インフォームドコンセント

出血した脳動静脈奇形という病気の病態と治療について

脳動静脈奇形の患者さん、家族の皆様へ

はじめに 脳動静脈奇形と言う病気について

正常な血管は、太い動脈から細い動脈・更に細い毛細血管を経て静脈へとつながっていきます。ところが脳動静脈奇形という病気では、脳の中で異常な動脈と静脈が、ナイダスという袋(この大きさは、個人によって様々です。また大きさによって、治療方針に影響を与えます)を介して直接つながっている状態、つまり短絡を起こしています。胎児(胎生約3週)の時期に血管は動脈、毛細管、静脈に分かれますが、この時期に何らかの事情で異常が生じたと考えられます(一般的には遺伝するものではありません)。動脈と静脈が直接つながっているため動静脈奇形の部分では血液が異常に多く流れ、そのため周囲の脳には血液の流れが少なくなります(痙攣を起こす原因、手術後の脳内出血の原因)。また正常の血管に比べて奇形の血管壁は弱く、破れやすいので脳出血やくも膜下出血を生じ、そのために死亡したり、重い後遺症を生じることがあります。脳出血・くも膜下出血が発症して入院された方は、出血した部位や大きさによりその症状が出現します。ほとんど症状のない軽度のものから重度の神経障害(意識障害、視野・視力障害、失語症、空間失認などの高次機能障害、脳幹障害による複視・顔面神経麻痺・嚥下困難・呼吸中枢障害による呼吸停止、片麻痺、四肢麻痺などの運動機能障害、異常感覚や感覚低下などの感覚障害など)、死亡したりすることもあります。出血を起こさなくてもてんかん発作や痴呆症状を来したりすることもあり、あるいは偶然に見つかることもあります。

今後の問題について

今回、残念なことに脳動静脈奇形が破れて、頭蓋内出血を生じました。幸いにして現時点で出血は止まっています。しかし今後再び出血を生じる可能性があります。統計によれば脳動静脈奇形を治療せず放置すれば、初回出血後1〜2年間の再出血率は6〜33%と報告されており、その後毎年2〜4%の確率で頭蓋内出血を生じると報告されています。年間の死亡率は1%、障害を残す率は2.7%と報告されています。具体的に脳動静脈奇形がいつ再出血するか否かの予測は現在の医学水準では不可能です(平均7.7年後)。しかし、10年、20年という単位で考えると脳動静脈奇形が出血する率は約10数%、元の社会生活を営める人は約60〜70%と考えられています。なお、この度受けていただいた脳血管撮影やMRI検査の結果から、脳動静脈奇形から再出血する可能性があると考えられます。 出血する危険因子は、高い圧の流入動脈、脳動静脈奇形内の動脈瘤の存在、流出静脈の数や場所や状態、脳動静脈奇形自身の大きさや場所によって判断されます。したがって、個人差が存在します。

我々の計画している治療法について

最初の治療の目的は、頭蓋内出血(くも膜下出血・脳内出血)で、緊急来院された患者さんには、救命のための処置が必要になります。脳内出血の血腫による切迫した脳ヘルニアの方は、開頭血腫除去術が必要ですし、脳圧が亢進している場合は、脳室ドレナージ術などが必要となります。このように全身状態を安定させた上で、再出血を防止し、神経障害の出現や神経障害の悪化や重篤な状態となることを予防することです。これまで患者さんの脳血管撮影、MRI、CTなどの検査をし、様々な角度より患者さんの治療法を検討しました。その結果、脳血管内治療(脳動静脈奇形に対する塞栓術;奇形血管を鋳型状に詰める物を注入することにより病巣を小さくしたり、可能なら奇形全体を塞栓する)を取り入れた方法が良いと我々は考えています。以下に脳血管内治療を取り入れた方法を示します。患者さんの状況によって異なってきます。

