研究
研究内容
1.乳腺非腫瘤性病変診断における造影超音波検査の有用性についての研究
超音波診断は非侵襲的かつ有用な検査であり、いろいろな医学的分野で臨床応用されいる。乳腺領域では、乳腺疾患の鑑別診断のみならず、病変の広がり診断やリンパ節の転移診断、薬物療法の早期治療効果判定等幅広い応用が可能である。当教室では早くから詳細な画像診断を乳癌治療に生かして過不足のない適切な治療を行うように努力してきた。現在は、微細な血流動態を観察できる乳房造影超音波検査を導入し、すでに診断基準が概ね確立している乳腺腫瘤性病変だけではなく、診断の困難な乳管の異常などの非腫瘤性病変に対する診断基準の確立を目指した臨床研究を行っている。2020年4月以降当科にて施行された又は2021年4月以降施行される当科受診患者を対象に、乳腺B-mode超音波にて確認された低エコー病変に対して造影超音波検査を行い、手術又は生検の病理所見と造影超音波検査所見を対照解析し、造影超音波検査の有用性を検証する。乳管内進展のような非腫瘤性病変の正確な画像評価が可能になれば、術式選択がより適切に行えるため重要な診断モダリティの一つであると考えられる。今後、非腫瘤性病変だけでなく、術前薬物療法の早期効果判定など臨床的に重要な方面での臨床応用も視野にいれて研究と臨床を進めている。
2.異時性両側乳癌の第二癌におけるER非依存性増殖経路関連タンパクの免疫組織学的検討
異時両側乳癌が増加しているが、第一癌の術後ホルモン療法を受けて後に発生した第二癌は、ER陽性であってもホルモン耐性である可能性がある。【目的】第一癌のホルモン療法中または終了後に発生した第二癌の発症時期と、ホルモン非依存性増殖経路であるPI3K/Akt/mTOR経路活性、MAPK経路活性、PTEN発現状況との関連性を免疫組織染色によって明らかにする。【これまでの成果】2006年〜2015年に当院で第2癌の手術を施行した異時性両側乳癌のうち、第1癌の術後補助療法としてホルモン療法(タモキシフェンもしくはアナストロゾール)が行われた症例を対象とした検討で、第二癌の発生時期が第一癌術後治療から短い症例ほど、PI3K/Akt/mTOR経路活性を示すリン酸化S6タンパクの発現が高い傾向がみられた。【今後の展開】本研究によって、ER陽性第二癌に対するホルモン耐性状況が明らかになれば、第二癌の術後補助療法の選択に役立つ可能性がある。さらに、本症例をモデルとして、ER陽性乳癌に対するホルモン療法単独治療と分子標的薬との併用療法の選択に役立つ可能性がある。
3.乳癌局所領域再発に対する術前化学療法の意義および効果予測・効果判定に関する研究
乳癌局所領域再発に対しては、一般的には病巣の切除(サルベージ手術)が選択される。サルベージ手術後の全身療法については、無作為化ランダム試験(CALOR試験)の結果から、補助化学療法の意義が示唆されている。局所領域再発後は、これらの集学的治療が施行されても、遠隔再発を来す症例は少なくない。局所・領域再の中には、遠隔転移と同義の病態が存在すると考えられる。【対象と方法】当科において、2014年12月までに経験した、乳癌術後局所領域再発26例(温存術後乳房内再発16例、乳房切除後胸壁再発5例、腋窩リンパ節再発5例)の臨床経過を後方指摘に検討した。対象症例の5年遠隔無再発生存率は64%と不良であった。遠隔再発の危険因子は、再発部位(腋窩リンパ節)と無病期間(原発巣術後3年以内)であった。【今後の展望】局所領域再発に対しては、薬物療法を併用することが強く推奨される。局所領域再発に対して、前向きに術前化学療法を行い、その治療効果や予後を単アームにて検証するプロトコールを立案中である。
これら研究のほか、高濃度乳腺の客観的測定方法と、臨床応用についての研究や、OSNA法を用いたセンチネルリンパ節生検症例の長期予後の検討などに取り組んでいる。