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肝疾患の基礎知識

 

ウイルスとは?
肝炎とは?
ウイルス性肝炎とは?
A型肝炎
E型肝炎
B型肝炎
⊢ 母子感染
⊢ 成人後の初感染
⊢ B型肝炎予防の為に
C型肝炎
⊢ C型肝炎の治療
肝臓は沈黙の臓器

  • ウイルスとは?
    〜単独では増殖できない〜

    私たちの体はいろんな種類の細胞から成り立っています。どの細胞にもDNA(デオキシリボ核酸)という情報が入っています。この情報をもとに、RNA(リボ核酸)が写し取られ、その指令に基づいてタンパク質がつくられて、私たちの体の部品になったり、離れた細胞に信号を伝える物質となったりします。
    ウイルスという病原体は、DNAまたはRNAとそれを包むカプセルからなり、ウイルス単独では増殖することはできません。しかしながら、ウイルスは人の正常な細胞に入り込んで、細胞の中の仕組み(DNAからRNAやタンパクを合成)を流用したり、いろんな材料(アミノ酸やエネルギーなど)や道具(酵素など)を勝手に借りたり盗んだりして、どんどんと自己増殖します。増殖後は細胞の外に出て他の細胞に入ったり、血液や体液を介して体外に出てさらに他の人に感染したりします。
    そういった生活環を繰り返して生き延びるのがウイルスです。
  • 肝炎とは?
    〜肝臓の細胞が壊れてしまう状態〜

    肝炎とは、肝臓の細胞が何らかの原因で壊れてしまう(炎症)ことです。原因としては、ウイルスであったり、アルコールの取りすぎであったりします。時に、本来、細菌やウイルスをやっつけるための免疫というシステムが暴走して、肝臓の細胞が壊れることもあります(これを自己免疫性肝炎といいます)。
  • ウイルス性肝炎とは
    〜急性肝炎と慢性肝炎〜

    ウイルス性肝炎は、ウイルスが肝臓の細胞に入りこんで、防御システムである免疫が、ウイルスをやっつけようとして、肝臓の細胞が壊れてしまう状況です。
    肝炎には、急に肝炎がおこる急性肝炎と、6ヶ月以上肝炎状態が持続する慢性肝炎とがあります。急性肝炎の主な原因は、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、EBウイルスやサイトメガロウイルスなどがあります。私達の多くが、小児期の知らないうちにEBウイルスやサイトメガロウイルスに感染しており、軽症の急性肝炎になっていた可能性があります。その時は風邪のような症状だけで診断されていないことがほとんどです。
    急性肝炎は自然治癒することもありますが、ウイルスの種類によっては慢性化したり、劇症肝炎または急性肝不全という命に関わる重篤な状況になったりすることがありますので、厳重に経過をみていくことが大切です。
  • A型肝炎
    〜流行域に行く前にはワクチンを〜

    A型肝炎ウイルス(HAV、RNAウイルス)に感染して発症する肝炎です。東南アジア、南アメリカ、南アフリカなどの流行域において、汚染された水や食物の摂取をすることで発症します。潜伏期間は2〜7週間で、流行域の旅行から帰国後に発症することがあり、輸入感染症の一つとされています。国内では、牡蠣などの魚介類の摂食が原因となり得ます。
    A型肝炎が重症化することは稀で、点滴などの対症療法で経過をみれば自然に改善します。予防効果の高いワクチンがありますので、流行域への渡航前にはワクチン接種を受けることをおすすめいたします。
  • E型肝炎
    〜猪・鹿・豚の生肉に気をつけて!〜

