医療関係者へ

機能的脳神経外科疾患

痙縮・難治性疼痛けいしゅく・なんじせいとうつう

機能的疾患(対象疾患)

 当科では、パーキンソン病、本態性振戦、ジストニア、痙縮、などの運動障害の治療や神経障害性疼痛などの難治性疼痛に対する治療を行っています。

痙縮(けいしゅく)

 脳卒中や頭部外傷・脊髄損傷・脳性麻痺など、様々な中枢神経(脳や脊髄)障害の後遺症の一つに痙縮があります。
 痙縮とは、麻痺が生じた手足の筋肉が徐々に硬くなり、手指が握ったままとなり開きにくい、ひじが曲がる、足先が足の裏側のほうに曲がってしまう(尖足)、動かそうとすると勝手に手足が震えてしまう(クローヌス)などの症状です。
 この様な状態が続くと、関節が固まってしまったり、締め付け感や運動時の痛みなどを起こし、睡眠障害や日常生活動作に支障をきたしたりすることがあります。
 痙縮に対する治療は、一般的には、内服治療やリハビリテーションが行われますが、注射や外科的治療により緩和させることもできます。

痙縮に対する治療

 痙縮に対する治療には、一般的にはリハビリテーション治療や内服治療がありますが、痙縮を緩和させる治療法として、ITB(髄腔内バクロフェン投与療法)、ボツリヌス療法・末梢神経縮小術などがあります。
 ITB療法は、筋肉を柔らかくする薬(バクロフェン)を、からだに植込んだポンプからカテーテルと呼ばれる管を通じて脳脊髄液の中に送り込む治療法です。ポンプ植込み手術を行う前にバクロフェンを脊髄腔内に注射して、「このお薬が患者さんに効果があるかどうか」の判定テスト(スクリーニングテスト:数日間の入院)を行います。この薬剤の効果を実際に体感して頂いてから、効果の認められた場合に体内にポンプを植込みます(手術後のリハビリテーションも含めて約1ヵ月程度の入院)。手や足の一部など、ごく狭い範囲の痙縮であれば、ボツリヌス療法を選択し、この治療は3-4ヵ月毎に外来で筋肉注射を行います。そのほかに、末梢神経縮小術なども提案させて頂くこともできます。

ITB(髄腔内バクロフェン投与療法)

 ITB療法とは、バクロフェン(商品名:ギャバロン髄注)というお薬を、作用部位である脊髄の周囲へお腹の皮下に埋め込んだポンプからカテーテルを通じて直接投与することにより、痙縮をやわらげる治療です。 この治療では、患者さんの状態に応じてお薬の量を増減することにより、痙縮をコントロールすることができます。痙縮をやわらげることで、日常生活の活動の幅を広げたり、生活を豊かにすることを目的としています。

バクロフェンの作用

 筋肉を動かす際には、動かすだけでなく、余計な動きをさせないように指令する物質(GABAという抑制性の神経伝達物質)が脊髄で働き、スムーズな動きができます。痙縮のある患者さんでは、そのバランスが崩れ、筋肉が過度に緊張したり、余計な筋肉が緊張したりします。バクロフェンは、GABAと同様に働き、バランスを取り戻すことで痙縮をやわらげます。

ITB治療の流れ

ITB手術

 手術は全身麻酔で行います。手術は脊髄腔内に注入用カテーテルを挿入し、下腹部の皮下にポンプを植込み、カテーテルと接続します。

ITB手術後のレントゲン画像、腹部にポンプが留置されている

体外からプログラマーを用いて、バクロフェンの投与量の調節や投与方法を決定します

投与調整・方法は24時間一定に投与する方法(単純連続モード)や患者様の日常生活に合わせた、
時間単位で投与量を上げたりすることができます(フレックスモード)

