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クモ膜下出血後における脳血管攣縮という病気の病態と血管内手術治療(血管拡張剤の動注療法・血管拡張術)について

クモ膜下出血後における脳血管攣縮という病気の患者さん、御家族の皆様へ

クモ膜下出血後における脳血管攣縮とは

クモ膜下出血発症後、脳の血管が縮んで血液の流れが悪くなる状態です。脳血管攣縮という現象自身は1950年代から知られていますが、今日に至るまで決定的な病態解明と根治的予防、治療手段は得られておらず、現在なおクモ膜下出血の重大な予後不良因子となっています。脳血管攣縮はくも膜下出血を起こした後、約4日目から 2〜3週間の間に生じることが多いと言われています。血管攣縮が起こる可能性は、個々の状態によって様々ですが、クモ膜下出血の出血量と相関すると言われています。つまり出血量が多いと強い血管攣縮が起こる可能性があると考えられます。一般的に脳血管攣縮の発生頻度は脳血管撮影上は約70%、虚血症状を呈するのは約30%と言われています。

脳血管攣縮が起こり、脳の血流量がある閾値より低下すると、場所により様々な症状が出現します。意識状態が悪くなったり、話すことができなくなったり、また手足の麻痺が発生したりいろいろな障害が出現する可能性があります。完全に脳梗塞に陥っておらず、可逆的な段階で脳の血流量が戻ると、症状は回復する可能性はあります。しかし、一定時間を過ぎ脳梗塞に陥ってしまうと症状は回復せず、後遺症として残ることになります。脳血管攣縮が強く脳梗塞の領域が広範囲になると、最悪の場合、命に関わることもあります。

クモ膜下出血後、脳血管攣縮の予防のために我々は様々な処置や薬剤の点滴加療を行いますが、これら保存的治療が無効で、完全に脳梗塞に陥っていない可能性があれば、以下に説明する脳血管内治療(血管拡張剤の動注や血管拡張術)を行います。

我々の計画している脳血管内手術(血管拡張剤の動注療法、血管拡張術)について

脳血管撮影装置やカテーテルなどの器具の開発、進歩により、脳内の細かな血管にまでカテーテルを挿入して血管を拡張したり、薬剤を投与することが可能となりました。このように血管の中からカテーテルなどを使用して病変部に到達し、そこで種々な治療を行う事を脳血管内手術といいます。

血管拡張剤の動注療法、血管拡張術の方法

通常は、右鼠頸部に局所麻酔をし、右大腿動脈を穿刺します。血液中に抗凝固剤を投与し血管内で血液が固まらないようにした後、やや太いカテーテルを大動脈の中を通り、目的に応じた頸動脈ないし椎骨動脈に留置します。この太いカテーテルの中をさらに細いマイクロカテーテルや風船テーテルが通り脳内の目的の血管に至ります。ここで攣縮している血管の状況に応じた処置(血管拡張剤の動注や血管拡張術)を行います。血管拡張剤の動注とは、脳血管攣縮を起こしている脳の血管まで細いカテーテルを入れて、血管を拡張させる薬剤を投与し、攣縮している血管を拡張させる治療法です。血管拡張術とは、血管攣縮を起こして狭くなった脳の血管を風船カテーテルを用いて拡げる治療法です。

これら血管拡張剤の動注や血管拡張術によって脳の血流量を増加させることにより、脳梗塞が完成するのを阻止したり、脳梗塞の進展を予防あるいは脳梗塞を最小限にとどめることが期待できます。しかし、これらの治療の有効率は50%〜70%と言われており、すべての患者さんに血管攣縮の改善や症状の改善といった効果が期待できるわけではありません。すなわち、治療が奏効せず強い血管攣縮の結果、最終的に脳梗塞になることは十分にあり得ます。また一時的に症状の改善を得ても、再び症状が出現することがあり、その際は再度、状況に応じて血管内手術が必要になることがあります。この血管拡張剤の動注や血管拡張術に伴う合併症の発生率は皆無ではなく、合併症の起こる危険性は一般的には約5%と言われています。

脳血管内手術治療で起こりうる合併症について

1)血管壁の解離や損傷、頭蓋内出血や脳梗塞の可能性
カテ-テルを上げていく時や血管をバルーンで拡張させる際に血管壁が損傷され、血管壁の解離や穿孔、破裂などが起こることがあります。これはいくら慎重に操作をしていても、起こることがあり、解離や損傷された血管壁の部位で血栓が形成され、最終的に閉塞したり、末梢の方に飛んで脳梗塞を起こすことがあります。 また血管壁の穿孔や破裂が起こると、脳内出血やクモ膜下出血を合併し致命的となることがあります。血管解離が発症した場合は、頭蓋内にステントを留置することがあります。これは保険適応外となっており、また血管解離が起こらなくても、ステントを留置した方が良いときもあります。

