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特発性正常圧水頭症について

特発性正常圧水頭症とは

まず、水頭症とは脳脊髄液(通常は髄液と言います)が脳室やくも膜下腔に過剰に貯留した状態を言います。一般的には脳室という髄液生産・貯蔵庫にあたる部分の拡大を認め様々な症状を引き起こすものを指します。

髄液は脳室内で一日 約500ml生産され、脳の中心部を通り最終的に脳の表面で同量が吸収される仕組みになっています。頭蓋内ではその髄液が脳室とクモ膜下腔を常に満たし脳の緩衝液として働いています。

しかし何らかの原因により、髄液循環システムの異常が起こると髄液が過剰に貯留し水頭症を発症してしまいます。脳腫瘍などで髄液の通路が閉塞していたり、髄膜炎やくも膜下出血の後で髄液の吸収が障害されているような、原因がはっきりしている水頭症を続発性(二次性)の水頭症と言います。しかし、それらの原因がないのに水頭症の症状を呈する特殊なものを特発性の正常圧水頭症と言います。具体的には、成人・高齢者において脳室拡大があるにもかかわらず髄液圧が正常範囲内で、神経症候として認知障害、歩行障害、尿失禁のすべて、またはいずれかを呈し、後に述べるシャント術によりこれらの症状が著しく改善するものを言います。この特発性正常圧水頭症の正確な発生頻度は明らかではありませんが、認知症と診断された患者さんの5〜6%がそうであると考えられています。

1)症状
特発性正常圧水頭症では、認知障害、歩行障害、尿失禁の三つが特徴的な症状(三徴候)です。歩行障害が初発症状であることが多いとされており、一般的に小刻みな歩行になり方向転換などでバランスを崩しやすくなります。症状が進行すると立位や座位を保つことが困難になります。

認知障害では初期に物忘れ、次いで自発性の低下が起こります。さらに進行すると無関心、無言無動といった状態になります。

尿失禁は、三徴候のなかで最も遅くに出現する症状と言われています。

2)診断・予後など

三徴候のすべて、あるいはいずれかを認め、頭部CTやMRIで特徴的な脳室の拡大を指摘されれば、特発性正常圧水頭症を疑うことになります。ただし、老人性痴呆やアルツハイマー病の方でも脳の萎縮にともなって、一見、脳室が拡大して見えるので、特発性正常圧水頭症との鑑別が困難な場合があります。現状では画像診断だけで鑑別診断が困難なため、腰椎穿刺と言う方法で約20〜30mlの髄液を排除して、症状が改善するかどうかを試す検査(髄液タップテストと言います)が行われています。髄液タップテストにより症状が改善した患者さんは、手術によって症状が改善する確率が高いといえます。その他、RI脳槽造影・CT脳槽造影、頭蓋内圧測定、脳血流測定などを行うこともあります。

特発性正常圧水頭症の60〜70%前後の患者さんで、術後になんらかの症状改善がみられます。最も改善しやすいのは歩行・バランス障害です。次いで尿失禁で、認知障害は三徴候のなかで最も改善しにくい症状です。しかし、手術より数ヶ月01年程度で改善を認める例もあります。

手術術式について

現在、水頭症の外科的治療法には大きく分けて三つの方法があります。
1)シャント術(短絡術)による治療、
2)脳室/腰椎ドレナージによる治療、
3)内視鏡手術(第3脳室開窓術)による治療
です。

1) シャント術(短絡術)による治療
通常、特発性正常圧水頭症の患者さんは、髄液の通路が閉塞しているような原因がはっきりしている水頭症ではありませんのでシャント術を行うことが一般的です。後に述べる他の方法では感染の危険性から短期的にしか留置出来ないとか、十分な効果が得られるかはっきりしていないなど問題点が少なくありません。特発性正常圧水頭症の場合、長期的に管理が必要となりますのでシャント術が適しています。シャント術とは、脳室または腰椎クモ膜下腔の髄液を外部に排出するのではなく、体に安全なチューブを使用し、腹腔内や心臓に導き吸収させる方法です。チューブは皮膚の下に埋め込んでしまうため外界にさらされることはありません。またチューブの多くは圧や流量を調節する機能を持っています。このような人工的に髄液の通る通路を作成するのがシャント術です。
 

(写真)シャントに使うチューブとバルブ

2)脳室/腰椎ドレナージによる治療
急激に水頭症が出現し、頭蓋内圧が非常に高くなった場合や一過性の水頭症である場合に行います。脳室または腰椎クモ膜下腔に直接チューブを挿入し、体の外部に髄液を排出します。髄液は回路などで圧や排出量をコントロールします。この方法はチューブが体から直接出たままなので、いずれ髄液漏れや感染を引き起こす可能性が高く、通常は急性期の状態が落ち着くまでの一時的な治療になります。