○ 開頭による脳動静脈奇形の摘出を安全に・容易にするために行う。
外科的摘出術と脳血管内治療の組み合わせ。
○ ガンマナイフ治療に先だって行う。
ガンマナイフ治療の大きさには不向きであるが、脳血管内治療により脳動静脈奇形を小さくしてから行う、ガンマナイフと脳血管内治療の組み合わせ。
○脳血管内治療のみで根治しうる可能性が極めて高い。
このようなケースは極めてまれで、脳動静脈奇形の患者さんの10%未満です。
○開頭による脳動静脈奇形の摘出が極めて困難な部位にあるため、あるいはガンマナイフが不可能な部位にあるため、脳動静脈奇形を小さくすることで、少しでも危険を減らそうとする姑息的な方法。但しこれはかえって危険度が上がることもあります(血管の状況による)。
○現在の状態から開頭による脳動静脈奇形の摘出が極めて危険性が高いため、他の方法がない。

以下に脳血管内治療について説明をします。

脳血管内手術について

病気の治療は、どの分野に置いてもできる限り患者さんの負担を軽減し、体に加わる侵襲を少なくするのは当然のことです。この考えから、心臓を含め全身の血管系の病気に対しては、近年従来の手術方法から血管の内よりの治療へと変わってきました。このことは、脳の血管の病気に対しても例外ではありません。

脳血管撮影装置の進歩で、一回の撮影であらゆる方向から脳動脈瘤やその他の血管の病気を観察することが可能です。また血管の中を誘導するマイクロガイドワイヤー(外径0.3mm)とマイクロカテーテル(外径0.7mmほどの細い管)、バルーンカテーテル(血管の内側より血管を広げたりできる風船付きの細い管)や金属コイル(主にプラチナ金属でできたコイル状のもので、電気を通電することにより切り離しをする)などの開発がすすみ、脳内の細かな血管にまでカテーテルを挿入して血管を拡張したり、金属コイルを動脈瘤内に運ぶこと、異常な血管の瘻孔・ナイダスを塞栓するが可能となりました。このように血管の中からカテーテルなどを使用して病変部(脳動脈瘤や血管狭窄部位や瘻孔やナイダス)に到達し、そこで種々な治療を行う事を脳血管内手術といいます。

脳血管内手術による脳動静脈奇形塞栓術について

通常は鼠径部に局所麻酔を行い、大腿動脈にシースと言われる管を留置します。血液中に抗凝固剤を投与し血管内で血液が固まらないようにした後、シースよりガイディング(誘導)カテーテルを大動脈の中を通り、目的とする血管(頸動脈、椎骨動脈など)の頭蓋外のところまで到達させます。ここで、脳動静脈奇形に流入する血管を、繰り返し造影することで見極め(安全性を向上させるために必要な操作です)、さらに小さいマイクロカテーテルを使って、脳動静脈奇形に至ります(できればナイダスのなかやナイダスの直前まで入る)。この操作中に痛みを伴うこともあります(通常鎮痛剤を使用します)。ここで脳動静脈奇形と周囲の血管との関係を完全に把握するために、マイクロカテーテルから血管撮影を繰り返します。一見、造影された血管が、病変である脳動静脈奇形に全て流入しているように見えることがあるからです。時に高い圧によって流れている場合は、正常血管が全く写ってこないこともあります。これは大事な血管を詰めることなく脳動静脈奇形だけを閉塞させるために必要な情報を得るためです。更に、細かな血管は現在の医療技術を持ってしても、造影剤によって描出されない可能性があるため、正常な脳組織への血流が、マイクロカテーテルを送り込んだ血管から先に流れていないかどうかを判定する麻酔薬による予備テスト(誘発試験)を行います。これにより塞栓が新たな神経症状を出さないであろうと判断した時のみ塞栓物質(リキッドコイル、液体塞栓物質(NBCA)など)による塞栓を行います。以上の行程を繰り返すことにより脳動静脈奇形の塞栓を完成させることになります。この手技はこれ以上塞栓する事が合併症の発生を促すと予想されるときには一時中断し、日を改めて行うこともあります(段階的塞栓術の可能性)。また次の治療(開頭術やガンマナイフ)に移ることが妥当であると判断した場合は、脳血管内治療は終了とします。一気に脳動静脈奇形の全体を塞栓することを目指した場合は、正常の血流の流れが回復することにより、今まで少ない血流でまかなってきた脳組織が、高い圧に耐えられなくなって破綻(脳内出血)する可能性が高いと思われます。

