挙げて欲しかったキーワード (これらに囚われる必要はありません)

□ 白血球増多
□ 白血球分画
□ CD4陽性Tリンパ球
□ CD8陽性Tリンパ球
□ CD4陽性Tリンパ球の増加
□ CD4陽性CD25陽性細胞
□ 膵臓へのリンパ球浸潤

討論課題の例 (これらに囚われる必要はありません)

正常の末梢血白血球数は?
末梢血白血球に占める顆粒球・リンパ球の割合は?
末梢血では通常CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞のどちらが多いの?
CD4陽性T細胞数の正常範囲は?
CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の機能の違いは?
CD25とはどのような分子だろう?
一つの細胞でCD4とCD25を同時に検出する方法は?
三郎君の病態と、亡くなったお兄さんの組織病変の関係は?

事例学習のヒント

 先ず事例3までを纏めましょう。三郎君はX連鎖劣性遺伝の何らかの免疫疾患を持っている可能性があり、新生児溶血性疾患とは異なるCoombs試験陽性の自己免疫性溶血性貧血を発症し、生後5ヶ月から激しい下痢を起こすようになりました。そして、三郎君の血清中には小腸絨毛の上皮細胞と反応する「自己抗体」が検出されます。抗平滑筋抗体も陽性ですから、多彩な自己抗体を伴う乳児の自己免疫疾患であると言うことになります。また、尿糖が陽性で、血糖値も上昇していました。
 事例4で、三郎君は末梢血のCD4陽性T細胞数が多いこと、しかしCD4陽性CD25陽性のT細胞は欠損していることが気付かれます。小児の白血球数は年齢により大きく変動しますが、大まかに言うと若年程多く、1歳児では10,400±2,600/µl前後、2歳児で9,300±2,600/µl前後、その後ゆっくりと低下していき、10歳児で7,500±1,600/µl前後とされます。16,400/µlというのは、成人であれば白血球増多症で、何らかの感染症を疑うことになりますが、生後半年なら極端な増多症とは言えません。しかし、白血球の分画は異常です。生後2年目くらいまでの乳児では、末梢血白血球に占める各分画の割合はリンパ球優位であるのが普通で、生後5ヶ月から8ヶ月ではリンパ球が70%、2年で50%、13歳くらいで40%になります。従って、三郎君の末梢血では顆粒球増多症が起こっています。これは、何故でしょうか?
 リンパ球の実数はどうでしょうか?成人では末梢血白血球のおよそ35%がリンパ球、うちCD4陽性T細胞が5割程度を占めますから、計算するとCD4陽性T細胞数は1,000/µl程度になるのが判ります(学生の皆さんは、実習でFACSを用いて自分たちの末梢血中のCD4陽性T細胞の割合を実際に調べていますね)。これが500/µl未満となると日和見感染症の症状が現れ始めることは、昨年の事例でも解説しました。小児の場合は、元々末梢血白血球に占めるリンパ球の割合が高いので、CD4陽性T細胞数はより多くなります。文献(Hazenberg M. D, et al.  Blood 2004; 104:3513-3519)によれば、健常な小児(平均年齢5.5歳)の末梢血CD4陽性T細胞数は、およそ1,500/µlとあります。この数値から考えると、三郎君の末梢血CD4陽性T細胞数は多いのがわかります。
 CD4陽性CD25陽性T細胞が、この事例の焦点です。CD25は、既に講義で学んだとおりIL-2受容体のα鎖です。通常のTリンパ球では、抗原受容体からのシグナルによってCD25(=IL-2Rα)の発現が誘導され、細胞の活性化と分裂増殖が始まります。抗原受容体からの刺激の有無に関わらず、構成的にCD25を発現しているCD4陽性T細胞が存在するのでしょうか?
 事例3で出て来た糖尿病については、その原因に繋がる記載が現れました。同じように乳児期に死亡した兄の剖検所見です。膵臓に多数のリンパ球浸潤を認めたと言うことです。三郎君の糖尿病は、ラ氏島炎で説明出来るのでしょうか?これと、自己免疫性溶血性貧血や、下痢との関係はどうなっているのでしょうか?
 特徴的な病態が出揃いましたので、そろそろこの事例の本質に気付くところまで進めて欲しいと考えます。

事例5 (金曜日に配布)
 主治医は三郎君にシクロスポリンAを投与することに決めました。一日4mg/kgの静注により下痢は改善し、尿糖は陰性となりました。現在も、腎機能をモニターしつつ慎重にシクロスポリンの投与を続けています。

学生さんたちに挙げて欲しかったキーワード (これらに囚われる必要はありません)

□ シクロスポリン
□ 下痢の改善
□ 尿糖陰性
□ 腎機能

討論課題の例 (これらに囚われる必要はありません)

シクロスポリンはどこに効くの?
シクロスポリン投与で抑制されるのはどの細胞の機能?
下痢が治ったのはどうして?
何故腎機能をモニターする必要があるのだろうか?

