医療関係者へ

婦人科悪性腫瘍

卵巣がん

卵巣がんは手術療法と化学療法をうまく組み合わせることが良い結果を得るためには重要です。特に手術療法は、近年、大きな進歩を遂げており、いかに完全に腫瘍を取り切れるかが、予後に大きく影響することがわかってきています。そこで、当科でも、標準術式である子宮全摘+卵巣切除+骨盤内・傍大動脈リンパ節郭清に加えて、骨盤腹膜ストリッピング(*1)横隔膜ストリッピング(*2)等の方法を取り入れ、必要であれば、外科・泌尿器科の先生との協力で腸・肝臓・脾臓・膵臓・腎臓といった臓器の切除も含めて、これまで治せなかった状態のがんであっても治癒できるように努力をしています。一方で、若い患者さんでは、妊孕能を残してほしいという希望も強く、その場合はよく相談したうえで、残せる状態であれば子宮と片方の卵巣を残す手術を選択しています。
化学療法は、手術療法と並んで卵巣癌治療の柱ですが、当科では、標準的な化学療法以外にもさまざまな治験に参加しており、新しい治療法の確立を目指しています。

骨盤腹膜ストリッピング(*1)

骨盤内(臍から下)の腹膜をすべてはぎとる手術で、通常の子宮全摘に比べて卵巣がんの病巣を完全に切除することができます。

横隔膜ストリッピング(*2)

肺と肝臓の間にある横隔膜は比較的、卵巣がんの転移を起こしやすい場所で、卵巣がんの病巣を完全に取りきるためには、これを切除することが必要な場合がありますが、特殊な技術が必要です。

遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)について

昨今、遺伝子に関する情報は診療の現場にも活用されるようになっており、診断、抗がん剤の感受性、有害事象(副作用)の予測、癌の易罹患性などを知ることができるようになりました。

卵巣癌のうち、10%は遺伝子の変異により遺伝的に癌が発生することが分かっています。BRCA1とBRCA2という誰にも備わった遺伝子があります。通常どんな遺伝子も母から由来した遺伝子と父から由来した遺伝子が対を形成しています。BRCAは、DNAの修復(傷ついたDNAを元通りにする)に関わる働きを持っており、細胞の生命活動には不可欠な遺伝子です。通常、両親から受け継いだ二つの遺伝子のうち一つに異常があっても癌になることはありませんが、もう一つの遺伝子にも異常を生じた場合には、その細胞ではDNAの修復がうまく働かず癌化する可能性が指摘されています。

遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)は、生まれつきBRCA1もしくは2のどちらかに病的変異(異常)を持っており、卵巣がんや乳がんになりやすい体質を持っている可能性があります。遺伝子の病的変異があれば100%癌になるわけではありません。卵巣がんの生涯リスクはBRCA1変異のある方で36~46%、BRCA2変異のある方では10~17%、乳がんの生涯リスクはBRCA1変異のある方で70~80%、BRCA2変異のある方で60~80%と報告されています。

ご家族に乳がんや卵巣がんに若くして罹った方がおられたり、両側性の乳がんになった方がおられたり、HBOCを疑ういくつかの特徴があることがあります。

当科で卵巣がんと診断された患者さんにお配りしているパンフレットで、HBOCのことを簡単に紹介しています。どうぞご参照ください。

HBOCは、血液検査によって、BRCA1/2遺伝子の変異の有無を調べて確定診断します。この遺伝子検査は当院乳腺外科と産婦人科で実施可能となりました。BRCA1もしくは2に病的変異が確認された場合にHBOCと診断されます。

HBOCと診断された方に対しては、アメリカの世界の主要ながんセンターの同盟団体であるNCCNが提案しているガイドラインに基づいた継続的な検診や予防手段が推奨されます。当院でも、乳腺外科および婦人科で定期的な早期発見に努めた検診を提供しています。

ただ、卵巣がんに関しては、定期的な超音波検査や血液検査による腫瘍マーカーの検査によっては、癌の早期発見が難しいことがわかっており、卵巣がんのリスク低減において、唯一推奨されている方法が、リスク低減両側卵巣卵管切除術(risk reducing saplingo-oophorectomy;RRSO)です。

RRSOは2020年4月より、一定の条件を満たした施設で、保険適用で実施できるようになりました。当院では、十分な体制を整えており、保険適用のもとでRRSOが実施可能です。

HBOCについてご相談になりたい患者様は、遠慮なく担当医にお尋ね下さい。
検査を受けるのも怖いなとお感じになるかもしれません。検査を受けるかどうかも、カウンセリングを実施した上で、考えて頂いたら構いません。
まだ、近畿大学病院産婦人科にかかっていらっしゃらない患者様は、まずは、かかりつけの医師にご相談頂き、当院患者支援センターを通して、遺伝子診療部のご予約をお取りください。