3)内視鏡手術(第3脳室開窓術)による治療
頭蓋骨に小さな穴をあけ、水頭症で大きくなった第3脳室という場所に内視鏡を挿入し、その底に穴をあける手術です。この穴をあけることにより、脳室内に貯まった髄液が第3脳室の直下にある脳底槽と言うクモ膜下腔の少し大きくなった場所に流れ込みます。そして脳表のクモ膜下腔で髄液を生理的に吸収させようとする手術です。
この方法は、患者さんの持っている本来の機能を用いるので、非常に生理的であり体内にチューブなどを埋め込む必要がなく、患者さんにとって煩わしさが無いという特徴があります。閉塞性水頭症には、非常によい適応となると考えられています。しかし脳脊髄液の吸収障害のある交通性水頭症やクモ膜下腔の発達していない6か月未満の子供さんなどには効果がないと言われています。

手術の危険性について

1)麻酔、輸血、薬剤などによるショック、肝炎の感染の危険性
手術のためには麻酔薬、抗生物質をはじめ様々な多くの薬剤を使用します。これらの薬剤は高い安全性が確立されていますが、人によっては使用した薬剤に対し過敏な反応ショック(薬剤アレルギーや予想しえない副作用を生じることがあります。
手術時、皮膚切開などからの出血をできるだけ少なくすることを心がけおり、またこの手術自体が出血性の手技ではありませんので、通常は輸血を必要とすることはありません。しかし、もともと貧血が強かったり、予期せぬ部位からの出血などにさいしては輸血をする必要が生じることがあります。このような場合に必要な輸血用の血液は病院で用意しています。もちろん、これらの血液はすべてB型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィル、エイズウィルス、梅毒の検査がすべて陰性のものです。しかし、これらの検査は100%完全ではなく希に輸血によりこれらの感染症にかかることがあります。

2)感染
生体は皮膚、粘膜などに被われ外からの微生物の侵入を防いでいます。手術により脳、硬膜、皮下組織などが露出されてしまいます。我々は無菌手術を心がけていますが、手術の際、微生物の侵入を100%ゼロにすることは現在の医学水準からは困難です。従って術中、術後にこうした微生物を殺す薬剤すなわち抗生物質を投与しています。多くの患者さんではこうした治療により術後感染の問題は生じませんが、特に脳室ドレナージチューブは直接、脳から皮膚・体外に出ており感染の危険性が高くなります。また患者さんの抵抗力が弱かったり(抗ガン剤やステロイドを投与されている場合も含む)、抗生剤のアレルギーや臓器障害で十分な投薬が出来なかった場合などでは術後、細菌性髄膜、脳膿瘍、皮下膿瘍、硬膜外膿瘍などの感染性合併症を生じる可能性があります。

3)手術中、手術後の頭蓋内出血、脳梗塞、脳損傷とそれに起因する神経症状
我々が計画している手術に関して、これら合併症が生じる可能性は決して高くはありませんが、一度生じた場合には、最も重篤な合併症と考えられます。術中は、これらの合併症を生じる原因となる、血管の損傷や脳の不要な損傷などを起こさないよう最大限の注意を払っていますが、患者さんの血管や神経走行などの解剖学的な差異などから、これらの予期せぬ合併症を生じることがまれにあります。そのため術後の患者さんの状態を注意深く観察するとともに各種のモニターによるチェック、CT等のレントゲン検査を適宜行い、患者さんの術後状態の把握に努めています。また、これらの合併症が生じた場合には、再手術を含めた必要な治療を適宜行っています。

4)糖尿病、高血圧、肺気腫、胃潰瘍、パーキンソン病、内分泌疾患、精神疾患など様々なこれまで顕在化していなかった疾患が手術を契機として発症することがあります。また患者さんがこれまで既往疾患として持っておられる病気がより重くなることもあります。

5)まれに手術時間が長くなり同じ体位をとり続けると、手術台などの器具に接触している手足、体部、胸部などに褥創を生じることがあります。

6)手術で頭蓋骨を一部穿孔するため、穿孔部が変形し、稀に美容上問題を生じることがあります、また手術創部に永く痛みが残ること(術後のハンコン形成のため)もあります。また脳室/腰椎"腹腔シャント術の場合、腹部にも約5cmの傷が残ります。

7)その他予想外の合併症
我々は厳重な術中、術後管理を行って、こうした合併症の発生を防止するよう努力しますが、残念ながら予想できない事態が起こってこうした合併症を生じることがあります。その結果、最悪の場合は死亡したり、重い神経後遺症を生じたりする可能性もあることを否定することは出来ません。

予期した手術計画に相違して、手術侵襲が拡大する可能性について

先に述べましたように、手術中、頭蓋内出血を生じ出血が止まらないときなどの緊急に対処が必要な場合、止血するために開頭手術(頭の骨を大きく開ける手術)に変更することがあります。

これらの場合には、予定していた手術よりも手術侵襲が拡大することもあります。

患者さん、患者さんの家族の方が我々の計画している治療法を拒否され別の治療法を選択されても、拒否したことによる不利益は被りません。すなわち治療途中で退院を早めるとか、あるいは今後、診療治療を行わないなどのことはありません。また、いったん我々の予定している治療法に同意された後でも患者さん、患者さんの家族の方がこれを拒否され別の治療法を選択されても、その理由で患者さん本人には不利益を被ることはありません。