脳血管攣縮により一旦脳梗塞に陥った部分があると、そこに血管拡張剤の動注や拡張術で血流を増加させることにより逆に脳内出血を合併することがあります。脳内出血が起こった場合には症状の悪化を来たし、意識障害の出現・悪化、神経脱落症状、更に生命の危険性もあります。脳内出血の程度により緊急で開頭手術が避けられない場合もあります。

手技中、カテ-テルは動脈の内腔を進んでいきますが、そのとき動脈の壁をこすることにより壁に沈着しているコレステロ-ルや内皮が剥がれたり、血液の塊が脳の血管をつめる結果、脳梗塞になる可能性があります。一般的に高齢者、動脈硬化の強い患者さんはそうでない人に比べ危険性は高くなります。我々は、手技中に薬剤によって血液が固まりにくくなるようにしていますが、それにもかかわらず梗塞をおこすと場所によっては意識障害や手足の麻痺など重篤な神経症状を残したり、最悪の場合は生命にかかわる可能性もあります。

2)放射線による障害の可能性
血管内手術治療はX線の透視のもとで行う方法であり、通常の血管撮影と異なり長時間の透視が必要となります。このために放射線の被曝が多くなり、頭部の脱毛や皮膚炎、神経炎、さらに希ですが、眼球に及ぶと白内障、視力障害を起こすことがあると考えられています。

3)感染、皮下血腫
生体は皮膚、粘膜などに被われ、外からの微生物の侵入を防いでいます。我々は無菌手術を心がけていますが、手術の際、微生物の侵入を100%ゼロにすることは現在の医学水準からは困難です。したがって感染が起こったと考えられた場合には、こうした微生物を殺す薬剤すなわち抗生物質を投与します。多くの患者さんでは、術後感染の問題は生じませんが、患者さんの抵抗力が弱かったり、抗生剤の効き目が悪かったりすると、皮下膿瘍、敗血症などの感染性合併症を生じる可能性があります。

この手術法では、大きな管を血管に挿入するために、術中に管の横から、術後の止血法や術後の安静が保てないなどにより穿刺部に大きな皮下血腫を作ることがあります。皮下血腫を生じますと疼痛が持続したり、場合によっては血圧が低下したり、その血腫を取り除く手術が必要になることがあります。アンギオシールという止血機材を使用した場合は、皮下血腫の形成を少なくしたり、術後の安静において、患者さんの負担は随分軽くなりますが、その部分に感染するという報告があります。

4)コレステリン塞栓症
大動脈内に存在する粥状硬化巣がカテーテル操作や血液が固まりにくくなる薬剤の投与などにより、崩壊、流出し、粥腫内の微細なコレステロール結晶が全身臓器に塞栓を起こすことがあります。塞栓が起こった場所により症状は多彩ですが、腎機能障害や足の血流障害によるチアノーゼや壊死などが起こりえます。最悪の場合、全身臓器にコレステリン塞栓症がおこると多臓器不全となり、命に関わることもあります。

5)薬剤、麻酔などによるショックなどの危険性
脳血管内手術では通常全身麻酔は行いませんが、カテーテル穿刺部の局所麻酔、不安、ときには頭痛を軽減するために鎮静剤、鎮痛剤等の薬剤を使用します。また血管撮影用の造影剤を使います。これらの薬剤は高い安全性が確立されていますが、人によっては使用した薬剤に対し過敏な反応性ショック、薬剤アレルギーや予想しえない副作用を生じることがあります。また状態に応じて全身麻酔が必要なことがありますが、この場合には麻酔による様々な危険性があります。

6)多臓器の合併症
糖尿病、高血圧、胃潰瘍など様々なこれまで顕在化していなかった疾患が手術を契機として発症することがあります。また患者さんがこれまで既往疾患として持っておられる病気がより重くなることもあります。

現在、脳血管内治療による治療がよいと我々は考えています。しかし、患者さん、患者さんの家族の方が、我々の計画している治療法を拒否され、別の治療法を選択されても、拒否したことにより不利益は被りません。別の治療法にて、全力で加療を行います。また、いったん我々の予定している治療法に同意された後でも、患者さん、患者さんの家族の方が、これを拒否され別の治療法を選択されてもその理由で、患者さんには不利益は被ることはありません。