ITB療法の退院後の流れ

外来にて約3ヵ月毎に薬を充填、ポンプは約5-7年で電池消耗のために交換が必要です

第一三共:ITB療法ウェブサイトより一部引用(http://www.itb-dsc.info/
同ホームページにはより詳しい情報が掲載されています。興味のある方は上記リンクより第一三共:ITB療法ウェブサイトをご覧下さい。
以下より、説明用冊子(PDF)がダウンロード可能です。

治療をはじめる前に知っていただきたいこと

治療をはじめる前の患者さんや家族の方への説明をわかりやすくまとめた冊子です。
治療をはじめる前の説明書PDF 8ページ (4.12 MB)

バクロフェン髄注療法(ITB療法)を受けられる方へ

治療法の適応となる患者さんや家族の方へ説明をする際にお使いいただけるよう、詳しく説明しています。
成人用説明書PDF 20ページ (2648 KB)

こんにちは!ぼく、バクちゃんです

治療法の適応となるお子様に対して、しくみや効果、注意点などについてわかりやすくまとめた本です。
小児用説明書PDF(1.36 MB)

ボツリヌス療法

ボツリヌス菌により産生されたA型ボツリヌス毒素を成分とするタンパク製剤で、少量の溶解液に溶いて注射します。
異常な攣縮や緊張をしている筋肉に注射することにより、ボツリヌス毒素が神経筋接合部における神経筋伝達を阻害し、異常運動を改善するものです。
この治療は3-4ヵ月毎に外来で筋肉注射を行います。通常施行時間は5-20分程度です。
どの筋肉の緊張が高く、患者様の日常生活に支障を来している筋肉を確実に見極め注射することにより、治療効果を高めることが重要になってきます。そこで当院では電気刺激による筋肉の動きを見て、さらに超音波エコーを用いながら注射しています。

電気刺激による筋肉同定しながら注射:上肢

難治性疼痛(神経障害性疼痛)

 痛みの感覚をつかさどる神経が、末梢から脳まで伝達する間の道筋に障害がおこると、痛みが生じることがあります(神経障害性疼痛)。その原因には、脳卒中、脊髄損傷、幻肢痛、脊椎術後に残存する脊髄症や神経根症、帯状疱疹、糖尿病などによる末梢神経障害や足の動脈硬化など血液循環が足らずに痛む場合などがあります。
 一般的には、薬による治療が行われますが、外科的な治療により痛みが緩和されることがあります。

脊髄刺激の適応となる疾患一覧

脊髄刺激療法(SCS)

 薬がなかなか効かない痛み、なかでも神経に原因があり痛みを引き起す場合に(神経障害性疼痛)有効な治療法です。
 神経障害性疼痛には脳卒中、脊髄損傷後に起こるもの、幻肢痛、脊椎術後に残存する痛み、帯状疱疹や糖尿病による末梢神経障害時に起こるものや足の動脈硬化など血液循環が足らずに痛む場合など、さまざまな痛みに用いられます。
 脊髄刺激療法(SCS)では、脊髄の硬膜外腔に直径1.4mm程度の、細くて柔らかい電極(リード)を挿入し、臀部もしくは腹部に植え込んだ刺激装置(ペースメーカーに似ている刺激電池)に接続して、脊髄に弱い電気刺激を与えます。
 痛みの感覚は、痛みの信号が神経から脊髄を通って脳に伝わることで認識されますが、SCSを行うことにより、脊髄に微弱な電気を流し、痛みの信号を脳に伝えにくくし、痛みの軽減を図る治療方法です。
通常、治療の効果を判定するための刺激試験(トライアル)を行います。約1週間程度の入院が必要です。効果のあった場合に、本植え込みを行います。

British Society ガイドラインによるSCS治療の推奨レベル(2009)

局所麻酔下にレントゲン透視下に脊髄刺激電極を留置します。

脊髄刺激電極・電池留置(レントゲン画像)

報道関係者の方へ(コメント可能な医師)

専門の担当医師
講師 内山 卓也