    E型肝炎ウイルス(HEV、RNAウイルス)の感染によっておこる肝炎で、急性肝炎のみで、免疫抑制下などの特殊な状況でない限り慢性化することはありません。流行域はA型肝炎と共通しており、流行域の汚染された水や食物が感染源となります。海外渡航歴のない場合も感染することがあり、猪、鹿、豚の生肉(特にレバー)が感染源となり得ます。しかし感染源が特定できないことも多いのが実情です。
    特異的な治療薬はなく、予防のためのワクチンもありません。流行域への渡航の際は十分な注意が必要ですし、国内においても豚肉、猪肉、鹿肉の生肉には素手で触れない、あるいは鍋での生肉の取り箸と食べるお箸を分けるようにするなどの感染予防対策が必要です。
  • B型肝炎

    B型肝炎ウイルス(HBV、DNAウイルス)の感染によっておこる肝炎です。
    急性肝炎だけではなく、肝炎が持続し、慢性肝炎となることもあります。感染する時期によって経過が大きく異なります。
  • B型肝炎
    〜母子感染の場合〜

    出産時に母子感染した場合、幼少期には、B型肝炎ウイルスが肝臓の細胞に感染しているけれども免疫が肝臓の細胞を攻撃しない状態となり(免疫寛容)、肝炎がおこらない、健常キャリアーという状態になります。
    成人になってから免疫細胞がウイルスを外敵と認識するようになり、まさに免疫とウイルスの戦いが始まり、何度か急性肝炎(急性増悪)をおこします。多くの場合は免疫がウイルスに勝利し、ウイルス量が低下し肝炎もおこらない、非活動キャリアーという状態になります。
    しかしながら、この戦いが激しすぎると、肝不全になることがありますし、肝不全に至らないまでも、この戦いが長期化することがあります。
    これを慢性肝炎といい、数十年かけて肝臓がだんだん固くなり、肝硬変に至ります。ウイルス量が多い、あるいは、炎症の期間が長いとそれだけ肝臓の細胞が癌化するリスクが高まります。
    年齢、ウイルス量、肝炎の程度、肝臓の硬さなどを総合的に判断して核酸アナログ製剤という内服薬での治療を検討します。核酸アナログの薬の値段は高いのですが、肝炎治療医療費助成制度によりひと月あたり、所得額により1〜2万円に抑えることができます。
  • B型肝炎
    〜成人になってからの初感染の場合〜

    成人になってから初めてウイルスに感染した場合は、一過性の急性肝炎になり、治癒することが多いとされてきました。しかしながら一部は重症化して肝不全に到ることがありますし、慢性化しやすいタイプ(ゲノタイプA型)のB型肝炎ウイルスもあり、注意が必要です。
  • B型肝炎の予防の為に

    B型肝炎の患者さんの血液にはB型肝炎ウイルスが含まれています。B型肝炎以外にも血液を介して感染する病原体は複数ありますので、B型肝炎の有無にかかわらず血液に直接手を触れることは避けなければなりません。B型肝炎の患者さんと同居のご家族には感染予防のためにB型肝炎ワクチンをお勧めします。特に、性行為にて感染する確率は高く、パートナーの方へのワクチン接種は必須です。
    また、医療従事者や救急隊員、警察官など血液に被曝する恐れのある職種においてもB型肝炎ワクチン投与を行います。2016年からはB型肝炎ワクチンは定期接種化され、生まれてきた全ての赤ちゃんに予防接種をすることになりました。約20年後以降にはほぼすべての新成人がB型肝炎に対して抗体を持っていることになり、B型急性肝炎が激減することが期待されます。
  • C型肝炎
    〜長年非A非B型とされていた肝炎〜

