研究内容

臨床研究

近大医学部腫瘍内科での臨床試験

当科における臨床研究

診療と教育とともに、研究は、当科の理念の三本柱の⼀つです。
がん治療以外の分野も含めて、ほぼ全ての治療は、過去に⾏われた研究、特に臨床試験により有効性・安全性が検討された結果、標準治療として認められるようになります。

当科では、新規治療薬の誕⽣につながり、がん治療の歴史を象徴するような⼤規模国際共同試験へ多数参加しています。また、当科が参加した多施設共同研究の中には、現在のがん治療の標準治療を築き上げ、国内外のガイドラインに記載されたものも多数あります。

当科では、肺がん、乳がん、消化器がん、頭頸部がんのほか、希少がんや臓器横断的固形がんの企業主導治験や多施設前向き試験(第I相試験、第II相試験、第III試験)に多数参加しており、その数は同時並⾏的に常に数⼗種類に達します。

さらに、当院や関連施設における治療経験を後ろ向きに解析した研究結果も多数報告しています。特に、ここでは、臨床に⼤きなインパクトを与えたものをご紹介します。

NivoCUP試験

原発不明がんとは、⼗分な検索にも関わらず、原発巣が不明であるものの、組織学的に転移巣の存在が証明されている悪性腫瘍です。その稀少性や診断の難しさ、様々な患者さんがひとつの疾患名に含まれるなどの要因から治療開発が困難と考えられています。このため治療選択肢が限られており、多くの場合治療成績は不良です。

我々は、下記の「原発不明がんにおいて遺伝⼦発現プロファイルに基づいた原発巣推定の意義を検討するランダム化⽐較第II相試験」のように、今までにも原発不明がんに対する臨床研究を複数実施し、さらに腫瘍組織を⽤いた研究により、原発不明がんが、免疫治療の有効性が期待できることを明らかにしています(TR研究についてを参照)。

このような背景から、医師主導治験NivoCUP試験を計画し、原発不明がんに対してニボルマブが有効であることを⽰しました。この結果に基づいて、2021年12⽉原発不明がんに対してニボルマブ(商品名オプジーボ)が承認されました。医師主導治験から薬剤の承認につながった点や原発不明がんに対する初めての治療薬承認である点など、⾮常に画期的なことであり、多くのメディアに取り上げていただいています。

Tanizaki J, et al. Ann Oncol. 2021;33:216

原発不明がんにおいて遺伝⼦発現プロファイルに基づいた原発巣推定の意義を検討するランダム化⽐較第II相試験

原発不明がんの治療は、推定された原発巣に準じて⾏うことが有⽤であることが⽰唆されていましたが、そのエビデンスは⼗分でありませんでした。そこで、当科を中⼼とした多施設共同試験によりその意義と有⽤性を問うべく原発不明がんにおける世界初のランダム化⽐較第II相試験を⾏いました。結果的に、遺伝⼦発現プロファイルに基づいた原発巣推定の優越性は証明されなかった⼀⽅で、原発巣推定により治療効果予測につながり、⼀定の意義があることが⽰されました。

Hayashi H, et al. J Clin Oncol.2019;37:570

KISEKI試験(WJOG12819L)

EGFR変異は⾮⼩細胞肺がんにおいて、最も頻度が⾼いドライバー遺伝⼦です。EGFR変異陽性⾮⼩細胞肺がんの初回治療においては、第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)であるオシメルチニブの有⽤性が⽰されていますが、第1・2世代EGFR-TKI治療後では、T790M変異が検出された症例を除いてオシメルチニブの適応はありません。

第1・2世代EGFR-TKI治療後のT790M変異陰性例にオシメルチニブの適応を拡⼤する⽬的で、本試験は実施され、結果は学会で報告されており、有望な結果が⽰されました。

国内初の患者提案型の治験として注⽬されており、本試験も多数のメディアで取り上げられました。

武⽥ら. 第63回⽇本肺癌学会学術集会(2022年)

ラムシルマブの投与時間短縮の検討

ラムシルマブ(商品名サイラムザ)は、胃がん、⾮⼩細胞肺がん、⼤腸がん、肝がんにおいて広く使⽤される薬剤で、⾎管新⽣阻害薬の⼀種です。

⾎管新⽣阻害薬は注⼊に伴う反応が少なく、過去に投与時間短縮が安全に実施できる可能性が⽰唆されていました。そのため、ラムシルマブの投与時間を60分から30分に短縮することを、薬物動態(PK)の解析により実証し、投与時間短縮が可能となるように添付⽂書が改訂されました。

投与時間の短縮は、2週毎もしくは3週毎に点滴を受ける患者さんの負担軽減につながっています。

Mitani S, et al. Gan To Kagaku Ryoho. 2021;48:1381

irAEと治療効果との関連の検討

⾮⼩細胞肺がんの免疫治療では免疫関連有害事象(irAE)をきたした症例において、抗腫瘍効果が⾼いことを報告しまし。この論⽂は、⼀流雑誌であるJAMA Oncology誌の中でも、2018年に掲載された論⽂の中で2番⽬に多く引⽤された論⽂として⼤きな評価を受けています。

Haratani K et al. JAMA Oncology.2018;4:1017

まとめ・その他

他にも、当科で行ってきた研究は枚挙にいとまがありません。

このように当科では、臨床試験・臨床研究に参加するだけでなく、⾃ら研究を⽴案し、がん治療の変⾰に貢献してきた実績を有しております。現在、実施中もしくは解析中のものも多数あります。

加えて、多施設共同研究により、国内外の多数の施設と信頼性・関係性を構築することもできており、他施設との交流も盛んです。