事例の全体像解説

参 考
テュートリアルコース 過去の事例を参照する

事例発表会

 この週の金曜日(11月30日)4時限目に、事例に関する発表会を行います。「事例の全体像(グループとしての解釈)」と「この例から学んだこと」、学生がPowerPointまたはOHPシートを使って発表します。発表に使うOHPシートは、原稿を持参すれば免疫学講座で作成します。

 参考書

 このコースでは特に教科書は指定しません。講義に当たって毎回詳細なプリントを配布し、講義内容がテュートリアルの事例や実習のテーマと密な連携を保つよう配慮しているので、必ず講義に出席しその内容を理解するよう努めて下さい。参考書としては以下に挙げるものがありますが、この分野の進歩は早く、古い教科書には現在では間違であることが明らかな理論や実験結果が記載されているので、この点でも講義で最新の知識に触れることが重要です。

 1) Charles A. Janeway, Jr., Paul Travers, Mark Walport, and Mark Shlomchik: Immunobiology, The Immune System in Health and Disease, 6th Edition.  Garland Publishing ., New York. (この教科書は大変優れており、最新の知識を一貫したスタイルでわかりやすく記載しています。テュートリアル室に備えられています。

 2) 笹月健彦 監訳: 免疫生物学 免疫系の正常と病理 第5版、南江堂 (上記教科書の訳書ですが、内容は上記第6版より旧く、翻訳によって却って分かり難くなっている部分もあります。)

 3) 木本雅夫、坂口薫雄、山下優毅 編: 免疫学コア講義、南山堂 (細胞免疫学の専門家による教科書であり、免疫系を構成する細胞の機能と相互作用がコンパクトに纏めて説明されています。日本語で通読して免疫学の全体像を知るには、むしろこの教科書が良いでしょう。但し、講義では分子レベルの認識機構についてより詳しい解説を行うので、あくまでも「参考書」として読むようにして下さい。)

 4) 宮澤正顯、大東 肇 編: 栄養と生体応答−遺伝子と免疫の視点から、昭和堂 (最初の章に、免疫系の基本知識を簡潔にまとめてあります。講義のイントロダクションとして読むと分かり易くなるでしょう。)

 5) 澤井高志・内藤 眞・名倉 宏・八木橋操六 編: エッセンシャル病理学 第5版、医歯薬出版 (病理学の教科書ですが、その炎症・免疫・感染症・アレルギーに関する部分は生体防御学のエッセンスを上手く盛り込んでいます。第5版の「免疫とアレルギー」及び「感染症」の章は、宮澤が執筆しました。近く第6版に改訂されます。)

 6) 山本一彦 編: 自己免疫疾患 (New メディカルサイエンスシリーズ)、羊土社 (これ自体が、最新の免疫学の教科書として使える内容を持っています。テュートリアル室に備えられています 。)

 7) 平野俊夫 編: 免疫の仕組みと疾患(イラスト医学&サイエンスシリーズ)、羊土社 (最新の研究成果をヴィジュアルに纏めてあり、特に病気との関係が理解し易くなっています。)

 8) 東野英明・宮澤正顕 他編著: 医学生のための薬理学、南山堂 (薬理学の教科書ですが、「免疫抑制薬・抗アレルギー薬・抗リウマチ薬」の章には、免疫学の基本知識と免疫応答の薬物による制御のしくみを、最新の知識に基づいて纏めてあります。残念ながら絶版になりました。)

 9) 塩沢俊一 著: 膠原病学 改訂第2版、丸善 (分子生物学・細胞生物学、及び免疫学の基礎から、膠原病の病因と病変発生機構、そして各種膠原病の疫学や臨床像と診断・治療に至るまで、多数の分かり易い図と実例の写真を交えて詳細に記載されています。細部に亘る膨大な内容が一人の著者により統一した視点から記載されているので、全体像が把握しやすく、通読にも、個々の項目の専門的立場からの参照にも耐える教科書です。)

ホームページへのリンク

近畿大学医学部ホームページ
免疫学教室ホームページ

便利なリンク集

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