    C型肝炎ウイルス(HCV、RNAウイルス)が感染しておこる肝炎です。
    1989年にウイルスが発見され、高感度に診断ができるようになったのが、1994年ごろですので、それ以前に非A非B肝炎とされていた肝炎の多くがC型肝炎だったと考えられています。
    感染経路としては1994年以前の輸血や血液製剤、集団予防接種などでの針の使い回し、非滅菌の鍼を用いた鍼治療などが考えられていますが、感染経路が不明のことも多いです。
    HCVに感染しますと、まず急性肝炎を発症し、症状としては倦怠感や黄疸が出てきます。その後、4人に1人くらいは自然に治癒するのですが、半数以上の方が慢性肝炎に移行します。数十年にわたり肝炎が持続する結果、肝硬変に至ります。肝硬変になると、食道や胃に血管の瘤ができたり、手がふるえたり、ひどい場合は意識を正常に保てなくなったりします。そして何よりもこわいのは、肝臓に癌ができやすくなることです。
    そのようなことになってしまう前にC型肝炎の治療をはじめることが大切です。適切な治療で、肝炎が治れば、肝硬変への進行や発癌を予防することができます。
  • C型肝炎の治療
    〜インターフェロンフリー治療〜

    1990年代にはインターフェロン治療、2000年代になりリバビリンやペグインターフェロンという製剤が使えるようになり、治療成績は次第によくなってきました。
    しかしながらインターフェロンには発熱、倦怠感、うつ症状のほか、血小板減少や白血球減少などの副作用が強く、治療を断念せざるを得ないことが多いのが実情でした。
    しかし、2014年以降はインターフェロンを用いずにC型肝炎治療(インターフェロンフリー治療)ができるようになりました。当初の治療成績(ウイルスが完全消失する確率)は80%台でしたが、その後治療成績は向上し、2020年現在では8〜12週間(再治療の場合12〜24週間)の治療期間で100%に近い治療成績となっています。
    治療薬はとても高く、薬価は数百万円もしますが、肝炎治療医療費助成制度によりひと月あたり、所得額により1〜2万円と、自己負担額を大幅に軽減することができます。多額の公費が投入されているということは、それだけの価値のある治療ということです。
  • 肝臓は沈黙の臓器
    〜肝炎検診を受けましょう〜

    肝臓は沈黙の臓器といわれ、慢性肝炎では自覚症状がないことがほとんどです。しかし慢性肝炎の間にも肝臓は次第に硬くなり、気づかない間に肝硬変や肝臓癌に至ってしまいます。
    肝炎検査を受けたことのない人は是非肝炎検査を受けていただき、万が一陽性であれば、自覚症状がなくとも精密検査を受けましょう。
    上で述べましたように、治療成績はよく、公費助成制度も充実しています。薬の副作用もほとんどありません。
    すべての人々が肝炎を正しく理解し、症状の有無にかかわらず早期診断早期治療を受けてくださることを願ってやみません。
B型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス薬は、血中と肝臓の細胞内のウイルス量を減少させる効果がありますが、ウイルスを完全に排除することは出来ません。そのため、ウイルス量を減少させて肝炎を鎮静化させ、肝硬変や肝がんの発生を防ぐことが治療の目的となります。
B型肝炎ウイルス量を減少させるための治療法としては、インターフェロンという注射薬による治療や、核酸アナログ製剤という飲み薬の治療がありますが、どちらの治療を行うかは患者さんの年齢や生活習慣によって変わってきますが、B型肝炎に対する治療は専門性の高い治療となりますので、肝臓専門医と相談して、患者さんに合った治療を受けることが大切です。
従来、C型肝炎に対する治療薬としてインターフェロンという注射薬が用いられてきましたが、有効性、安全性などの問題から、ほぼ用いられなくなりました。現在では直接作用型抗ウイルス薬(DAA)という飲み薬のみの治療法が登場し、従来のインターフェロンによる治療では十分な効果が得られなかった患者さんや、インターフェロンが使えなかった患者さんでも治療することが可能となりました。この直接作用型抗ウイルス薬(DAA)は、高齢者や他の病気がある方でも治療することができ、肝臓の状態や過去の治療歴、年齢や基礎疾患に合わせてお薬を選べるようになっています。ただC型肝炎の治療は専門性の高い治療となりますので、肝臓専門医と相談して、患者さんに合った治療を受けることが大切です。