2名の癌治療認定医が治療にあたっています。
骨・軟部腫瘍といってもなじみが薄いかと思います。
いわゆる「でき物」のことです。軟部とは皮膚の下、筋肉など骨以外の場所を指します。骨にできる腫瘍を骨腫瘍、軟部いわゆる体幹(胸や背中)や四肢(腕、手、ふともも、ふくらはぎ、あしなど)にできる腫瘍を軟部腫瘍といい、それぞれに良性、悪性があります。
診断はまず問診や触診が重要です。いつ気づかれたか、大きさ、痛みの有無、大きくなるスピード、硬さや可動性、拍動の有無、外傷歴、既往歴を確認します。
次に画像診断を行います。画像はX線、MRI、CTなどが基本ですが悪性腫瘍を疑う場合はアイソトープや、FDG-PETなど全身の評価が必要です。
一般的に径5cmを超える腫瘍は悪性腫瘍の可能性があるため、必ず治療する前にどんな腫瘍であるか確認するため生検を行います。
生検には針の大きさで組織の一部を摘出する針生検(外来で可能)やもう少し大きく組織がほしい場合や遺伝子検査が必要な場合は切開生検を施行し(入院が必要です)診断を確定します。
どんな腫瘍であるか確認した上で治療方針を決定することが極めて重要です。腫瘍班では骨軟部腫瘍や転移性骨腫瘍を中心に治療を行っています。
悪性骨腫瘍は化学療法、広範切除術(腫瘍周囲の正常な組織をつけて摘出する手術方法)、放射線治療などを併用して治療を行います。
これらの治療は整形外科だけでなく、当院腫瘍内科、小児科、放射線科、病理診断部と連携して行っています。
また、治療ではカフェイン併用化学療法、手術では液体窒素処理骨による再建術や皮弁による再建術を行い、可能な限り患肢温存手術を心がけています。
悪性軟部腫瘍は腫瘍の種類によって治療方法が異なります。年齢、部位、化学療法の効果などを見極めた上で治療方針を決定しますが手術による摘出術が基本です。しかし、手術による摘出が困難な部位や重大な合併症を引き起こしてしまう場合は重粒子線治療などの他の治療法も選択されることがあります。
また、当院はがん診療連携拠点病院であり、他科で治療中の癌患者さんの骨転移に対しても積極的に治療を行っています。根治的な手術から緩和的な治療まで、全身の状態を考慮して腫瘍内科、放射線治療科や緩和ケアチームと連携し患者様やご家族のニーズにお応えできる治療を目指しています。
骨肉腫は日本で年間150例程度と非常にまれな病気です。当院では年間数例の患者さんを治療しています。治療はまず化学療法から始まります。子供さんが多いですから化学療法は小児科と連携して行っています。化学療法での腫瘍の縮小効果、画像で評価できない小さな遠隔転移をなくしてから手術による摘出術と再建術を行います。さらに術後化学療法を行います。治療は約10ヶ月から1年程度になります。小児の場合は当院の院内学級に転校していただき勉強しながら入院治療を行います。
14歳女性 骨肉腫 (部位:大腿骨遠位)
化学療法後、腫瘍型人工膝関節置換術で再建した症例。
良性骨腫瘍では痛みなど症状や骨折の危険性がある場合などが手術適応になります。悪性骨腫瘍と区別がつかない場合は骨生検(骨の腫瘍の一部をとってきて顕微鏡で病気の種類を確定)で診断することも必要です。また良性腫瘍であっても骨をどんどん破壊していくタイプの腫瘍や再発しやすい腫瘍もあり手術には熟練が必要です。中でも骨巨細胞腫は再発しやすい腫瘍で有名です。
38歳男性 骨巨細胞腫 (部位:左橈骨遠位端)
掻爬後に人工骨をいれて骨折用のプレートと創外固定器を用いて治療を起こった症例。術後4年で再発傾向無し。
画像診断で血腫(血の塊)や膿瘍(膿のたまり)と間違われやすいことがあり注意が必要です。悪性軟部腫瘍(肉腫)を疑われる場合は必ず生検を行って治療する前に診断をつけることが必要です。悪性軟部腫瘍には様々な組織形があります。生検で診断をつけた後、手術や補助的化学療法(抗がん剤治療)、場合によっては放射線治療を追加する場合があります。悪性度は腫瘍の種類によって異なりますが、基本的には広範摘出術(腫瘍を見ずに周囲の正常な組織を含めて摘出する)で腫瘍を取り除くことが重要です。
32歳男性 殿部に発生した骨外性ユーイング肉腫
術前に抗がん剤治療を行った後に広範摘出術を行った症例。
がんの骨転移は肺癌や乳癌、前立腺癌などが代表的です。骨に転移した=末期がんという印象がありますが近年、分子標的治療薬などの新しい抗がん剤治療が開発され、がん患者さんの生命予後は飛躍的に向上しました。また骨転移をきっかけに運動機能が落ちてしまうことが患者さんの生存率と深い関連性があることが最近わかってきました。すなわち骨転移を制御することががん患者さんの治療に不可欠であります。さらにQOL(生活の質)も高まりがん患者さんのニーズは多様化しています。下肢や脊椎にできた骨転移は麻痺や骨折の原因となり患者さんのQOLを著しく低下させる恐れがあります。骨転移は早期発見し適切な治療を行うことが重要です。当科では転移による骨折に対する手術だけでなく、骨折が予測される患者さんや脊椎転移による麻痺が予測される患者さんを早期に見極めて適切なアドバイスを行うように心がけております。
69歳 男性 大腿骨骨転移による歩行困難 (原発は肺がん)
痛みによる歩行困難のため髄内釘による手術および放射線治療による徐痛を行った症例
上が初診時、下が治療後
良性骨腫瘍
骨軟骨腫、内軟骨腫、骨巨細胞腫、軟骨芽細胞腫、類骨骨腫、など
悪性骨腫瘍
骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性リンパ腫、脊索腫、転移性骨腫瘍、など
良性軟部腫瘍
脂肪腫、血管腫、腱鞘巨細胞腫、神経鞘腫、グロームス腫瘍、など
悪性軟部腫瘍
脂肪肉腫、未分化多型肉腫、滑膜肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫、骨外性ユーイング肉腫、悪性末梢神経鞘腫瘍、胞巣状軟部肉腫、類上皮肉腫、癌腫など
腫瘍類似疾患
骨囊腫、線維性骨異型性症、好酸球性肉芽腫、など
上記のごとく腫瘍には様々なタイプがあります。
<JMOG共同研究>
骨・軟部腫瘍班では日本骨軟部肉腫治療研究会(JMOG)に所属し多施設との連携を図り多施設共同研究を行っております。
<基礎研究>
担当医師
西村俊司 平成10年卒 日本がん治療認定医
橋本和彦 平成18年卒 日本がん治療認定医
(文責 西村俊司)