医師インタビュー

特命准教授・川上尚人

未来を拓く気概をもつ
若い先生方へ

近畿大学医学部内科学教室腫瘍内科部門
特命准教授 川上尚人

不思議な縁に導かれて

大学6年のときに体調を崩し、もともと目指していた外科医になるのはちょっと難しいなと思い、炎症性腸疾患を専門とする消化器内科医になろうと考えました。研修では、炎症性腸疾患の治療の基本である薬物療法について理解を深めることができればいいなと思っていたのです。

しかし、研修先の病院では炎症性腸疾患の患者さんはごく少なく、圧倒的に多いのは消化器がんの患者さんでした。

消化器内視鏡の経験を積みながらがん薬物療法の勉強を始めましたが、当時はまだ消化器がん薬物療法のEBMが十分には浸透しておらず、どういう患者さんにどのような根拠で薬剤選択すればよいか、治療の結果どのようなアウトカムが得られるか、といった情報がきわめて乏しい時代でした。

暗中模索の日々を悶々と過ごしていたとき、研修先の病院で消化器内科統括部長を務めておられた大崎往夫先生(現・医療法人明和病院特任院長)のおはからいにより、国立がん研究センター中央病院消化管内科で3ヵ月間研修する機会に恵まれました。
同センターでは、山田康秀先生(現・浜松医科大学臨床腫瘍学教授)のご指導のもと、消化器がんの薬物療法の手ほどきだけでなく、データをまとめて国際学会に出席させていただく機会をいただくなど、たいへんお世話になりました。この経験が、オンコロジストとして生きていく強い動機付けになりました。

大阪に戻り、がん薬物療法の研究会などでお目にかかっていた当科の佐藤太郎先生のお誘いを受け、2010年に当科に入局させていただいたという経緯です。実は、佐藤先生は国立がん研究センターでお世話になった山田先生とは弘前大学の同門であり、野球部でピッチャー、キャッチャーの間柄だったといいますから不思議なご縁を感じます。
佐藤先生は私が入局した翌年に大阪大学に移られましたが、その後は岡本勇先生(現・九州大学病院ARO次世代医療センター准教授)に厳しく指導していただいたおかげで、がん診療だけでなく研究に対する姿勢や論文を書くスキルが身につき、腫瘍内科医としてやっていく道筋がつきました。

海外で勉強するチャンスが豊富に

研修医や若い医局員の先生方にとって、当科の魅力の1つは留学や国際学会参加のチャンスに恵まれていることだと思います。

近畿大学医学部は「7大学連携先端的がん教育基盤創造プラン」の事務局を務めており、日本、およびアジアを中心とした海外の若手研究者が研究発表や討論を行う国際シンポジウムを毎年開催しています。私は幸い、2013年に開かれた第1回国際シンポジウムで最優秀発表者に選ばれ、ハーバード大学医学部が主催するGlobal Clinical Scholars Research Training Program(GCSRT)に参加させていただきました。
これは双方向性のオンラインレクチャーで、世界中から参加した研究者が10人ぐらいずつのチームを組み、多くの課題をこなすという1年間のプログラムです。参加者の1、2割はドロップアウトしてしまうという過酷な内容でしたが、臨床試験について実践的な理解を深めるとともに英語力もしたたかに鍛えられました。

大学院3、4年目はベッドフリーの時期でしたので、基礎研究に没頭する傍ら、国際学会にも参加しました。このほか国際的なキャンサーセンターの若手が米国で合宿してディスカッションするプログラムにも2度ほど参加させていただきました。こうして論文を書いたり国内外の学会や研究会で発言したりしていると、留学のチャンスにも恵まれるんですね。

Mayo Clinic に留学できたのも、2013年の米国がん学会(AACR)に参加したとき、偶然お会いした先述の山田先生が「これからMayo Clinicの消化器内科のSinicrope先生と会うけど、一緒に来るかい」と声をかけてくださったのがきっかけです。
当科は論文指導が充実していて論文をたくさん書くことができ、そのおかげで奨学金をいただいて留学の費用を工面することができました。

2014年7月に臨月間近の妻と渡米し、Mayo Clinicに赴任した直後に子どもが生まれました。
以後、2016年8月まで研究環境も気候も(冬は厳しかったですが。。。)治安も申し分ないロチェスターで過ごした留学生活は、ひたすら楽しかったですね。

SpecialistとGeneralistのバランスの良い両立

私は2017年4月から学内講師を拝命し、消化器がんの薬物療法の研究や治験の責任者をお任せいただいています。今年7月に41歳になったばかりの若輩にこうしたチャンスをいただけるのは、他施設ではなかなかないことだと思います。

当科の歴史をつくってこられた先生方の多くは、呼吸器内科や消化器内科、乳腺内科といったようにそれぞれの異なる診療科で一通り臨床、研究のトレーニングを積んでこられた方々です。
近畿大学腫瘍内科にはバックグラウンドの異なる先生方がそれぞれの経験に基づき、お互いに忌憚なく意見をぶつけ合いながら違いを乗り越え、「腫瘍内科学」という臓器横断的な学問の確立を目指してきた歴史があります。

最近の薬剤開発の方向性も臓器横断的になっていますが、私たちは当たり前のようにそういう発想が出てきます。
一方、臓器特異的な合併症もありますので、それぞれの専門性もやはり必要だという共通認識をもっています。

つまり、腫瘍内科医はSpecialistとGeneralistの立場が常にバランスよく両立している必要があると考えていることがおもしろいところだと思います。
当科のカンファレンスでは、「発言しないのは出席していないのと同じ」という不文律があり、年齢やキャリアにかかわらず疑問を質し、意見を述べ合うのが常態となっています。このあたりは、経験がものをいう外科とは異なる魅力といえるかもしれません。

当科への入局を迷われている若い先生方が、「キャリアパスがみえない」「最初に入る医局が腫瘍内科で食べていけるのか」といった疑問を抱かれるのも無理からぬことだと思います。
しかし、当科にはがん診療を行う基幹病院から医局員を派遣してほしいというご相談が相次いでいます。また、消化器疾患に対する関心が高まり、当科から外病院に消化器内視鏡のトレーニングのために出向している医局員もいます。

望んで努力すれば、どのようなキャリアパスも開けると信じています。
野武士やベンチャー起業家のような気概をもつ若い先生方には、ぜひ当科に見学にいらしていただき、旧態然とした医局とは異なる魅力を肌で感じていただきたいと願っています。