脳血管内手術後の治療について

終了後1日間は穿刺をした足を自由には動かせません。従ってベッド上で安静にして頂くことになります。アンギオシール(大腿動脈に開いた穴をフィブリンの糊で固める方法)という特別な止血機材を使用した場合は、ある程度の安静後(最初40分程度の絶対安静、その後約4時間の穿刺した足の安静)、ベット上で体を動かすことができます。何よりも大腿動脈などに大きな管(シース)が挿入されるため、安全上の問題、ご自身の負担を軽減することもあり、アンギオシールの使用をお勧めします。しかしアンギオシールは、使用できる血管状態でなければなりません。購入(約4万5千円の自己負担がかかります)して頂いて使用を試みても、結果として不完全であることが稀にあります。その場合は、医師によって止血させて頂きます。順調に経過しますと、次の治療計画があれば、それに移りたいと思います。

外科手術を受けられる方は、約2週間以内に手術を受けることになります。

ガンマナイフを受けられる方は、脳血流の安定するのを待って、場合によっては、再脳血管撮影の検査後にガンマナイフを予定するになります。脳血流が安定するまで、約2ヶ月の様子観察が必要と考えます。

いずれの場合もCT、MRI等による画像検査など、定期的に行います。

頭蓋内出血の程度によって、神経症状の出現の仕方は様々です。したがって、機能訓練が必要であると考えられる場合には、リハビリ施設への転院が望ましいと考えます。機能回復リハビリは、発症から8週間以上経過しますと転院しがたい状況となります。

脳血管内手術により予想される臨床上の利益

今回の塞栓術では、脳動静脈奇形の塞栓ができ、血流を減少させることが可能であると予想されます。これにより以下の利点が生ずると考えます。
○ 手術が容易になる
○ ガンマナイフ治療の効果が期待できる様になる
○ 出血率が低下する(塞栓された状況、血管の状況により再出血の可能性もある)

現在の症状は頭蓋内出血にて発症したものです。塞栓術が完了しても、頭蓋内出血にて障害を受けた脳の損傷は改善しません。しかし、リハビリにて機能回復を図ることは可能です。

脳血管内手術治療で起こりうる合併症について

1)手術中、手術後の脳梗塞、頭蓋内出血の可能性
正常動脈の塞栓を生じ脳梗塞の危険性があります。合併症の中でこれが最も重い合併症と考えられています。あらゆる技術を用いても動脈の閉塞が避けられない場合は、この治療法を途中であきらめ、開頭手術を含めた他の方法にゆだねる場合もあります。処置をすることで改善することもありますが、後遺症として、重篤な意識障害、視野、視力障害、失語症、空間失認などの高次機能障害、片麻痺、四肢麻痺などの運動機能障害、異常感覚や感覚低下などの感覚障害を残すこともあります。最悪の場合には生命の危険も伴います。
脳動静脈奇形は出血しやすく、治療中に破裂した場合には出血が止められなくなり急いで開頭手術をしなくてはならない可能性があります。また治療後、血液の流れが変わり虚弱な血管に負荷がかかり脳出血あるいは脳の腫れがつよくなることもあり、意識障害など重篤な合併症の可能性もあります。これを避けるために術後数日間は血圧などのコントロールを要することがあります。

2)カテーテルの破損
マイクロカテーテルを脳の非常に細い血管まで送り込むため、血管の攣縮(血管の麻痺が起こって径が縮こまること)や塞栓物質との癒着により、脳の中から抜けなくなったり、破損したりする可能性があります。このような状態になった場合は、回収する道具を用いて抜去したり、開頭にて除去したりすることを行わなければなりません。カテーテルの残存した血管は、閉塞したり、塞栓の原因となり脳梗塞を誘発するからです。脳梗塞になると重篤な神経機能障害を残す結果となります。
塞栓物質について説明しますと、脳動静脈奇形の治療に使う塞栓物質としては液体塞栓物質がよく使用され、NBCAが主流です。非常に塞栓率が高く有効であるものですが、現在薬事法上塞栓物質として許可されているものではありません。したがって、これを使用して塞栓したほうが望ましいと判断した場合には、事前に許可をいだだきます。ショック等の報告は見られませんが完全に保証されたものではありません。数十年以上の長期的な生体に対する影響が未解明です

