医療関係者へ

女性のヘルスケア

骨盤臓器脱に対する腹腔鏡下仙骨腟固定術・
ロボット支援下仙骨腟固定術

1.はじめに

当院では、患者さんへ最良の治療を提供するとともに、より良い治療を開発し、導入するための努力を行っています。今回ご提供する手術は、当院では主に婦人科腫瘍に対して積極的に行っている腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術を、骨盤臓器脱の患者さんに対しても施行するというものです。仙骨腟固定術という手術ですが、まず子宮の上部を切断し、腟にメッシュを留置し、仙骨前面にある前縦靭帯という靭帯に固定する手術です。今回の手術は2016年4月より「腹腔鏡下仙骨腟固定術」が保険収載され、2020年4月より「ロボット支援下仙骨腟固定術」が保険収載されました。

2.骨盤臓器脱の治療について

骨盤臓器脱の治療法は、従来腟式手術の腟式子宮全摘術、前後腟壁形成術を行っていましたが、術後再発することがたびたびありました(再発率約10~40%)。そこで、海外では2004年頃から再発率の少ない腟式メッシュ手術に変わってきました。腟式メッシュ手術は、2010年に日本でも保険適用となり、急速に普及しました。しかし、腟式メッシュ手術は大量出血、術後の尿管閉塞・膀胱あるいは直腸へのメッシュの迷入等の重篤な合併症の報告も多くみられ、現在米国において、その安全性についての注意が喚起されています。
一方、1950年頃に開発された仙骨腟固定術という開腹手術があり、お腹からメッシュを挿入し、背骨の部分に吊り上げる手術で、再発の少ない優れた手術でありました。その後、腹腔鏡下手術の発展とともに、1994年に腹腔鏡による仙骨腟固定術が開発されました。開腹と腹腔鏡での仙骨腟固定術を比較したところ、両者の成績(再発率や合併症など)に差がなかった事から、より低侵襲な術式として腹腔鏡下仙骨腟固定術が普及しはじめました。腟式メッシュ手術の注意喚起がされて以降、仙骨腟固定術がますます注目されるようになりました。日本では2016年4月より腹腔鏡下手術が保険収載され、2020年4月よりロボット支援下手術が保険収載されました。

3.腹腔鏡下仙骨腟固定術、ロボット支援下仙骨腟固定術について

仙骨腟固定術の術式の特徴は、まず子宮上部切断術を行い、腟管を剥離し、メッシュの尾側端を留置・固定し、頭側端のメッシュを仙骨前面の前縦靭帯に吊り上げ固定する手術です。腹腔鏡下手術では、おへそや下腹部に5mmから1cm程度の小さな傷が計4箇所です。ロボット支援下手術では、腹腔鏡より少し傷の位置が上方になりますが、通常小さな傷が計5箇所でできます。
個々の傷が非常に小さいため、傷の痛みは少なく、早期の体力回復、早期の社会復帰が望めます。今回行う腹腔鏡下・ロボット支援下仙骨腟固定術はフランスやアメリカでは非常に多数の手術が行われています。
手術方法として腹腔鏡下手術とロボット支援下手術もどちらも低侵襲です。どちらが優れているかという点に関しては、現時点で世界中の報告では、出血量や合併症などは両者に差がないと言われています。ただし、術者側の観点では、腹腔鏡下手術は難易度が高く、腹腔鏡下仙骨腟固定術を行っている施設はまだまだ少ないのが現状です。ロボット手術では視野が3Dになり、鉗子という手術をする手の部分が360°動かせるので腹腔鏡下手術より可動域の自由度が高いです。よって、今後は、ロボット支援下手術の件数が増加してくると想定しています。手術費用に関しては、両者はともに保険で同じ金額に設定されています。当院では、現在ロボット機器が1台稼働しており、当科以外の診療科と共有して使用しています。当科が優先して使用できる日程では、ロボット支援下手術を勧めていますが、そうでない日程では腹腔鏡下手術になります。

4.期待される治療効果および予測される副作用

腹腔鏡下手術により、術後の創部の痛みが少ない、退院・社会復帰が早くなる、腸管運動の回復が早い、術後腸閉塞が少ない、免疫力の低下が少ない、手術創が小さく目立たないなどの利点が期待されます。また再発率も従来の手術と比べ低くなると予想しています。デメリットとしては、手術時間が長くなる、他臓器損傷(膀胱、尿管、腸管など)、不測の出血、深部静脈血栓症および塞栓症、縫合不全、術後ヘルニアなどが起こることがあります。また、骨盤臓器脱手術全体的に10%程度で術後に尿漏れがかえって目立つようになる方もおられます。術前術後に尿漏れを予想することは難しく、場合によって、術後に泌尿器科で尿漏れの診察や治療が必要になる場合がありますので、ご了承ください。
以上の合併症は、腹腔鏡下・ロボット支援下手術に特徴的なものもありますが、開腹手術、腟式手術でも同様に起こりうることがあります。この腹腔鏡下・ロボット支援下手術をお受けにならない場合、従来の腟式手術や開腹による手術を受けていただくことができます。

5.その他

ロボット支援下手術は希望された全ての方が、お受けになることができるわけではありません。術前症例検討会議で、病状を鑑みて開腹手術や腹腔鏡下手術の方がよいと判断した場合は、最終的に変更になる場合もあります。

5.担当責任医師の氏名、職名、連絡先

近畿大学医学部産科婦人科学教室
大阪府大阪狭山市大野東377-2
電話番号(072)366-0221
教授 松村 謙臣、講師 小谷 泰史