基礎研究・コホート研究 ─ 病態を理解し、次の診断・治療を創る

血液グループでは、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などの造血器悪性腫瘍を対象として、その発症・進展や治療抵抗性に関わる分子機構の解明に取り組んでいます。ゲノム解析、遺伝子発現解析、単一細胞解析、空間解析などの最新技術を活用し、腫瘍細胞そのものの異常だけでなく、腫瘍内の多様性や周囲の微小環境にも着目した基礎・トランスレーショナル研究を進めています。また、リンパ腫や多発性骨髄腫を中心とした臨床コホートを構築し、日常診療から生まれるさまざまな疑問を臨床研究へと発展させています。これらの研究を通じて、造血器腫瘍の病態理解を深めるとともに、新たな診断法、予後予測法、治療法の開発につなげることを目指しています。
単一細胞解析を用いた腫瘍幹細胞の同定と治療標的の探索
造血器腫瘍には、腫瘍の維持や治療抵抗性、再発に関与する「腫瘍幹細胞」が存在すると考えられています。しかし、腫瘍幹細胞と正常造血幹細胞を区別する分子機構や、その特性については、いまだ不明な点が多く残されています。私たちは、単一細胞レベルでの遺伝子発現解析などを用いて、腫瘍幹細胞と正常造血細胞の違いを明らかにし、腫瘍幹細胞に特徴的な分子や細胞内シグナルを探索しています。これらの研究を通じて、正常造血を保ちながら腫瘍幹細胞を選択的に制御する新たな治療法の開発を目指しています。
多発性骨髄腫における治療抵抗性機構の解明
多発性骨髄腫では、新規治療薬の導入によって治療成績が大きく向上している一方で、治療抵抗性や再発はいまだ重要な課題です。
私たちは、骨髄腫細胞の中に存在する、自己複製能や治療抵抗性に関わる特徴的な細胞集団に着目し、その生物学的特性や増殖・生存に関わる分子機構を解析しています。さらに、これらの細胞が依存するシグナル伝達経路や周囲の微小環境との相互作用を明らかにすることで、従来の治療では十分に排除できない細胞集団を標的とした新たな治療戦略の開発を目指しています。
悪性リンパ腫における腫瘍内多様性とクローン進化の研究
同じ悪性リンパ腫であっても、その腫瘍内部には遺伝学的・生物学的に異なる複数の腫瘍細胞集団が存在することがあります。このような「腫瘍内多様性」は、病態の進展や治療抵抗性、再発に関与すると考えられています。私たちは、ゲノム解析や遺伝子発現解析を用いて、悪性リンパ腫における腫瘍内のクローン構造やその進化を解析し、臨床像や治療反応性、予後との関連を検討しています。腫瘍が時間とともにどのように変化し、治療抵抗性を獲得していくのかを理解することで、新たな予後予測法や治療戦略につなげることを目指しています。
濾胞性リンパ腫の進展機構と腫瘍微小環境の研究
濾胞性リンパ腫は比較的緩徐に進行するリンパ腫ですが、その経過は患者ごとに大きく異なり、一部では組織学的・生物学的な変化を伴いながら病態が進展します。私たちは、濾胞性リンパ腫における腫瘍細胞の変化と、それを取り囲む免疫細胞や間質細胞などの腫瘍微小環境との相互作用に着目しています。ゲノム解析や空間解析などを組み合わせることで、病変の進展に伴うクローン進化、腫瘍細胞の転写変化、微小環境の再編成を明らかにし、病態の理解や新たなリスク層別化、治療戦略の確立につなげることを目指しています。
AIを用いた悪性リンパ腫の病理診断支援
悪性リンパ腫の病理診断では、腫瘍細胞の形態や増殖パターンなど、多くの組織学的情報を総合して診断する必要があります。一方で、一部の病型では評価者による判定のばらつきが生じることもあり、より客観的で再現性の高い診断法の確立が求められています。
私たちは、人工知能(AI)を用いたデジタル病理画像解析に取り組んでいます。特に濾胞性リンパ腫では、多数の病理画像と組織学的gradeの情報をAIに学習させ、病理画像からgradeを推定する診断支援システムの構築を進めています。
将来的には、AIによる画像解析と病理医による診断を組み合わせることで、診断の客観性や再現性を高めるとともに、病理画像から人の目だけでは捉えにくい新たな特徴を抽出し、病態理解や予後予測にもつなげることを目指しています。
受容体型チロシンキナーゼの細胞内輸送を標的とした新規治療法の開発
受容体型チロシンキナーゼ(RTK)は、細胞の増殖や生存を制御する重要なシグナル分子であり、多くの造血器腫瘍でその異常な活性化が認められます。RTKの機能は、細胞表面でのシグナル伝達だけでなく、受容体が細胞内へ取り込まれ、その後どのように輸送・分解されるかによっても制御されています。私たちは、造血器腫瘍におけるRTKの細胞内輸送機構に着目し、その制御異常が腫瘍細胞の増殖や生存に与える影響を解析しています。さらに、受容体の細胞内輸送を制御することで、従来のキナーゼ阻害とは異なる機序から腫瘍シグナルを抑制する新たな治療戦略の開発を目指しています。
造血器腫瘍における鉄代謝の役割と治療標的の探索
鉄は、DNA合成やエネルギー産生など、細胞の増殖と生存に不可欠な元素です。特に、増殖の盛んな腫瘍細胞では鉄の取り込みや利用が亢進していることが知られています。私たちは、悪性リンパ腫をはじめとする造血器腫瘍における鉄代謝の特徴と、腫瘍細胞の増殖・生存、治療抵抗性との関係を解析しています。腫瘍細胞に特有の鉄依存性や代謝特性を明らかにし、それらを標的とすることで、従来とは異なる観点から新たな治療法を開発することを目指しています。
リンパ腫・多発性骨髄腫を中心とした臨床研究
私たちは、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫をはじめとするさまざまな造血器腫瘍について、日常診療で得られる臨床情報を体系的に蓄積し、疾患ごとの臨床コホートを構築しています。これらのコホートを活用し、治療成績、予後因子、再発様式、治療選択の妥当性など、実臨床で生じるさまざまな疑問を研究テーマとして検証しています。これまでにも、悪性リンパ腫に対する自家造血幹細胞移植の有効性や適応、MALTリンパ腫をはじめとする各種リンパ腫の臨床的特徴や治療成績、多発性骨髄腫における治療戦略などについて研究を行っています。対象となる疾患や病態は幅広く、既存の臨床コホートを基盤として、日々の診療の中から生まれた新しいアイデアを研究へ発展させることができます。また、関連施設とも積極的に連携し、多施設共同研究を通じて、実臨床に還元できる新たなエビデンスの創出を目指しています。