3)塞栓物質の移動による脳静脈や肺血管の閉塞
塞栓物質であるNBCAは、血液と結合することより固まり、ナイダスという脆弱な血液の袋を閉塞させます。したがって、この物質を送り込むためには、できるだけ病変であるナイダスに近づき、注入する必要があります。手術中にうまくナイダスが固まり閉塞したように見えても、塞栓物質が移動したために、静脈側のみの閉塞となりナイダスに血液が流れ込み、圧がかかり、脳内出血を起こすことがあります。流れが悪くなると静脈性梗塞になります。肺血管まで移動すると肺梗塞となり呼吸困難が出現し、人工呼吸器を必要としたり、呼吸不全で死亡することもあります。

4) 放射線による障害の可能性
血管内手術治療はX線の透視のもとで行う方法であり、通常の血管撮影と異なり長時間の透視が必要となります。この為に放射線の被曝が多くなり、頭部の脱毛や皮膚炎、神経炎、更に希ですが眼球に及ぶと白内障、視力障害を起こすことがあると考えられています。

5)感染と皮下血腫
生体は皮膚、粘膜などに被われ外からの微生物の侵入を防いでいます。我々は無菌手術を心がけていますが、手術の際、微生物の侵入を100%ゼロにすることは現在の医学水準からは困難です。従って、必要に応じて微生物を殺す薬剤すなわち抗生物質を投与します。多くの患者さんではこうした治療により術後感染の問題は生じませんが、患者さんの抵抗力が弱かったり、抗生剤の効き目が悪かったりすると術後、皮下膿瘍、敗血症などの感染性合併症を生じる可能性があります。この手術法では、大きな管を血管に挿入するために、術中に管の横から、術後の止血法や術後の安静が保てないなどにより穿刺部に大きな皮下血腫を作ることがあります。皮下血腫を生じますと疼痛が持続したり、場合によってはその血腫を取り除く手術が必要になることもあります。アンギオシールという止血機材を使用した場合は、皮下血腫の形成を少なくしたり、術後の安静において、患者さんの負担は随分軽くなりますが、その部分に感染するという報告をあります。ただし抗生剤を使用することで、予防するが可能であると言われています。

6)薬剤、麻酔などによるショックなどの危険性
脳血管内手術では通常全身麻酔はおこないませんが、カテーテル穿刺部の局所麻酔、不安、時に頭痛を軽減するために鎮静剤、鎮痛剤等の薬剤を使用します。また血管撮影用の造影剤を使います。これらの薬剤は高い安全性が確立されていますが、人によっては使用した薬剤に対し過敏な反応性ショック、薬剤アレルギーや予想しえない副作用を生じることがあります。また状態に応じて全身麻酔が必要なことがありますが、この場合には麻酔による様々な危険性があります。

7)多臓器の合併症
糖尿病、高血圧、胃潰瘍など様々なこれまで顕在化していなかった疾患が手術を契機として発症することがあります。また患者さんがこれまで既往疾患として持っておられる病気がより重くなることもあります。

8)上記合併症以外の問題点について
この塞栓術のみで脳動静脈奇形を根治することはなかなか困難であり、開頭手術の前段階として動静脈奇形への血液流入を減少させ、そのサイズを小さくし手術をやりやすくする、あるいはガンマナイフ放射線治療のために脳動静脈奇形をより小さくしその有効性を高めるために行われることが一般的です。おしなべて塞栓術のみでの根治率は10%以下であるといわれています。
また、脳内出血による神経障害を改善するための手術ではありません。

