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神経膠腫という病気の病態と治療について

神経膠腫(グリオーマ)とは

一般に脳は神経細胞(ニューロン)および様々な種類のグリア細胞から構成されています。グリオーマとは脳の大部分を構成しているグリア細胞が腫瘍化したものです。グリオーマは全脳腫瘍の中で最も頻度が高く(約30%)、いくつかの種類に分類されますが、基本的には増殖能が高く、浸潤性に脳を侵し、難治性悪性腫瘍の代表です。腫瘍が増大する事によって、周囲の脳組織を浸潤性に破壊したり、周囲の脳を圧迫したり、脳浮腫を合併する事によって、運動障害(麻痺)、感覚障害あるいは意識障害など、様々な重篤な神経症状が出現します。また腫瘍の増大や脳の腫れ(脳浮腫)に伴って、頭蓋内の圧力が上昇(頭蓋内篤亢進症)し、圧迫を受けた脳は行き場を失い、頭蓋内の隙間から飛び出します。このような病態を脳ヘルニアいます。この病態は極めて危険な状態で、脳の血管を閉塞したり(脳梗塞の合併)や脳の深部の出血を伴いなったりして,患者さんを死に至らしめる大きな原因となります。

患者(氏名)さんの現在の状態について

患者(氏名)さんは(部位・特徴など)脳腫瘍が存在します。腫瘍は大きく、周囲に強い脳浮腫を伴っており、周囲の脳を圧迫しています。また頭蓋内圧亢進症状も出現しています。脳圧上昇や脳浮腫は一時的には薬物治療にてある程度は改善を得られますが、その効果が短期間で期待できなくなります。また痙攣の合併や腫瘍内出血を生じると、急激に病状は悪化する事急も十分予想されます。

我々の計画している治療法について

治療の最大の目標は腫瘍をできるだけ小さくし、腫瘍の増大を遅らせる事です。これまで頭部MRI等の画像診断の結果から、手術を行い、出来る限り腫瘍を摘出した後に、放射線治療および化学療法等を行う事が一番良い治療法であると考えています。

開頭による腫瘍摘出の合併症について

1)手術中、手術後の腫瘍内出血と脳浮腫
摘出術の際、最も問題となるのは手術中、手術後の頭蓋内出血と脳浮腫です。悪性度が高いほど腫瘍への血液供給が高いと考えられます。腫瘍血管は正常の血管に比べ脆弱で、出血しやすい特徴があります。手術で腫瘍を完全に摘出する事は困難ですので、手術中および手術後に、出血を生じる可能性があります。また手術侵襲そのものが脳の腫れ(脳浮腫)を助長する可能性がありますが、悪性腫瘍では更に強い浮腫を合併する危険性があります。術後出血や脳浮腫を合併した場合、生命を脅かす可能性もあり、場合によっては再手術が必要となる可能性もあります。こうした問題点を踏まえて我々は患者さんの術中、術後管理を厳重に行います。

2)脳梗塞の合併および手術に伴う脳損傷の危険性
手術中に脳を栄養する血管(動脈)や脳を還流している血管(静脈)を損傷し、脳梗塞を生じる可能性があります。また腫瘍を摘出する際、どんなに慎重に手術操作を行ったとしても、脳、神経あるいは血管を損傷し、新たな機能障害を生じる可能性があります。

3)感染
我々はできるだけ清潔な状態で手術を行いますが、微生物(多くは細菌)の侵入を100%ゼロにする事は困難です。特に手術が6時間以上にわたる場合、感染の危険性が高くなると言われています。従って、術中・術後に抗生剤(微生物を殺す薬剤)の投与を行います。抗生剤の投与で、術後感染の問題は激減しましたが、患者さんの抵抗力が弱かったり、抗生剤の効き目が悪かったりすると、細菌性髄膜炎、脳膿瘍、皮下膿瘍および硬膜外膿瘍などの感染性合併症を生じる可能性があります。

