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脳腫瘍

髄膜腫ずいまくしゅ

髄膜腫とは

 頭蓋骨に守られた脳は右図のように骨と脳の間にある膜につつまれており,これを髄膜といいます。この髄膜からできる腫瘍が髄膜腫です。ほとんどが良性のものですが,まれに悪性の場合もあります。

 小さいうちは症状は出ませんが,徐々に大きくなり,脳や神経を圧迫するようになると症状がでるようになります。
 髄膜腫は全脳腫瘍の約20%に見られ,最も多い脳腫瘍です。40~59歳に好発し,男性よりも女性に多く(男性の1.7倍)見られ,女性ホルモンとの関係が指摘されています。
図のように髄膜のあるところにはどこにでも発生します。(数字は発生頻度順)

様々な髄膜腫

髄膜腫の症状

 髄膜腫は小さいうちは症状が出にくく,良性のものがほとんどのため,ゆっくりと大きくなることが多い腫瘍です。そのため症状が出るまでは相当に大きくなっていることが多くあります。小さいうちは,多くが脳ドックなどで偶然見つかります。
 髄膜腫の症状は,腫瘍の場所によって様々です。図の1のように脳の外側にできるものであれば,大きくなって脳や血管を圧迫することで,頭痛や麻痺などを生じさせます。また,脳への圧迫が刺激となることでてんかんを生じることで見つかることもあります。脳の中心部分から発生した場合には神経を圧迫することが多く,視力障害や難聴,嚥下障害など,障害される神経に応じた症状がみられます。

髄膜腫の検査

 通常はCTやMRIで診断されます。造影CTや造影MRIでは腫瘍が均一に造影される(白く映る)ことでよくわかります。腫瘍の周辺の血管が圧迫されていたり,腫瘍が脳へ細胞レベルで入りこんでいると,腫瘍の周りにむくみがみられることがあります。
 症状がある髄膜腫で手術を検討する場合には,カテーテル検査(血管造影)を行います。髄膜腫は一般に非常に血管が多い腫瘍であるため,血管造影では腫瘍に向かってたくさんの血管が入り込むところが見つかります(サンバースト像)。

髄膜腫の治療

 髄膜腫は原則良性であり,ゆっくり大きくなることが多いため,小さくて症状がなければ,すぐに手術する必要はありません。定期的にCTやMRIを撮影して様子をみます。
 ただ,症状がなくても腫瘍が大きくなってきていることが明らかであったり,神経に接していて近いうちに症状が出ると予想される場合は治療を検討します。もちろん症状がある場合は優先的に治療を行います。
 治療の方法としては手術による摘出術と,定位放射線治療(ガンマナイフ)があります。原則的に良性の腫瘍であるため,手術で全て摘出できればそれで治療は終了です。しかしながら腫瘍が周囲の脳や神経と強くくっついている場合は,無理に腫瘍を剥がすと後遺症が出てしまうため,その場合はあえてくっついている部分の腫瘍だけを残して,残りを摘出します。残った腫瘍が大きくなってくると予想される場合はガンマナイフを行います。
 手術の具体的な方法は,発生部位、大きさ、年齢などを考慮して決定します。一般的に頭の骨をあけて行う開頭手術と,鼻の穴や口から入って内視鏡を使う内視鏡手術をそれぞれ腫瘍の部位に応じて選択します。
 手術を予定した場合には,通常カテーテル検査(血管造影)を行います。腫瘍に多くの血管が入ることがわかることが多いため,手術の前(通常1-3日前)に腫瘍を栄養する血管だけを,非常に細かい特殊な粒子(塞栓物質)で詰めてしまい,腫瘍を兵糧攻めにしてから手術に臨みます(下図)。そうすることで手術中の出血量を減らすことができ,それが手術の安全性も向上させます。もし腫瘍を栄養する血管が,脳や神経も同時に栄養している場合には,この兵糧攻めが使えないこともあります。

腫瘍摘出前(左列) 腫瘍摘出後(右列)

腫瘍摘出前(左列) 腫瘍摘出後(右列)

 腫瘍の場所によっては手術を行わずにガンマナイフだけを行うこともあります。
 ガンマナイフは一般的に3cm以内の小型腫瘍に限られ、視神経の近くなどでは将来的に神経障害が出やすいとされており,ガンマナイフが使いにくいこともあります。
 以上のように髄膜腫の治療は,いろいろなポイントをいろいろな方面から検討することが重要です。当教室では上記の方針にのっとり,一人一人の患者さんにとって最適な治療法を十分に検討したうえで,患者さんに治療を提供しています。

髄膜腫の放射線治療(高度な内容)

 手術による合併症が懸念される場合は放射線治療を選択する場合もあります。多くの場合は腫瘍の増大は抑制されます。
 放射線治療後に病変の増大を示せば、真の腫瘍の再発か放射線治療による影響(壊死)の場合があります。後者では経過観察ですが、両者をMRIでは鑑別が困難なときがあります。(一般的がん検診などに用いられるFDG-PETでは腫瘍のブドウ糖の取り込みが増加することで鑑別可能とされていますが、髄膜腫では可能ではありません。髄膜腫は図に示すようにもともと糖代謝が高い場合や低い場合など様々です。そのため治療後再発か壊死をブドウ糖の集積では判断ができません。また、代謝メチオニンを用いたPET検査が有効との報告がありますが、高い信頼度では鑑別できません。Tsuyuguchi N et al. J Neurosurg. 2003 )
 再発を繰り返す髄膜腫では患者さんに適した治療を慎重にすすめる必要があります。

報道関係者の方へ(コメント可能な医師)

専門の担当医師
准教授 眞田 寧皓