近畿大学医学部 麻酔科学講座

基礎研究(橋渡し研究)
臨床に忙しい毎日でなかなか時間がないのですが、少しでも医学に貢献することや、それ以上に科学的(批判)精神や思考を養い、個人のみならず講座全体の臨床能力の向上を目的として研究を続けています。

主な研究テーマ

  1. 周術期の血小板・血液凝固に関する研究

    血小板は止血凝固系の本来の役割以外に、免疫系及び炎症系にも関与している。特に、血小板が活性化される事で血小板より放出される僅か1uM以下大のマイクロパーティクルは1967年に"Platelet Dust(血小板のゴミ)”として初めて報告されたが、最近の研究で他の血球や血管内皮細胞との相互作用により、炎症増悪病態の重要な要因となっている。心臓手術における人工心肺などの影響を中心に、周術期の各種のストレス反応が血小板機能や血液凝固能の他に炎症反応に与える機序や、新しい治療法についての臨床・基礎研究を推進しています。

  2. 周術期の病態変化に関与するsmall RNAの研究

    ヒトの30億個の塩基配列全てを解析するヒトゲノムプロジェクトは、多数の動物でも行われ、その結果遺伝子は、マウスとほぼ同じ3万種類程度しかないことが分かった。ゲノムのうち、遺伝子としてタンパク質をつくるコード領域はわずか2~3%で、大部分はタンパク質をつくらない非コード領域であった。近年、細胞内RNAの網羅的解析が行われ、ジャンクDNAとされていた領域からも大量のRNAが生成されていることが明らかになった。このタンパク質をコードしないRNAはノンコーディングRNAと呼ばれ、高等生物の複雑性の秘密を握る鍵とされている。その中でも、21-24塩基程度のmicroRNAが、細胞増殖・アポトーシス・代謝等、深く関与することが報告されている。1つのmicroRNAが複数の遺伝子の発現に関与していることから、今まで1つのタンパク質の発現変化で説明が出来なかったCommon Diseaseの病態解明、バイオマーカー、治療薬としてmicroRNAの解析は期待でき、我々は周術期に発生する種々の病態に注目している。

  3. 心エコーによるVFM( Vector Flow Mapping)による心臓血管外科手術前後の心腔内血流とenergy loss(エネルギー損失)の評価

    VFM( Vector Flow Mapping) は新しいmodality(画像診断技術)で、通常行われる経食道心エコーや経胸壁心エコーで施行可能であり、未だ解明されていない心腔内血流や渦流やenergy loss(エネルギー損失)を評価する事が出来る。これらの評価により、心臓血管外科手術の適応や手術手技の適否の概念を変えることができる研究テーマを推進しています。

  4. 心肺停止・蘇生モデルにおけるtotal brain protectionの確立と高血糖の影響

    臨床での全脳虚血モデルに近いラット心肺停止モデルを用いて、急性脳虚血における脳の障害増悪に高血糖状態がどのように関わっているかまた、脳障害に対して有効な薬剤がないかと調べています。

  5. 脳白質傷害を主体とする慢性脳低灌流モデルを用いた周術期脳機能障害の解明