他の治療法について

我々は全力を尽くして考えられる危険性をなくそうと努力しますが、完全に保証されるものではありません。そこで他の方法を選択することもあると思います。次に現在考えられている選択肢;脳血管内治療を行わないで、開頭手術による脳動静脈奇形の摘出、ガンマナイフ(特殊な放射線治療装置)による治療について述べます。

開頭手術による脳動静脈奇形摘出術

全身麻酔のもとに開頭し脳動静脈奇形を摘出することが最も確実な治療法であることに異論はありません。脳血管内治療をせずに最初から開頭手術を行うことも選択肢の一つです。

開頭による脳動静脈奇形摘出術の合併症について

1)手術中、手術後の頭蓋内出血と急性脳腫脹
脳動静脈奇形摘出術の際、最も問題となるのは手術中、手術後の頭蓋内出血と急性脳腫脹です。ほかの一般的な腫瘍摘出術などの開頭術に比べて脳動静脈奇形摘出術は術中、術後の頭蓋内出血発生の確率が高いと考えられています。また脳動静脈摘出後に周囲脳の急激な腫れすなわち急性脳腫脹が生じ、重大な脳損傷を起こすことがあります。脳動静脈奇形の摘出により動静脈奇形にこれまで流れていた多量の血液が周囲の脳に流れ込み脳出血や脳腫脹を来すと考えられています。

2)脳梗塞、手術による脳損傷
手術中に脳を栄養する動脈を損傷し、その結果脳梗塞を生じる可能性があります。また、脳動静脈奇形を摘出する際、いかに注意深く完全な手術をしたと思っても、現在機能している脳あるいは神経を損傷し、後遺症を生じる可能性があります。

3)感染
生体は皮膚、粘膜などに被われ外からの微生物の侵入を防いでいます。開頭手術により脳、硬膜、皮下組織などが露出されてしまいます。我々は無菌手術を心がけていますが、手術の際微生物の侵入を100%ゼロにすることは現在の医学水準からは困難です。従って、術中、術後にわたりこうした微生物を殺す薬剤すなわち抗生物質を投与します。多くの患者さんではこうした治療により術後感染の問題は生じませんが、患者さんの抵抗力が弱かったり、抗生剤の効き目が悪かったりすると術後、細菌性髄膜炎、脳膿瘍、皮下膿瘍、硬膜外膿瘍などの感染性合併症を生じる可能性があります。

4)麻酔、輸血、薬剤などによるショック、肝炎の感染の危険性
開頭手術のためには麻酔薬、抗生物質をはじめ様々な多くの薬剤を使用します。これらの薬剤は高い安全性が確立されていますが、人によっては使用した薬剤に対し過敏な反応ショック(薬剤アレルギーや予想しえない副作用を生じることがあります。手術時、皮膚切開などからの出血をできるだけ少なくすることを心がけますが、出血量が多くなると輸血をする必要があります。輸血用の血液は病院で用意します。これらの血液はすべてB型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルス、エイズウィルス、梅毒の検査がすべて陰性のものです。しかし、これらの検査は100%完全ではなく、希に輸血によりこれらの感染症にかかることがあります。

5)糖尿病、高血圧、肺気腫、胃潰瘍、パーキンソン病、内分泌疾患、精神疾患など様々なこれまで顕在化していなかった疾患が手術を契機として発症することがあります。また患者さんがこれまで既往疾患として持っておられる病気がより重くなることもあります。

6)手術時間が長くなり同じ体位をとり続けると、手術台などの器具に接触している手足、体部、胸部などに褥創を生じることがあります。また、眼球部が圧迫を受けると失明することもあります。

7)開頭する際、頭蓋骨を一部切除する可能性もあり、手術後頭蓋骨が変形し美容上問題を生じることがあります。

8)その他予想外の合併症
我々は厳重な術中、術後管理にてこうした合併症の発生を防止するよう努力しますが、残念ながら予想できない事態が起こってこうした合併症を生じることがあります。これらの合併症を生じ、最悪の場合は死亡したり、重い神経後遺症を生じる可能性もあります。