4)麻酔、輸血、薬剤などによるショック、肝炎の感染の危険性
手術の際には麻酔薬、抗生物質をはじめ様々な多くの薬剤を使用します。これらの薬剤は高い安全性が確立されていますが、人によっては使用した薬剤に対し過敏な反応ショック(薬剤アレルギー)や予想しえない副作用を生じることがあります。

手術時、皮膚切開などからの出血をできるだけ少なくすることを心がけますが、出血量が多くなると輸血をする必要があります。輸血用の血液は病院で用意します。これらの血液はすべてB型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルス、エイズウィルス、梅毒の検査がすべて陰性のものです。しかし、これらの検査は100%完全ではなく希に輸血によりこれらの感染症にかかることがあります。

5)既往疾患の悪化の危険性
循環器系疾患(虚血性心疾患、不整脈、心不全および高血圧など)、呼吸器疾患(肺炎、喘息、肺気腫など)、消化器系疾患(潰瘍、肝炎および肝硬変など)、内分泌疾患(糖尿病や甲状腺疾患など)、精神疾患など、これまで顕在化していなかった疾患が手術を契機として発症することがあります。また患者さんがこれまで既往疾患として持っておられる病気がより重篤となる可能性もあります。

6)手術時間が長くなり同じ体位をとり続けると、手術台などの器具に接触している手足、体部、胸部などに褥創を生じることがあります。

7)開頭する際、頭蓋骨を一部切除する可能性もあり、手術後頭蓋骨が変形し、美容上問題を生じることがあります。

8)その他予想外の合併症
我々は厳重な術中、術後管理にてこうした合併症の発生を防止するよう努力しておりますが、残念ながら合併症を生じることがあります。上記、合併症を生じた場合、重篤な後遺症を生じたり、死亡したりする可能性も否定できません。

手術侵襲が拡大する可能性について

1)手術前の検査にて発見できなかった、病気(たとえば脳動脈瘤、他の脳腫瘍など)が偶然手術操作中に見つかった場合、その病気に対する治療を行います。

2)内減圧術あるいは外減圧術の可能性について
手術中、頭蓋内出血を生じ出血が止まらないときや脳浮腫が強い場合、脳の一部分を切除することがあります。更に脳圧を減ずる為に手術部の頭蓋骨を元に戻さない場合もあります。

3)再手術あるいは他の治療を必要とする場合について
我々は1回の開頭手術にて出来得る限りの摘出をめざしますが、手術に伴う出血が著しい場合、手術後に出血を来した場合、再びもう1回の手術を計画するかまた別の治療法を計画し、患者さん(家族の方)に改めて説明します。

その他の治療法について

上記以外にも次のような治療法が考えられます。

1)放射線療法、化学療法(抗癌剤等)。
問題点:手術をせずに上記の治療を行う場合、腫瘍が縮小するまでの間の頭蓋内の圧(脳圧)が生命を脅かさないように制御できる必要があります。現在のところ手術による摘出と放射線療法、化学療法の併用に比べますとはこれらの療法は効果が劣ります。

予後、患者さんの病状についての将来の予測

これまで説明したように治療には様々な問題を生じることがあります。更にこの様に様々な治療法を駆使しても残念ながら再発は免れ得ず、最悪性のものでは2年生存率20%以下、5年生存される方は極めて少数です(10%以下)。

説明しましたようにいかなる治療も現在の医学では延命効果を目指すのみで完治は望めませんが、出来うる限り、有意義な生活を一日でも長く送っていただく為に、患者さんの場合は開頭術による摘出術及び手術後放射線療法、化学療法の併用がよいと我々は考えています。

患者さんおよび患者さんの家族の方が我々の計画している治療法を拒否され別の治療法を選択されても、患者さんが拒否したことにより不利益は被りません。すなわち治療途中で退院を早めるとか、あるいは今後、診療治療を行わないなどのことは決して我々はしません。
またいったん我々の予定している治療法に同意された後でも患者さん、患者さんの家族の方がこれを拒否され別の治療法を選択されてもその理由で患者さんには不利益は被ることはありません。