肝臓は、代謝、胆汁の合成、解毒作用など多彩な機能を持つ臓器です。血漿蛋白の大部分は、肝臓で合成されています。もちろん、止血系蛋白質(凝固系因子、線溶系因子)のほとんどが肝臓で産生されています。また、肝臓は再生能に優れた臓器でもあります。しかし、病的な状態が亢進し、その再生能の許容範囲を超えると、生命維持にとって重大なことになります。
この肝臓の障害後の修復・再生過程では、数多くのサイトカインや増殖因子などが様々な場面でそれぞれの役割を果たしています。この肝再生過程において止血系因子は、出血を止めるための役割のみならず、様々な機能を発揮することが明らかとなってきました。
私共は、これまで止血系の中でも特に線溶系因子の肝再生過程での役割について遺伝子欠損マウスの肝病態モデルや肝細胞培養系、さらには遺伝子・蛋白レベルの研究を行ってきました。その結果、線溶因子は肝再生過程での細胞外基質の分解や増殖因子の活性化に関与することを明らかにしました。
主な線溶系酵素であるプラスミン(plasmin)は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)系と共同して肝線維化におけるフィブロネクチンなどの細胞外基質の過剰産生に対して、分解を促進させます。また、肝障害後の再生肝細胞上では、自身で分泌したプラスミノゲン(Plg)とウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベーター(u-PA)を膜上に特異的に結合させ、u-PA依存性の効率的なPlg活性化を引き起こします。
このように、肝細胞の膜上にはu-PA/Plg系での活性化の増幅系が存在し、さらにこの増幅系はMMPs系と共同し蛋白分解カスケード反応を形成することにより、肝再生過程において重要な役割を果たすと考えられます。また、肝再生過程では、plasmin/MMPs系により細胞外基質に貯蔵されている肝細胞増殖因子(HGF)が遊離され、u-PAがその活性化を引き起こします。さらに、肝障害部位での炎症性細胞の誘導や活性化には、u-PA/plasmin系が必要不可欠であることがわかりました。
現在、肝障害の修復・再生過程での細胞周囲の線溶系酵素とMMPs系による蛋白分解カスケード反応を利用して、再生医療への応用を目指すことを目標にさらに検討を進めています。
新規ペプチドは、スタフィロキナーゼ (SAK)の22-40番目のアミノ酸配列に相当する合成ペプチド(SAK22-40)で、プラスミノーゲン (Plg)のC末端側の限定部位に結合して、Plgの立体構造を変化させることでその活性化を促進させます。このSAK22-40は、in
vivo実験系のマウス血栓モデルにおいても血栓溶解を亢進させます。
一方、線溶系酵素は、皮膚、角膜、肝臓などの組織の障害後の再生過程で重要な役割を果たします。
そこで、現在SAK22-40ペプチドの線溶促進作用の臨床応用として、このペプチドの再生医療への応用を目標に、基礎的レベルでの検討を進めています。
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