9)手術侵襲が拡大する可能性について
手術前の検査にて発見できなかった、病気(たとえば脳動脈瘤、脳腫瘍など)が偶然手術操作中に見つかった場合、その病気に対する治療を行います。
開頭による脳動静脈奇形摘出術の合併症のところで述べたように、手術中頭蓋内出血を生じ、出血が止まらないときや急性脳腫脹が強い場合、脳を切除することがあります。
1回の開頭手術にて完全な脳動静脈奇形の摘出をめざしますが、手術時脳動静脈奇形を完全に摘出したと思っても、手術後の脳血管撮影にて脳動静脈奇形が完全に摘出されていないことがあります。

ガンマナイフ(特殊な放射線治療装置)による治療

ガンマナイフによる治療は多くの脳神経外科施設にて行われています。そしてその治療効果も確認されています。現在我々の施設ではガンマナイフによる治療は行っていませんが、ガンマナイフ治療がより適切であると判断したり、特にガンマナイフを希望される患者さんには、ガンマナイフ治療が可能な施設に紹介しています。原則的にガンマナイフ治療では3日間のみの入院治療ですみます。頭部の4カ所に局所麻酔をしてボルトで寸分無く固定をし、血管撮影をした後に、放射線照射部位を確定し短時間の照射を行います。退院後は定期的に検査をして脳動静脈奇形が消失するか否かを見ることになります。

ガンマナイフ治療には次の問題点があります。

1)ガンマナイフ治療後、脳動静脈奇形が消失し出血の危険性が無くなるまでには数年(大きさによりますが約3年)の時間経過が必要と考えられています。脳動静脈奇形が消失するまでのこの期間中、再出血の可能性に代わりがないと報告されています。

2) 1回のガンマナイフ治療では脳動静脈奇形が完全に消失しない場合もあります。そのため、ガンマナイフ治療後、定期的に入院して脳血管撮影を施行する必要があります。

3)ガンマナイフは放射線治療です。従来の放射線治療法との違いはコンピューターで計算し、脳動静脈奇形部分に高い放射線量が当たるように工夫されたものです。こうした放射線被曝の面より脳動静脈奇形の大きさが3cm以下でないと効果はあまり期待できません。

4)正常の脳にもある程度の放射線を受けることになります。こうした放射線の副作用(脳の変性・機能障害)はかなり長期間後でも生じうる可能性があります。

これまで説明したように治療には様々な問題を生じることがあります。従って、こうした危険性をさけ様子を見るすなわち経過観察を希望される患者さんもあると思います。ここで再び経過観察のみを行った場合どうなるかということを述べます。統計によれば脳動静脈奇形を治療せず放置すれば、初回出血後1〜2年の再出血率は6〜33%と報告されており、その後毎年2-4%の確率で頭蓋内出血を生じると報告されています。具体的に患者さんの脳動静脈奇形がいつ破裂するかの予測は現在の医学水準では不可能です。しかし、10年、20年という単位で考えると脳動静脈奇形が出血する率は10数%、元の社会生活を営める人は約60〜70%と考えられています。またてんかん等の他の症状も合併した場合、これらの症状が進行し難治性(抗てんかん薬でなかなか押さえられない状態)になることもあります。

こうした問題もあり、脳血管内治療を取り入れた治療を行うのがよいと我々は考えています。我々のこれまでの経験からこの治療法の成功率は高いと考えています。

脳血管内治療は約5時間を予定しています。しかし手技上、あるいは患者さんの状態から手術時間が延長することもあります。

破裂した脳動静脈奇形の患者さんの場合は、脳血管内治療を組み合わせた治療法がよいと我々は考えています。しかし、患者さん、患者さんの家族の方が我々の計画している治療法を拒否され別の治療法を選択されても、拒否したことにより不利益は被りません。すなわち治療途中で退院を早めるとか、あるいは今後、診療治療を行わないなどのことは決して我々はしません。また、いったん我々の予定している治療法に同意された後でも患者さん、患者さんの家族の方がこれを拒否され別の治療法を選択されてもその理由で患者さんには不利益は被ることはありません。