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難治性高血圧症の治療

良好な血圧コントロールを実現

難治性高血圧とは?

 高血圧は多く見られる疾患で、日本の高血圧人口は約4300万人と推測されています(50歳以上の約半数は高血圧)。治療は、まず減塩や適度な運動など生活習慣の改善を提案していますが、患者さんの多くはそれに加えて薬物治療が必要となります。患者さんの中には「一度、高血圧の薬を飲み始めると、一生飲み続けなければいけないので飲みたくない」と思っている方がいますが、全くの誤解です。降圧薬で早く血圧を下げ「高血圧が体に根付く前に」生活習慣を改善することで、自然に血圧が低下し降圧薬を中止できる方が少なくありません。逆に、「高血圧が体に根付いてしまってから」、または重症化してからでは、降圧薬を中止するのは困難になります。現在では多彩な優れた降圧薬があり、高血圧治療は容易になってきています。
 しかし、十分な血圧コントロールができない患者さんも多くいます。特に、生活習慣の改善を行ったうえで利尿剤を含む適切な用量の3剤の降圧薬を投与しても、目標値まで血圧が下がらない状態を難治性高血圧または治療抵抗性高血圧と呼び、こうした患者さんが高血圧患者の約15%を占めていると考えられています。難治性高血圧の中には手術が必要な疾患が潜在している可能性もあり、確かな診断が必要です。

難治性高血圧の原因と対策

 難治性高血圧の原因には、血圧測定上の問題(医療機関での緊張性血圧上昇を含む)、服薬の問題(飲み忘れなど)、生活習慣の問題(食塩過剰摂取・肥満・ストレス・飲酒過多、または血圧を上昇させたり降圧薬の作用を減弱するような薬物や食品の摂取など)、降圧薬の問題(種類、用量や組み合わせなど)に加えて、二次性高血圧の可能性が挙げられます。
 まず、正しい血圧測定が行われているか確認することが重要です。病院などの医療機関では緊張して血圧が上昇することがあるため、家庭での血圧値も参考にします。その際、手首や指で測定するタイプの血圧計は不正確になりやすく、血圧は必ず上腕で測定します。また、上腕径に比べて小さいサイズのマンシェットを使用すると、測定値は実際より高値を示すので注意が必要です。正しく測定できていれば、家庭血圧値が正常ならそれ以上の降圧は不要です。
 高血圧は自覚症状がほとんどないため、薬の飲み忘れが多いようです。飲み忘れが多くて血圧コントロールができない場合は、主治医の先生と飲み忘れない工夫を相談しましょう。
 血圧を上昇させてしまう生活習慣を是正することで、難治性高血圧を改善することができます。評価項目として、摂取食塩量・肥満度・飲酒量などが挙げられます。食塩の過剰摂取は血圧を上昇させるだけでなく、多くの降圧薬の作用を減弱させるため、難治性高血圧の治療では減塩の徹底が極めて重要になります。肥満で増加する内臓脂肪からは血圧を上昇させるホルモン(アンジオテンシノーゲンやレプチンなど)が産生されることが知られており、10kgの体重減少によって収縮期/拡張期血圧が平均7.0/5.0mmHg減少するとの報告があります。また、アルコールの過剰摂取も神経の興奮度(中枢性交感神経活性)を高め血圧を上昇させるため、節酒によって血圧が低下する患者さんも少なくないようです。
 解熱鎮痛薬や経口避妊薬、漢方薬などには血圧を上昇させるものや降圧薬の作用を減弱させるものが多数あり、注意が必要です。血圧を上昇させる甘草などは多くの市販漢方薬に加えて加工食品にも含まれているため、高血圧治療に難渋する場合には併用薬や食習慣の見直しが必要になることもあります。
 また、高血圧の薬は1日1回、朝に内服するのが基本です。患者さんによっては夕方や就寝前に内服する方が良く効く場合や、何度かに分けて内服する方が効果的なこともあり、降圧薬の種類とともに飲み方の見直しも必要です。
 以上の項目を除外もしくは是正しても、なお難治性高血圧が持続する場合には、二次性高血圧の可能性を検討する必要があります。

表1 難治性高血圧の対策

二次性高血圧とは?

 高血圧患者の約10%には高血圧をきたす原因疾患が潜在しており、このような高血圧を二次性高血圧と呼びます(図)。主な二次性高血圧を示します(表2)。二次性高血圧の頻度は決して高くありません(4000万人の10%なら400万人の患者さんがいる計算になります)が、原因によっては、それを根治させることで高血圧の完全治癒につながり、また高血圧だけを治療していても原疾患の進行を抑制できないため、的確な診断と治療が必要となります。一方、二次性高血圧が否定された高血圧患者は本態性高血圧と診断され、治療としては「血圧を低下させれば良い」ということになります。
 どのようなときに二次性高血圧が疑われるのでしょうか。まず、発症や経過が通常の本態性高血圧としては典型的でない場合です。一般に、本態性高血圧では家族歴が濃厚で、血圧は20歳代からやや高めで、30歳代、40歳代と段々と高くなっていくのが普通です。従って、若いときに発症する重症の高血圧(家族歴がない場合は、特に疑わしい)や、逆に60歳を過ぎてから高血圧が発症してくる場合は二次性高血圧の可能性が高いと考えられます。数週間以内に急激に血圧が上昇してくる場合にも必ず重大な原因があると考えて、診断する必要があります。
 また、加齢とともに動脈が硬くなって収縮期血圧(いわゆる上の血圧)は上昇しやすくなり、拡張期血圧(いわゆる下の血圧)は徐々に低下するのが一般的です。従って、高齢者で拡張期血圧が高い場合にも二次性高血圧を疑う必要があります。そのほか、通常の降圧薬は内服開始後1~2週間かけて少しずつ血圧を低下させますので、処方された降圧薬が全く効かない場合や、逆に著効する(内服開始した翌日には血圧が下がるなど)場合にも二次性高血圧が疑われます。二次性高血圧を疑う所見を示します(表3)。この中で何か思い当たることがあれば、主治医に相談してください。
 二次性高血圧の原因疾患の中で、腎血管性高血圧症は、血管炎や動脈硬化によって腎動脈に狭窄(きょうさく)が生じ、腎血流量が減少することで腎臓からのホルモン分泌に異常が生じて血圧が上昇する疾患です。根治にはカテーテル治療などによる腎動脈拡張が必要になります。原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫は主に副腎に腫瘍ができて、昇圧ホルモンの産生量が増加して血圧が上昇します。根治には手術による腫瘍摘出が必要になりますが、当院は泌尿器科による低侵襲腹腔鏡(ふくくうきょう)下手術が可能ですので、数日間の入院で根治が期待できます。
 家庭血圧測定で早朝高血圧がある場合には、必ずしも肥満はなくとも、睡眠時無呼吸症候群を疑う必要があります。睡眠中の呼吸停止の有無やいびきの程度、日常生活に支障があるような日中の強い眠気の有無を確認した上で、まずは(自宅で可能な)簡易検査を行い、次に医療機関の検査を行うことになります。
 当科には2人の日本高血圧学会認定の高血圧専門医/指導医が在籍し、毎年30例以上の難治性高血圧症例が紹介受診されていますが、ほぼ全例で確定診断がついて良好な血圧コントロールが得られるようになっています(このうち約10例がカテーテル治療や手術の適応)。

  • 図 高血圧の種類
  • 表2 主な二次性高血圧

表3 二次性高血圧を疑うとき

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