-----旧第二解剖学教室の沿革-----


 近畿大学医学部の開学と同時に第二解剖学教室が誕生した。初代教授には森司郎(大阪大医学部)が着任した。当初は教授以外にスタッフがなく、研究室の立ち上げや、組織学実習室の設立、解剖学実習室の設計や設備の搬入、そしてご遺体の準備や、組織標本の作製など、大変多忙な日々を過ごされた。昭和51年頃よりようやく諸設備が整い、さらに古河恵一、ついで阿部宏己の研究スタッフも加わり、実験、研究が遂行できるようになった。電子顕微鏡を駆使してグリア細胞の研究・特にグリア線維の研究を行った。阿部は55年に転出、翌年4月古河はライフサイエンス研究所講師に転任したが、同時に第2解剖学教室兼任となり、54年に着任した藤岡厚子、56年の大槻緑、57年の長野護、高木宏らと共に、研究と教育に当った。上記のグリアの研究と同時に、ファゴゾームの形成過程や膜の融合、中枢神経系内の各種ペプチド等の研究が電子顕微鏡を用いた酵素細胞化学、免疫細胞化学的方法を用いて行われた。高木は大阪市立大学に教授として転任、代わって篠田晃が加わり、脳の性分化に関する形態的な研究を始めた。残念なことに、森は平成4年8月病をえて他界した。
 翌年4月東京医科歯科大学より佐々木宏教授を迎えた。佐々木は前教授と同様にグリアの機能に興味を持ち、とくにアストログリアのアクアポリン4の局在と機能の研究を進めた。翌年中浜健一が着任し、今までの解剖学教室としての形態的な研究から、分子生物学的な手法を用いた研究が組み込まれるようになった。篠田はその後山口大学に教授として転出、つづいて佐々木も東京女子医大の教授として転出した。
 平成11年9月、3代目の教授として神戸大学より重吉康史が着任し、哺乳類体内時計を中心とした研究にテーマがシフトした。重吉は着任と同時に研究室の整備を進めた。体内時計の研究を進めるために、環境の光条件をコントロールするための動物室を教室に作った。また、効率よくin situ hybridizationをするためのシステムを導入した。培養細胞での分子事象を研究するための設備を拡充した。佐藤伸介、足立明人、早坂直人ら体内時計、睡眠分野の若い研究者が着任し、さらにポスドクとして筋野貢が、大学院生として山口大学より升本宏平、大阪大学より高嶋直敬が、また、平成16年より始まった大学院博士課程社会人入学制度を利用してアステラス製薬の松尾理子、トランスジェニック社の山崎千尋らも加わった。一方中浜は東京医科歯科大学に講師(現助教授)として、佐藤は大阪医大精神科教室に転任した。研究、教育に真摯に打ち込む一方、教室では月に一回のテニス大会や、食事会、飲み会、ボーリング大会など、レクリエーションの機会も多い。狭い研究室内には常に人があふれ、活気に溢れた研究室と
なっている。

教育
 ヒトの体のつくりを実際に肉眼で確認し、あるいは顕微鏡下で観察することを通して、個体において高度に統合された機能を理解することを目標としている。
 教室の担当科目は組織学総論、各論、肉眼解剖学、神経解剖学である。組織学総論は1学年の3学期より始まる。機能する器官、機能する個体を知るための基礎として、人体を構成する4つの基本的な組織―上皮、支持、筋、神経組織―について講義および、実習を行う。組織学各論では器官の組織像について講義実習を通じて学ぶ。現在のカリキュラムの中では機能コースの一部として組み込まれ、生理的な機能も並行して学習できるようにカリキュラムが作られている。肉眼解剖学は2学年の4月から始まる。第一解剖教室と分担して、肉眼解剖学の講義と実習を行う。実際のヒトの体を徹底的に観察することによって、医師としての強い決意が形成される。単に見たということにとどまらず、臨床的な観点を随時織り込み、人体構造が呈示する機能的な意義を常に意識するよう指導している。神経解剖学では、脳を詳細に観察し、スケッチを行う。さらに、神経局在診断演習において、神経解剖学が実際の臨床の現場で役立つことを感じてもらう。中枢神経系の断面構造を自分で描き、神経伝導路を記入して、局在診断に至る過程を学ぶ。

研究
現在、教室の主な研究分野は、時間生物学 chronobiology である。解剖学教室において、時間生物学を主とした研究を行っているのは、現在、全国で2カ所しかない。時間生物学は周期性を持つ生命現象、すなわち生物の持っているリズム現象を扱う学問である。その中でも、約一日の周期を持つリズムをサーカディアンリズム(慨日リズム)が研究対象である。哺乳類において約24時間の振動現象の生じる仕組み(発振機構)、そして、環境のリズムに同調する仕組み(同調機構)、そして体内時計から、睡眠、行動、体温、ホルモンのリズムなどの生理現象へ至るしくみ(出力機構)を明らかにすることが目標である。教室においては体内時計研究において、画期的な業績が生み出されている。時差ボケがどうして生じるのか、なぜ、一気に体内時計が環境の変化に合わせて針を動かすことができないのかが解明された (Journal of Neuroscience, Nagano et al. 2003.)。また、山之内製薬(現アステラス製薬)との共同研究において、Nature(Nature Ueda et al. 2002)に論文を発表した。DNA chipを用いた網羅的遺伝子発現解析、全長cDNAライブラリー、ヒトゲノム配列を利用して、体内時計の夜を作る分子システムを明らかにしたものである。

その他 
 年々、同好の士が増え、現在では、スタッフが5名、兼任担当講師1名、博士研究員1名、大学院生4名(うち依託学生2名)、技術員2名、秘書1名の大所帯となっている。また、臨床講座、他大学からの研究室からも研究、あるいは研修のために訪れる人が絶えない。大学、企業、国立研究所などとの共同研究も多い。十分とはいえないが、できうる限り最新の設備を備え、神経科学、体内時計研究の神髄を学ぶことのできる場となっている。研究の成果は学会においても高く評価され、毎年、教室のスタッフの3名程度が文部科学省科学研究費を得ている。
 第二解剖の歴史を振り返ると多くの人が、集い、そして、新たな活躍の場所を見つけ去っていった。今後ともそうでありたい。汗を流せば、息をのむような発見ができると考えている。

****旧第1解剖学教室 教室史****