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2.骨・軟骨再生の研究

(1)幹細胞の骨・軟骨分化機構

 最近、再生医療が注目されています。iPS細胞の作成法が開発され、種々の臓器における再生医学の研究が活発になってきています。歯科領域を含む骨・軟骨再生の分野は、現在実際に最も臨床で用いられている再生医療です。

 再生に用いられる幹細胞の中には、iPS細胞やES細胞の他にも間葉系幹細胞や造血幹細胞のように多能性を有する組織幹細胞は、これまでも臨床応用され、今後の研究でも重要な細胞です。

 私共は、これまで間葉系幹細胞が骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、筋細胞に分化する過程について、骨形成シグナルや因子の同定を目指す過程の中で研究してきました。そのなかで、Smad3、Menin、PTHシグナルに関連した多くの知見を明らかにしました(Kaji et al.PNAS 98:3837,2001;Sowa et al. J Bone Miner Res 17:1190,2002;J Biol Chem 277:36024,2002;J Biol Chem 278:52240,2003;J Biol Chem 278:21058,2003;J Biol Chem 279:40267,2004; Naito et al.J Biol Chem 280:4785,2005;Tobimatsu et al. Endocrinology 147:2583,2006;Inoue et al. J Cell Biochem 108:285,2009
; Horm Metab Res 43:183,2011; Kaji. J Bone Miner Metab 30:381,2012)。


   細胞質に脂肪滴を蓄えた
 脂肪細胞の様子
   筋管細胞に分化誘導した
 細胞の様子

 今後の研究では、iPS細胞や間葉系幹細胞を用いて、細胞に転写因子を導入することにより、骨や軟骨を作るのに重要な因子を明らかにし、間葉系幹細胞や脂肪幹細胞を、いろいろな病態マウスの治療に使用できる可能性を検討しています。





(2)骨・軟骨再生への内分泌因子および組織線溶系の関与

 組織再生には、@組織の元になる細胞源、A細胞の足場、B細胞の分化や増殖を刺激する因子(シグナル)の3つの要素(再生の3要素)が必要とされています。細胞の足場は移植した細胞の分化や増殖に適した環境を提供するだけでなく、組織の再生に関連する細胞や血管の浸潤に重要であると考えられています。一方で、細胞自身も足場となる細胞外基質を産生しており、周囲の微小環境を構築して組織再生に影響をおよぼしています。

 私共は、教室で飼育している遺伝子改変マウスを用いて、細胞外基質のリモデリングに重要な役割をはたしている組織線溶系に注目し、骨・軟骨再生過程において組織線溶系が細胞周囲の微小環境や細胞動員におよぼす役割を研究しています。さらに骨・軟骨再生への内分泌代謝異常(糖尿病、糖質コルチコイド過剰、ビタミンD欠乏など)の影響とそのメカニズムについての研究にも取り組んでいます。
  
 
私共のこれまでの研究では、組織線溶系が骨修復に重要であること(Kawao et al. J Bone Miner Res 28:1561, 2013;Am J Physiol 307:E278,2014;PLoS One 10:e0123982,2015)、PAI-1が糖尿病による骨修復に関与すること(Mao et al. PLoS ONE 9:e92686, 2014)、ビタミンD欠乏と糖尿病の骨修復への影響について(Mao et al. Bone 61:102, 2014)の新知見を報告しました。

 

 
今後は、骨・軟骨再生と内分泌や組織線溶系の関わりについて、さらに研究を進めて、環境因子(シグナル)の面からの再生医療への貢献をめざしたいと考えています。


(3)骨・軟骨再生への造血組織の関与

 骨髄には、間葉系幹細胞や造血幹細胞が存在しています。これらの幹細胞は、組織障害後の修復・再生過程でその目的に応じて、それぞれの細胞に分化誘導されると考えられます。
 

 私共は、骨損傷マウスモデルを用いて、骨修復時の骨髄造血幹細胞変化にSDF-1が関与することを明らかにしました(Okada et al. Am J Physiol 310:E14,2016)。現在は、さらにそのメカニズムと糖尿病などの病態における影響、骨・軟骨再生過程での骨髄細胞中の幹細胞の挙動および組織線溶系の関与について,マウスを用いて研究を進めています。
  

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近畿大学医学部再生機能医学講座

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