医師インタビュー

主任教授・中川和彦

腫瘍内科学という名の
フロンティア

近畿大学医学部内科学教室腫瘍内科部門
教授 中川 和彦

臓器横断的にがんを治療

2002年4月、全国で進められていた医学部改革の一環として、第1内科、第2内科といった、いわゆる「ナンバー内科制」が廃止され、臓器・機能別小講座制に再編されました。これに伴い、本学では旧・第4内科学講座が呼吸器・アレルギー内科と腫瘍内科に分離・独立しました。

本学が全国に先駆けて腫瘍内科を発足した目的は、幅広いがん種に対して臓器横断的に薬物療法を行う腫瘍内科医を育成することです。

それまでのがん薬物療法は、近畿大学病院においても、呼吸器内科、消化器内科、血液内科といった臓器別診療科において行なわれてきました。しかし、がんの治療戦略は臓器別に本質的に異なるわけではなく、むしろがん細胞に共通する生物学的な特徴を理解して適切に治療を進めていくことが重要です。そのためには、がん薬物療法についての経験と知識を集約する必要があります。

前・腫瘍内科主任教授の福岡正博先生は、こうした理念のもとに近畿大学医学部に腫瘍内科学教室を設立されたのです。

優れた腫瘍内科医を輩出

幅広いがん種に対して薬物療法を行う腫瘍内科医の育成を目的に旗揚げした当科ですが、発足当初の人材不足は深刻で、腫瘍内科の活動も肺がん薬物療法の臨床・研究・教育が主たるものでした。学外から講師をお招きし、あるいは製薬企業にもご協力いただきながら肺がん以外の臓器のがん薬物療法について理解を深めていきました。

翌年、弘前大学第一内科から米国に留学していた佐藤太郎先生を当科にお招きしました。佐藤先生の呼びかけに応じてくれた消化器をサブスペシャリティとする若い腫瘍内科医とともに、数年かけて消化器外科と連携して消化器がんの薬物療法を行う体制が整いました。
その後、佐藤先生は大阪大学医学部の消化器癌先進化学療法開発学領域の臨床教授として異動されました。近大病院腫瘍内科にとってはたいへん残念なできごとで、消化器グループの立て直しには10年の月日が掛かりました。現在、米国・Mayo Clinic留学から帰ってきた川上尚人先生が消化器グループを率いてくれています。

また、もともと肺がんを専門とする先生方には他臓器のがん薬物療法にも積極的に取り組んでいただきました。たとえば、鶴谷純司先生(現・昭和大学先端がん治療研究所所長)には乳がん、田中薫先生には頭頸部がんに取り組んでいただき、当科発足から10年で徐々にレパートリーを広げてきたという経緯です。

私が福岡正博前教授から腫瘍内科主任教授を引き継いだ2007年、文部科学省は、国公私立大学ががん医療を担う人材育成を目的に申請したプログラムに対して財政支援を行う「がんプロフェッショナル養成プラン」をスタートしました。

これを受け、本学は神戸大学、大阪市立大学、大阪府立大学、神戸市立看護大学、神戸市看護大学の6大学7学部で構成される「6大学連携オンコロジーチーム」において、「がんプロフェッショナル(通称:がんプロ)」を養成するためのリーダーシップを担う立場にありました。

現在は、関西医科大学を加えた7大学8学部で構成される「7大学連携先端的がん教育基盤創造プラン」(事業推進責任者:伊木正幸近畿大学医学部長)において、教育改革、研究者養成、地域医療の3部門を設け、各大学連携のもとに人材育成を進めています。

緩和ケアも重要な課題の1つ

腫瘍内科学はまだまだ歴史の浅い学問であり、当科に入局された先生方には共通して「エスタブリッシュされていない学問だからこそ、自分たちの手で確立させたい」という強い思い、アイデンティティがあるようです。

当科でキャリアの長い先生方のバックグラウンドは呼吸器内科、消化器内科、あるいは総合内科といったように多彩です。それぞれまったく違う臨床経験、研究経験のなかで腫瘍内科医を目指して近大腫瘍内科に集ってこられました。したがって、近大腫瘍内科には、腫瘍内科医としての強力なアイデンティティとサブスペシャリティや学歴などにおける著しいヘテロジェネイエティが共存するのです。

それだけに、症例検討会ではそれぞれ経験や考えの異なる医師たちがいろいろな角度から意見を示され、熱のこもったディスカッションが展開されます。当科を研修先に選ばれた若い先生方には、このような症例検討会やリサーチカンファレンスの場でご自身が学ぶべきことを理解し、成長の糧としていただければと願っています。

一方、当科の対象とする研究フィールドは広く、その課題は新たな有効ながん薬物療法を開発するということにとどまりません。余命を告知された患者さんに対し、それぞれの人生観、ライフスタイルを尊重しながら、いかに精神的苦悩、肉体的苦痛を軽減できるかという緩和ケアの取り組みも重要な課題の1つです。

私たちはすべてのがん患者が治癒することを探求するとともに、ターミナルステージを迎えられた患者さんにその方らしい人生を完遂していただきたいと切望しています。
治療の甲斐なく死を目前にされている患者さん、ご家族から感謝の言葉をいただくことは腫瘍内科医として無上の喜びであり、臨床・研究・教育を行っていく力の源です。

現在、腫瘍内科が設置されている医療機関は大学病院やがん拠点病院などに限られており、がん薬物療法を行う病院に十分普及しているとはいえません。
私の夢は、当科から優れた腫瘍内科医をより多く輩出し、全国各地のがん診療の向上に貢献することです。

研修先の選定に迷われている若い先生方には、ぜひ当科にお越しいただき、腫瘍内科学を確立していくパイオニアのお1人として、私たちとともに汗を流していただくことを切に願っています。

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