RESEARCH研究

研究内容

当科では各種腎疾患および高血圧性疾患の病態解明と新規治療法の開発を求めて、基礎的・臨床的研究を行っています。
研究を遂行するにあたっては、「臨床に還元し得る知見を追求する」という視点を常に心がけています。

臨床的研究

高血圧の病態解析と治療法の検討

腎髄質循環・糸球体血行動態や尿細管におけるナトリウム再吸収機構といった高血圧の病態生理に即した高血圧治療のレジメンについて検討を行っています。特に現在我々は高血圧合併慢性腎臓病におけるARNI(Sacubitril/Valsartan)やMR拮抗薬の臨床的効果について検討しています。その成果により、様々な作用機序をもつ降圧薬を用いた、個々人の病態に即した最適な治療法を検討すべく努めています。
また、大阪南部の開業医の先生方を中心に南大阪高血圧症研究会を立ち上げ、地域に立脚した、最適な降圧治療のあり方についても検討を行っています。その成果は、日本高血圧症学会総会や日本腎臓学会学術総会などにて報告しています。

腎疾患の病態解析と治療法の開発

糖尿病性腎臓病における腎臓病理組織変化とNesfatin-1濃度との関係
【研究概要】
腎疾患におけるAdipokine作用機序の解明

Nesfatin-1(ネスファチン-1)は摂食抑制作用を初めて報告され、以後抗炎症・抗アポトーシス作用など多面的な効果が報告されています。しかし腎疾患との関係はあまりよく知られていません。我々はまず糖尿病性腎臓病において、血清ネスファチン-1濃度と尿細管組織障害との間に逆相関が見られる事を見出しています。その結果ネスファチン-1が腎障害に関係することがわかり、腎組織障害や腎予後の新規のバイオマーカーになるのではないかと現在検討しております。またその他の腎疾患とその結果として様々な作用機序を持つAdipokineを用いた治療法を開発すべく努めています。その成果は、日本腎臓学会学術総会やアメリカ腎臓学会学術総会などにて報告しています。

【患者様へ】
常染色体優性多発嚢胞腎の病態解析とバイオマーカーの探索

ADPKD(常染色体優性多発嚢胞腎)は最も頻度の高い遺伝性の嚢胞性腎疾患で、4000人に1人の頻度、国内約31,000人存在すると報告がされています。現在のところADPKD患者の腎臓、肝臓cyclic AMPを直接測定する事は出来ません。そこで我々は腎臓及び肝臓より分泌されるcyclic AMPを血清および尿より算出し、腎臓・肝臓の容積増大や腎予後等について検討を行っています。またトルバプタン(バソプレッシンV2受容体拮抗薬)治療によって腎容積増大は抑制されるが、腎・肝臓cyclic AMPの変化を算出することで薬剤効果を評価でき、また腎予後のバイオマーカーになるのではないかと現在検討いたしております。その成果は、日本腎臓学会総会やアメリカ腎臓学会学術総会などにて報告しています。

ネフローゼ症候群の新規治療法の検討

成人期発症のネフローゼ症候群(頻回再発型あるいはステロイド依存性)患者に対するIDEC-C2B8の有効性及び安全性を確認する臨床第III相試験

ネフローゼ症候群とは、腎臓の糸球体において尿にタンパクがたくさん出てしまうために、血液中のタンパクが減り(低タンパク血症)、その結果むくみ(浮腫)がおこる病気です。むくみは低タンパク血症が起こるために血管の中の水分が減って血管の外に水分と塩分が増えるために起こります。この病気の患者さんでは低タンパク血症、浮腫の他、腎不全、脂質異常症、血液凝固異常(血栓傾向)などの症状がみられます。
ネフローゼ症候群のうち、ステロイド薬による治療では寛解を維持できず、短期間に再発を繰り返したり、またステロイド薬を減量・中止する過程で再発してしまうタイプの病態を頻回再発型あるいはステロイド依存性ネフローゼ症候群といいます。
この治験は、成人期に発症した頻回再発型あるいはステロイド依存性ネフローゼ症候群の患者さんにステロイド薬やその他の免疫抑制薬で尿蛋白をある程度抑えることができている状態で治験薬(IDEC-C2B8)を使用していただき、治験薬群とプラセボ群を比べて再発を抑える効果を比較すること、および安全性を確認することを目的としています。(研究期間:2020年11月12日~2024年8月31日)

成人期発症のネフローゼ症候群(頻回再発型あるいはステロイド依存性)患者に対するIDEC-C2B8の有効性及び安全性を確認する臨床第III相試験に参加された患者様へ

ネフローゼ症候群が再発せずに治験が終了した患者さんを対象として、リツキシマブ治療後の患者さんの状態を長期間追跡し、長期有効性および安全性を確認しています。(追跡期間︓2025年3月31日まで)

基礎的研究

腎疾患の病態における酸化ストレス、小胞体ストレスの役割解明

高血圧あるいは糖尿病における腎障害機構の解明と新規治療法の開発を目指しています。特にこれらの病態における腎での小胞体ストレス、酸化ストレスの役割に注目しながら、モデル動物や各腎臓の培養細胞で検討を行っています。
例えば近年我々は高血圧性腎障害について、高血圧性糸球体損傷における酸化ストレスとトロンボキサンA2との多様な関連性について解明しています。その成果として、高血圧性糸球体損傷を改善するためのより良い治療標的になるのではないかと現在検討しております。その成果は、日本腎臓学会学術総会や米国腎臓学会(ASN)Kidney Weekで報告を行っています。

動脈硬化の病態における酸化ストレスを介したアンジオテンシン細胞内情報伝達系の解明

主に培養血管平滑筋細胞を用い、アンジオテンシンⅡの細胞内情報伝達系について研究を行っています。特に、NADPH oxidaseにより産生される活性酸素種依存性経路に注目し、細胞増殖、細胞遊走やインスリン抵抗性への影響を明らかにしています。また今後はモデル動物に対しても検討していく予定です。その成果は、日本高血圧症学会総会や日本腎臓学会学術総会・日本糖尿病学会学術総会や米国腎臓学会(ASN)Kidney Weekで報告を行っています。

腎疾患の病態におけるadipokineの細胞内シグナルの解明

Nesfatin-1(ネスファチン-1)の働きは多面的であり、血糖恒常性の維持、心血管機能の調節、抗炎症、抗アポトーシス作用などが知られている。ネスファチン-1の特定の受容体については未だ同定されていないが、オートラジオグラフィー法でネスファチン-1が腎臓に結合し、腎臓はネスファチン-1の重要な標的臓器と考えられる。
しかし腎臓の細胞内シグナル伝達についてはほとんど知られていません。現在我々はネスファチン-1の尿細管細胞に及ぼす抗酸化・抗老化効果やミトコンドリア機能における効果について検討しております。その結果としてAdipokineを用いた腎機能障害の治療法を開発すべく努めています。その成果は、日本腎臓学会学術総会、日本糖尿病学会学術総会や米国腎臓学会(ASN)Kidney Weekで報告を行っています。