網膜静脈閉塞症( もうまくじょうみゃくへいそくしょう )

 網膜静脈閉塞症とは

網膜は眼球の壁を構成する組織でカメラに例えるとフィルムの役割を担っています。網膜は多くの酸素を必要とする血管が多くある組織です。網膜血管は心臓から視神経内を通して酸素を供給する網膜動脈と老廃物を心臓に送る網膜静脈から構成されています(図1 網膜の静脈)。心臓や脳では血栓( けっせん ) (血のかたまり)が血管に詰まることが知られていますが、網膜血管も閉塞を起こすことがあります。この項では比較的頻度の高い網膜静脈閉塞症について解説します。 網膜静脈閉塞症は網膜内にある静脈が詰まる網膜静脈分枝( ぶんし ) 閉塞症と、視神経内にある静脈が閉塞する網膜中心静脈閉塞症の2つに分類されます。網膜静脈閉塞症の有病率は 3%程度とされ、年配の方に多く、高血圧による動脈硬化が原因とされています。動脈硬化が起きると動脈が静脈を圧迫して静脈内の血流が非常に悪くなります。その後血管内で血液が凝固し静脈が詰まります。ただし全身の病気である膠原病( こうげんびょう ) や糖尿病を有する場合は血液の粘度が高くなりますので若年者でも発症することがあります。

 図1 下村嘉一・國吉一樹(2018).眼科インフォームド・コンセント 金芳堂 (著者・出版社の許可を得て転載)

 網膜静脈閉塞症の症状・検査

網膜静脈の閉塞により血管から血液や水分が漏れ、網膜出血や網膜のむくみ(網膜浮腫( もうまくふしゅ ) )が引き起こされます。網膜の中心である黄斑部( おうはんぶ ) にむくみが生じたものを黄斑浮腫( おうはんふしゅ ) といいます。 網膜静脈分枝閉塞症の症状は静脈の閉塞した部位により無症状のものから重度の視力低下をきたすものまで様々です。黄斑浮腫を生じるとゆがみや視力低下を生じます。一方、網膜中心静脈閉塞症では黄斑浮腫が起こることが多く早期から視力低下を生じます。検査は眼底写真で閉塞部位や網膜出血(図1 網膜静脈閉塞症の眼底写真1-3)、網膜の断層撮影を行うOCT 検査(Optical Coherence Tomography: 光干渉断層計( ひかりかんしょうだんそうけい ) )にて黄斑浮腫の有無を調べます(図2)。

 図2 黄斑浮腫により網膜が盛り上がっている

 治療

視力低下の原因である黄斑浮腫に対して治療を行います。現在は主に 3種類の治療法があります。

① 抗VEGF療法
網膜では血管の閉塞により新しい血管(新生血管)を作ろうとするため、血管内皮増殖因子( けっかんないひぞうしょくいんし ) (vascular endothelial growth factor:VEGF)が産生されます。ただVEGFは血管から血液が漏れやすくする作用もあるため黄斑浮腫の原因にもなります。抗VEGF薬の眼内注射を行いVEGFの働きを抑えることで黄斑浮腫を改善させます(図3)。即効性もあり一番多く行われている治療法です。
②ステロイド局所注射
網膜静脈閉塞症が生じると眼内に炎症を生じ、黄斑浮腫の原因になることがあります。ステロイドは炎症を抑える働きがあり、黄斑浮腫の改善に関与します。ただし緑内障や白内障の副作用がありますので、投与前に主治医と相談しておく必要があります。
③レーザー治療
網膜浮腫を生じている部位にレーザー光線を直接照射することで、浮腫の改善が得られることがあります。一方で正常網膜にも障害を与えることもあり暗点( あんてん ) 等の視野異常を来す可能性があります。

 図3:図2と同一症例 抗VEGF療法で黄斑浮腫が改善している

 予後

網膜静脈分枝閉塞症では黄斑浮腫を生じなければ視力は良好です。黄斑浮腫に対する抗 VEGF療法の効果は患者さんにより様々で、1回の注射で改善する場合もあれば年に複数回投与し続ける場合もあります。早期に治療開始すれば概ね視力を維持することは可能です。
一方、網膜中心静脈閉塞症では黄斑浮腫に対して抗 VEGF療法を複数回行う場合が多く、神経細胞の障害の程度によっては視力が改善しない症例もあります。また静脈が完全に閉塞すると新生血管が生じて硝子体出血や血管新生緑内障を合併しやすくなる虚血型に移行し、放置すれば失明することがあります。その場合は硝子体手術や緑内障手術が必要になります。