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1. 内分泌、骨代謝の研究

(1)筋・骨ネットワーク

 超高齢社会を迎えているわが国において、運動器疾患が原因で寝たきりの状態になる患者数が増加し、健康寿命を伸ばすためにも重要な課題です。その中でも、骨脆弱化を来す骨粗鬆症や、骨格筋の筋量や筋機能が低下することによりフレイルに直結する病態であるサルコペニアが注目されています。

 骨粗鬆症とサルコペニアの両者にはいくつかの共通した病因が推定されており、内分泌的要因、遺伝、メカニカルストレス、加齢などが関連しています。その詳細については未だ不明であり、基礎研究による分子機構の解明が必要となります。

 私共は、世界でもまだ骨と骨格筋の関連がほとんど認知されていなかった2008年ごろより、筋と骨のネットワーク、すなわち、筋と骨が体液性因子(マイオカイン)を介して相互作用する機構や、局所的に相互作用する機構を研究してきました。その中で、筋から産生される新規のマイオカインとして、オステオグリシン、FAM5C、DKK2、オルファクトメジン1、PMP22などを見いだしました(Kaji. Curr Opin Clin Nutr 16:272,2013; BoneKey Rep 5:826,2016; Kawao, Kaji. J Cell Biochem 116:687,2015; Tanaka et al. J Biol Chem 287:11616,2012; Biochem Biophys Res Commun 418:134,2012; Kawao et al. Int Mol Sci 21:2547, 2020: Shimoide et al. Calcified Tissue Int 107:180, 2020: Kawaguchi et al. J Cell Physiol 237:2492, 2022)、局所因子としては、Tmem119、MMP-10、Tmem176bを報告しました (Hisa et al. J Biol Chem 286:9787, 2011; Tanaka et al. Bone 51:158, 2012; Calcif Tissue Int 94:454,2014; Mao et al. Endocr J 60:1309,2013; Yano et al. Exp Clin Endocrinol Diabet 122:7,2014 )。さらに、筋組織が進行性に骨に変化する難病の一つである進行性骨化性線維異形成症(FOP)の病態機序に関連した知見も報告しています (Yano et al.J Biol Chem 289:16966,2014;Kawao et al.J Bone Miner Metab 34:517,2016)。現在ではこれらの筋と骨のネットワークは新しい研究分野として知られるようになりました。

 一方、マウスと網羅的遺伝子解析を用いて、重力変化、メカニカルストレス、運動などの生理的な調節と、ビタミンD、GH-IGF-1系、性ホルモン、糖尿病、グルココルチコイド過剰、腎不全、低ナトリウム血症などの病態的な視点から、筋・骨連関の変化を研究し、さまざまな知見を見出しています (Kawao et al. J Cell Physiol 233:1191, 2018; Calcified Tissue Int 103:24, 2018; J Bone Miner Metab 39:547, 2021; J Cahexia Sarcopenia Muscle 13:758, 2022; Iemura et al. 38:161, 2020, etc.)。

 これらの筋・骨ネットワークの詳細なメカニズムや重要な因子が明らかになれば、サルコペニアや骨粗鬆症の診断に有用なマーカーや治療薬の開発につながっていくことが期待できます。



(2)糖尿病などの内分泌代謝異常や老化による骨粗鬆症における分子機構の解明

 糖尿病は、骨粗鬆症の原因としても重要です。今後、糖尿病性骨粗鬆症の臨床的重要性は増すことが予測され、その病態解明が急務となっています。

 線溶系阻害因子であるPlasminogen activator inhibitor-1 (PAI-1)は、肥満および糖尿病病態において増加する悪玉アディポカインとして知られており、糖尿病や心血管疾患の進展に関与するとされています。私共は糖尿病性骨粗鬆症の病態機序におけるPAI-1の役割についてPAI-1遺伝子欠損マウスを用いて検討し、PAI-1が糖尿病雌マウスにおける骨量の低下に関与することを報告しました(Tamura et al. Diabetes 62:3170,2013)。その機序として、糖尿病病態で肝臓から血中へのPAI-1の分泌が増加し、骨芽細胞の分化および石灰化障害を引き起こすことが示唆されました(図)。そして、このPAI-1の骨形成抑制作用は雄マウスでは認められなかったことから、糖尿病性骨粗鬆症の病態機序に性差が存在することが考えられました。
 


 さらに、2型糖尿病を合併する肥満マウスやステロイド性糖尿病マウスの骨病態におけるPAI-1の役割も明らかにしました(Tamura et al. Endocrinology 155:1708,2014; Diabetes 64:2194,2015; Kaji.Compr Physiol 6:1873,2016)。

 
現在、糖尿病、肥満、糖質コルチコイド過剰などの病態モデルマウスを用いて、脂肪組織・肝臓・骨格筋・骨のネットワークという視点から、PAI-1や関連した因子の関わりを、遺伝子改変マウスを用いて、研究を進めています。また、骨粗鬆症病態における性差のメカニズムに関する研究もおこなっています。

一方、老化や慢性腎臓病 (CKD) の筋骨格系への影響も注目されてきていますが、その病態には不明な点が多く、その診断や治療の方法も明確にはなっていません。

現在、糖尿病、老化、CKD、肥満、グルココルチコイド過剰などの病態モデルマウスを用いて、脂肪組織・肝臓・骨格筋・骨のネットワークという視点から、PAI-1や関連した因子のかかわりを、遺伝子改変マウスを用いて、研究を進めています。また、骨粗鬆症病態における性差のメカニズムに関する研究も行っています。



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